わたしの祈りは毒をも溶かす!

鼻血の親分

22話 また聞こえてます。特殊能力だなんて…③

「さてと、大体の用事が終わったねぇ。オリビア様、まだ時間あるからどっか行きたいとこない? あ、聞こえてないか……」

 珍しく彼女が紙に書いて聞いてきた。

『欲しい物ある? それともランチ? どっか行きたい?』

 街の様子は分かった。子爵家のやり方に随分と民が嫌気さしてることがショックだったけど。

 わたしはショッピングよりも行きたいところがある。確認したい場所だ。でもモッペルは連れてってくれるかな?

「あー、あー」

 北側の山を指差してみた。

「えっと、何? 山に行きたいの? あ、あそこは三宝の山よ」

 モッペルは戸惑ってる様だ。

「山頂でランチでもしたいのかしら。大丈夫かな。あの山は……。うーん、でもまぁいっか。アタシも久しぶりに行ってみたいし。いいよー」

 護衛とともに馬車であの山を目指す。どうやら連れてってくれる様だ。

「アタシもさ、阿片工場の出身なんだ。底辺の労働者だったんだよ」

 そっか。だから久しぶりなんだね。彼女は色々知ってるみたい。もっと情報が欲しいよ。

「それが工場責任者の奥方様に目をかけられてね。ラッキーだったよ。直ぐに子爵邸の使用人へと引き抜かれたのさ」

 山の麓から見る限りでは普通の山だ。何処に工場があるのかも分からない。

 ここで警備の者らしき兵隊から検問を受けた。でもこの馬車は子爵家のものだ。あっさり警護が解かれ、引き続き山を登って行く。

「それから頑張って侍女までなってねぇ。うん、我ながら立派だよ。だから出世したアタシを皆んなに見せてやりたいよう」

 えっ? まさか阿片の製造現場へ行くの?

「あー、でも勝手にオリビア様を連れて行ったらヤバいか。護衛の者も居るしね。あ、見てごらん。木々で隠してあるけど、あの奥に洞窟があってアレが入り口なんだよ。懐かしいなぁ」

 なるほど。あそこから入るのね。割と分かりやすい。この情報だけでも収穫はあったな。

「でね、ケシを栽培してるのが中腹にあるんだ。ここも木々で囲ってるけどね。ほら、あの辺りよ」
 
 ほう。原材料の栽培地区か。かなりの広範囲だね。

「三宝の山には五十人くらい働いてるんだ。裏側にある見窄らしい小屋で暮らしながらね。皆んな中毒さ。阿片欲しさに働いてる様なもの。まぁ、阿片漬けにしたのは子爵様の策略だけど。だから窃盗騒動がよく起こってた。死人も出てるよ」

 モッペルは喋り出したら止まらない。でもこのお話はかなり貴重だ。もっと知りたい。

「今は傭兵が沢山居て監視が厳しくなってる。余程の軍隊じゃないと制圧は無理だろうね」

 やがて山頂へ到着した。少し開けた場所に展望台の様な木造りのデッキがあった。そこで買ってきたサンドイッチを口にする。

「あー、ここでランチするの夢だったんだー!」

 阿片に携わる幹部しか行くことの出来ない山頂の展望台らしく、労働者からみれば憧れの場所だったらしい。

 モッペルは気分が高揚して、自分の生い立ちから長々とお話を続ける。正直、聞くのがうんざりしていた。

 でも三宝の山の概要は分かったから今日は大収穫だよ。まぁ、強いて言えば製造した阿片の流通が知りたいけど、流石にこの流れで筆談は出来ない。聞こえてたのがバレるからね……








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