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ドラゴンシップ麗しのヴィクトリア号の記録 ~美少女船長はギャンブル狂の最強魔法剣士を使役する~

ノベルバユーザー602564

第21話 真の標的

 カーンという音が響く。ロックが剣を垂直に下ろし、柄頭で床を軽く叩いのだ。音が響くと同時に凍りついた、ミノタウロスの体にヒビが入っていき、音を立てて細かく砕け散った。氷の粒が宙に舞い神殿の廊下を照らす松明の光に照らされ光かがやく。
 キラキラと輝く氷の星の海の中を、勝者であるロックが静かに歩き出す。
 ロックは持っていた氷の刃を天井に向かって投げた。氷の刃は回転し飛び、いつの間にか杖と剣に分離し元に戻っていた。
 落ちながら位置を移動して、ロックの背中に剣と杖が戻っていった。顔を上げ嬉しそうに笑うアイリス、クローネとミリンは唖然とした表情で、ミノタウロスが砕けて光る氷が舞う中を歩くロックを見つめていた。

「すごい…… あの剣は……」

 クローネがロックを見つめながらつぶやく。

「あれは禁断の超古代魔法、”神殺しのグレイトグレイシア”ですよ」
「かっ神殺しの…… グレイトグレイシア……」

 ロックが使ったのは禁断の古代魔法グレイトグレイシア召喚だ。
 はるか昔、地上には人間も魔物もおらず。穏やかな海に爽やかな風が吹き抜け、大地には豊かな森が広がり、そこにでは精霊達が穏やかに暮らしていた。
 しかし、そこに地下から永遠の闇の炎をまとった、邪神の軍団が攻めてきた。
 邪神達の圧倒的な力の前に精霊たちは為す術もなく破れ去っていた。だが、古代の水の精霊は自らの全ての魔力を使い、大地を凍りつかせ凍りつかせた大地を削って剣を作り出した。大剣の名はグレイトグレイシア。その威力は凄まじく邪神を、一振りで簡単に切り裂いたと言われる。
 だが…… 邪神達の攻撃により衰弱した精霊達は、グレイトグレイシアの力を制御できなかった。地上の惨状を見かねた神は天使の羽根をもぎ、人間を作りだし精霊に協力するように命じた。
 精霊は一人の勇者にグレイトグレイシアを託した。彼はグレイトグレイシアを使い邪神達を次々に葬り去っていく。勇者は邪神を滅ぼしたが、その力に酔いしれいつしか神と精霊に逆らうようになる。神と対峙した勇者が放ったグレイトグレイシアの一撃は、神の体を傷つけることが出来たと言われる。
 神と精霊達は美女を使い、勇者を油断させなんとか捕らえた。その後、勇者には天罰を与えグレイトグレイシアを封印し、その力を呼び出すことを禁止したのだった。
 邪神達を次々に斬り捨て、神に逆らえるほどの、いつしかこう呼ばれるようになった。神殺しのグレイトグレイシアと……

「軽く振り抜いてあの威力ですからね。ロックが全力で使ったら世界を氷漬けにできるかも知れません」
「世界を…… なっなんで…… あの人はそんな魔法が使える……」
「ふふふ。ロックは特別なんです」

 得意げな表情で微笑んだアイリスはロックを迎えに小走りでかけていく。小動物のように走って近づいて来たアイリスはロックの前へ。前に立ったアイリスにロックは、少しはにかんだような笑顔を向ける。

「やり過ぎちまったかな……」
「そうね。でもいいじゃない。みんな無事だったんだし!」

 体を横にしたアイリス、ロックの目の前が開け、彼女の後ろに居るミリンとクローネの姿が見える。二人はロックを黙って見つめている。二人の彼を見る目は恐怖で満ちている。
 視線をアイリスに戻した、二人と違い彼女はロックを見て嬉しそうに笑っている。ロックはアイリスの反応を見て静かに笑った。

