ドラゴンシップ麗しのヴィクトリア号の記録 ~美少女船長はギャンブル狂の最強魔法剣士を使役する~
第34話 儀式の途中で
アイリス、ポロン、コロン、ベリーチェの四人は茶を飲みながらおしゃべりに花を咲かしていた。ふとベリーチェが食堂の椅子を見てからアイリスの方に視線を向け口を開く。
「この船って三人だけしか居ないの?」
首を横に振ってアイリスは、肘をテーブルに置いて頬杖をつく
「ううん…… もう一人居るわ。バカだけどね。あいつめ…… 本当に…… なんなのよ……」
不機嫌そうにフォークを口にくわえたままぶつくさいうアイリスだった。自分の質問が彼女を不機嫌にしたと思い、ベリーチェは斜め向かいに座るコロンに尋ねる。
「どうしたの? なんか悪いこと聞いちゃった?」
「実は…… もう一人はアイリスの幼なじみの男の人で別の仕事に女性と行ってて…… それでアイリスは機嫌が悪いんです」
苦笑いしつつコロンはベリーチェの質問に答える。
「コロン! 余計なこと言わないで!」
ムッとした顔でコロンを止めるアイリス、彼女の反応を見てベリーチェは笑った。
「ふふーん。そういうわけ…… まぁアイリスって奥手そうだもん」
「なっなによ! 別に…… 私はあいつのことなんか…… どうも思ってないっての」
口を尖らせて不満そうにするアイリス、ニヤニヤと笑うベリーチェに彼女の肩に手を置いた。アイリスが手を置かれた肩の方に、目を向けるとベリーチェはは得意げに話しを始める。
「いい? 男なんてね」
「なによ。ベリーチェ…… 子供にそんなこと……」
「何よ! 子供って! 私はこう見えても二十三歳だけど?」
「えっ!? うそ…… 年上?」
驚くアイリスとコロンとポロンだった。ベリーチェの容姿はどう見ても十歳前半にしか見えないからだ。三人の表情からベリーチェは、自分がどう思われていたか察する。
「もう失礼しちゃうわ。いい? あんたみたいな子が積極的にいけのに男は弱いの。目をつむってちょっと上目遣いなんかすればあんたの好きな男なんてイチコロよ」
「積極的って…… 私なんか……」
うつむいて声が小さくなるアイリスだった。ベリーチェは肩に伸ばした手を、背中から反対側まで伸ばす。
「大丈夫よ。自身持ちなよ。アイリスは可愛いんだから」
「かっ可愛い!? 私がそんな…… そんな……」
アイリスは恥ずかしそうにうつむき、両手を開き眼鏡の縁を左右の手で支えるようにした。
「私の次にだけどね」
舌を出していたずらに笑うベリーチェ、唖然とした表情で彼女を見つめるアイリス。直後に二人は吹き出して笑い合うのだった。
話は尽きず賑やかに過ごす四人だった。だが、楽しい時はすぐに終わりを迎えてしまうものだ。
ベリーチェが目の前に置かれた皿をジッと見つめている。皿にはフォークと一緒に、コロンが作った、フルーツタルトが一口だけ残っている。アイリス達の皿はとっくに空になっている。コロンがベリーチェの様子に気づき声をかける。
「あれ!? ベリーチェさん。どうしたんですか? もしかしてお口にあいませんでしたか?」
「ううん…… 違うわ。ごめんなさい。ただ…… これを食べたら終わりだと思うと少し寂しくて……」
ベリーチェが名残惜しそうに、フルーツタルトの最後に残った一口を見つめている
傭兵団にいた彼女には、近い年頃の女の子たちと、楽しく喋りながらのお茶会など初めての体験だった。この楽しい一時がいつまでも、続いてほしいと気持ちが彼女の手を止めていた。
アイリスはベリーチェの背中を軽く手を置いた。
「大丈夫よ。また一緒に食べればいいのよ。いつだって歓迎よ」
「そうなのだ」
「はい。また一緒にお茶会をしましょう」
「うっうん。ありがとう」
