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ドラゴンシップ麗しのヴィクトリア号の記録 ~美少女船長はギャンブル狂の最強魔法剣士を使役する~

ノベルバユーザー602564

第26話 答えはない

 紫色の不気味な霧を切り裂きながら、ベリーチェは自分が乗っていた、小型魔導飛空船へと戻されていく。顔をあげた彼女の目に、遠くなり霧に覆われていく、ヴィクトリアの大きな口が映っている。目をうるませて悔しそうにするベリーチェに、ロックの黒い影が自分を追って来るのが見えた。彼女は厳しい表情をして右手に持った槍に力を込める。
 直後に小型魔導飛空船の五メートルほどの長さのマストに、彼女の小さな背中が叩きつけられた。

「くぅ」

 ぶつかった衝撃と痛みと声をあげるベリーチェ、彼女は必死に手に力を込めて武器をはなすのを防いだ。目の前の霧が薄っすらと青い光が映り、左右に霧が裂けていく。中から剣を構えたロックが姿を現す。
 ロックはベリーチェに向けて剣を振り下ろした。即座にベリーチェは反応し、槍を両手に持ち替え、ロックの剣を受け止める。
 大きな音がしてロックの剣が止まった。安心した表情をするベリーチェ、だが、ロックは右手で持っていた剣に左手を添えた。
 剣を両手に持ち替えたロックは、そのまま任せに強引に剣を下に押し込む。

「落ちろ!」
「!!」

 ベリーチェの背中が熱くなっていく。両手でロックに押されたようになった。ベリーチェはマストに背中をこすりながら甲板に向かって落ちていった。
 ロックがマストから数メートル離れた甲板に着地するのが見えた。なんとか槍を杖代わりにしてベリーチェは起き上がろうとする。右手にまった剣先を床に向けながら、ロックは静かにベリーチェへと近づいてきた。彼はベリーチェの一メートルほど前に止まる。
 足元をふらつかせながら、ヨロヨロと立ち上がるベリーチェ、よく見ると彼女の頬はこけ肌は青い。おそらくベリーチェは食事をとっていないのだろう。ロックはベリーチェを見ながら、右腕を伸ばし剣を彼女に向けて口を開く。

「このまま離れれば見逃してやる」

 ロックを睨みつけながら、ベリーチェは左腕を大きく横に振り、彼の提案を激しく拒絶する。

「どいて! あたしは姫…… クローネを殺さなきゃいけないの!」

 槍を構えるベリーチェ、手が震えてるのか、槍の穂先がわずかに揺れている。振り乱した髪に瞳はうるむんで厳しい表情のベリーチェ、その悲壮な様子にロックは彼女が追い詰められていることを感じた。ロックは静かにうなずいた。

「そうか…… でもな。輸送船の護衛が賊に襲われてはいそうですかと荷物を渡すわけねえだろがよ!? 少しは頭を使えよ……」

 腰を落として右腕を引いてロックが構えた。

「うるさい!!!! どけーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 叫びながらベチーチェはロックに向かって槍を突き出した。
 ロックは真顔で自分の体の前に剣を出した。大きな音がしてロックは簡単に槍を防いだ。

「おいおい。なめてるのか?」

 ベリーチェを挑発するロック、槍を引いて彼女はロックをにらみつける。

「黙りなさい。あんたにあんたなんかに…… 負けるわけ……」

 笑って左手を腰の後ろに回し、右手に持った剣を前に出して剣先をベリーチェに向け構える。

「来いよ!」
「負けるわけには行かないの!!! 死ねーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 叫びながらベリーチェが槍を突き出す、ロックは簡単にベリーチェの槍を払った。ベリーチェは何度もロックに向かって槍を突き出す。ロックは簡単にベリーチェの槍をはらい続けていた。

「死ね! しねえええ! 死んでよーーーーーー!!!」

 大きな声で叫び続けるベリーチェ、ロックのは槍を受け止めながら余裕な表情を浮かべている。
 以前、対峙した時よりもベリーチェの攻撃の速度は遅く鈍い。ロックは腰に回した左手の人差し指を伸ばし横に動かす。

「我が咲かすは冷たき白きバラ……」

 小声で魔法を詠唱するロック、ベリーチェは必死なようで彼の声は届かない。何度目かのベリーチェの槍をロックが弾く音が響く。
 その直後、少し体勢を崩し立て直そうする、ベリーチェの前にロックの杖が飛んできた。

「はっ!?」

 慌ててロック杖に向かって槍を出そうとするベリーチェ。彼女は握った槍で横からロックの杖を弾こうとした。

「アイスローズ!」

 槍がロックの杖に届く直前に、ベリーチェに目がけて、杖の先端から細長い氷の茎が伸びて頭に巻き付く。急に冷たい氷を浴びせられたベリーチェは、体がビクッと痙攣し動きがさらに鈍る。
 ベリーチェの頭に氷のバラが咲く。彼女は必死に左手で氷をつかんで外し甲板に投げ捨てる。氷の茎は目元を隠していた蝶の仮面にもついておりは一緒に外れていた。

