わたしの祈りは毒をも溶かす!

鼻血の親分

2話 あ、聞こえるよう。でもこれが現実なのか…②

「オリビア様、おはよう御座います」

 う……うーん。誰かがわたしのカラダを揺すってる……あ、朝なんだ。

 寝返りをうって侍女のモッペルに背を向けた。

 ……ん?

「オリビア様?」

 はっ!? き、聞こえる、今、声が聞こえた。おはよう御座いますって……ちょっと、信じられないよお!?

 目だけがぱちくりと開いたまま固まってしまった。

 アプレンのお話、本当だったんだ、ああっ、どうしよーー。そ、そうだ、演技しないと。聞こえない演技を……

「オリビア様っ!」

 は、はいーー!

 ムクっと起き上がった。少し眠たそうな仕草をしながらモッペルに笑顔を見せた。

 おば様風で少々膨よかなモッペルは、いつもにこやかに接してくれる。

 ーーところが。

「とっとと起きなさいよ、このお荷物令嬢が!」

 えっ!?

 恐る恐る彼女の表情を確かめてみる。でもいつもと変わらない満面の笑みだった。

「ほら、朝の支度をしな! ったく面倒かけるんじゃないよ、お荷物の癖に!」

 そ、そんな……お荷物だなんてひどい、ひどいよ。笑顔でいつもそんなこと言ってたのモッペル?

 朝から憂鬱な出来事が起こった。聴覚障害が治った喜びを味わう暇もない。これが現実なの? と、うなだれつつも立ち上がり、洗面台へ向かった。歩きながらふと思う。

 いかん。これでは感情の赴くままだ。わたしは聞こえないことになっている。悟られないよう演技しないと。愛想笑いしまくらないと!


 ガシャンガシャン、ザーッ。

 水を汲む音、流れる音、バシャンバシャンとお顔を洗う音……こんな音だったんだ。雑音じゃない。そうだ、今日から音の世界を味わえるんだ。少々キツイこと言われてもへっちゃらだよ!

 笑顔のモッペルに散々嫌味を言われながらも淡々と朝の支度をする。いつも見るわたしのお顔。ブルーアイは兄上さまに似たのでしょう。茶色のふあふあヘアーはお手入れが大変だ。

 気持ちを切り替えようね。

 わたしは髪を丁寧に整えてダイニングホールへ入った。

 よし、一番乗り。

 大きなテーブルには豪華な朝食が並んでいる。やがて家族が現れ、上座にお父様、その脇にお母様と対面に兄上さまが座られた。そして妹のイービルはわたしの正面、お母様の隣だ。

 あ、兄上さまが居るんだ。てことは週末だなぁ。

「おはよう、オリビア」

 兄上さま以外の皆んなが笑顔で挨拶してくる。わたしはニコニコしながら頭をぺこりと下げた。

「ねぇお母様、今日庭園でお茶会するからね」
「あら、リュメル様もいらっしるのかしら?」
「もちろんーー!」

 お茶会! リュメル様だ!

 一つ年下の妹は友人が多い。わたしが行けなかったパブリック・スクール中等部の三年生でクラスメートに伯爵令息のリュメル様がいた。なかなかの貴公子だ。妹のみならずスクールの女生徒が彼を狙ってるのは明白だった。かくいうわたしも密かに憧れている。まぁ障害のこともあるし、その気持ちは心の中に収めてるけどね。それにイービルの恋を実らせてやりたい気持ちも姉としてあるの。

 つか、会話が聞こえるって楽しい。楽しいよう、アプレン!

「ところで貴方、オリビアのお相手は見つかったの?」

 え? 何それ。お母様?

 聞こえないふりして淡々とお食事するけど、思わず聞き耳をたててしまう。

「あぁ、フレディ伯爵様と思ってる」

 は? 何それ。お父様?

「えーーっ!? リュメル様のお父様じゃん! きもーーっ!」

 イービルがわたしの顔とお父様の顔を交互に見てる。かなり慌てた様子だ。

 ねぇだから何のお話なの!?

「まぁ伯爵様なら申し分ないわね。それにしてもこんな小娘が本当に売れるのかしら?」
「むふふ。それがフレディ様はその気になってるぞ。愛人なんだから先々のこと考えれば若い方が良いに決まってるからな」

 あ、愛人ですって!? わたしリュメル様のお父様の愛人になるの!?

 余りにも衝撃的なお話を聞いてしまってガッシャーンとフォークを落としてしまった。皆んながわたしに注目する。

 ヤバい。驚いた顔してる。バレたかも……














 

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