ベリーチェは涙を拭い、フルータルトの最後のひとくちを口へ運ぶのだった。ゆっくりと口の中で味わいながら、ベリーチェはフルータルトを飲み込んだ。
「ごちそうさま…… 美味しかった」
少し寂しそうにコロンに、挨拶するベリーチェだった。
「ふふ。お粗末さまでした」
コロンは優しい笑顔でベリーチェに返事をした。茶をすすりってテーブルにカップを置いたアイリスは。一呼吸おいてから静かにベリーチェに向かって口を開く。
「それでベリーチェ。あなたこれからどうするの? どこか帰れるとこはあるの?」
「えっ!? ……」
うつむいたままベリーチェは黙ってしまった。ベリーチェの脳裏にクロウから受けた、虐待の黒い記憶が蘇り彼女は小刻みに震えだす。任務に失敗した彼女は、砂蛇に戻れない。戻れば待ってるのは、クロウからの虐待で、命の保証もないだろう。
「そう……」
ベリーチェの様子に困った顔で肘をついて顎を手に乗せるアイリス。
「フローラ様のとこに連れて行くのだ!」
「そうですね。教会で保護してもらうのが一番だと思いますよ」
「うーん。そうねぇ……」
ポロンとコロンの二人がベリーチェのために提案する。二人の意見を聞いたアイリスはうなずいてから、少し考えてベリーチェへ視線を向けた。
「ベリーチェあなたを教会に保護してもらうけど大丈夫?」
「…… コク」
黙ったままベリーチェは小さくうなずいた。コロンはすぐに反応する。
「じゃあ早速この町の教会に連絡を……」
「待って!」
アイリスが立ち上がりコロンを止めた。止められたコロンはなぜ止められたのかわからない様子だった。
「この町じゃ嫌でしょう。エッラ・アーツィアに連れ行って私がフローラ様に直接頼むわ」
「あぁ…… これは気が付きませんでした。わかりました。じゃあ彼女の部屋を用意しないとですね」
「お願いね」
男に襲われた町の教会ではベリーチェが、不安になると思ったアイリスの気遣いだった。ポロンは嬉しそうに笑った。
「だったら私の部屋で一緒に寝るのだ!」
「ダメです! ポロンは寝相が悪いんですからベリーチェさんに迷惑ですよ」
「ぶうなのだ! コロンだって変わらないのだ。よく足を投げ出して寝てるのだ」
「はっ!? わたくしはそんなこと……」
恥ずかしそうに頬を赤らめるコロン、どうやらポロンの指摘は図星のようだ。アイリスが二人のやり取りを見て笑う。ベリーチェもアイリスに釣られて自然と笑みがこぼれる。
「(そろそろ儀式が始まるんじゃない?)」
「えっ!? あぁ! そうだったわ。ありがとう。お姉ちゃん」
ヴィクトリアからの連絡にアイリスが答える。ヴィクトリア声は彼女にしか聞こえず突然しゃべりだすように見えた。
コロンとポロンは慣れているが、初めて見るベリーチェは驚いていた。
「ポロン、昼間に見た騎士と姫様の儀式がそろそろ始まるみたいよ。みたい?」
「おぉ! みたいのだ。行くのだ」
両手をあげて喜ぶポロンだった。ベリーチェの方を向きアイリスが声をかけようとしたが、先に彼女の方が口を開く。
「アイリス…… お姉ちゃんって? 誰と話していたの?」
「あぁ。驚くわよね。お姉ちゃーん。ベリーチェよ。挨拶してあげて」
申し訳無さそうにして天井に顔を向け、アイリスはヴィクトリアに声をかけた。
「(よろしくね。ベリーチェちゃん)」
「えっ!? 今のはなに? なんで声があたしの頭に……」
動揺して両耳をさわるベリーチェ、アイリスは彼女に笑顔を向けた。
「今のが私のお姉ちゃんのヴィクトリアよ。お姉ちゃんって言ってもドラゴンだけどね」
「そうなのだ。ヴィクトリアはドラゴンでお船なのだ」
ポロンが嬉しそうに笑っている。ベリーチェは驚いた顔をして下を向きつぶやく……
「ドラゴン…… 船…… それに……」
