わたしの祈りは毒をも溶かす!

鼻血の親分

51話 嬉しかったこと楽しかったこと、たくさんあるよ②

 ※ゲーニウス視点

 あれから三年が経つ。俺は生まれ育ったこの地の統治者として、また民を苦しめた一族として償いの意味を込めて献身的に励んできた。全ては領民の幸せを願ってのことだ。そしてようやく軌道に乗りかかったと感じていた頃、ノルトハイム様の命で諜報機関の責任者に抜擢されたのだ。身に余る光栄というか、爵位は侯爵だが元々は子爵の者である自分に上手く勤まるだろうかと不安に思っていた。しかし毎晩訪れる小さな妖精に励まされたおかげで、信頼できる従兄弟に統治代行を任せる決心がついたところだ。

 そうそう、オリビアはというと、心優しい侯爵家の元で忙しくもやりがいのある楽しい日々を過ごしている様だ。近々卒業してしまうが、行けなかったパブリックスクール高等部に通いながら侯爵邸では礼儀作法などの英才教育を受け、夜は修道院でお祈りしてるという。子爵家で叶わなかった青春を謳歌し、時には院で病人の治療にあたり、民から『聖女さま』と尊敬と親しみをこめて呼ばれてるらしい。それは日々の報告で聞いていた。

 本当に嬉しかったこと、楽しかったことが多すぎて聞いてる途中で寝てしまうほどだ。

 思えば三年前、彼女は王宮へ、ノルトハイム様について行くことに喜びの反面、ある悩みを抱えていた。


 …
  …
   …


「むーん」
「どうした? 王宮に行くのが嫌になったのか?」
「そうじゃないけど……」
「けど何だ?」
「やっぱ恥ずかしいから言いたくない」
「おい、不安に思ってるだけなら解決しないぞ?」

 幼き妖精はカラダを左右に振りながらモジモジしている。そして目を合わさない。

「あのね、キース様にお誘い受けた時は嬉しかったの。お役に立ちたいしお側に仕えたい。でもね、何というか……もやもやしてるの!」
「殿下の真意が知りたいのか?」
「うん。わたし……恋してるのかな?」

 その言葉にドキッとした。オリビアという聖女を側に置いときたいのは政治的価値があるのは無論、それ以上のこと、つまり恋愛対象として見られているのか気になっているのだ。

「殿下は……」

 思わず言葉に詰まった。正直、俺も断言できない。

「いいの。でもわたしの中でキース様の存在が大きくなっちゃって。えへへ。ヘンに期待するのはやーめた。兄上さまも内緒だよ!」
「あぁ、ま、お前はまだ若い。これからのことは殿下にお任せするしかないし、側にいれば幸せになれると思う」
「うん、そうだね」


 …
  …
   …


 あの時の頬を赤らめた、でもどこか物足りなさを感じてる表情は今でも忘れられない。

 だがこの三年で彼女は成長したし、世は大きく変わる。国王陛下がご高齢のため勇退を表明し、ノルトハイム様が新国王となられる。

 そしてオリビアを、我が妹を生涯の伴侶としてお選びになられたのだ。

 ーーオリビア、今日の嬉しかったこと、楽しかったことは何だ? 

 もうその問いかけは必要ないな。

「兄上さま、たーくさんあるよ!」

 そんな明るい声が聞こえてくるはずだ。

 彼女はこれから王妃として、また聖女としてこの国を支えていくことになる。きっと毎日が嬉しいこと楽しいことの連続で、幸せいっぱいな人生を歩むに違いないだろう。

「良かったな、オリビア……」



       ーー END ーー











コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品