詩「令和四年三月一日」

有原悠二

令和四年三月一日

雨の隙間を
  少しだけ広げてみたら
  宇宙の匂いがした
    哲学はいらない
    詩も

時を超えていくのは
いつだって観測者だ
  いつの時代も
  明日の夕暮れも

哲学は妄想で
詩は屁理屈で
  ぼくはきみのことが好きだ
  わがままだって言えるきみが

  嘘だと分かっていても
  ぼくたちは空を見上げる
  雨でも降ろうものなら
  言葉すら捨てたくなって

静かだった
  墓参りの歌
    宮沢賢治
    中原中也
      父


  自殺した兄
  蒸発した姉
    夢の中で見た
    小指がドリルになったぼくは

在宅で仕事をしている彼女の隣の部屋で
  いつものように小説を書いたり
    詩を書いたり
  音楽を聴いたり
    本を読んだり
雨を眺めたり
  濡れて帰ってきた娘を
叱ったり
抱きしめたり

  今夜はおでんが食べたい
    愛するということ
ロマンチック
火の中に
  水
(こうやって生きていければ
    いかにも哲学的で
    詩的だ)

だしの匂い
マシュマロを口に投げ入れて
昨日の死を感じながら

 雨の心臓の
   憂鬱と
   理想的なダダイストの
     傲慢な日常風景だ

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