ベリーチェはつぶやきながら頭を整理していく。
彼女がこの船が、狙っていた獲物がいる場所だと、気づくには時間はかからない。顔を上げたベリーチェは、神妙な面持ちでアイリスに尋ねる。
「ねぇ…… ここって…… 麗しのヴィクトリア号なの?」
アイリスはベリーチェの言葉に驚きながらも、笑顔で彼女の問いかけに答える。
「あら!? よく知ってるわね。そうよ。この船は麗しのヴィクトリア号よ。私はここの船長なの。すごいでしょ」
「そっそんな……」
青あめた顔で後退りするベリーチェだった。彼女の困惑した様子にアイリスはすぐに声をかける。
「どうしたの?」
首をかしげて優しく微笑むアイリス、ベリーチェは小刻みに震えながら横に首を振る。
「なっなんでもない……」
「そう。変なの。少し部屋で休む?」
「大丈夫よ。それよりも私も儀式を見に行って良い?」
「えっ!? 構わないわよ。一緒に行きましょう」
嬉しそうにうなずくアイリス、ベリーチェはうつむいて気まずそうにする。コロンはベリーチェの顔をジッと見つめていた。
「ほら! 急ぐのだ」
「待ってよ。ほらベリーチェ! 行くわよ」
「うっうん……」
アイリス達はヴィクトリア号を出て町へ戻り、クローネの大橋駆けの儀式を見に行くのだった。
サリトール大橋へと来たアイリス達、すでに町の人達がクローネ達を見ようと大勢集まっていた。全長は二キロのサリトール大橋は、二十メートルほどの馬車道と、馬車道の脇に五メートル幅の歩道に分けられている。
儀式を見る見物客は、馬車道の端二メートルほどに集められ、歩道は通行のため空けられていた。アイリス達は橋のなかほどの位置でロック達を待っていた。見物客は多く周りは人だらけだった。
「ロック…… 大丈夫かしら……」
馬車道を見ながら、心配そうにつぶやくアイリスだった。馬に乗れないと必死に練習していた、ロックの事を心配しているようだ。彼女の横に居たポロンが首をかしげる。
「どうしたのだ?」
「なっなんでもないわよ。ほら来たわよ!」
石畳の橋を蹄鉄が叩く乾いた音が響く。クローネとロックを乗せた馬が目の前をかけて来る。
二人が乗ったう後に、ステッフェリア族の族長グレゴリウスが続く。彼の下半身は白だったが、儀式では肖像画に描かれた初代王にあやかり、下半身は黒く毛が染められ月明かりに黒く輝いている。
「素敵ー!」
「いけー! がんばれー!」
「族長ー!」
沿道から人々がロック達に声をかける。町の人々の歓声が受けながらアイリス達の目の前をロック達は駆け抜けていった。
「おぉ! かっこいいのだ」
ポロンが声をあげた。アイリスとコロンも凛々しいロック達の姿に目を奪われていた。
その様子を見ていたベリーチェは、静かに列から離れ、背後にある静かな歩道へと出ていた。
彼女の後ろではまだ興奮冷めない人々が話しをしていた。大橋駆けの儀式は西側に行ったロック達は戻ってきて沿道の声援に答える。そのため見物客は帰らずまだ同じ場所でロック達がもどってくるのを待っていた。
ベリーチェはわずか数メートルしか離れてないのに、賑わう沿道とは違い静かな歩道で、サリトール大橋の柵に手をかけ下の川を見つめていた。川は月明かりに照らされ橋の上からもわずかに流れが確認できる。
「アイリス…… ロック…… 私は…… どうしたら……」
つぶやいたベリーチェはポケットに右手を突っ込んだ。
ポケットのなからベリーチェは、クロウから渡されたパープライドを取り出し、手の上に置いて見つめる。
「もうこれは……」
ベリーチェは大きく目を見開いた。彼女の中でなにか覚悟を決めた様子だ。
「いらないわ! 私は砂蛇をやめて普通に生きていく!」
