わたしの祈りは毒をも溶かす!

鼻血の親分

36話 わたしの祈りは毒をも溶かす!③

「あああっ、苦しいいっ……阿片を、阿片を持ってこーーいいっ!」

 縄で縛られたモッペルが狂人化している。地下の一室で大声を張り上げ暴れていた。

 わたしは先生とその入り口で思わず立ち止まってしまった。

『オリビア、縄は長めに引いてある。部屋に入るのは危険だから扉を開いた状態で祈るんだ』

 コクっと頷いた。でも祈ると言っても不安だ。やったことがない。本当にわたしのお祈りでモッペルが楽になるのか全く自信がなかった。

 恐る恐る扉を開く。

「ああっ、何しに来たんだ! 来ちゃ駄目だ! アタシは狂ってるんだ! 帰れ、帰れーー!」

 そこには髪を振り乱し、錯乱状態の彼女が居た。まるで別人の様だ。

「モッペル、落ち着け。オリビアが今からお前のためにお祈りを捧げる」
「お祈りだと!? そんなんで治るとでも思ってるのか!」

 モッペル、苦しいんだね。貴女ほどじゃないけどわたしも禁断症状を経験したから分かるよ。

 膝をついて意識を集中させた。幸い雑音にしか聞こえないから目を閉じると別世界に居る感覚になる。握りしめた両手を胸に当て、ひたすら祈った。

 どうかモッペルの苦しみが解けます様に……

「やめろ、目障りだ! はぁはぁ、はぁはぁ」

 暫くするとモッペルは大人しくなった。頭を項垂れて深い呼吸をしている。

「お、何か伝わったのか? 静かになったぞ」
「はぁはぁ……オ、オリビア……様。何をしてるのか……」

 彼女は意識を失った。


 ***


 翌日もお祈りを捧げた。先生が言うには怒鳴るのはまだ初期段階。次に脱力感が激しく無気力な状態が続くらしい。食事も摂らず衰弱していくのだ。

 彼女は楽団員にも怒鳴らなくなった。食事はスープを一口飲んだだけでパンは食べていない。脱力感が激しいのだろうか?

「今日も来たか。少し落ち着いたよ。そのお祈りとやらが効いてるのかねぇ……?」

 わたしは目を閉じてひたすら祈る。

「だけど気力がね。……何もしたくないの。ただ、オリビア様となら喋りたいな……」

 祈るコツが分かった気がする。得意なぼぉーっとする感覚が大事なんだ。わたしの意識はカラダから離れ、ぼんやり見えるモッペルに手から発光する謎の光を当てるんだよ。影になってるところが悪いからそこを狙ってね。でもこの光って何だろうね? うーん、分かんないや。

「アタシ、オリビア様に隠しごとがあったんだ。聞こえないけど聞いてね。あのね、貴女の本当のお母様って……」
「それは興味深い話だな」
「せ、先生……?」
「僕にも聞かせてくれないか、モッペル」
「……いいけどオリビア様に伝えるのかい?」
「内容による」

 はぁー、と溜息吐いた彼女は暫く考え込んでいた。が、やがて……

「お母様を殺したのは奥方様だって話さ。これ言っていいのかな?」

 わたしは何も知らずに集中し、お祈りを続けていた。

















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