ドラゴンシップ麗しのヴィクトリア号の記録 ~美少女船長はギャンブル狂の最強魔法剣士を使役する~
第50話 沈没するドラゴン
鎖のきしむような音と、矢じりが空気を切り裂く音を、混じらせながらドラゴンアンカーはヴィクトリアへと迫る。
翼を広げ急旋回するヴィクトリア、船内は激しく揺れて、強い力で引っ張られる。
椅子に座るアイリス達は必死に椅子にしがみついて踏ん張る。
ヴィクトリアの尻尾の中ほどをかすめながらドラゴンアンカーは外れた。
「(危ないわね! 私のかわいい尻尾が切れたらどうするのよ。すぐに生え変わるけどさ!)」
心配そうな表情で視線を上に向ける。
「反撃できそう?」
「無理ね。ロック抜きじゃ私はただの輸送船だもの。戦闘艦と武装改造された巨大客船を相手にするのは厳しいわ。せめて一隻なら……」
ヴィクトリアは輸送船で武装は持たず、武器となるのは牙や爪と強靭な肉体のみだ。ドラゴンと言えどロックが居なければ、大砲やドラゴンアンカーを持つ戦闘艦相手には厳しい。
「ごめんね。私がフォルテドラゴンだから……」
「お姉ちゃんじゃなきゃ私の輸送船になれなかったの! 謝らないで!」
申し訳なさそうにするヴィクトリアを励ますアイリス。彼女は椅子に座ったまま、厳しい表情で視線を少し上に向けた。
「すぐにロックに声をかけ起こして!」
「(わかった。呼びかけて見るわね。ロック!! 起きて!! 大変なの……)」
ヴィクトリアはアイリスの部屋に寝ているロックに声をかける。その声がアイリスにも届いている。だが……
「(ダメ。深く寝てるみたいね。何度も呼びかけてるけど起きないわ。ねぼすけさんね)」
「わかった。そばにポロンが居るはずだから……」
「(キャッ!!)」
激しく船体が揺れた。立っていられないほどの強い衝撃に、アイリスは椅子の肘掛けをつかんで必死に踏ん張った。
「お姉ちゃん!? どうしたの?」
「アンカーが翼に当たったの。ごめんなさい」
ゲラパルト二世が撃った二発目のドラゴンアンカーを、ヴィクトリアはかわしきれずに翼の膜を貫通した。
「大丈夫?」
「えぇ。平気よ。すぐに外して…… あれ…… 前に…… あれは……」
ヴィクトリアの真正面から、一隻の魔導飛空船が猛スピードで突っ込んできた。
アイリスが見ている壁にも、魔導飛空船が映る。それはくすんだ赤い色の流線型の船体に、鎖型の模様が入った翼をもつ中型の魔導飛空船だった。
「嘘でしょ!? あれはクロウが使っていた船じゃない! どうして!? 紫海に沈んだはずじゃ……」
向かってきたのは砂蛇と一緒に、紫海へと沈んだはずの強襲型魔導飛空船ヴァイパーだった。
正面から猛スピードで突っ込んでくるヴァイパー。強襲型魔導飛空船ヴァイパーは船首の厚い装甲利用して体当たりし船を強制的に停船させる。
「(クッ! このーーーー!!)」
前二本で横から挟むようにして、ヴァイパーを受け止めたヴィクトリアだった。
そのまま彼女は前足で、ヴァイパーを押しつぶそうと両足に力を込める。軋むヴァイパー、船体がひしゃげていく。
「(紫水軍…… もう! 余計なことを!)」
潰れれそうなヴァイパーの甲板からタラップが伸びて、自分の前足に複数の紫水軍が群がってくるのが見える。
ヴィクトリアがヴァイパーを投げ捨てた。ヴァイパーはまっすぐに水平にグレートアリア号へ向かっていく。
グレートアリア号をかすめるヴァイパー、ヴァイパーとすれ違ったグレートアリア号が、ドラゴンアンカーを撃った。
「(次々から次に! キャッ!)」
翼にささったゲラパルト二世のドラゴンアンカーが鎖を巻き戻された。ドラゴンアンカーをかわそうとしたヴィクトリアはバランスを崩してしまった。
グレートアリア号のドラゴンアンカーはヴィクトリアの左肩につきささった。二発のドラゴンアンカーの鎖が巻き戻される。
「(こんなの…… 簡単に……)」
必死に抵抗するヴィクトリアだったが、徐々にグレートアリア号とゲラパルト二世の元へと引き寄せられていく。
迫ってくる二隻の船の甲板には、武器を持った兵士達が並んでいるのが見える。ヴィクトリアはゲラパルト二世とグレートアリア号を見て覚悟を決めた……