寂しそうでどこかスッキリとした表情で、パープライドを見つめたベリーチェははっきりと決意を口にした。
彼女は右手を大きく背後へと持っていく。
パープライドを川に、投げ捨てようしているようだ。投げるためにベリーチェは、前に右手を出そうとした瞬間……
「おっと! そいつは貴重なもんだぜ。捨てるんじゃねえよ。クソアマが!」
ベリーチェは急に手首を掴まれた。振り向いたベリーチェの顔が驚きで固まった。
「おっお義兄…… 頭領……」
背後にクロウが立っていてベリーチェを怖い顔で見つめている。しかし、クロウはすぐに優しくほほえみ、ベリーチェの手からパープライドを取った。ベリーチェはクロウの笑顔に少しだけ安堵の表情を浮かべた。だが……
「がはっ!!!」
クロウは笑ったまま彼女を引き寄せると、パープライドを握った左手で彼女の腹を殴りつけた。乱暴につかんで手をはなしたクロウ、ベリーチェは苦しそうに膝から崩れ、四つん這いになった。
四つん這いになったベリーチェの横にしゃがみクロウは、彼女の髪を乱暴につかんで強引に自分の方へ向ける。
「どうしてこれを使ってねえんだ? おめえは! これでやつを殺せって言ったよな?」
「ごっごめんなさい…… でも…… それを使ったら…… 私は……」
「おめえのことなんざ。どうでもいいんだよ」
クロウはベリーチェに、顔を近づけ眉間にシワを寄せるだった。
「ねえ。ベリーチェ? どうしたの? なにかあったの?」
ベリーチェが居なくなったことに気づいて、人混みから抜け出したアイリスが声をかけてきた。
クロウがアイリスを見て笑った。いやらしく笑るその顔はアイリスの全身を見つめている。ベリーチェはクロウの顔を見て青ざめる。クロウが見せた顔は、新しいおもちゃを見つけた時の顔だからだ。
「アイリス! 来ちゃダメ! 逃げて!」
「黙れ!」
クロウは持っていたまだらなパープライドをベリーチェの背中に押し当てた。
紫色の光ってベリーチェの背中にパープライドが吸い込まれていく。
「いやあああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ベリーチェの叫び声がサリトール大橋に響くのだった。
「この船って三人だけしか居ないの?」
首を横に振ってアイリスは、肘をテーブルに置いて頬杖をつく
「ううん…… もう一人居るわ。バカだけどね。あいつめ…… 本当に…… なんなのよ……」
不機嫌そうにフォークを口にくわえたままぶつくさいうアイリスだった。自分の質問が彼女を不機嫌にしたと思い、ベリーチェは斜め向かいに座るコロンに尋ねる。
「どうしたの? なんか悪いこと聞いちゃった?」
「実は…… もう一人はアイリスの幼なじみの男の人で別の仕事に女性と行ってて…… それでアイリスは機嫌が悪いんです」
苦笑いしつつコロンはベリーチェの質問に答える。
「コロン! 余計なこと言わないで!」
ムッとした顔でコロンを止めるアイリス、彼女の反応を見てベリーチェは笑った。
「ふふーん。そういうわけ…… まぁアイリスって奥手そうだもん」
「なっなによ! 別に…… 私はあいつのことなんか…… どうも思ってないっての」
口を尖らせて不満そうにするアイリス、ニヤニヤと笑うベリーチェに彼女の肩に手を置いた。アイリスが手を置かれた肩の方に、目を向けるとベリーチェはは得意げに話しを始める。
「いい? 男なんてね」
「なによ。ベリーチェ…… 子供にそんなこと……」
「何よ! 子供って! 私はこう見えても二十三歳だけど?」
「えっ!? うそ…… 年上?」
驚くアイリスとコロンとポロンだった。ベリーチェの容姿はどう見ても十歳前半にしか見えないからだ。三人の表情からベリーチェは、自分がどう思われていたか察する。
