ドラゴンシップ麗しのヴィクトリア号の記録 ~美少女船長はギャンブル狂の最強魔法剣士を使役する~
第23話 悲しき質問
ロックたちがミノタウロス討伐をして二日が過ぎていた。
石造りの壁に鉄の棒がはめられた、数センチだけ開いた僅かな窓から光がさす薄暗い部屋。部屋には粗末できしむベッドが置かれ、反対の隅にはトイレ代わりの壺、正面には鉄格子がはめられ、向かいや隣も同じような部屋が並んでいる。
ここは砦に併設されている山岳都市サウザの牢獄だ、捕らえられたシロップは牢屋に閉じ込められていた。
シロップはベッドの前に座って呆然と窓を見ていた。ふと正面の鉄格子に複数の気配を感じ、彼は視線をそちらへ向けた。
「今日も始めるよ」
鉄格子の前にモグリンが立ってシロップを見つめている。彼女はシロップが捕らえられて以降、彼の尋問を自ら担当していた。
尋問と神殿の片付けが終わるまでクローネの儀式は延期となっている。モグリンは一人で尋問することが多かったが、今日はミリンとクローネ、ロックとアイリスが居てモグリンの後ろには立っている。鉄格子越しにモグリンが尋問を始めた。
「あんたが使ったあの紫の石…… パープライドか。あれはなんだい? まさかあんたが作ったってわけじゃないだろ?」
ベッドの前にすわったまま、シロップは馬鹿にしたように鼻で笑う。
「はん! しつこいな。俺が素直に言うと思うってるのか?」
「そうかい」
首を横に振って振り返ったモグリン、彼女は後ろで見ていたロックの前へと向かう。
「反抗期の息子を持つ親は大変だな」
「うるさいよ」
軽口を叩くロックに不機嫌そうに答えるモグリン。彼女は深刻な口調で話しを始める。
「ロック…… あんたの魔法で無理やり口を割らせることはできるかい?」
「あぁ…… でもな……」
ロックはモグリンに顔を向け、少し間を置いてから言葉を続ける。
「もし口封じがされたらシロップは死ぬぞ」
「かまわない。やっておくれ」
息子が死ぬかもという事実を聞いても、モグリンは平然と平然と淡々と答える。すでにモグリンは、族長、そして母親として覚悟を決めており迷いはない。
彼女の決意を言葉から感じ取ったロックは黙ってうなずく。しかし、二人の会話にミリンが割り込んで来る。
「ママ! そんなシロップが……」
「あんたは黙ってな!!」
「うぅ……」
止めたミリンを一喝して止めるモグリン、ロックとの会話では落ち着いた彼女だったが、ミリンに対してはなった言葉は荒々しく感情的なものだった。
ミリンは顔をそむけてうつむく、クローネが彼女を支えていた。
ロックは鉄格子の前に向かいながら、真顔のまま左手を開いて自分の顔の前を横切らせた。静かにロックの目が赤く光る。
鉄格子の前に立ったロックが静かに口を開く。
「さぁ尋問を始めるぜ」
「……」
シロップはロックのことに見向きもしない。
「さぁ。パープライドを誰から受け取ったか答えよ!」
赤く目が光りロックの声が低く荒々しいものへと変わった。彼はイビルアイズの魔法をかけ強引にシロップの口をわろうとしているのだ。シロップはロックの声が変わったのに驚き彼の方を向いた。赤いロックの目を視界に入れた直後、シロップはロックから目を離せなくなった。
ロックの言葉を聞いたシロップはうつむき、小さく体を横に揺らしながら、ゆっくりと話しを始めた。
「砂蛇の頭領…… クロウからもらった…… これを持てば…… 紫海を支配者様が降臨される時に下僕として…… 迎え入れてもらえる」
淡々と抑揚なくシロップが答える。ロックは少し間を空けて、シロップを見て小さくうなずいた。そのまま前を向いた状態でモグリンに声をかける。
「大丈夫そうだ」
