ドラゴンシップ麗しのヴィクトリア号の記録 ~美少女船長はギャンブル狂の最強魔法剣士を使役する~
第32話 路地裏の攻防
「ありがとうございましたー!」
若い女性ウェイトレスの威勢の良い、挨拶が聞こえ、”風の草原亭”の扉が開く。扉の中から満足そうに笑いながら、アイリスが出てきて、コロンとポロンも彼女に続く。
数歩進んでアイリスは振り返った。彼女の視線の先には軒先にぶら下がり風に揺れる、羊の後ろでフォークとナイフが交差する形の看板が見える。
「ふぅ。美味しかったわ。ラムチョップ…… 香ばしくて…… 宿のシチューとはまた違った味わいよねぇ」
店の中で味わった料理を反芻しながら、アイリスはたれるよだれを拭っている。自分が紹介した店が褒められた、コロンは満足そうに笑っている。
「そうでしょう。特にソースの深い味わいとコクがたまらないですよねぇ」
「えぇ」
二人の会話にポロンは強引に割り込む。
「よくわからいけどうまかったのだ!」
両手をあげて笑うポロン、コロンとアイリスは、彼女の姿に微笑むのだった。三人は宿に戻る道すがら、料理の感想を口にしていた。
「あのソースを今度再現してみたいですねぇ。香辛料はペッパーやシナモン…… 味は唐辛子が……」
「良いわね。協力するわ! 味見を!」
「私も味見するのだ!」
料理の再現を望むコロンに、ポロンとアイリスが味見係に名乗りをあげる。コロンはポロンの頭を撫でて笑っている。
「ふふふ…… もうわかりましたよ。味見は二人にお願いしますね」
「あっ! でもロックはダメよ。ここに居ないんだから」
「それはちょっとかわいそうですよ」
困った顔をしたコロンだったが、その顔はどこか嬉しそうだった。
コロンはアイリスから、ロックの名前が出て少し安心したのだ。
「いいのよ。私達女子だけの秘密よ」
「秘密なのだ!」
「えっ!? わかりました。じゃあ秘密ですよ」
少し驚いて後に、右手の人差し指をあてて笑うコロン。アイリスとポロンもコロンの仕草を真似て三人で笑い合った。
三人は宿に向かって並んで歩く。食事中にロックとクローネは遠くに行ってしまったのだろう、路地裏に出来ていた人だかりは消え人通りが少なくなっていた。
ガラーンとした路地裏を宿に向かって歩く三人、路地裏からリオティネシア街道へ出ようと角を曲がろうと……
「こら! てめえ! 大人しくしろ!」
「いや! やめて!!!! 離して!!! やだ!!!」
「黙れ!」
リオティネシア街道とは反対側にある狭い路地から、男の大きな怒鳴り声と女の子の悲鳴が聞こえた。
同時に何かが叩かれる音がする。三人は顔を見わせると路地を入って奥へ走っていく。路地を抜けると小さな広場で、どこかの店の荷物置き場になっているか、木の箱が積まれていた。
広場の入口に来て奥を覗き込んだ三人に、体が大きくて腹の出て白いシャツにくすんだ青色のズボンを履いた、薄毛の中年男の姿が見える。
中年男は少女を木の箱の上に寝かした、少女の両手を上にして手首を、大きい彼の右手で鷲掴みにして覆いかぶさっている。
殴られたのか少女の頬は腫れ、気を失っているのかぐったりとし、上着の前は破かれ下着を足首までずりおろされていた。少女の姿から彼らが何を行おうとしていたか明白だった。
「何をしているのだ! やめるのだ!」
「そうよ。女の子をよってたかって乱暴するなんて恥を知りなさい!」
少女を見たアイリスとポロンは広場へと飛び出して男を怒鳴りつけた。コロンは慌てた様子で二人を追いかける。
「なんだぁ。お前ら…… こいつは盗人だぞ!」
中年の男が広場に入って来た、アイリス達を睨みつけ少女の手首から手を離し、静かに起き上がった。立ち上がった中年男の腰に柄が金色で、華美に装飾が施された護身用の短剣が見える。
「盗人だから好きにしていいわけないでしょ! 子供じゃない!」
