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ドラゴンシップ麗しのヴィクトリア号の記録 ~美少女船長はギャンブル狂の最強魔法剣士を使役する~

ノベルバユーザー602564

第49話 旅路の終わりは突然に

 月明かりも薄く真っ暗で静かな深夜のオポリスの魔導飛空船発着場。
 金属や木などで造られた無機質な魔導飛空船が並ぶ、中に一つだけ翼をたたんだ巨大な灰色のドラゴンが、長い首を下ろし顔を地面につけた姿勢で鎮座していた。このドラゴンはエンシェントドラゴンの輸送船、麗しのヴィクトリア号だ。異彩を放つ彼女からは荘厳なオーラが……

「(むにゃ…… もう食べられないわよ…… ブフー!!!)」

 にやけながら舌をだすヴィクトリア。おそらくは何か美味しいものでも食べてる夢を見ているのだろう。
 リオポリスの飛空艇発着場に、ヴィクトリアの鼻息が吹き抜けていく。鼻息に逆らうように慌てた様子のアイリスが駆けてきた。

「お姉ちゃん! 起きて! 早く中に入れて」
「はっ!? はーい。どうぞ…… えっ!?」

 目を開けたヴィクトリア、鼻先に立つアイリスに目を向ける。彼女の後ろにはベリーチェ、コロン、クローネ、そしてポロンに担がれた、肩に当てられたハンカチが真っ赤にそまったロックの姿が見える。

「(どっどうしたの? ロック怪我してるじゃない?)」
「うん。だから早く中へいれて治療するの」
「(わかったわ。はい)」

 口をあけ舌を伸ばすヴィクトリア、アイリス達は舌にのって船内へと入っていた。アイリスはロックを、自分の部屋へと運びベッドに座らせる。座って肩を押さえ苦しそうに、顔を歪ませるロックに、アイリスは心配そうに声をかける。

「大丈夫?」
「はあはあ…… 傷は大したことねえが。毒が問題だな。傷薬と解毒剤をだしてくれ」
「わかった」
 
 鞄に手を入れるアイリス、彼女は鞄から緑色の液体が入った小瓶と、水色の小瓶を取り出した。緑が傷薬で水色が解毒剤だ。両方ともロックが調合したものだ。
 ロックは装備を外し、上着を外し肩をだした。アイリスが傷薬を渡そうとする。ロックは彼女から傷薬を受け取るために手を伸ばした。

「あっ!?」
「……」

 ロックの伸ばした手が震え傷薬をベッドの上に落としてしまった。呆然とする彼の様子を見た、アイリスは黙って傷薬の瓶を拾った。
 膝立ちでアイリスはベッドに、腰掛けているロックの後ろに後ろに周る。

「動かないで」
「おい!? 自分で出来る!」
「無茶言わないの。塗ってあげるから。その後に解毒剤を飲めばいいんでしょ?」

 振り向いたロックにアイリスは、右手に持った傷薬の瓶と解毒剤の瓶を見せる。ロックは不満げだったが素直にうなずいた。
 アイリスは解毒剤の瓶を、ベッドの上に置き傷薬の瓶を開けた。
 傷薬を左手に出してロックの肩に塗る。しみるのかロックは眉間にシワよせている。ロックの肩から手をはなし、アイリスは軽く彼の背中を叩く。

「終わったわ。はい。解毒剤」

 アイリスは置いた解毒剤を拾い、ロックの右肩の上から解毒剤を渡す。受け取った解毒剤の瓶を開けようとするロックだった。

「一人で飲める?」
「だっ大丈夫だ」

 振り向いて不満そうに大丈夫と返事するロック。
 だが、ロックは手が震えてうまく瓶を開けられない。見かねたアイリスはロックの手にある解毒剤の瓶に手をのばす。

「ちょっと貸して」
「おい!?」

 背後から手を伸ばし、解毒剤をロックのて手から奪い取ったアイリスだった。彼女はロックの横に移動すると、解毒剤の蓋を開け瓶に自分の口を近づける。
 解毒剤を口に含んだ彼女は、瓶を置きロックの頬に両手をあてた。

「えっ!? アイリス……」

 アイリスはロックと唇を重ね口移しで彼に解毒剤を飲ませた。アイリスの口から流れこむ少し暖かい薬は本来は苦いはずなのにどこか甘かった。
 ロックの喉が動くのを見たアイリスは静かに口をはなす。彼女の目は寂しくどこか名残惜しそうな顔をしている。

「ちゃんと飲めた?」

 ニッコリと微笑むアイリスに、ロックは少し恥ずかしそうに頬を赤くする。

「あっあぁ……」

 適当に返事をしてロックはアイリスから顔をそむけた。口を尖らせアイリスは少し不満そうにする。ロックはベッドに横になり、アイリスに背を向け、右手を軽くあげる。

「悪いな。ちょっと寝る…」
「うん。ゆっくり寝なさいね」

 返事をしたアイリスは立ち上がる。寝ているロックを見てからホッとした様子で部屋から出ていく。
 部屋の前にポロンとクローネが心配そうに待っていた。クローネは心配そうにアイリスにたずねる。

