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わたしの祈りは毒をも溶かす!

鼻血の親分

37話 わたしの祈りは毒をも溶かす!④

「元々、御主人様は医療のお薬を開発してたんだ。オリビア様のお母様も三宝の山で働いててね、二人は恋に落ちたの。でも平民の出だから子爵家の正妻にはなれなかった。いつしか伯爵家から奥方様を押し付けられて……あ、奥方様はフレディ伯爵の妹なんだよ。知ってたかい?」
「あぁ、調べはついてるよ。その後の話もだ」
「なーんだ。先生、お見通しなの?」
「奥方様はジョイコブ子爵をたぶらかし財政立て直しの名目で加工しやすい阿片の製造を始めた。反対するオリビアの母を遠ざけてな。そして彼女は二人の子供を残して行方不明になった……」
「監禁されてたんだよ。地下でね。アタシが子爵家の使用人になった頃、見たことあるのさ。お祈りしてた。オリビア様のように」
「それからどうなったんだ?」
「ろくに食事も与えず衰弱しきったカラダに……」
「まさか、阿片を?」
「酷い話さ。御主人様も阿片の虜になって理性を失ってたしね。だからアタシはゲーニウス様やオリビア様に同情してたんだよ」
「オリビアが幼い頃、重い病気にかかり難聴になったと聞いたが、それは母親の死のあとか?」
「そうだね。死んで直ぐのことさ。何て酷い運命なんだって思ったよ。でもね、二人の子供には冷たく接する様、奥方様から言い付けられてね。アタシも阿片中毒になってたから言うこと聞くしかなかったんだ。……だから、聞こえないのをいいことにオリビア様に辛くあたってたの。今思えば……ううぅぅぅ……ごめんね。申し訳ないよお」
「二人の兄妹は特殊な能力を持っている。それは母親の魂が宿ったのかもしれない。『阿片を撲滅せよ』とな」
「先生、アンタ何者か知らないけど伯爵様を怒らせたらただじゃ済まないよ? 逃げたほうがいい」
「いや、僕はこの奴隷と化した民を救いに来たのさ」
「この楽団員で?」
「援軍を呼んだ。もう直ぐ到着するだろう。それに僕にはゲーニウスとオリビアが居る。この兄妹は国に一人居るかどうかの聖人、聖女だからな」
「聖人、聖女?」

 わたしは集中してお祈りしていた。そんな姿をモッペルが食い入る様に見てることも気づかずに。

「モッペル、随分喋ったが体調はどうだ?」
「あ? あぁ、何だかスッキリしたよ」
「お前、もう治ってるんじゃないのか?」 
「えっ? そうなの? そういえば何ともないよ。ただお腹が空いた。パンが食いたいよう!」

 それから間もなく、お医者様が来てモッペルを診察し彼女の縄を解いた。

「信じられないことだ。阿片抜けに辿る感情の起伏、つまり怒りや悲しみが見受けられない。それに痛み、吐き気、発汗発熱、脱力感など皆無だ」

 わたしはパンとスープを一気に平らげる彼女を眺めながら期待した。

 モッペル、食欲が湧いてきた? てことは?

 食べ終わった彼女が筆談してくる。

『オリビア様、ありがとうございました。重度の阿片抜きなんて半年掛かっても治るか分からないのにたった二日のお祈りでアタシの毒素が消えました。まさしく貴女は聖女だよ!』

 ああっ、治ったのね。良かったあーー!

 そこへ先生が追記された。

『聖人、聖女とは神聖なるものを宿した特殊な能力の持ち主。ゲーニウスとオリビアのことだ。二人のチカラでこれからも病んでる民を救って欲しい』

 聖女? 全く実感ないけど確かに不思議な能力が兄上さまやわたしにはある。お祈りで阿片中毒から解放されるのなら、これが自分に課された役割なのね。

 先生とモッペルに微笑んで頷いた。

 よおし、やるべきことが見つかった。

 わたしの祈りは毒をも溶かす!





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