シロップに口封じの呪いはかかってないようだ。ロックの言葉にモグリンが横に来て肩に手を置いた。
「ありがとう。次はあたしが質問しても大丈夫かい?」
「かまわん」
小さくうなずいたロック、モグリンが口を開く。
「ミノタウロスはあんたが引き入れたのかい?」
「こいつの質問に答えろ! 下僕よ」
「そうだ…… クロウの依頼で僕が夜中に招きいれた」
シロップは少し得意げに、自分がミノタウロスを招きいれたことを認めた。
「クローネの儀式を妨害し…… 王の逝去を待つ…… その後はクロード様と協力し…… この町は僕の…… そして紫海を支配者様へ……」
モグリンは黙ってシロップの話しを聞いていた。最後まで話しを聞いた彼女は、吐き捨てるようにシロップに言葉をぶつける。
「っとにバカ息子…… 良いように利用されただけじゃないか…… あたしの質問は終わりだよ……」
振り向いてロックの肩に手をおくモグリン、グルドジア族の表情はわかりづらいが、声の様子と雰囲気が悲しさを物語っている。
「わかった。俺も聞きたいことがある」
ロックはそう言うとシロップへの尋問を続けるのだった。
「そのクロウってのは指揮権っていう旗を持っていなかったか?」
「指揮権…… それは知らない……」
「本当か? 嘘は許さんぞ」
「俺やクロウはただの使者だ…… 紫海の支配者様の言う通りにことを運ぶだけ……」
淡々と答えるシロップ。ロックはさらに質問続ける。
「紫海の支配者というのは誰だ?」
「これからの世界を束ねる存在…… 僕は族長となってあの御方の元へ…… はっ! お前のような人間が軽々しく名前を呼ぶな!」
声を荒げるシロップ、イビルアイズにかけた人間が自分に、逆らって来ることにロックは少し驚いていた。
「ロック、こいつは下っ端だよ。これ以上聞いても無駄だよ」
「そうみたいだな。ただの下っ端だ……」
モグリンがロックの肩にまた手を置いた。ロックはシロップを見て憐れむような表情をしてうなずく。
「他に聞きたいことは? あるか?」
前を向いたままロックがクローネ達に声をかける。クローネとアイリスは黙ってままだったが、ミリンが前に出て口を開く。
「シロップ! どうして? こんなことしたの?」
「お姉ちゃん…… 僕は超えたかった…… いつも子供扱いして…… 僕は出来るって…… 証明…… したかった」
ミリンの言葉を聞いたシロップは、さっきまで違い少し幼く甘えたような声で答える。シロップから顔をそむけミリンは拳を握って肩を震わせていた。
「もういいわ…… やめて」
ミリンは絞り出すようにロックに尋問を終わらせるように伝える。ロックは先ほどと同じように、左手を自分の顔の前で横切らせた。赤く光っていたロックの目が元に戻る。
「色々と教えてくれてありがとうな」
鉄格子から離れながら、ロックはシロップに挨拶するのだった。イビルアイズの魔法をかけられた者は薄っすらと記憶がある。
混乱しながらもシロップは、記憶をつなげ自分が何をしたのか思い出した。
「はっ!? おっ俺は…… なんてことを……」
「お前が知ってることは全部聞けたよ。おつかれさん」
「なっ!? 貴様!!!」
立ち上がって鉄格子の隙間からロックに手を伸ばす。ロックは届かない位置から煽るようににこやかに手をあげている。
「シロップ。あんたは…… 何が紫海の支配者様だよ…… そんなことであたし達を…… このバカ!!!」
「フン。馬鹿なのはお前らだよ。何も知らない…… これから世界に新しい秩序が生まれることをな!」
モグリンに向かって叫ぶシロップ、彼女は小さくそして冷たく彼を見た。
「そうかい…… グルドジア族の掟は知ってるね。神殿を汚した者は崖下りで町を追放だよ」