ブリッジに居るアイリスに向けてヴィクトリアが声をかける。
「(アイリス…… すぐに脱出艇で逃げなさい)」
「でっでも……」
「(見てみなさい! このままじゃ乗り込まれて、みんな殺されちゃうわよ!)」
壁に映る光景はヴィクトリアが見えるものと同じだ。グレートアリア号とゲラパルト二世にいる武器を構えた多数の兵士達だ。目をうるませて首を大きく横にふるアイリス。
「いや…… お姉ちゃんを置いて行くなんて……」
「(あんた船長でしょ! 船員の安全を確保するのがあなたの責任よ!)」
「うっ……」
涙を流し黙るアイリスに、ヴィクトリアは優しく声をかける。
「(私なら大丈夫。簡単に壊されたりするもんですか! だから逃げなさい。そして取り返して私を……)」
「わかった。絶対に助けるから…… ごめんなさい」
椅子から立ち上がり、アイリスはヴィクトリアに指示を出す。
「みんなに避難を呼びかけて! 私は脱出艇のところへ行くわ」
「(はーい)」
返事をしたヴィクトリアが船内に居る全員に呼びかける。
「(当船は航行不能になりました。これより脱出艇を射出します。貨物室へ向かってください)」
アイリスの部屋でクローネとポロンはヴィクトリアの声が聞こえた。ロックが眠り続けるベッドの横に二人は立っていた。
「ポロン! 逃げますよ」
背後の扉が開いた。そこにはベリーチェをかかえたコロンが居た。彼女はポロン達に声をかけると、扉を開けたまま貨物室へ向けてあるき出した。
「逃げるのだよ!」
「えぇ。ちょっとまってください」
クローネの袖を引っ張ったポロン、クローネはポロンへ顔を向けうなずいて優しく彼女の微笑む。
静かにベッドに腰掛けたクローネはロックの顔を覗き込む。
「ロックさん…… ありがとう…… もっと一緒に…… 居たかった」
クローネはロックに口づけをする。ポロンは呆然とクローネを見つめていた。
すぐに口をはなしクローネは立ち上がり、ポロンに向かって優しく微笑む。
「ポロンさん…… ロックさんを運んでもらっていいですか?」
「わかったのだ」
笑顔でうなずいたポロンは、ロックを抱えて部屋の外へ向かう。クローネもポロンに続く。しかし、部屋から廊下に出たクローネは貨物室へと逆のブリッジの方へ向かう。慌ててポロンがクローエを呼び止める。
「クローネはどこへ行くのだ? 貨物室へ行くのだ」
「お部屋に忘れ物をしました。取りにいくので先に行っててください」
「そうか。わかったのだ」
ポロンはすぐに納得してロックをかついだまま貨物室へ向かう。クローネはポロンの背中を優しい目で見つめていた。
直後にクローネはブリッジから逃げ来たアイリスとすれ違う。
「クローネ! 何してるの? 逃げるわよ」
「はい。先に行ってください。部屋に忘れ物があるので」
「もう…… 急ぎなさい。待ってるからね」
笑顔でうなずいたクローネ、アイリスは呆れた様子でクローネを残して貨物室へかけていく。
「これでいいの…… アイリスさん…… みんな…… ありがとう」
アイリスの背中につぶやいた、クローネは何かを決意した顔で前を向いて歩く。そこへ……
「(嘘が下手ね。ポロンとアイリスじゃなきゃバレてるわよ)」
「いいんです。一緒に逃げたらみんなまで狙われます。私なら大丈夫。すぐには殺さないはずです。それに…… 一緒ならあなたもね」
「(ありがとう……)」
笑ってクローネはゆっくりと歩き出す。自分の部屋を通り過ぎブリッジへ向かっていく。
クローネとすれ違って少しして、アイリスは貨物室へ駆け込んだ。
ポロン、コロン、ベリーチェ、ロックの四人が貨物室に集まっていた。
「みんな私の近くに来て」
アイリスが全員を呼んだ。彼女は貨物室扉の横にある壁に手を向ける。そこにはスライドで上にあがる蓋がされている。
蓋を開けると小さなレバーがあり、アイリスはレバーを下に下げた。貨物室の床の一部が開いて階段が出てくる。階段を下りると貨物室と同じくらい広さの部屋、屋根のついた小型魔導飛空船が六艘ならんでいる。魔導飛空船は三艘ずつ左右に分けられている。
