わたしの祈りは毒をも溶かす!

鼻血の親分

44話 わたしの祈りは毒をも溶かす!⑪

 ※ゲーニウス視点

「ふーむ、古い書籍に不思議な能力についての文献があったと記憶してる。『聖人•聖女』って言うんだ。その国に繁栄をもたらすとな。もしかしたら君たち兄妹がそうかもしれない」

 ある日、俺とオリビアの間で起こっている不思議な現象をキース様にお話していた時のことだ。

「難聴で言葉を交わせない妹の思考に入って会話が出来るんです」

 確か、そう言った。

「難聴なのか……。それも特殊能力で治るかもな。僕はオリビアに興味がある。是非会ってみたいよ」
「それは身分を隠してですね。ところで、キース様は子爵家へどうやって潜入捜索されるのですか?」
「僕の調べでは、ジョイコブ夫人がご令嬢のために楽団付きでダンスを習わしたいらしい」
「はぁ、今の先生が地方へ帰られるそうで新たに募集してる様ですが……それが?」
「僕はこう見えてもダンスはプロ並だ。それに諜報部隊にも演奏が出来る人材が揃っている」
「ま、まさか、楽団員として?」
「そうだ。良い考えだろう」

 当初は信じられなかった。だが屋敷で彼らの演奏やキース様がダンスしてる姿を見て納得した。まさしくプロだったのだ。

 こうして楽団員と称した王国の諜報機関は徐々にフレディ伯爵の領地へ、また子爵家へ深く潜入していくことになったのだーー


 …
  …
   …


「キース様、邸内で異変があった模様、敵軍が騒ついてます!」
「撹乱が功を成した様だ。よし、全軍突撃の合図を出せ!」
「ははっ!」
「ゲーニウス、このまま押し込んでいくぞ!」

 王宮の軍隊がフレディ伯爵邸になだれ込んで行く。もはや勝敗は期してるだろう。如何に被害を最小限に食い留め、伯爵一族並びに阿片中毒と思われる非戦闘員を捕らえるかが焦点となっていた。

「ワーー、ワーー!」

 軍隊が邸内で働いてる事務員、侍女、使用人たちを次々と捕らえる。

 俺は特殊部隊の情報を元に一師団を引き連れて邸の奥へ奥へと進み、ついに伯爵一族が抵抗するホールへ辿り着いた。

「無駄な抵抗はやめて投降しろ」
「おい、これは如何なることか! いきなり我が領内を数千の軍隊が踏みにじりよって……それが王宮のやり方か!」
「いきなりではありません。入念に準備してのことです、伯爵」
「えっ、お、お前は!?」
「ゲーニウスです。フレディ伯爵、そしてお父様」
「ジョイコブ、これはどういうことだ!? 何故お前の倅が王宮の軍隊を引き連れているのだ!?」
「ゲ、ゲーニウス……説明してくれないか……?」
「お父様、俺は諜報機関の人間です。我が領地において阿片が製造されてる疑惑を調査してました。残念ですが事実と判明しましたのでご同行願います」
「お、親を売るって言うのか!?」
「既にご夫人もイービルも捕らえてます。もう逃げられませんよ」  
「そんな……」

 ヘナヘナとその場にへたり込んだ我が父へ、無情にも『縄を』と部下に命を出した。
















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