わたしの祈りは毒をも溶かす!

鼻血の親分

19話 ああっ、聞こえなくなってる!⑥

「オリビア、どうした? この間の様なリズムに乗ったステップが出来ないじゃないか?」

 そうは言っても雑音がうるさくて敵いません。

 わたしの日常は何事も無かったかの様に取り戻していた。でも兄上さまの容態は芳しくない。まだ意識不明が続いてるのだ。心配ではあるけれど今はダンスのレッスンに集中しなければならない。

「何があったんだ……?」

 上手く踊れないよう。それに集中出来ない。キース先生、貴方は味方なのですか? 知り得た情報を伝えろと兄上さまは言ってたけど……

「ダメだ!」

 先生は途中でダンスを中止した。後方でイービルが嘲笑っている。

 あれからイービルは感情剥き出しの様相を呈していた。隙あらば意地悪しようと企んでいる。でもお母様によってへクセがクビになって以来、何も出来ないでいた。

「あー、あー」
「うん? 何だ」

 先生、お話があります。後でお時間頂けないでしょうか? と伝えたくても、あーあー、じゃ分からないよね。

「ふーむ、何か訴えてるな。よし分かった。後で個人レッスンしよう。マダム、宜しいですか?」
「あ~ら、せんせ~い。良いですけど早めに切り上げてくださいね。後でいつものお話がございますから。うっふん」

 こうしてわたしのレッスンは一旦中断となり、イービルのレッスンが始まった。でも雰囲気から察するに後でお時間をくださる様だ。

 勝ち誇った様に下手くそなダンスを見せつける妹にうんざりしながら、何処まで先生に打ち明けようか考えていた。そもそも先生と兄上さまはどういう関係なのでしょう? キース先生は何者ですか? などと、思考を巡らせてるうちにホールは二人きりになった。

「オリビア、この紙は直ぐ処分する。誰の目にもふれることは無いから何でも思いを書いてくれ」

 紙とペンを差し出され、わたしは迷いながらもペンを走らせた。

『先生は誰ですか? 兄上さまの知り合いですか? わたし暫くの間、音が聞こえてました。知ってはいけないことを知りました。兄上さまは先生に伝えろっと仰ってましたが。』

「なるほどな。やはり今は聞こえてないのか。ダンスしながらそう思ってたよ」

『僕の身分はまだ明かせないがゲーニウスとは繋がってる。彼から大体のことは聞いてるよ。君の難聴が一時的に治っていたこともね。それで知り得た情報を提供してほしい。僕はこの領地で問題になってる事案を探ってるんだ。』

 先生は何もかも知ってたんだ。わたしが聞こえていたこともご存知なのだ。

『我が子爵家は違法な阿片を製造し、販売しています。その売り上げを伯爵様に献上してる会話を聞きました。また、阿片は子爵邸の中でも広まってると思われます。お給金の一部に含まれてるとのこと。わたしは我が家を密告する様でココロが痛いです。』

「よく言ってくれた。オリビア」

『ありがとう。ゲーニウスとオリビアは僕が守ることを約束しよう。彼は特殊な能力を持っている。言わば『聖人』だ。それはオリビアも同じく。だから二人はこの国にとって貴重な人材なんだよ。』

 せ、聖人? 聖人ってなに? それにわたしにも特殊な能力があるの? 

 その聞き慣れない言葉の響きに驚いて、しばらく立ちすくんでいた。














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