「なんだとぉ!」
「まぁ待ってくださええ!」
彼の傍に立っていた弓を背負い腰に、ショートソードをさした皮の鎧を着た若いエルフの男が中年男を止めた。
二人仲間だろうか、少し離れたところにハルバードを背負い、鉄の鎧を着たステッフェリア族の男も居てこちらをジッと見つめている。エルフの男が、広場に入ってきた三人を見て、中年男に耳打ちする。
「兄貴こいつら…… 結構利用できそうですせ」
「なに……」
中年男の視線が三人向かう。品定めのように中年男は、アイリス、ポロン、コロンを一人ずつ見ていく。
三人を見た中年男はニヤリと笑いエルフの男につぶやく。
「そうだな。三人ともガキだが、リス耳の黒服のやつ…… あいつは高く売れるぞ」
特にコロンが気に入ったようでじっくりと、体を上から下まで見た中年男は舌なめずりをした。
薄ら禿げた小汚い中年男の行動に、コロンは顔を歪めるのだった。
「あいつは売る前に味見させくだせえよ」
「かまわんぞ。だがおらの後だがな!」
コロンに向かってあるき出した中年男、若いエルフの男がそれ続き、ステッフェリア族はハルバードに手をかけた。
中年男達が向かっ来る。アイリスはふと横を見るが、今日はいつもの護衛は居ない……
「ちょっと!? 誰か!! 助けて!」
アイリスは助けを求めて叫ぶ。中年男達はその様子を見て笑う。
「はははっ。衛兵は姫様を追いかけってからな。誰も来るわけないべ」
笑いながら中年男はコロンに向かってくる。ポロンは腕をまくると眉間にシワを寄せる。
「このー! やっつけてやるのだ!」
「あっ! ポロン! 待ちなさい!アイリスさん。ダガーを!」
「わかった」
走り出したポロンを追いかけながら、アイリスに向かってコロンが手を伸ばした。
アイリスはカバンから、刃渡り二十センチほどの黒い柄がついたダガーを出し、コロンに向かって投げた。
コロンは飛んでくるダガーをつかんでポロンを追いかける。
「ガキが!」
エルフの男が中年男を守るように、前に出てショートソードを抜いた。向かってくるポロンに彼は右手に持ったショートソードを振り下ろす。
硬い感触がエルフの男の右手に伝わる。確かな手応えにエルフの男の顔はニヤつく。
「いっ!?」
若いエルフの男が驚き固まった。彼の頬の横をすごい勢いでショートソードの刀身が駆け抜けていったのだ。
自分のショートソードを見ると真っ二つに剣が折られていた。
ポロンは拳を突き出した姿勢で固まっている。彼女の手には甲に青い宝石の手袋があり、その手袋は薄っすらと黄色い光を放っていた。
これは巨神の手袋、ロックがつくった魔法道具で、はめれば三倍の力を発揮できる。またタダの革製に見えるが、ビクトリアの古くなった鱗から出来た糸で作られており鋼鉄よりも硬い。
ポロンは右手をグルングルンと回しだした。にやりと笑うポロンにエルフの男は恐怖に顔をひきつらせる。
「ばっバケものめ」
「化け物じゃないのだ。ポロンなのだ!」
腰を落として拳を引いてコロンは勢いよく前に突き出した。
「どっかーんなのだ!」
叫ぶコロン、エルフの若い男の腹に彼女の右拳がめり込む。エルフの若い男の体はくの字に曲がり、口が開いて目が圧迫され飛び出しそうになった。口から血や液体やゲロを吐き出しながエルフの男は吹き飛び、近くにあった木箱を破壊しながら建物の壁にめり込んだ。
「わっわっなのだ」
ポロンはエルフの脇男が、吐き出したゲロで足を滑らした。
そのスキをついてステッフェリア族が距離をつめ、ハルバードをポロンに向かって真上から振り下ろした。
「クソ!」
だが…… ハルバードは空を切り地面を叩いた。茶色の砂埃が舞い上がる。
「ありがとうなのだ」
「ふふふ。後は任せてください」
コロンが素早く移動してポロンを、抱きかかえたハルバードをかわした。