崖下りとはサウザー特有の刑罰で、囚人の手足を縛った状態で、崖から囚人を落とし町から追放する。落とされた囚人は岩にぶつかり、即死するか例え生きていたとしても、崖から落ちが怪我で衰弱死するか、動けずに魔物の餌になるかでほぼ死刑と同等である。
ミリンがモグリンに顔を向けた。モグリンは何も言わずにシロップに背中を向けた。
「行くよ…… みんな」
モグリンが歩き出す、クローネ達は彼女に続く。
「あんたって…… 本当にバカね……」
ミリンはシロップにつぶやくと、少し遅れてシロップの元を去っていく。
「ははははっ! 俺を殺しても無駄だ! 全ては紫海の支配者に捧げられるんだ!」
シロップは去っていくロック達の背中に向かって叫ぶのだった。
牢屋から出てすぐにミリンがモグリンに向かって叫んだ。
「ママ。本当に崖下りなの? シロップ…… きっと死んじゃうわよ。本当にいいの?」
振り返ったモグリンは黙ってミリンを抱きしめた。
「ミリン…… 族長ってのはね。家族よりも優先されることがあるんだよ。ごめん…… ごめんね……」
「マッママ……」
声を震わせて謝るモグリン、ミリンは彼女の背中に手を回し胸で静かに泣く。クローネは沈痛な面持ちで、二人を静かに見守っている。アイリスがクローネの横に来て耳元でささやく。
「私達はヴィクトリアで待機してます。終わったら連絡をください」
「はい…… ありがとうございました」
アイリスに向かってうなずくクローネ、ロックを連れてアイリスはその場を離れる。二人が去った後、クローネは抱き合って泣く、ミリンとモグリンに寄り添っていた。
また三日の時間が流れた。サウザーでの戴冠の儀式は無事に終わり、ヴィクトリアへクローネが戻って来た。クローネにはモグリンとミリンが付き添っていた。桟橋でロックとアイリスがクローネを出迎える。
「この町を代表して礼を言うよ。世話になったね……」
モグリンが二人に頭をさげた。
「町のことなんか知るかよ。俺達は報酬分働いただけだ」
「そうですよ。だから気にしないでください」
ロックとアイリスがモグリンに答える。三人のそばでクローネとミリンが別れの挨拶をしていた。
「ありがとう。クローネ…… 私…… シロップのためにも立派な族長になる」
「うん。私もあなたに負けないわ」
笑って握手する二人、次期族長と次期女王は意気投合したようだ。挨拶を終えたロックのアイリスの近くに、ヴィクトリアの舌が伸びて来て二人は乗った。
しかし、クローネとミリンはまだ話しをしている。舌の上でロックがクローネを呼ぶ。
「おーい。さっさと来い! 置いてくぞー」
「こら! あんたねぇ。クローネさんを置いていけるわけないでしょ」
叱りつけてくるアイリス、ロックは勝ち誇った顔で答える。
「残念だな。俺はもらった報酬を倍にした。だからこの仕事はもう下りていいんだよ」
「はぁ!? 何よそれ! あんたまたレースで…… 没収よ没収!」
手を伸ばしてロックの腰につけた、金貨袋を奪い取ろうするアイリス、ロックは彼女の額に手を置いて阻止する。
「やーだよーだ!」
「クッ! 手をどけなさい! どうせ次の町でなくなるんだから! 没収して美味しいもの食べるのよ!」
「うっうるせえな。なくならねえよ」
金貨袋をつかもうと必死に手を伸ばすアイリス、ロックも奪われないように彼女の額につけた腕を伸ばしていた。
二人の姿を見てモグリンは唖然として額に手を置いている。
もうこの様子にも慣れたのか、クローネは二人を見て微笑んでいる。だが、瞳はどこかさみしげで、どこか羨ましげに二人を見ていた。ミリンが急にクローネの前に顔をだした。そして呆れたように声をあげる。
「クローネぇ…… やめときなさい。あの間に入るのは無理よ」
「えっ!? えっ!? 違う…… あの…… それは……」
