ドラゴンシップ麗しのヴィクトリア号の記録 ~美少女船長はギャンブル狂の最強魔法剣士を使役する~
第56話 今は違うよ
フローラの魔の手から逃れたアイリスとロック、二人は自室の手前で立ち止まった。目線の少し下に、丸い小さな窓がついた扉を、見つめロックは小さく息を吐いた。
「行くわよ。やっぱりやだ?」
ロックがためらっているのを、察したアイリスが声をかける。彼は小さく首を横に振った。
「いや…… 悪い。大丈夫だ。行こうか」
扉をノックして二人は部屋の中へと入る。船室は二段ベッドが一つ置かれた長方形の狭い船室だった。
部屋の奥にヴェリーチェが一人椅子に腰かけていた。狭く横に並べないため、ロック、アイリスの順で中へ入り、やや斜め前にロックがアイリスの前を進む。ロックは部屋の真ん中、べリーチェの一メートルほど前で立ち止まった。少し離れた場所に止まった二人を、べリーチェは不思議そうに見つめている。
「アイリス…… あれを出してくれ」
「うん。ちょっと待ってね……」
うなずいたアイリスが鞄に手を入れた。鞄の中から槍が出て来る。斜め前へと槍を引っ張るようにだすアイリス、船が揺れて穂先がロックのほうへと傾く。
「あっ!?」
「おっと!? あぶねえな」
「ごめんねぇ。部屋が狭いから…… はい。べリーチェ。これ! 受け取って」
アイリスが鞄から槍をだしロックが、それをささえ水平にしべリーチェの前に差し出す。刃の根元にサメの尾びれのような刃を持つ槍がべリーチェの前に運ばれてきだ。槍をじっと見つめたべリーチェが目を大きく見開いた。
「これは…… クロウの……」
べリーチェがゆっくりと槍をつかみながらつぶやく。アイリスは小さくうなずいた。
「すごいわよねぇ。この槍は急に手から出てくるのよね」
「そうね。これはクロウの家に代々伝わる邪槍リアホーリアよ……」
懐かしそうにべリーチェが槍の話を始める。邪槍リアホーリアはかつて砂漠を支配した魔女が使っていた槍である。刃先の根元にある刃に魔導金属アンバルト合金でできている。魔導金属は魔力を帯びた金属で、武器や防具に加工すると様々な効果を発揮する。
アンバルトの特性は次元転換。武器を別次元に収納し、使用者の意思によって自由に呼び出すことができる。クロウの先祖は魔女に支配された村の容姿端麗な青年だった。魔女は青年たちを村から誘い夜な夜な男たちの精力を貪っていた。彼は魔女の支配を終わらせるため、魔女に近づきベッドで毎日のように甘い言葉をささやいた。ある日の夜。精を貪り眠りこけてしまった魔女のスキをついて、リアホーリアを奪い魔女の心臓を貫いた。以後、リアホーリアは青年の子孫たちに家宝として受け継がれたという。顔を下に向けたべリーチェは槍をじっと見つめている。
「どうしたの? これを私に渡すなんて……」
不思議そうに二人を見つめるべリーチェ、ロックが静かに頭を下げた。
「それを使って俺達と一緒にヴィクトリアを助けてほしい。頼む」
ロックが自分に頭を下げるのが信じられないという表情をするべリーチェ、ゆっくりとロックが頭を上げると彼女は小さく息を吐く。
「ふっ。あんたねぇ。私たちは頼みごとをする間柄じゃないんじゃないって言ったのは…… 誰よ?」
「うっ…… 俺だ……」
あきれた様子でべリーチェがロックに問いかける。頼みをする間柄じゃないとは、二人が対峙した時にロックから受けた言葉だ。気まずそうにうつむくロック、べリーチェは仕返しをしているつもりなのだろう、自然と勝ち誇った顔になり口元が緩んでいた。
「ちょっと前ならね」
急にアイリスが口を開き二人の会話に割り込んできた。驚いた顔を二人にアイリスは当然と言った表情をした。
「私とあなたは友達でしょ? 頼みごとする間柄よ。違う? ロックだってあなたのことを助けてくれたじゃない。だからあなたは恩を返してもいいんじゃない?」
「アイリス……」
首をかしげるアイリスにべリーチェは下を向いて笑ってからかをおあげた。べリーチェは左手を丸めて腰につけ頬を赤くする。
「ふん。しょうがないわね。今回だけは手伝ってあげる」
