ドラゴンシップ麗しのヴィクトリア号の記録 ~美少女船長はギャンブル狂の最強魔法剣士を使役する~
第17話 抜け駆けされる
ロックとアイリスは、グルドジア族の砦に泊まった。
翌日の早朝、二人の部屋の扉が激しく叩かれ外で誰かが騒いでる声がする。
「なんだ…… うるせえな」
「本当…… うるさいわね。ロック! 早く出て」
「はいはい」
隣のベッドで布団をかぶったまま、腕だけ出して扉を指すアイリス。ロックは面倒くさそうにベッドから出ると扉を開けた。
「急いで!」
扉を開けたロックに叫びながらミリンが手を伸ばす。彼女の後ろにはクローネの姿を見えた。
二人は魔物討伐の準備をしたのだろう。ミリンは革の鎧を身に着け、丸い大きな盾と二つ刃をもつ斧を背負っていた。クローネも革の鎧に身をつつみ腰にショートソードをさしている。
ドアノブを持つ右手首を、つかまれそうになったロックは、手をはなて引っ込めた。
「どうしたんだよ。出発はまだだろ?」
「のんびりしてられないわ。シロップがクプを連れて魔物討伐に向かったらしいの! 昨日この部屋にはいるのをクプに見られたから…… しかも…… ママに黙って馬鹿なんだから!」
どうやらシロップが抜け駆けをして、地下神殿に先に向かったようだ。
「慌てるな。先に行かれたところで問題はない」
「なっ!?」
ロックはミリンの話しを、聞いても特に表情もかえず淡々と話す。ミリンは不服そうに声をあげる。
「相手が何をしようと最終的にミノタウロスを俺達が倒せばいいんだ」
「ふわああ。そうね。でも、ちょうどいいわ。私達も準備をしましょう」
「そうだな…… ほら、とりあえず準備するから部屋で待ってろ」
ベッドの布団の中から顔を出し、あくびをして笑うアイリスだった。ロックは小さくうなずいて、二人を部屋の中へと招きいれる。
起き上がったアイリスはサイドテーブルに、置かれた彼女がいつも首から下げてる鞄を手に取った。ロックとアイリスは、砦に急に宿泊となったので普段着で就寝していた。
アイリスは持った鞄を、寝ていたベッドの上に置いて開けた。ロックはベッドの横に立てかけていた杖と剣と胸当てを装備する。
「あなた装備を変える?」
「いや必要ねえかな。いつでも取り出せるようにはしといてくれ」
「わかったわ」
ロックの答えを聞いたアイリスはうなずいて鞄に手をつっこんだ。
アイリスは鞄の中から、金属の胸当てと水色の厚手の帽子をとりだしベッドの上に置いた。続いて彼女は、木製の板の先に金属の弓がついた形の、小さなクロスボウを取り出す。
「ボルトはまだあるよな?」
「うん…… えっと…… キャノンが四十本にテンペストが十本かな」
「わかった。なくなったら言えよ」
うなずいたアイリスは鞄から矢筒を取り出し、中に入っているボルト数えながら答える。唖然とした表情でアイリスを見つめるクローネだった。
「あっあの…… その鞄にどうやってクロスボウと胸当てなんか」
鞄を指した尋ねるクローネ、アイリスが持ってる鞄は幅十センチ、長さ二十センチくらいで、どう見てもクロスボウに胸当てなど入る余地はなさそうだった。
「えっ!? あぁ。これは魔法道具で見た目よりもたくさん入るんです」
「口さえ広げられりゃ姐さんだっておさまるぞ」
「はっはぁ……」
笑顔で答えるアイリスとロック、クローネは二人に呆然とうなずいて答えるのだった。アイリスは金属の胸あてつけ厚手の帽子をかぶり、矢筒と鞄のベルトを肩からかけ、右肩にクロスボウをかついだ。
「準備できた?」
腕を組んで不満そうに二人を待っていたミリンが急かすように尋ねる。
ロックはミリンに向かって親指を立てた。
「あぁ。じゃあ朝飯だな」
「うん! おなかすいたー。食堂に行こう!」
左手で腹をさするアイリス、ロックは大きくうなずく。
「ちょっと! 何よご飯って! もう出発しないと……」
「腹が減ってたら戦えないだろ」
「そうよ。ご飯は重要よ!!!!!!!」