「もう失礼しちゃうわ。いい? あんたみたいな子が積極的にいけのに男は弱いの。目をつむってちょっと上目遣いなんかすればあんたの好きな男なんてイチコロよ」
「積極的って…… 私なんか……」
うつむいて声が小さくなるアイリスだった。ベリーチェは肩に伸ばした手を、背中から反対側まで伸ばす。
「大丈夫よ。自身持ちなよ。アイリスは可愛いんだから」
「かっ可愛い!? 私がそんな…… そんな……」
アイリスは恥ずかしそうにうつむき、両手を開き眼鏡の縁を左右の手で支えるようにした。
「私の次にだけどね」
舌を出していたずらに笑うベリーチェ、唖然とした表情で彼女を見つめるアイリス。直後に二人は吹き出して笑い合うのだった。
話は尽きず賑やかに過ごす四人だった。だが、楽しい時はすぐに終わりを迎えてしまうものだ。
ベリーチェが目の前に置かれた皿をジッと見つめている。皿にはフォークと一緒に、コロンが作った、フルーツタルトが一口だけ残っている。アイリス達の皿はとっくに空になっている。コロンがベリーチェの様子に気づき声をかける。
「あれ!? ベリーチェさん。どうしたんですか? もしかしてお口にあいませんでしたか?」
「ううん…… 違うわ。ごめんなさい。ただ…… これを食べたら終わりだと思うと少し寂しくて……」
ベリーチェが名残惜しそうに、フルーツタルトの最後に残った一口を見つめている
傭兵団にいた彼女には、近い年頃の女の子たちと、楽しく喋りながらのお茶会など初めての体験だった。この楽しい一時がいつまでも、続いてほしいと気持ちが彼女の手を止めていた。
アイリスはベリーチェの背中を軽く手を置いた。
「大丈夫よ。また一緒に食べればいいのよ。いつだって歓迎よ」
「そうなのだ」
「はい。また一緒にお茶会をしましょう」
「うっうん。ありがとう」
ベリーチェは涙を拭い、フルータルトの最後のひとくちを口へ運ぶのだった。ゆっくりと口の中で味わいながら、ベリーチェはフルータルトを飲み込んだ。
「ごちそうさま…… 美味しかった」
少し寂しそうにコロンに、挨拶するベリーチェだった。
「ふふ。お粗末さまでした」
コロンは優しい笑顔でベリーチェに返事をした。茶をすすりってテーブルにカップを置いたアイリスは。一呼吸おいてから静かにベリーチェに向かって口を開く。
「それでベリーチェ。あなたこれからどうするの? どこか帰れるとこはあるの?」
「えっ!? ……」
うつむいたままベリーチェは黙ってしまった。ベリーチェの脳裏にクロウから受けた、虐待の黒い記憶が蘇り彼女は小刻みに震えだす。任務に失敗した彼女は、砂蛇に戻れない。戻れば待ってるのは、クロウからの虐待で、命の保証もないだろう。
「そう……」
ベリーチェの様子に困った顔で肘をついて顎を手に乗せるアイリス。
「フローラ様のとこに連れて行くのだ!」
「そうですね。教会で保護してもらうのが一番だと思いますよ」
「うーん。そうねぇ……」
ポロンとコロンの二人がベリーチェのために提案する。二人の意見を聞いたアイリスはうなずいてから、少し考えてベリーチェへ視線を向けた。
「ベリーチェあなたを教会に保護してもらうけど大丈夫?」
「…… コク」
黙ったままベリーチェは小さくうなずいた。コロンはすぐに反応する。
「じゃあ早速この町の教会に連絡を……」
「待って!」
アイリスが立ち上がりコロンを止めた。止められたコロンはなぜ止められたのかわからない様子だった。
「この町じゃ嫌でしょう。エッラ・アーツィアに連れ行って私がフローラ様に直接頼むわ」
「あぁ…… これは気が付きませんでした。わかりました。じゃあ彼女の部屋を用意しないとですね」
「お願いね」