顔を真赤にしてうつむき否定するクローネ、ミリンは彼女の様子を見て微笑んでいた。ヴィクトリアは次の町サリトールへ向かうのだった。
石造りの壁に鉄の棒がはめられた、数センチだけ開いた僅かな窓から光がさす薄暗い部屋。部屋には粗末できしむベッドが置かれ、反対の隅にはトイレ代わりの壺、正面には鉄格子がはめられ、向かいや隣も同じような部屋が並んでいる。
ここは砦に併設されている山岳都市サウザの牢獄だ、捕らえられたシロップは牢屋に閉じ込められていた。
シロップはベッドの前に座って呆然と窓を見ていた。ふと正面の鉄格子に複数の気配を感じ、彼は視線をそちらへ向けた。
「今日も始めるよ」
鉄格子の前にモグリンが立ってシロップを見つめている。彼女はシロップが捕らえられて以降、彼の尋問を自ら担当していた。
尋問と神殿の片付けが終わるまでクローネの儀式は延期となっている。モグリンは一人で尋問することが多かったが、今日はミリンとクローネ、ロックとアイリスが居てモグリンの後ろには立っている。鉄格子越しにモグリンが尋問を始めた。
「あんたが使ったあの紫の石…… パープライドか。あれはなんだい? まさかあんたが作ったってわけじゃないだろ?」
ベッドの前にすわったまま、シロップは馬鹿にしたように鼻で笑う。
「はん! しつこいな。俺が素直に言うと思うってるのか?」
「そうかい」
首を横に振って振り返ったモグリン、彼女は後ろで見ていたロックの前へと向かう。
「反抗期の息子を持つ親は大変だな」
「うるさいよ」
軽口を叩くロックに不機嫌そうに答えるモグリン。彼女は深刻な口調で話しを始める。
「ロック…… あんたの魔法で無理やり口を割らせることはできるかい?」
「あぁ…… でもな……」
ロックはモグリンに顔を向け、少し間を置いてから言葉を続ける。
「もし口封じがされたらシロップは死ぬぞ」
「かまわない。やっておくれ」
息子が死ぬかもという事実を聞いても、モグリンは平然と平然と淡々と答える。すでにモグリンは、族長、そして母親として覚悟を決めており迷いはない。
彼女の決意を言葉から感じ取ったロックは黙ってうなずく。しかし、二人の会話にミリンが割り込んで来る。
「ママ! そんなシロップが……」
「あんたは黙ってな!!」
「うぅ……」
止めたミリンを一喝して止めるモグリン、ロックとの会話では落ち着いた彼女だったが、ミリンに対してはなった言葉は荒々しく感情的なものだった。
ミリンは顔をそむけてうつむく、クローネが彼女を支えていた。
ロックは鉄格子の前に向かいながら、真顔のまま左手を開いて自分の顔の前を横切らせた。静かにロックの目が赤く光る。
鉄格子の前に立ったロックが静かに口を開く。
「さぁ尋問を始めるぜ」
「……」
シロップはロックのことに見向きもしない。
「さぁ。パープライドを誰から受け取ったか答えよ!」
赤く目が光りロックの声が低く荒々しいものへと変わった。彼はイビルアイズの魔法をかけ強引にシロップの口をわろうとしているのだ。シロップはロックの声が変わったのに驚き彼の方を向いた。赤いロックの目を視界に入れた直後、シロップはロックから目を離せなくなった。
ロックの言葉を聞いたシロップはうつむき、小さく体を横に揺らしながら、ゆっくりと話しを始めた。
「砂蛇の頭領…… クロウからもらった…… これを持てば…… 紫海を支配者様が降臨される時に下僕として…… 迎え入れてもらえる」
淡々と抑揚なくシロップが答える。ロックは少し間を空けて、シロップを見て小さくうなずいた。そのまま前を向いた状態でモグリンに声をかける。
「大丈夫そうだ」
シロップに口封じの呪いはかかってないようだ。ロックの言葉にモグリンが横に来て肩に手を置いた。