ここはヴィクトリアのガス溜まり、通常のドラゴンであれば炎を吐き出した際に不要なガスが発生する。そのガスを貯めて置く場所だ。一定の量のガスが溜まると、排気口の役割をするエラを開いてガスを排出する。
ヴィクトリア号はその機能を利用して、ここに脱出艇を置いている。
アイリスは近くの脱出艇に乗り込む。脱出艇は壁に沿って席があり、先頭に丸い舵が設置されている。コロン達が椅子に座って、アイリス舵の前に立った。
「(みんな乗ったわね。じゃあ射出するわよ)」
ヴィクトリアの声がアイリス達に聞こえた。彼女の声にアイリスが即座に反応する。
「なっ!? お姉ちゃん!? まだクローネが!?」
「(彼女は私と一緒に残るわ。さみしがる私と一緒だってありがたいわねぇ)」
「何よそれ! ダメよ」
「(大丈夫よ。でも、そのねぼすけ魔法使いが起きたら一緒に姫二人を迎えに来なさい。約束よ)」
アイリスが舵の前から離れ、脱出艇から飛び降りようとする。しかし、コロンが素早く彼女の肩をつかんで止めた。
「ダメです!」
「はなしてよ! このままじゃ二人とも!」
激しくて腕を動かして抵抗するアイリス、コロンはキッと厳しい顔をして手を上げた。パチーンといういい音が響いた。コロンはアイリスを叩いたのだ。頬を押さえたアイリスにコロンは叫ぶ。
「いい加減してください。船長! 二人の覚悟を無駄にする気ですか!?」
「コッコロン……」
頬を押さえてコロンを見るアイリス、コロンの目から大粒の涙が流れていた。アイリスはうつむいて小さな声で、最後の指示をヴィクトリアに送る。
「ごめんなさい。お姉ちゃん…… 出して……」
「(はーい)」
にこやかに明るく返事をしたヴィクトリア。排気口が開くアイリス達の前に、巨大な流線型の穴が目の前に出た。
穴から見える空は、少し離れた場所に、巨大な紫の色の霧の壁が見える。
直後にヴィクトリアが、吐き出した空気とともに、六艘の脱出艇が射出された。激しい風にガタガタと激しく揺れる船体。背後には翼と肩にドラゴンアンカーを打ち込まれたヴィクトリアの姿が見えた。ヴィクトリアの巨体があっという間に小さくなっていく。
「クローネーーーー!! お姉ちゃーーーーん!!」
アイリスはヴィクトリア見つめ、涙を流しながら二人の名前を叫ぶのだった。
翼を広げ急旋回するヴィクトリア、船内は激しく揺れて、強い力で引っ張られる。
椅子に座るアイリス達は必死に椅子にしがみついて踏ん張る。
ヴィクトリアの尻尾の中ほどをかすめながらドラゴンアンカーは外れた。
「(危ないわね! 私のかわいい尻尾が切れたらどうするのよ。すぐに生え変わるけどさ!)」
心配そうな表情で視線を上に向ける。
「反撃できそう?」
「無理ね。ロック抜きじゃ私はただの輸送船だもの。戦闘艦と武装改造された巨大客船を相手にするのは厳しいわ。せめて一隻なら……」
ヴィクトリアは輸送船で武装は持たず、武器となるのは牙や爪と強靭な肉体のみだ。ドラゴンと言えどロックが居なければ、大砲やドラゴンアンカーを持つ戦闘艦相手には厳しい。
「ごめんね。私がフォルテドラゴンだから……」
「お姉ちゃんじゃなきゃ私の輸送船になれなかったの! 謝らないで!」
申し訳なさそうにするヴィクトリアを励ますアイリス。彼女は椅子に座ったまま、厳しい表情で視線を少し上に向けた。
「すぐにロックに声をかけ起こして!」
「(わかった。呼びかけて見るわね。ロック!! 起きて!! 大変なの……)」
ヴィクトリアはアイリスの部屋に寝ているロックに声をかける。その声がアイリスにも届いている。だが……
「(ダメ。深く寝てるみたいね。何度も呼びかけてるけど起きないわ。ねぼすけさんね)」
「わかった。そばにポロンが居るはずだから……」
「(キャッ!!)」
激しく船体が揺れた。立っていられないほどの強い衝撃に、アイリスは椅子の肘掛けをつかんで必死に踏ん張った。
「お姉ちゃん!? どうしたの?」
「アンカーが翼に当たったの。ごめんなさい」
ゲラパルト二世が撃った二発目のドラゴンアンカーを、ヴィクトリアはかわしきれずに翼の膜を貫通した。
「大丈夫?」
「えぇ。平気よ。すぐに外して…… あれ…… 前に…… あれは……」
ヴィクトリアの真正面から、一隻の魔導飛空船が猛スピードで突っ込んできた。
