わたしの祈りは毒をも溶かす!

鼻血の親分

4話 あ、聞こえるよう。でもこれが現実なのか…④

 わたしはいつもさりげなくリュメル様を目で追っている。長めのブロンズヘアーを靡かせ、爽やかな貴公子は女生徒の憧れの的だ。ここに居る女の子は全員彼を狙ってるだろうね。

 誰にでも優しく接する彼の笑顔を見てると嬉しく思う反面、ジェラシーのような感情も芽生える。

 あぁ、わたしにも笑顔を見せてよ。もう、他の子とイチャイチャしないで。こっちへ来て、寂しいよお、リュメル様ー!

 身分違いも甚だしいけどココロの叫びは自由だ。生きてるって感じる瞬間でもある。などと感傷に浸ってると本当にリュメル様がこちらへ来られた。超ドキドキするです!

 わたしの隣へ座られ笑顔を見せる。丁度太陽の光が御尊顔を照らして神々しく感じた。

「あー、あー……」

『こんにちは』と演技した。彼は胸ポケットから紙とペンを取り出して何やら書き出す。難聴のわたしと筆談しようとされているのだ。誰もが挨拶程度で済ますわたしとのコミニュケーションを、彼だけが毎回優しく接してくださる。

 もう参りました。アプレン、本日一番の嬉しい出来事更新だよー!

『オリビア様、今日も美しいですね。今度一緒にダンスしてください』

 その文字を読んだ瞬間、カァーッとカラダが熱くなるのを感じた。

「あー、あー、うー……」

 よくもこんな殺し文句のような文面を!

 慌ててお返事を書く。

『美しいだなんてお恥ずかしいですわ。でもお褒めくださりありがとうございます。ダンスはご迷惑おかけすると思います。わたしではなくイービルと踊ってくださいまし。』

 半分本心ではない。リュメル様とダンスのステップを踏んでみたい。でも同時に自信もないのだ。

 いや、待って。今は音が聞こえるんだ。リズムを自分で掴むことが出来るなら、わたしはちゃんと踊れるはず。少なくともイービルよりかは上手だと思うの。

『私はお美しいオリビア様と踊りたいんだ。今度是非、お願いしたい』

 またしてもわたしはカァーッとカラダが熱くなる。そこまで言われちゃうともう断れないよ。

「あー、あー」

 でも何てお返事すれば?『……では、機会があれば是非』でいっか!?

 そう迷ってる時、我が妹がこちらへ向かって歩いて来た。

 これはマズいな。妹のお情けでお茶会へオブザーバー的に参加させて貰ってるのに、主賓を独り占めしてたら主催者に失礼だ。

 わたしは書くのをやめた。彼も妹に気がつかれた様だ。

「リュメル様ン、手作りのクッキーを召し上がってくださいな。さぁ、あちらにご用意してますわ」
「あぁ、ありがとう」
 
 強引に彼の背中に手を合わせ連れ去って行こうとするイービルは、振り向いてクッキーをテーブルの上に置いていく。明らかに形が崩れた失敗作の塊だった。でもまぁ、そこは身内だから問題はない。わたしはオブザーバーだから。

 それよりもメモをちらりと覗いた彼女は微笑みながら呟いた。

「お姉様のお相手は違いますわよ」

 そして耳元で囁く。

「彼のお父様でしょ!」

 あ……そ、そうだった。わたしはリュメル様ではなく、彼の父であるフレディ伯爵様の愛人になるってお話だった。いやだ。いやだ。おじ様の愛人だなんてヤダー!

 微笑だけどイービルの目は笑っていない。アレは嫉妬に狂った女の目だ。ライバルと思われたのかしら。

 ーーわたしは彼女にロックオンされた。






 













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