ステッフェリア族と入れ違うように背後に駆け抜けたコロンは、ポロンを地面に下ろすと笑って彼女の頭を撫でる。
すぐに振り返ってステッフェリア族へと向かっていく。
「このやろう!」
叫びながらステッフェリア族は背後に体の向きをかえようとする。狭く木箱が積まれた木箱に彼の長い体がぶつかるのがコロンの目に見えた。
「クソが!」
なんとか体の向きを変えたステッフェリア族は、近づくコロンに向け横からハルバードで切りつけようとした。
「遅いですわね」
コロンはふと右に視線を動かし体もそちらに向かわせる。ステッフェリア族は、コロンの動きに合わせて、ハルバードの軌道を横に移動させた。
「はっ!?」
ガッという音がした。ステッフェリア族のハルバードが近くに積まれていた木箱に引っかかった。
コロンは口元を緩ませ前に出た。ステッフェリア族は必死に
「この狭い広場でそんな獲物を振り回すなんて…… 下品ですよ」
ステッフェリア族の懐に潜り込み、両腕をハルバードの間に立つ。ステッフェリア族の視線が下に向く。
コロンはステッフェリア族の前に立って、彼の腹にダガーを突きつけた。
「このまま武器を捨てて去ったら見逃してあげます」
ニッコリと優しく微笑むコロン。微笑みから普段の優しい雰囲気はなく、冷たく笑うコロンからは猛烈な殺意が漂っている。
殺意を感じ取り小さく何度もうなずいた、ステッフェリアはハルバードから手を離した。
コロンの背後でハルバードが落ちる音がする。そのままステッフェリア族は、ゆっくりと後退りをし、距離をとって振り向いて走って逃げていく。
「後はあなただけです」
振り向いて笑うコロン、中年男のコロンを見る顔は引きつっていた。コロンの背後にポロンが両手をグルングルンと回している。
中年男は顔を後ろに向けた。彼の数メートル後ろにはアイリスが一人で立っていた。それを見た彼は何かを思いついたのかニヤリと笑った。
「クソおお!!!」
中年男はアイリスは叫びながらアイリスの元へと向かっていく。ベルトにさしていた短剣をさやから抜いた。どうやら彼はアイリスを人質にとって逃げようと思ったようだ。
だが…… 途中で彼の手は止まった。
「ダメですよ。わたくしのボスに手をだすなんて」
「ヒッ!」
背後から距離を素早くつめたコロンは、左手で中年男の肩をつかんで動きをとめ、素早く右手を回り込ませ喉元にダガーを突きつけた。当然コロンからはアイリスの状況は見えており、中年男が考えそうなことは想定済みだった。
ひんやりとしたダガーの感触が中年男の喉元を冷やす。彼は涙目になり声を震わせコロンに口を開く。
「頼む…… おらは…… ただこいつをしつけようと…… そうだ! この短剣をやるこいつを売れば……」
「そうですか。しつけならしょうがないですね」
「ほっ」
コロンの言葉に安堵の声をあげる中年男、だが、すぐにコロンは笑ったまま目だけを鋭く細くする。
「あっ。そうでしたわ。わたくしあなたのような殿方は嫌いいでした!」
「がっは!?」
中年男の喉元に突きつけていたナイフをコロンは静かに引いた。喉を掻っ捌かれた男は声をあげることもなく、手で喉を押さえながら静かに膝をつきうつ伏せに倒れた。地面には彼が持っていた短剣が音を立てて転がった。
コロンは短剣を拾うと、アイリスに笑顔を向けた。アイリスは小さくうなずき少女の元へと駆けていく。コロンとポロンも続く。
木箱の上に寝かされた少女に声をかけるアイリス。
「大丈夫?」
「……」
アイリスの声に少女は反応しない。コロンが少女の首に手をあてた。
「殴られて気を失ってるだけみたいですね。手足も擦り傷が多いですしどこかで治療をしてあげましょう」
笑顔でそう言うとポロンは彼女の衣服を整える。
「そう。わかったわ。とりあえずお姉ちゃんに運びましょう。ポロン。お願いね」