「あぁ。そうだな。じゃあ後片付けと行きますか」
「うん」
「じゃあ、こっちから行こうぜ」
「そうね。扉を開けるの面倒だしね」

 ロックはミノタウロスが開けた壁の大きな穴を指さす。二人は並んで地下神殿へ続く穴に向かう。数歩先に進むとアイリスが振り返る。

「クローネさん! ミリンさん! 行きますよー」

 二人がついて来ている気配がなかったのでアイリスは手招きして呼ぶ。声をかけた彼女はまた前を向く。

「そうだ! シロップ!」
「あっ! 待って下さい」

 ミリンはアイリスに呼ばれた、弟のシロップが倒れていたことを思い出した。彼女は走り出した。クローネも慌ててロック達を追いかける。

「どいて!」
「うわ!?」
「おい! あぶねえだろ」
 
 ロックとアイリスの間に割って入ったミリンは、二人を突き飛ばすようにして神殿の中へと向かうのだった。

「クソが! 急ぐぞ! クローネ! 早く来い!」
「もっ申し訳ありません……」

 クローネを連れてロック達はミリンを追いかけて地下神殿の中へと向かうのだった。

「アイリス! クローネはクプを頼む」
「わかったわ」
「はい」

 クローネとアイリスはクプの元へ向かい、ロックはミリンの後を追いかけシロップの元へ向かう。
 先に中へ入っていたミリンが、シロップを助けようと手を伸ばす。

「ミリン! 待て! そいつに近づくな」
「なっなによ!? シロップは怪我してるのよ!」

 ロックがミリンを止めた。ミリンは不服そうに彼の言葉に反応する。ロックは真顔で静かに首を横に振った。

「いいや。そいつは怪我なんてしてない」

 右手を開くロック、彼の剣が背中から手へ移動する。ロックは歩きながらシロップに言葉をかける。

「おい。いい加減に目を覚ませ。じゃないと背中に剣をぶっ刺して殺すぞ」
「あんたなんてことを!」

 ミリンがロックに食ってかかるが一喝して黙らせる。

「うるせえ!!! 俺はこいつのおかげで死にかけたんだ!」

 ロックはミノタウロスと対峙する、際にシロップに足を掴まれたのだ。ミリンは信じられないという様子で、シロップに目を向けた。
 直後に…… 彼らの背後に転がっていたミリンの斧がかすかに動いた。クローネの手前に回転しながらミリンの斧が迫っていく。

「あぶねえ! クローネ!」

 叫びながらロックは振り返りながら、右手に持った剣を投げつけた。大きな音が響く。ロックの剣とミリンの斧がぶつかった。

「ヒッ!!!」

 クローネの手前でロックの剣がミリンの斧を弾いた。ミリンのは回転しながら近くの柱に刺さった。ロックの剣はクローネの前で止まっていおり、剣先をゆっくりと床に向け、彼女の前の床に落ちて突き刺さった。
 驚いたクローネは尻もちをついていた。自分の前に突き刺さった剣から離れるように、膝を上げすわったまま後退りする。彼女の黒い短いスカートの間から透けたレースがついた、ピンク色の下着のぞいていた。
 満足そうにうなずいたロックは寝ているシロップに声をかける。

「無駄だ。俺と魔法勝負でもする気か? さっさと起きねえと本当に殺すぞ?」

 静かに手をついて体を起こし、シロップが起き上がった。

「チッ! さすがにこんな子供だましの魔法じゃ勝てないな」

 舌打ちをしたシロップは体を左右に捻っている。ミリンはその姿をみて驚いて声をあげる。ミリンの斧をシロップが、魔法で飛ばしクローネを狙ったのだ。

「シロップ…… あんたいつの間に魔法なんて…… 私達に魔法の才能は……」

 グルドジア族に魔法使いはいない。なぜなら魔法の才能を捨て、地中での過酷な生活に耐えるように体を、進化させてきたからだ。

「僕はあんたと違って特別なグルドジア族なんだよ! 同じじゃない!!!」

 両腕を開きミリンを、見下したようにシロップが叫んだ。ミリンは肩を震わせて泣きそうな声で答える。

「違う…… シロップ、あんたと私は同じよ。私達は姉弟じゃない」
「うるせええんだよ! いつもいつも姉貴だからって何でも俺のやりたいことに口出して!」
「それは…… あんたがいつも無茶をして……」
「黙れ!!! 俺はもうガキじゃない。あんたを超えるんだ!!」

 言い争いしているミリンとシロップを、ロックは呆れた顔で見ていた。

「姉弟喧嘩は後にしろ。とにかく。シロップ! お前を拘束して連れて帰る」

 ロックは左手を開いて前にだした、浮かび上がった杖が彼の手に握られた。

「舐めるな!」

 シロップは叫びながら、ロックに向かって右手を突き出した。
 彼の腕の動きに反応して、シロップの一本の剣がロックに向かって飛んでくる。首を横に振ったロックは杖を上にかざした。近くに落ちてい手斧が浮かび上がってシロップが飛ばした剣を弾いた。

「フッ。舐めてるのはお前だよ」

 鼻で笑うロック、彼の周囲には十を超える、斧や剣などの武器が浮かんでいた。
 ロックとシロップでは魔法使いとして格が違う。シロップが必死に魔法使って一本の剣を飛ばしているのに関わらずロックは数十の武具を操れるのだ。

「いつまで笑っていられるかな魔法使いさんよぉ!!」

 悔しがる素振りもせずシロップが叫ぶ。同時に彼の体が消えた。

「空間転移も使えるのか……」

 ロックが視線を地下神殿の奥へ向けた。シロップは祭壇の前に移動していた。
 ミリンとクローネはシロップを探すが、ロックは気づいて彼に視線を向けていた。ちなみにアイリスはロックの視線を追っていたのでシロップが移動したのに気づいている。

「何あれ……」
「さぁな」

 シロップは右手に、拳ほどの大きさがある紫の石を、握りしめていた。彼はロックに見せつけるように石を上にかかげた。

「これはパープライド…… 世界を変える紫玉の宝石だよ」
「世界を変える宝石だと!?」
「そうだ!!! お前たちにも見せてやろう。グルドジア…… いやこの町の主の力を!!!」

 叫んだシロップが自分の胸に石をあてがった。紫の強烈な光が石から発せられる。

「クッ!」

 強烈な光にロック達が手で顔を覆う。シロップの体に石が吸い込まれると光がおさまっていく。手を下ろしたロック達は黙ってシロップの様子を伺う。ロック達を見たシロップの口元がわずかに緩んだ。

「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 拳を握って天井を向いて叫び声を上げるシロップ、彼の口から紫の煙が出ていき天井へと上っていくのだった。

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