「これで少し頭は冷やせるな! クソガキさん」

 ロックはベリーチェとの距離をつめる。剣を体の横に持っていき、彼女が右手に持った槍を狙って剣を振り上げた。
 甲高い音がしてロックの剣はベリーチェの槍の刃先から三十センチほどから切り裂いた。回転しながら切られた、ベリーチェの槍は飛び、ベリーチェから二メートルほど離れた甲板に突き刺さる。ベリーチェは衝撃で、槍から手を離し尻もちをついた。

「終わりだ」

 ロックは剣を返して体を起こし、ベリーチェの前へすすむ。
 尻もちをついたベリーチェは、体を起こそうとしたが、腰が抜け両手を甲板につき、四つん這いの姿勢になり顔を下に向けてる。

「なっ…… なんで…… なんでよ……」

 声を震わせベリーチェが顔をあげる。彼女の数メートル前で、ロックに砕かれた槍が甲板に突き刺さっている。
 敗北…… ベリーチェの頭にはこの二文字がべったりとこびりつく。ベリーチェの瞳からは自然と涙がこぼれ、これから訪れるであろう絶望が、彼女の頭をよぎり呼吸が早くなる。

「はぁはぁ…… いや…… いやあああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 泣きながら悲痛な叫び声をあげるベリーチェ、発狂したように頭を大きく横に振っていた。
 起き上がったベリーチェは、両手を交差させ体を激しくさする。

「いやだ…… 戻ったら…… 私…… また汚される…… 汚されちゃう…… もういや…… 嫌なの……」

 ロックは黙って剣を下ろし、彼女の前に立ったまま見下ろしている。ベリーチェはロックの顔を見た、仮面を外したベリーチェの顔は幼く十代の少女のようで、大きな青い瞳から涙がこぼれ顔色は悪く悲壮感が漂っていた。

「おい!?」

 ベリーチェがロックの足にしがみついた。突然の彼女の行動にロックは戸惑っていた。

「こっ…… ころ……」

 足にすがりつきロックの顔を見たベリーチェ、泣いていた彼女は顔クシャクシャにして目から涙を流している。

「殺してよ! すぐに私を殺して!!!」
「……」

 黙ったままロックは足を大きく動かしてけるようにして、すがりついていたベリーチェを振りほどく。ベリーチェを一瞥しすると黙って彼女に背中を向けた。

「なんで…… なんでよ!!!! 殺してよ!!!!!」

 去ろうとするロックに叫ぶベリーチェ、彼は歩いて前を向いたまま口を開く。

「俺達は頼み事する間柄じゃねえだろ。何度も言わすな。少しは頭を使えよ」
「待って! 殺して!!! 殺せーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 ベリーチェは泣き叫んで甲板を叩いている。ロックは彼女の言葉を無視し、杖と剣から手を離し背中へと戻す。
 チラッとロックはベリーチェを見て、腰のベルトに付けていたランタンを甲板に落とす。そのまま甲板を蹴って浮かび上がっていく。

「姐さん。終わった。帰る!」
「(はーい)」

 小型魔導飛空船が激しく揺れる。捕まえていたヴィクトリアが前足をはなしたのだ。
 紫海に沈んでいく小型魔導飛空船、ロックの背中にはいつまでもベリーチェの叫び声が届くのだった。ロックは食堂へと戻る。扉を開けた彼は中を見て驚いた顔をする。

「あれ…… ポロン達は?」

 食堂にはアイリスが一人で入り口近くの椅子に座っていた。彼女はロックが入ってくるを立ち上がって彼を迎える。

「おかえり。みんなは貨物室に確認いってもらったわ。船内も揺れたしダミーとはいえ大事な積荷だしね」

 そう言うと笑ってアイリスは、ロックの顔のジッと見た。彼女はすぐに黙って背中を向け、キッチンへ消えていった。
 アイリスの行動に首をかしげたロック、彼はアイリスが座っていた隣の壁際の椅子に、横に座って壁に背を持たれかけた。

「この匂いは……」

 ロックがキッチンへ目を向けた、アイリスがトレイにカップを二つ載せて戻ってきた。

「はい」

 カップをロックの前に置くアイリス、カップにはコーヒーが注がれている。ロックのためにアイリスがコーヒーを淹れてくれたようだ。黙ってロックはコーヒーを口へ運ぶ。満足そうにアイリスはもう一つのカップを隣の置いて座る。

「なんだよ……」

 隣に座ったアイリスが手を必死に伸ばしてロックの頭を撫でている。

「別にぃ。嫌なことがあったんでしょ。だから黙って撫でられなさい」

 ニコニコと笑うアイリス、ロックは不満そうに口を尖らせ舌打ちをする。ロックは落ち込んだ時やなにかに悩んだ時にコーヒーを飲む。アイリスは戻ってきたロックに、なにか嫌な思いをするようなことがあったと感じてコーヒーを淹れたのだ。

「チッ…… うぜえな」
「はいはい」

 黙って座ってニコニコと頭を撫でるアイリス、ロックは不満そうに舌打ちをしたが、特に抵抗することもなく黙って撫でられるのだった。
 二人の時間が流れる…… 彼らの背後にある、食堂の扉がわずかかに開いている。扉の外ではクローネが暗い表情で、中に居る二人を見つめているのだった。

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