「任せろなのだ!」
ポロンは腕まくる仕草をしてうなずく。アイリス達は助けて少女をヴィクトリアへ運ぶのだった。
若い女性ウェイトレスの威勢の良い、挨拶が聞こえ、”風の草原亭”の扉が開く。扉の中から満足そうに笑いながら、アイリスが出てきて、コロンとポロンも彼女に続く。
数歩進んでアイリスは振り返った。彼女の視線の先には軒先にぶら下がり風に揺れる、羊の後ろでフォークとナイフが交差する形の看板が見える。
「ふぅ。美味しかったわ。ラムチョップ…… 香ばしくて…… 宿のシチューとはまた違った味わいよねぇ」
店の中で味わった料理を反芻しながら、アイリスはたれるよだれを拭っている。自分が紹介した店が褒められた、コロンは満足そうに笑っている。
「そうでしょう。特にソースの深い味わいとコクがたまらないですよねぇ」
「えぇ」
二人の会話にポロンは強引に割り込む。
「よくわからいけどうまかったのだ!」
両手をあげて笑うポロン、コロンとアイリスは、彼女の姿に微笑むのだった。三人は宿に戻る道すがら、料理の感想を口にしていた。
「あのソースを今度再現してみたいですねぇ。香辛料はペッパーやシナモン…… 味は唐辛子が……」
「良いわね。協力するわ! 味見を!」
「私も味見するのだ!」
料理の再現を望むコロンに、ポロンとアイリスが味見係に名乗りをあげる。コロンはポロンの頭を撫でて笑っている。
「ふふふ…… もうわかりましたよ。味見は二人にお願いしますね」
「あっ! でもロックはダメよ。ここに居ないんだから」
「それはちょっとかわいそうですよ」
困った顔をしたコロンだったが、その顔はどこか嬉しそうだった。
コロンはアイリスから、ロックの名前が出て少し安心したのだ。
「いいのよ。私達女子だけの秘密よ」
「秘密なのだ!」
「えっ!? わかりました。じゃあ秘密ですよ」
少し驚いて後に、右手の人差し指をあてて笑うコロン。アイリスとポロンもコロンの仕草を真似て三人で笑い合った。
三人は宿に向かって並んで歩く。食事中にロックとクローネは遠くに行ってしまったのだろう、路地裏に出来ていた人だかりは消え人通りが少なくなっていた。
ガラーンとした路地裏を宿に向かって歩く三人、路地裏からリオティネシア街道へ出ようと角を曲がろうと……
「こら! てめえ! 大人しくしろ!」
「いや! やめて!!!! 離して!!! やだ!!!」
「黙れ!」
リオティネシア街道とは反対側にある狭い路地から、男の大きな怒鳴り声と女の子の悲鳴が聞こえた。
同時に何かが叩かれる音がする。三人は顔を見わせると路地を入って奥へ走っていく。路地を抜けると小さな広場で、どこかの店の荷物置き場になっているか、木の箱が積まれていた。
広場の入口に来て奥を覗き込んだ三人に、体が大きくて腹の出て白いシャツにくすんだ青色のズボンを履いた、薄毛の中年男の姿が見える。
中年男は少女を木の箱の上に寝かした、少女の両手を上にして手首を、大きい彼の右手で鷲掴みにして覆いかぶさっている。
殴られたのか少女の頬は腫れ、気を失っているのかぐったりとし、上着の前は破かれ下着を足首までずりおろされていた。少女の姿から彼らが何を行おうとしていたか明白だった。
「何をしているのだ! やめるのだ!」
「そうよ。女の子をよってたかって乱暴するなんて恥を知りなさい!」
少女を見たアイリスとポロンは広場へと飛び出して男を怒鳴りつけた。コロンは慌てた様子で二人を追いかける。
「なんだぁ。お前ら…… こいつは盗人だぞ!」
中年の男が広場に入って来た、アイリス達を睨みつけ少女の手首から手を離し、静かに起き上がった。立ち上がった中年男の腰に柄が金色で、華美に装飾が施された護身用の短剣が見える。
「盗人だから好きにしていいわけないでしょ! 子供じゃない!」
「なんだとぉ!」