男に襲われた町の教会ではベリーチェが、不安になると思ったアイリスの気遣いだった。ポロンは嬉しそうに笑った。
「だったら私の部屋で一緒に寝るのだ!」
「ダメです! ポロンは寝相が悪いんですからベリーチェさんに迷惑ですよ」
「ぶうなのだ! コロンだって変わらないのだ。よく足を投げ出して寝てるのだ」
「はっ!? わたくしはそんなこと……」
恥ずかしそうに頬を赤らめるコロン、どうやらポロンの指摘は図星のようだ。アイリスが二人のやり取りを見て笑う。ベリーチェもアイリスに釣られて自然と笑みがこぼれる。
「(そろそろ儀式が始まるんじゃない?)」
「えっ!? あぁ! そうだったわ。ありがとう。お姉ちゃん」
ヴィクトリアからの連絡にアイリスが答える。ヴィクトリア声は彼女にしか聞こえず突然しゃべりだすように見えた。
コロンとポロンは慣れているが、初めて見るベリーチェは驚いていた。
「ポロン、昼間に見た騎士と姫様の儀式がそろそろ始まるみたいよ。みたい?」
「おぉ! みたいのだ。行くのだ」
両手をあげて喜ぶポロンだった。ベリーチェの方を向きアイリスが声をかけようとしたが、先に彼女の方が口を開く。
「アイリス…… お姉ちゃんって? 誰と話していたの?」
「あぁ。驚くわよね。お姉ちゃーん。ベリーチェよ。挨拶してあげて」
申し訳無さそうにして天井に顔を向け、アイリスはヴィクトリアに声をかけた。
「(よろしくね。ベリーチェちゃん)」
「えっ!? 今のはなに? なんで声があたしの頭に……」
動揺して両耳をさわるベリーチェ、アイリスは彼女に笑顔を向けた。
「今のが私のお姉ちゃんのヴィクトリアよ。お姉ちゃんって言ってもドラゴンだけどね」
「そうなのだ。ヴィクトリアはドラゴンでお船なのだ」
ポロンが嬉しそうに笑っている。ベリーチェは驚いた顔をして下を向きつぶやく……
「ドラゴン…… 船…… それに……」
ベリーチェはつぶやきながら頭を整理していく。
彼女がこの船が、狙っていた獲物がいる場所だと、気づくには時間はかからない。顔を上げたベリーチェは、神妙な面持ちでアイリスに尋ねる。
「ねぇ…… ここって…… 麗しのヴィクトリア号なの?」
アイリスはベリーチェの言葉に驚きながらも、笑顔で彼女の問いかけに答える。
「あら!? よく知ってるわね。そうよ。この船は麗しのヴィクトリア号よ。私はここの船長なの。すごいでしょ」
「そっそんな……」
青あめた顔で後退りするベリーチェだった。彼女の困惑した様子にアイリスはすぐに声をかける。
「どうしたの?」
首をかしげて優しく微笑むアイリス、ベリーチェは小刻みに震えながら横に首を振る。
「なっなんでもない……」
「そう。変なの。少し部屋で休む?」
「大丈夫よ。それよりも私も儀式を見に行って良い?」
「えっ!? 構わないわよ。一緒に行きましょう」
嬉しそうにうなずくアイリス、ベリーチェはうつむいて気まずそうにする。コロンはベリーチェの顔をジッと見つめていた。
「ほら! 急ぐのだ」
「待ってよ。ほらベリーチェ! 行くわよ」
「うっうん……」
アイリス達はヴィクトリア号を出て町へ戻り、クローネの大橋駆けの儀式を見に行くのだった。
サリトール大橋へと来たアイリス達、すでに町の人達がクローネ達を見ようと大勢集まっていた。全長は二キロのサリトール大橋は、二十メートルほどの馬車道と、馬車道の脇に五メートル幅の歩道に分けられている。
儀式を見る見物客は、馬車道の端二メートルほどに集められ、歩道は通行のため空けられていた。アイリス達は橋のなかほどの位置でロック達を待っていた。見物客は多く周りは人だらけだった。
「ロック…… 大丈夫かしら……」
馬車道を見ながら、心配そうにつぶやくアイリスだった。馬に乗れないと必死に練習していた、ロックの事を心配しているようだ。彼女の横に居たポロンが首をかしげる。