「ありがとう。次はあたしが質問しても大丈夫かい?」
「かまわん」
小さくうなずいたロック、モグリンが口を開く。
「ミノタウロスはあんたが引き入れたのかい?」
「こいつの質問に答えろ! 下僕よ」
「そうだ…… クロウの依頼で僕が夜中に招きいれた」
シロップは少し得意げに、自分がミノタウロスを招きいれたことを認めた。
「クローネの儀式を妨害し…… 王の逝去を待つ…… その後はクロード様と協力し…… この町は僕の…… そして紫海を支配者様へ……」
モグリンは黙ってシロップの話しを聞いていた。最後まで話しを聞いた彼女は、吐き捨てるようにシロップに言葉をぶつける。
「っとにバカ息子…… 良いように利用されただけじゃないか…… あたしの質問は終わりだよ……」
振り向いてロックの肩に手をおくモグリン、グルドジア族の表情はわかりづらいが、声の様子と雰囲気が悲しさを物語っている。
「わかった。俺も聞きたいことがある」
ロックはそう言うとシロップへの尋問を続けるのだった。
「そのクロウってのは指揮権っていう旗を持っていなかったか?」
「指揮権…… それは知らない……」
「本当か? 嘘は許さんぞ」
「俺やクロウはただの使者だ…… 紫海の支配者様の言う通りにことを運ぶだけ……」
淡々と答えるシロップ。ロックはさらに質問続ける。
「紫海の支配者というのは誰だ?」
「これからの世界を束ねる存在…… 僕は族長となってあの御方の元へ…… はっ! お前のような人間が軽々しく名前を呼ぶな!」
声を荒げるシロップ、イビルアイズにかけた人間が自分に、逆らって来ることにロックは少し驚いていた。
「ロック、こいつは下っ端だよ。これ以上聞いても無駄だよ」
「そうみたいだな。ただの下っ端だ……」
モグリンがロックの肩にまた手を置いた。ロックはシロップを見て憐れむような表情をしてうなずく。
「他に聞きたいことは? あるか?」
前を向いたままロックがクローネ達に声をかける。クローネとアイリスは黙ってままだったが、ミリンが前に出て口を開く。
「シロップ! どうして? こんなことしたの?」
「お姉ちゃん…… 僕は超えたかった…… いつも子供扱いして…… 僕は出来るって…… 証明…… したかった」
ミリンの言葉を聞いたシロップは、さっきまで違い少し幼く甘えたような声で答える。シロップから顔をそむけミリンは拳を握って肩を震わせていた。
「もういいわ…… やめて」
ミリンは絞り出すようにロックに尋問を終わらせるように伝える。ロックは先ほどと同じように、左手を自分の顔の前で横切らせた。赤く光っていたロックの目が元に戻る。
「色々と教えてくれてありがとうな」
鉄格子から離れながら、ロックはシロップに挨拶するのだった。イビルアイズの魔法をかけられた者は薄っすらと記憶がある。
混乱しながらもシロップは、記憶をつなげ自分が何をしたのか思い出した。
「はっ!? おっ俺は…… なんてことを……」
「お前が知ってることは全部聞けたよ。おつかれさん」
「なっ!? 貴様!!!」
立ち上がって鉄格子の隙間からロックに手を伸ばす。ロックは届かない位置から煽るようににこやかに手をあげている。
「シロップ。あんたは…… 何が紫海の支配者様だよ…… そんなことであたし達を…… このバカ!!!」
「フン。馬鹿なのはお前らだよ。何も知らない…… これから世界に新しい秩序が生まれることをな!」
モグリンに向かって叫ぶシロップ、彼女は小さくそして冷たく彼を見た。
「そうかい…… グルドジア族の掟は知ってるね。神殿を汚した者は崖下りで町を追放だよ」