アイリスが見ている壁にも、魔導飛空船が映る。それはくすんだ赤い色の流線型の船体に、鎖型の模様が入った翼をもつ中型の魔導飛空船だった。
「嘘でしょ!? あれはクロウが使っていた船じゃない! どうして!? 紫海に沈んだはずじゃ……」
向かってきたのは砂蛇と一緒に、紫海へと沈んだはずの強襲型魔導飛空船ヴァイパーだった。
正面から猛スピードで突っ込んでくるヴァイパー。強襲型魔導飛空船ヴァイパーは船首の厚い装甲利用して体当たりし船を強制的に停船させる。
「(クッ! このーーーー!!)」
前二本で横から挟むようにして、ヴァイパーを受け止めたヴィクトリアだった。
そのまま彼女は前足で、ヴァイパーを押しつぶそうと両足に力を込める。軋むヴァイパー、船体がひしゃげていく。
「(紫水軍…… もう! 余計なことを!)」
潰れれそうなヴァイパーの甲板からタラップが伸びて、自分の前足に複数の紫水軍が群がってくるのが見える。
ヴィクトリアがヴァイパーを投げ捨てた。ヴァイパーはまっすぐに水平にグレートアリア号へ向かっていく。
グレートアリア号をかすめるヴァイパー、ヴァイパーとすれ違ったグレートアリア号が、ドラゴンアンカーを撃った。
「(次々から次に! キャッ!)」
翼にささったゲラパルト二世のドラゴンアンカーが鎖を巻き戻された。ドラゴンアンカーをかわそうとしたヴィクトリアはバランスを崩してしまった。
グレートアリア号のドラゴンアンカーはヴィクトリアの左肩につきささった。二発のドラゴンアンカーの鎖が巻き戻される。
「(こんなの…… 簡単に……)」
必死に抵抗するヴィクトリアだったが、徐々にグレートアリア号とゲラパルト二世の元へと引き寄せられていく。
迫ってくる二隻の船の甲板には、武器を持った兵士達が並んでいるのが見える。ヴィクトリアはゲラパルト二世とグレートアリア号を見て覚悟を決めた……
ブリッジに居るアイリスに向けてヴィクトリアが声をかける。
「(アイリス…… すぐに脱出艇で逃げなさい)」
「でっでも……」
「(見てみなさい! このままじゃ乗り込まれて、みんな殺されちゃうわよ!)」
壁に映る光景はヴィクトリアが見えるものと同じだ。グレートアリア号とゲラパルト二世にいる武器を構えた多数の兵士達だ。目をうるませて首を大きく横にふるアイリス。
「いや…… お姉ちゃんを置いて行くなんて……」
「(あんた船長でしょ! 船員の安全を確保するのがあなたの責任よ!)」
「うっ……」
涙を流し黙るアイリスに、ヴィクトリアは優しく声をかける。
「(私なら大丈夫。簡単に壊されたりするもんですか! だから逃げなさい。そして取り返して私を……)」
「わかった。絶対に助けるから…… ごめんなさい」
椅子から立ち上がり、アイリスはヴィクトリアに指示を出す。
「みんなに避難を呼びかけて! 私は脱出艇のところへ行くわ」
「(はーい)」
返事をしたヴィクトリアが船内に居る全員に呼びかける。
「(当船は航行不能になりました。これより脱出艇を射出します。貨物室へ向かってください)」
アイリスの部屋でクローネとポロンはヴィクトリアの声が聞こえた。ロックが眠り続けるベッドの横に二人は立っていた。
「ポロン! 逃げますよ」
背後の扉が開いた。そこにはベリーチェをかかえたコロンが居た。彼女はポロン達に声をかけると、扉を開けたまま貨物室へ向けてあるき出した。
「逃げるのだよ!」
「えぇ。ちょっとまってください」
クローネの袖を引っ張ったポロン、クローネはポロンへ顔を向けうなずいて優しく彼女の微笑む。
静かにベッドに腰掛けたクローネはロックの顔を覗き込む。
「ロックさん…… ありがとう…… もっと一緒に…… 居たかった」
クローネはロックに口づけをする。ポロンは呆然とクローネを見つめていた。
すぐに口をはなしクローネは立ち上がり、ポロンに向かって優しく微笑む。
「ポロンさん…… ロックさんを運んでもらっていいですか?」
「わかったのだ」
笑顔でうなずいたポロンは、ロックを抱えて部屋の外へ向かう。クローネもポロンに続く。しかし、部屋から廊下に出たクローネは貨物室へと逆のブリッジの方へ向かう。慌ててポロンがクローエを呼び止める。