「ロックさんの容態は?」
「大丈夫よ。ロックの治療は終わって寝てるわ。少ししたら元気になるはずよ」
「よかった」

 安堵の表情を浮かべるクローネだった。

「ベリーチェの方は?」
「なんかショックを受けてるみたいで…… 部屋でコロンさんが見てます」
「そう…… あの魔物を見てからよね……」

 少し考え込んだアイリスだった。ベリーチェはエントランスで魔物を見てから混乱していた。

「まぁいいわ。落ち着いたら話しを聞いて見ましょう…… 今はそれどころじゃないしね」

 アイリスはつぶやくと、ポロンに顔を向け口を開く

「ポロン、悪いけど起きるまでロックの様子を見てくれる?」
「わかったのだ」
「他の人はもう休んでください」

 アイリスの言葉にクローネが口を開く。

「あっあの! ポロンちゃんと一緒にロックさんの様子を見てていいですか?」
「かまわないわ。薬を飲んで寝るからそっとしておいてね」

 クローネは嬉しそうにうなずいた。アイリスは自分の部屋に戻ろうした。そこへ……

「(ねえ。アイリス。あんた達なにに追われてるのよ。人間でも魔物でもないようなのが近づいて来てるわよ)」
「えっ!? わかった。ブリッジに行くから少し待ってて」

 アイリスは急いでブリッジへと向かう。扉を開けてブリッジに入ったアイリスは自分の椅子に座る。

「魔物はもう近くに居るの?」
「(ううん。城壁に乗って動いてるわ。あなた達を探してるみたいね)」

 外の様子が見える壁に城壁が上部が映った。
 遠くて姿が見えないがホテルで見た魔物の影がわずかに見える。

「(あいつは何者なの?)」
「ホテルに止まってた時に足や腕がたくさんある」
「(ふーん。でも、不思議なやつねぇ。魔物っていうより血に染まった人間の臭いと魔導飛空船の臭いが混ざったような臭いがするのよ)」
「はっ!? なによそれ……」

 ヴィクトリアの言葉に真剣な表情で考え込むアイリス。ロックが居ない状況で船にあの魔物が来たら防ぐことは難しい。
 アイリスは天井に視線を向けヴィクトリアに声をかける。

「お姉ちゃん。今すぐに飛べる?」
「(もちろんよ。でも、いいの。ここって無断で飛ぶと罰金じゃなかったかしら?)」
「いいわよ。大丈夫。なんとでもなるわ。こっちには姫が乗ってるのよ」

 ニッコリと笑ったアイリス、彼女はヴィクトリアを飛ばして魔物から逃げるつもりだ。

「みんなに飛ぶから。何かに捕まるように言って!」
「(はーい! 当船が飛行します。注意してねぇ!)」

 ブリッジが揺れる、アイリスは椅子の肘掛けを強くつかみ体を支える。ヴィクトリアが立ち上がったのだ。
 立ち上がったヴィクトリアは、翼を広げると大きな足で地面を蹴り翼を羽ばたかせ、巨体を空へと浮かび上がらせた。
 アイリスが見ていた壁の景色が城壁から夜空に変わる。

「ふぅ…… さすがに空までは追って来れないわよね。お姉ちゃん。悪いけどしばらく町の上を旋回してちょうだい」
「(はーい)」
 
 返事をしたヴィクトリアはリオポリスの上空を旋回し始めるのだった。
 数分後…… ブリッジの扉が開いてクローネがアイリスの元へとやってくる。椅子に座るアイリスの後ろからクローネが声をかける。

「アイリスさん」
「クローネさん…… どうしたんですか?」

 少し驚いた様子で振り返るアイリス、クローネはどこか悲痛な様子で口を開く。

「このままゲラパルト二世のところへ向かってください。もう近くまで来てるはずですから……」
「えっ!? でも……」
「あの魔物は私を狙っているのでしょう。地上に戻っても狙われます。だったらもうゲラパルト二世と合流し私を彼らに引き渡してください。それでこの仕事は……」

 クローネは言葉につまりながら話しをする。彼女をゲラパルト二世に引き渡せばアイリス達の仕事は終わりだ。

「いいの?」
「はい。これ以上皆さんを危険にさらすわけにはいきません」
「わかったわ。ありがとう」

 真剣な顔でうなずくクローネにアイリスは優しく微笑んだ。視線を上に向けたアイリスはヴィクトリアに指示をだす。

「お姉ちゃん。サリトールへの航路に向かってゲラパルト二世が近くに来てるはずだから」
「(わかったわ)」

 返事をしたヴィクトリアは翼を広げ旋回する、ブリッジがわずかに揺れる。揺れがおさまるとクローネは静かにアイリスに向かって頭を下げた。

「じゃあ私は戻ります」
「うん。ゲラパルト二世を見つけたら連絡するわ」
「よろしくお願いします」

 頭を上げたクローネは、アイリスに背を向けブリッジから出ていく。さみしげなその背中をアイリスはジッと見つめていた。
 しばらくして…… ヴィクトリアの前に紫海が見えて来た。天まで届く紫の霧の壁。その手前に……

「あれは!? よかった!」

 紫海の前に銀色の流線型のゲラパルト二世が浮かんでいた。アイリスは壁に映るゲラパルト二世を見て安堵の表情を浮かべた。

「お姉ちゃんゲラパルト二世に連絡を…… ってあれ!?」

 目を大きく開いて驚いた表情になるアイリス。ゲラパルト二世の背後から、もう一隻の魔導飛空船が現れ、ゲラパルト二世の横に並ぶ……

「ゲラパルト二世と一緒に居るのって……」
「(グレートアリア号よ! 甲板にはドラゴンアンカーもあるわ! まずいわ…… アイリス! 逃げるわよ)」
「えっ!?」

 ヴィクトリアが旋回を始めようする。同時にゲラパルト二世とグレートアリア号の甲板から、轟音とともにドラゴンアンカーが発射されるのだった。

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