「どうしたのだ?」
「なっなんでもないわよ。ほら来たわよ!」
石畳の橋を蹄鉄が叩く乾いた音が響く。クローネとロックを乗せた馬が目の前をかけて来る。
二人が乗ったう後に、ステッフェリア族の族長グレゴリウスが続く。彼の下半身は白だったが、儀式では肖像画に描かれた初代王にあやかり、下半身は黒く毛が染められ月明かりに黒く輝いている。
「素敵ー!」
「いけー! がんばれー!」
「族長ー!」
沿道から人々がロック達に声をかける。町の人々の歓声が受けながらアイリス達の目の前をロック達は駆け抜けていった。
「おぉ! かっこいいのだ」
ポロンが声をあげた。アイリスとコロンも凛々しいロック達の姿に目を奪われていた。
その様子を見ていたベリーチェは、静かに列から離れ、背後にある静かな歩道へと出ていた。
彼女の後ろではまだ興奮冷めない人々が話しをしていた。大橋駆けの儀式は西側に行ったロック達は戻ってきて沿道の声援に答える。そのため見物客は帰らずまだ同じ場所でロック達がもどってくるのを待っていた。
ベリーチェはわずか数メートルしか離れてないのに、賑わう沿道とは違い静かな歩道で、サリトール大橋の柵に手をかけ下の川を見つめていた。川は月明かりに照らされ橋の上からもわずかに流れが確認できる。
「アイリス…… ロック…… 私は…… どうしたら……」
つぶやいたベリーチェはポケットに右手を突っ込んだ。
ポケットのなからベリーチェは、クロウから渡されたパープライドを取り出し、手の上に置いて見つめる。
「もうこれは……」
ベリーチェは大きく目を見開いた。彼女の中でなにか覚悟を決めた様子だ。
「いらないわ! 私は砂蛇をやめて普通に生きていく!」
寂しそうでどこかスッキリとした表情で、パープライドを見つめたベリーチェははっきりと決意を口にした。
彼女は右手を大きく背後へと持っていく。
パープライドを川に、投げ捨てようしているようだ。投げるためにベリーチェは、前に右手を出そうとした瞬間……
「おっと! そいつは貴重なもんだぜ。捨てるんじゃねえよ。クソアマが!」
ベリーチェは急に手首を掴まれた。振り向いたベリーチェの顔が驚きで固まった。
「おっお義兄…… 頭領……」
背後にクロウが立っていてベリーチェを怖い顔で見つめている。しかし、クロウはすぐに優しくほほえみ、ベリーチェの手からパープライドを取った。ベリーチェはクロウの笑顔に少しだけ安堵の表情を浮かべた。だが……
「がはっ!!!」
クロウは笑ったまま彼女を引き寄せると、パープライドを握った左手で彼女の腹を殴りつけた。乱暴につかんで手をはなしたクロウ、ベリーチェは苦しそうに膝から崩れ、四つん這いになった。
四つん這いになったベリーチェの横にしゃがみクロウは、彼女の髪を乱暴につかんで強引に自分の方へ向ける。
「どうしてこれを使ってねえんだ? おめえは! これでやつを殺せって言ったよな?」
「ごっごめんなさい…… でも…… それを使ったら…… 私は……」
「おめえのことなんざ。どうでもいいんだよ」
クロウはベリーチェに、顔を近づけ眉間にシワを寄せるだった。
「ねえ。ベリーチェ? どうしたの? なにかあったの?」
ベリーチェが居なくなったことに気づいて、人混みから抜け出したアイリスが声をかけてきた。
クロウがアイリスを見て笑った。いやらしく笑るその顔はアイリスの全身を見つめている。ベリーチェはクロウの顔を見て青ざめる。クロウが見せた顔は、新しいおもちゃを見つけた時の顔だからだ。
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