「まぁ待ってくださええ!」
彼の傍に立っていた弓を背負い腰に、ショートソードをさした皮の鎧を着た若いエルフの男が中年男を止めた。
二人仲間だろうか、少し離れたところにハルバードを背負い、鉄の鎧を着たステッフェリア族の男も居てこちらをジッと見つめている。エルフの男が、広場に入ってきた三人を見て、中年男に耳打ちする。
「兄貴こいつら…… 結構利用できそうですせ」
「なに……」
中年男の視線が三人向かう。品定めのように中年男は、アイリス、ポロン、コロンを一人ずつ見ていく。
三人を見た中年男はニヤリと笑いエルフの男につぶやく。
「そうだな。三人ともガキだが、リス耳の黒服のやつ…… あいつは高く売れるぞ」
特にコロンが気に入ったようでじっくりと、体を上から下まで見た中年男は舌なめずりをした。
薄ら禿げた小汚い中年男の行動に、コロンは顔を歪めるのだった。
「あいつは売る前に味見させくだせえよ」
「かまわんぞ。だがおらの後だがな!」
コロンに向かってあるき出した中年男、若いエルフの男がそれ続き、ステッフェリア族はハルバードに手をかけた。
中年男達が向かっ来る。アイリスはふと横を見るが、今日はいつもの護衛は居ない……
「ちょっと!? 誰か!! 助けて!」
アイリスは助けを求めて叫ぶ。中年男達はその様子を見て笑う。
「はははっ。衛兵は姫様を追いかけってからな。誰も来るわけないべ」
笑いながら中年男はコロンに向かってくる。ポロンは腕をまくると眉間にシワを寄せる。
「このー! やっつけてやるのだ!」
「あっ! ポロン! 待ちなさい!アイリスさん。ダガーを!」
「わかった」
走り出したポロンを追いかけながら、アイリスに向かってコロンが手を伸ばした。
アイリスはカバンから、刃渡り二十センチほどの黒い柄がついたダガーを出し、コロンに向かって投げた。
コロンは飛んでくるダガーをつかんでポロンを追いかける。
「ガキが!」
エルフの男が中年男を守るように、前に出てショートソードを抜いた。向かってくるポロンに彼は右手に持ったショートソードを振り下ろす。
硬い感触がエルフの男の右手に伝わる。確かな手応えにエルフの男の顔はニヤつく。
「いっ!?」
若いエルフの男が驚き固まった。彼の頬の横をすごい勢いでショートソードの刀身が駆け抜けていったのだ。
自分のショートソードを見ると真っ二つに剣が折られていた。
ポロンは拳を突き出した姿勢で固まっている。彼女の手には甲に青い宝石の手袋があり、その手袋は薄っすらと黄色い光を放っていた。
これは巨神の手袋、ロックがつくった魔法道具で、はめれば三倍の力を発揮できる。またタダの革製に見えるが、ビクトリアの古くなった鱗から出来た糸で作られており鋼鉄よりも硬い。
ポロンは右手をグルングルンと回しだした。にやりと笑うポロンにエルフの男は恐怖に顔をひきつらせる。
「ばっバケものめ」
「化け物じゃないのだ。ポロンなのだ!」
腰を落として拳を引いてコロンは勢いよく前に突き出した。
「どっかーんなのだ!」
叫ぶコロン、エルフの若い男の腹に彼女の右拳がめり込む。エルフの若い男の体はくの字に曲がり、口が開いて目が圧迫され飛び出しそうになった。口から血や液体やゲロを吐き出しながエルフの男は吹き飛び、近くにあった木箱を破壊しながら建物の壁にめり込んだ。
「わっわっなのだ」
ポロンはエルフの脇男が、吐き出したゲロで足を滑らした。
そのスキをついてステッフェリア族が距離をつめ、ハルバードをポロンに向かって真上から振り下ろした。
「クソ!」
だが…… ハルバードは空を切り地面を叩いた。茶色の砂埃が舞い上がる。
「ありがとうなのだ」
「ふふふ。後は任せてください」
コロンが素早く移動してポロンを、抱きかかえたハルバードをかわした。
