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わたしの祈りは毒をも溶かす!

鼻血の親分

9話 あ、聞こえるよう。でもこれが現実なのか…⑨

 キース先生率いるミニオーケストラが美しい演奏を奏でる。お父様がこの日のために用意してくれたのだ。

 まさか伯爵邸まで先生が出張されるとは驚いたな。お母様のテンションは上がってるけどね。先生と踊りたがってる。お父様が隣に居るのにねぇ。

 そしてもう一人、興奮してる人がいた。派手なお化粧しまくった我が妹だ。リュメル様と踊る気満々なのだ。

「リュメル様んんんんんん!」

 全く、主役は誰なのでしょう。でも正装されたリュメル様も素敵だ。爽やかな笑顔でわたしにもご挨拶された。彼はわたしがフレディ様の愛人になることをどう思ってるのかな? 知っててこれまで接してくれてたのか、そこら辺が気になる。

「ささ、オリビア」

 伯爵様に手を引かれホールの中央へ向かう。先ずはわたしどものダンスを披露する様だ。この御方はどんなステップを踏むのかなと思ってるうちに、抱きしめられるかの如く肩下に手を置いてお顔を近づけられた。

 ひっ、近すぎます。き、気持ち悪いよう。

 伯爵様は『クンクン』とわたしの匂いを嗅ぎ、『う~ん』とまるでお紅茶の香りを楽しむかの様に満悦の笑みを浮かべた。

 ヤダぁ。やっぱりヤダよ、変態だよ、このおじさん気持ち悪い!

 やがてホールは静かになり、少し間を空けて演奏が始まった。わたしは耳が聞こえないと思われてる。だから自分からリードは出来ない。おじさんのステップに合わそうとするけどリズム感の無い彼のダンスに合わせ様もなく、適当にクルクル回るしかなかった。この日のために練習してきた意味はまるで皆無だった。

 そしてホールにリュメル様とイービルのカップルが合流していく。お母様は仕方ない雰囲気を滲ませながらお父様と端っこで踊っていた。

 リュメル様はとても上手だ。優雅に舞い踊る。下手くそなイービルでもしっかりリードされると、ちゃんと踊ってる様に見えた。

 何だろ、このダンス大会もどきは。何の意味があるの?

 踊りながらふと執務室のことを思い出した。わたしの耳が聞こえないと思って、遠慮なく危険な会話をしていたのだ。


「いいか、暫くはおとなしくしよう。それと領民におかしな動きがないか探れ」
「はい、伯爵様」
「……言いたくはないが、お前の息子にも注意が必要だ」
「まさか、ゲーニウスが?」
「彼は王宮に勤めている。週末だけ戻って来る様だが儂の調べでは単なる事務官ではない。何やら特殊な任務に携わってる様だぞ」
「分かりました。用心します。ただ、息子は何も知らないのです。それに私の跡継ぎ……将来は伯爵様ご領地の副官になります。それが我が一族、ジョイコブ子爵の勤めでございますので」
「ふむ。だがゲーニウスにこだわることはない。養子なら幾らでも斡旋するぞ。まぁ、それも彼次第だがな、ガハハハハ……」
「は、はぁ……」

 わたしは聞こえないふりしながらも愛想笑いするしかなかった。

 でも、分かったことがあるの。我が子爵家は伯爵様とともに違法な阿片を作り、それを売って利益を得てるんだ。

 これは明らかに犯罪……でも、その利益でわたしたち家族は生活が成り立っているの。どうすれば良いの? アプレンお願い、出て来て! 教えてよお!







 



 

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