そっぽを向き口をとがらせて恥ずかしそうに答えるべリーチェだった。彼女の様子を見て嬉しそうにアイリスが笑った。
「ありがとう。べリーチェ」
アイリスとロックが顔を見合わせて笑った。不服そうに二人を見つめてべリーチェがいたずらに笑う。
「まぁ。ロックをめぐるあなた達の戦いの行方も気になるしね」
「なっ!? 何を……」
べリーチェはロックとアイリスを交互に見て、にやにやと笑って左手で口を押えるしぐさをする。ロックは気まずそうにして、アイリスはムッとした表情をし腕を組んだ。
「別にクローネのことなんか放っておいても。私はお姉ちゃんだけ助かればいいから」
口をとがらせて不満そうにするアイリスだった。
「おっおい!」
「さすがにそれは……」
ヴィクトリアだけ助かればいいというアイリスの言葉に、困惑するべリーチェとロックだった。二人の様子を見たアイリスは大きく口を開けて笑う。
「はははっ。冗談よ。クローネも私の大事な友達だもん。絶対に助けるわ」
「もう……」
「驚かすなよ……」
笑ってロックの肩をたたくアイリス。ロックとべリーチェはホッと安堵の表情を浮かべた。
べリーチェは右手を上に動かし、リアホーリアを投げるようにしぐさをする。するとリアホーリアは消えてなくなった。
「それでどうするの? 助ける囚人は二人、同時に助けないと厳しいわよ」
アイリスとロックはべリーチェの言葉を聞いて顔を見合わせた。
「姐さんを動かせるのはアイリスだけだ。俺がアイリスを護衛してはヴィクトリアを助ける」
「わかったわ。私がクローネね」
うなずくべリーチェだった。直後に……
「べリーチェさんにはわたくしも一緒に行きます」
天井から綺麗な声がした。天井の板の一枚が開きコロンがロック達の後ろに下りた。
三人は驚いて呆然とコロンを見つめている。コロンはにこっと笑ってアイリスとロックに手を向け、次にべリーチェと自分に手を向ける。
「ロックさんとアイリスさん、べリーチェさんとわたくし、二人ずつならバランスがいいですよね?」
困った顔をしたアイリスはロックに顔を向け視線を合わす。彼女は手招きしてロックを自分のほうに呼ぶ。
近づきロックはしゃがんみ顔をアイリスに近づける。耳元でアイリスはロックに小声で尋ねる。
「どうする?」
「まぁなんだ。お前に似てみんな強情だからな。どうせ断っても勝手についてくるよ」
「なっ!? 強情って…… うるさいわね」
口をとがらせて不満そうにするアイリス、ロックは体を起こしコロンのほうを向いた。微笑むコロンに向かってロックは口を開く。
「勝手なことされるよりかましだ。ついて来い」
「やった」
嬉しそうに右手を胸の前で強く握ったコロンだった。コロンを見るロックの顔が、真剣な表情に変わった。
「ただ…… 相手は王都を防衛する軍隊と紫水軍も混じってる。自分の身は自分で守れ。俺は助けられない。いいな?」
「わかりました」
笑顔から真顔になったコロンはうなずて返事をするのだった。アイリスは鞄に手を入れた。
「じゃあ。これ…… あなたのダガーとバックラーよ」
鞄の中からダガーと小さな丸い金属製の盾である、バックラーを取り出しコロンに差し出した。コロンは両手でアイリスからバックラーを受け取りダガーを腰にさし、バックラーを左手に装備した。
コロンがバックラーとダガーをつけるのを見たアイリスが全員に向かって声をかける。
「いい? お姉ちゃんとクローネを助けてみんなで帰るのよ。絶対に!」
「あぁ。わかったよ」
アイリスの帰ろうという言葉に、力強く返事をするロック、べリーチェとコロンは大きくうなずくのだった。
「じゃあ、俺達も準備するか。ポロンまでついて来るって言いださないうちにな」
ロックの言葉にアイリスが笑う。コロンが嬉しそうにロックに向かって口を開く。
「それなら大丈夫ですよ。私たちがいない間のポロンの世話をフローラ様に頼みましたから! すごい喜んでましたよ!」
「なら…… 大丈夫だよな」
「多分ね…… 大事にはしてくれるんじゃない…… 大事には……」