ステッフェリア族と入れ違うように背後に駆け抜けたコロンは、ポロンを地面に下ろすと笑って彼女の頭を撫でる。
すぐに振り返ってステッフェリア族へと向かっていく。
「このやろう!」
叫びながらステッフェリア族は背後に体の向きをかえようとする。狭く木箱が積まれた木箱に彼の長い体がぶつかるのがコロンの目に見えた。
「クソが!」
なんとか体の向きを変えたステッフェリア族は、近づくコロンに向け横からハルバードで切りつけようとした。
「遅いですわね」
コロンはふと右に視線を動かし体もそちらに向かわせる。ステッフェリア族は、コロンの動きに合わせて、ハルバードの軌道を横に移動させた。
「はっ!?」
ガッという音がした。ステッフェリア族のハルバードが近くに積まれていた木箱に引っかかった。
コロンは口元を緩ませ前に出た。ステッフェリア族は必死に
「この狭い広場でそんな獲物を振り回すなんて…… 下品ですよ」
ステッフェリア族の懐に潜り込み、両腕をハルバードの間に立つ。ステッフェリア族の視線が下に向く。
コロンはステッフェリア族の前に立って、彼の腹にダガーを突きつけた。
「このまま武器を捨てて去ったら見逃してあげます」
ニッコリと優しく微笑むコロン。微笑みから普段の優しい雰囲気はなく、冷たく笑うコロンからは猛烈な殺意が漂っている。
殺意を感じ取り小さく何度もうなずいた、ステッフェリアはハルバードから手を離した。
コロンの背後でハルバードが落ちる音がする。そのままステッフェリア族は、ゆっくりと後退りをし、距離をとって振り向いて走って逃げていく。
「後はあなただけです」
振り向いて笑うコロン、中年男のコロンを見る顔は引きつっていた。コロンの背後にポロンが両手をグルングルンと回している。
中年男は顔を後ろに向けた。彼の数メートル後ろにはアイリスが一人で立っていた。それを見た彼は何かを思いついたのかニヤリと笑った。
「クソおお!!!」
中年男はアイリスは叫びながらアイリスの元へと向かっていく。ベルトにさしていた短剣をさやから抜いた。どうやら彼はアイリスを人質にとって逃げようと思ったようだ。
だが…… 途中で彼の手は止まった。
「ダメですよ。わたくしのボスに手をだすなんて」
「ヒッ!」
背後から距離を素早くつめたコロンは、左手で中年男の肩をつかんで動きをとめ、素早く右手を回り込ませ喉元にダガーを突きつけた。当然コロンからはアイリスの状況は見えており、中年男が考えそうなことは想定済みだった。
ひんやりとしたダガーの感触が中年男の喉元を冷やす。彼は涙目になり声を震わせコロンに口を開く。
「頼む…… おらは…… ただこいつをしつけようと…… そうだ! この短剣をやるこいつを売れば……」
「そうですか。しつけならしょうがないですね」
「ほっ」
コロンの言葉に安堵の声をあげる中年男、だが、すぐにコロンは笑ったまま目だけを鋭く細くする。
「あっ。そうでしたわ。わたくしあなたのような殿方は嫌いいでした!」
「がっは!?」
中年男の喉元に突きつけていたナイフをコロンは静かに引いた。喉を掻っ捌かれた男は声をあげることもなく、手で喉を押さえながら静かに膝をつきうつ伏せに倒れた。地面には彼が持っていた短剣が音を立てて転がった。
コロンは短剣を拾うと、アイリスに笑顔を向けた。アイリスは小さくうなずき少女の元へと駆けていく。コロンとポロンも続く。
木箱の上に寝かされた少女に声をかけるアイリス。
「大丈夫?」
「……」
アイリスの声に少女は反応しない。コロンが少女の首に手をあてた。
「殴られて気を失ってるだけみたいですね。手足も擦り傷が多いですしどこかで治療をしてあげましょう」
笑顔でそう言うとポロンは彼女の衣服を整える。
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