崖下りとはサウザー特有の刑罰で、囚人の手足を縛った状態で、崖から囚人を落とし町から追放する。落とされた囚人は岩にぶつかり、即死するか例え生きていたとしても、崖から落ちが怪我で衰弱死するか、動けずに魔物の餌になるかでほぼ死刑と同等である。
ミリンがモグリンに顔を向けた。モグリンは何も言わずにシロップに背中を向けた。
「行くよ…… みんな」
モグリンが歩き出す、クローネ達は彼女に続く。
「あんたって…… 本当にバカね……」
ミリンはシロップにつぶやくと、少し遅れてシロップの元を去っていく。
「ははははっ! 俺を殺しても無駄だ! 全ては紫海の支配者に捧げられるんだ!」
シロップは去っていくロック達の背中に向かって叫ぶのだった。
牢屋から出てすぐにミリンがモグリンに向かって叫んだ。
「ママ。本当に崖下りなの? シロップ…… きっと死んじゃうわよ。本当にいいの?」
振り返ったモグリンは黙ってミリンを抱きしめた。
「ミリン…… 族長ってのはね。家族よりも優先されることがあるんだよ。ごめん…… ごめんね……」
「マッママ……」
声を震わせて謝るモグリン、ミリンは彼女の背中に手を回し胸で静かに泣く。クローネは沈痛な面持ちで、二人を静かに見守っている。アイリスがクローネの横に来て耳元でささやく。
「私達はヴィクトリアで待機してます。終わったら連絡をください」
「はい…… ありがとうございました」
アイリスに向かってうなずくクローネ、ロックを連れてアイリスはその場を離れる。二人が去った後、クローネは抱き合って泣く、ミリンとモグリンに寄り添っていた。
また三日の時間が流れた。サウザーでの戴冠の儀式は無事に終わり、ヴィクトリアへクローネが戻って来た。クローネにはモグリンとミリンが付き添っていた。桟橋でロックとアイリスがクローネを出迎える。
「この町を代表して礼を言うよ。世話になったね……」
モグリンが二人に頭をさげた。
「町のことなんか知るかよ。俺達は報酬分働いただけだ」
「そうですよ。だから気にしないでください」
ロックとアイリスがモグリンに答える。三人のそばでクローネとミリンが別れの挨拶をしていた。
「ありがとう。クローネ…… 私…… シロップのためにも立派な族長になる」
「うん。私もあなたに負けないわ」
笑って握手する二人、次期族長と次期女王は意気投合したようだ。挨拶を終えたロックのアイリスの近くに、ヴィクトリアの舌が伸びて来て二人は乗った。
しかし、クローネとミリンはまだ話しをしている。舌の上でロックがクローネを呼ぶ。
「おーい。さっさと来い! 置いてくぞー」
「こら! あんたねぇ。クローネさんを置いていけるわけないでしょ」
叱りつけてくるアイリス、ロックは勝ち誇った顔で答える。
「残念だな。俺はもらった報酬を倍にした。だからこの仕事はもう下りていいんだよ」
「はぁ!? 何よそれ! あんたまたレースで…… 没収よ没収!」
手を伸ばしてロックの腰につけた、金貨袋を奪い取ろうするアイリス、ロックは彼女の額に手を置いて阻止する。
「やーだよーだ!」
「クッ! 手をどけなさい! どうせ次の町でなくなるんだから! 没収して美味しいもの食べるのよ!」
「うっうるせえな。なくならねえよ」
金貨袋をつかもうと必死に手を伸ばすアイリス、ロックも奪われないように彼女の額につけた腕を伸ばしていた。
二人の姿を見てモグリンは唖然として額に手を置いている。
もうこの様子にも慣れたのか、クローネは二人を見て微笑んでいる。だが、瞳はどこかさみしげで、どこか羨ましげに二人を見ていた。ミリンが急にクローネの前に顔をだした。そして呆れたように声をあげる。
「クローネぇ…… やめときなさい。あの間に入るのは無理よ」
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