「クローネはどこへ行くのだ? 貨物室へ行くのだ」
「お部屋に忘れ物をしました。取りにいくので先に行っててください」
「そうか。わかったのだ」
ポロンはすぐに納得してロックをかついだまま貨物室へ向かう。クローネはポロンの背中を優しい目で見つめていた。
直後にクローネはブリッジから逃げ来たアイリスとすれ違う。
「クローネ! 何してるの? 逃げるわよ」
「はい。先に行ってください。部屋に忘れ物があるので」
「もう…… 急ぎなさい。待ってるからね」
笑顔でうなずいたクローネ、アイリスは呆れた様子でクローネを残して貨物室へかけていく。
「これでいいの…… アイリスさん…… みんな…… ありがとう」
アイリスの背中につぶやいた、クローネは何かを決意した顔で前を向いて歩く。そこへ……
「(嘘が下手ね。ポロンとアイリスじゃなきゃバレてるわよ)」
「いいんです。一緒に逃げたらみんなまで狙われます。私なら大丈夫。すぐには殺さないはずです。それに…… 一緒ならあなたもね」
「(ありがとう……)」
笑ってクローネはゆっくりと歩き出す。自分の部屋を通り過ぎブリッジへ向かっていく。
クローネとすれ違って少しして、アイリスは貨物室へ駆け込んだ。
ポロン、コロン、ベリーチェ、ロックの四人が貨物室に集まっていた。
「みんな私の近くに来て」
アイリスが全員を呼んだ。彼女は貨物室扉の横にある壁に手を向ける。そこにはスライドで上にあがる蓋がされている。
蓋を開けると小さなレバーがあり、アイリスはレバーを下に下げた。貨物室の床の一部が開いて階段が出てくる。階段を下りると貨物室と同じくらい広さの部屋、屋根のついた小型魔導飛空船が六艘ならんでいる。魔導飛空船は三艘ずつ左右に分けられている。
ここはヴィクトリアのガス溜まり、通常のドラゴンであれば炎を吐き出した際に不要なガスが発生する。そのガスを貯めて置く場所だ。一定の量のガスが溜まると、排気口の役割をするエラを開いてガスを排出する。
ヴィクトリア号はその機能を利用して、ここに脱出艇を置いている。
アイリスは近くの脱出艇に乗り込む。脱出艇は壁に沿って席があり、先頭に丸い舵が設置されている。コロン達が椅子に座って、アイリス舵の前に立った。
「(みんな乗ったわね。じゃあ射出するわよ)」
ヴィクトリアの声がアイリス達に聞こえた。彼女の声にアイリスが即座に反応する。
「なっ!? お姉ちゃん!? まだクローネが!?」
「(彼女は私と一緒に残るわ。さみしがる私と一緒だってありがたいわねぇ)」
「何よそれ! ダメよ」
「(大丈夫よ。でも、そのねぼすけ魔法使いが起きたら一緒に姫二人を迎えに来なさい。約束よ)」
アイリスが舵の前から離れ、脱出艇から飛び降りようとする。しかし、コロンが素早く彼女の肩をつかんで止めた。
「ダメです!」
「はなしてよ! このままじゃ二人とも!」
激しくて腕を動かして抵抗するアイリス、コロンはキッと厳しい顔をして手を上げた。パチーンといういい音が響いた。コロンはアイリスを叩いたのだ。頬を押さえたアイリスにコロンは叫ぶ。
「いい加減してください。船長! 二人の覚悟を無駄にする気ですか!?」
「コッコロン……」
頬を押さえてコロンを見るアイリス、コロンの目から大粒の涙が流れていた。アイリスはうつむいて小さな声で、最後の指示をヴィクトリアに送る。
「ごめんなさい。お姉ちゃん…… 出して……」
「(はーい)」
にこやかに明るく返事をしたヴィクトリア。排気口が開くアイリス達の前に、巨大な流線型の穴が目の前に出た。
穴から見える空は、少し離れた場所に、巨大な紫の色の霧の壁が見える。
直後にヴィクトリアが、吐き出した空気とともに、六艘の脱出艇が射出された。激しい風にガタガタと激しく揺れる船体。背後には翼と肩にドラゴンアンカーを打ち込まれたヴィクトリアの姿が見えた。ヴィクトリアの巨体があっという間に小さくなっていく。
「クローネーーーー!! お姉ちゃーーーーん!!」
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