ポロンを心配するロック達、コロンは二人の様子に苦笑いをするのだった。フローラのことをよく知らない、べリーチェは首をかしげるのだった。
「行くわよ。やっぱりやだ?」
ロックがためらっているのを、察したアイリスが声をかける。彼は小さく首を横に振った。
「いや…… 悪い。大丈夫だ。行こうか」
扉をノックして二人は部屋の中へと入る。船室は二段ベッドが一つ置かれた長方形の狭い船室だった。
部屋の奥にヴェリーチェが一人椅子に腰かけていた。狭く横に並べないため、ロック、アイリスの順で中へ入り、やや斜め前にロックがアイリスの前を進む。ロックは部屋の真ん中、べリーチェの一メートルほど前で立ち止まった。少し離れた場所に止まった二人を、べリーチェは不思議そうに見つめている。
「アイリス…… あれを出してくれ」
「うん。ちょっと待ってね……」
うなずいたアイリスが鞄に手を入れた。鞄の中から槍が出て来る。斜め前へと槍を引っ張るようにだすアイリス、船が揺れて穂先がロックのほうへと傾く。
「あっ!?」
「おっと!? あぶねえな」
「ごめんねぇ。部屋が狭いから…… はい。べリーチェ。これ! 受け取って」
アイリスが鞄から槍をだしロックが、それをささえ水平にしべリーチェの前に差し出す。刃の根元にサメの尾びれのような刃を持つ槍がべリーチェの前に運ばれてきだ。槍をじっと見つめたべリーチェが目を大きく見開いた。
「これは…… クロウの……」
べリーチェがゆっくりと槍をつかみながらつぶやく。アイリスは小さくうなずいた。
「すごいわよねぇ。この槍は急に手から出てくるのよね」
「そうね。これはクロウの家に代々伝わる邪槍リアホーリアよ……」
懐かしそうにべリーチェが槍の話を始める。邪槍リアホーリアはかつて砂漠を支配した魔女が使っていた槍である。刃先の根元にある刃に魔導金属アンバルト合金でできている。魔導金属は魔力を帯びた金属で、武器や防具に加工すると様々な効果を発揮する。
アンバルトの特性は次元転換。武器を別次元に収納し、使用者の意思によって自由に呼び出すことができる。クロウの先祖は魔女に支配された村の容姿端麗な青年だった。魔女は青年たちを村から誘い夜な夜な男たちの精力を貪っていた。彼は魔女の支配を終わらせるため、魔女に近づきベッドで毎日のように甘い言葉をささやいた。ある日の夜。精を貪り眠りこけてしまった魔女のスキをついて、リアホーリアを奪い魔女の心臓を貫いた。以後、リアホーリアは青年の子孫たちに家宝として受け継がれたという。顔を下に向けたべリーチェは槍をじっと見つめている。
「どうしたの? これを私に渡すなんて……」
不思議そうに二人を見つめるべリーチェ、ロックが静かに頭を下げた。
「それを使って俺達と一緒にヴィクトリアを助けてほしい。頼む」
ロックが自分に頭を下げるのが信じられないという表情をするべリーチェ、ゆっくりとロックが頭を上げると彼女は小さく息を吐く。
「ふっ。あんたねぇ。私たちは頼みごとをする間柄じゃないんじゃないって言ったのは…… 誰よ?」
「うっ…… 俺だ……」
あきれた様子でべリーチェがロックに問いかける。頼みをする間柄じゃないとは、二人が対峙した時にロックから受けた言葉だ。気まずそうにうつむくロック、べリーチェは仕返しをしているつもりなのだろう、自然と勝ち誇った顔になり口元が緩んでいた。
「ちょっと前ならね」
急にアイリスが口を開き二人の会話に割り込んできた。驚いた顔を二人にアイリスは当然と言った表情をした。
「私とあなたは友達でしょ? 頼みごとする間柄よ。違う? ロックだってあなたのことを助けてくれたじゃない。だからあなたは恩を返してもいいんじゃない?」
「アイリス……」
首をかしげるアイリスにべリーチェは下を向いて笑ってからかをおあげた。べリーチェは左手を丸めて腰につけ頬を赤くする。
「ふん。しょうがないわね。今回だけは手伝ってあげる」
そっぽを向き口をとがらせて恥ずかしそうに答えるべリーチェだった。彼女の様子を見て嬉しそうにアイリスが笑った。
「ありがとう。べリーチェ」
アイリスとロックが顔を見合わせて笑った。不服そうに二人を見つめてべリーチェがいたずらに笑う。
「まぁ。ロックをめぐるあなた達の戦いの行方も気になるしね」
「なっ!? 何を……」
べリーチェはロックとアイリスを交互に見て、にやにやと笑って左手で口を押えるしぐさをする。ロックは気まずそうにして、アイリスはムッとした表情をし腕を組んだ。
「別にクローネのことなんか放っておいても。私はお姉ちゃんだけ助かればいいから」
口をとがらせて不満そうにするアイリスだった。
「おっおい!」
「さすがにそれは……」
ヴィクトリアだけ助かればいいというアイリスの言葉に、困惑するべリーチェとロックだった。二人の様子を見たアイリスは大きく口を開けて笑う。
「はははっ。冗談よ。クローネも私の大事な友達だもん。絶対に助けるわ」
「もう……」
「驚かすなよ……」
笑ってロックの肩をたたくアイリス。ロックとべリーチェはホッと安堵の表情を浮かべた。
べリーチェは右手を上に動かし、リアホーリアを投げるようにしぐさをする。するとリアホーリアは消えてなくなった。
「それでどうするの? 助ける囚人は二人、同時に助けないと厳しいわよ」
アイリスとロックはべリーチェの言葉を聞いて顔を見合わせた。
「姐さんを動かせるのはアイリスだけだ。俺がアイリスを護衛してはヴィクトリアを助ける」
「わかったわ。私がクローネね」
うなずくべリーチェだった。直後に……
「べリーチェさんにはわたくしも一緒に行きます」
天井から綺麗な声がした。天井の板の一枚が開きコロンがロック達の後ろに下りた。
三人は驚いて呆然とコロンを見つめている。コロンはにこっと笑ってアイリスとロックに手を向け、次にべリーチェと自分に手を向ける。
「ロックさんとアイリスさん、べリーチェさんとわたくし、二人ずつならバランスがいいですよね?」
困った顔をしたアイリスはロックに顔を向け視線を合わす。彼女は手招きしてロックを自分のほうに呼ぶ。
近づきロックはしゃがんみ顔をアイリスに近づける。耳元でアイリスはロックに小声で尋ねる。
「どうする?」
「まぁなんだ。お前に似てみんな強情だからな。どうせ断っても勝手についてくるよ」
「なっ!? 強情って…… うるさいわね」
口をとがらせて不満そうにするアイリス、ロックは体を起こしコロンのほうを向いた。微笑むコロンに向かってロックは口を開く。
「勝手なことされるよりかましだ。ついて来い」
「やった」
嬉しそうに右手を胸の前で強く握ったコロンだった。コロンを見るロックの顔が、真剣な表情に変わった。
「ただ…… 相手は王都を防衛する軍隊と紫水軍も混じってる。自分の身は自分で守れ。俺は助けられない。いいな?」
「わかりました」
笑顔から真顔になったコロンはうなずて返事をするのだった。アイリスは鞄に手を入れた。
「じゃあ。これ…… あなたのダガーとバックラーよ」
鞄の中からダガーと小さな丸い金属製の盾である、バックラーを取り出しコロンに差し出した。コロンは両手でアイリスからバックラーを受け取りダガーを腰にさし、バックラーを左手に装備した。
コロンがバックラーとダガーをつけるのを見たアイリスが全員に向かって声をかける。
「いい? お姉ちゃんとクローネを助けてみんなで帰るのよ。絶対に!」
「あぁ。わかったよ」
アイリスの帰ろうという言葉に、力強く返事をするロック、べリーチェとコロンは大きくうなずくのだった。
「じゃあ、俺達も準備するか。ポロンまでついて来るって言いださないうちにな」
ロックの言葉にアイリスが笑う。コロンが嬉しそうにロックに向かって口を開く。
「それなら大丈夫ですよ。私たちがいない間のポロンの世話をフローラ様に頼みましたから! すごい喜んでましたよ!」
「なら…… 大丈夫だよな」
「多分ね…… 大事にはしてくれるんじゃない…… 大事には……」
ポロンを心配するロック達、コロンは二人の様子に苦笑いをするのだった。フローラのことをよく知らない、べリーチェは首をかしげるのだった。
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