ロックは面倒くさそうに答え、彼よりも激しく眉間にシワを寄せ怒り気味にアイリスが叫ぶ。ミリンはアイリスの迫力に押されるが、なおも食い下がろうとする。
「でっでも…… もうシロップは……」
小さな声で悔しそうにするミリン。助けを求めたのかミリンはクローネに視線を向けるが、彼女は黙ったままうつむいている。
「だったらお前だけで先に行け。止めやしないから」
「へっ!? わっわかったわよ! 先に行くから」
ミリンは扉を開けて部屋を出ていく。アイリス、ロック、クローネは黙って彼女を見送るのだった。扉が閉まった少しして、ロックがクローネに目を向けた。
「お前は一緒に行かないのか?」
ロックはクローネがミリンを、追いかけると思っておりなぜ残っているのか疑問だった……
キュールルルルー…… 間抜けね音が部屋に響く。
「いえ…… 実はわたくしもお腹が……」
恥ずかしそうに腹をさするクローネ、どうやら音は彼女の腹の音だったようだ。ロックとアイリスは顔を見合わせて笑い、クローネは恥ずかしそうに頬を赤くするのだった。
一階にある砦の食堂で、食事をしたロック達はクローネの案内で地下へ向かう。砦の一階の西側にある階段の前へとやってきた。
床が崩された穴に石造りの階段が真っ暗な地下へと伸びている。穴の脇には槍を持ったグルドジア族が立っていた。この穴は砦をラミラ族から奪う際に、掘った穴で地下神殿へ続く階段として改修したものだ。
「クローネです。地下神殿へ向かいます」
「はい。伺ってます」
両脇の兵士に声をかけたクローネ。頭を下げて彼女が通りすぎ、ロックとアイリスが続く。
灯りのないほぼ真っ暗な階段を、ロック魔法の光で足元を照らし、先導するのはクローネ、真ん中にロック、最後尾はアイリスの順で階段を下りていく。階段は幅一メートル五十センチほどで、高さも同じくらいだ。アイリスは平気だが、ロックは腰をかがめて歩きづらそうだ。
しばらく進むと階段は折り返す。下っては折り返しを、何度か繰り返して、地下深くへと潜っていくのだった。
数十分ほど階段を下りた先に槍を扉があり、槍を持ったグルドジア族が立っていた。先導するクローネがグルドジア族の元へと向かう。
「クローネ…… ここを通って……」
「はい…… ただ…… 一緒に……」
「えっ!? それは……」
「申し訳ありません。決まりなので……」
ロック達にはグルドジア族とクローネの会話が届かない。
すぐにうつむいてクローネが、ロック達の元へと戻って来る。心なしか少し頬が赤いように見えた。
「どうぞ! 三人で通ってください」
グルドジア族が鍵を使って扉を開けた。
大きな広い空間へと出た。石造りの床と壁のドーム型の部屋で真ん中に大きな泉がある。その前に二人の白いローブを着たグルドジア族の女性が立っていた。
入ってきた扉の横には六つ仕切られた棚が置かれていた。泉の水は温かいのか湯気が上り、雪原の寒さが少しゆるんだ。
「えっ!?」
三人が部屋に入ると扉が閉められ施錠される音がした。アイリスとロックは驚いて振り向く。クローネが二人の前に立ち口を開く。
「こっここは禊場です…… ここで裸になって身を清めて神殿に向かうんです」
クローネが泉の前に立って振り返り、入ってきた扉から見て正面の泉の向こうある扉を指さした。
「あぁ。地下神殿は聖地だもんな。さっさと行こうぜ」
扉を指さしてロックは通り抜けようするために前に歩きだそうとする。クローネが慌てて彼を止める。
「ダメです! 身を清めてください」
「はっ!? 俺達もするのかよ? 儀式に行くわけじゃないんだぞ」
「あの…… 体を清めないと神殿へ続く扉の鍵を巫女からもらえないんです」
クローネが泉の前にいる女性二人に目を向けた。神殿へ行く扉は施錠されている、鍵は神殿に向かう者たちが泉で身を清めたのを、泉の前に立つグルドジア族の巫女が確認し渡される。
面倒くさそうな顔をするロック、アイリスはロックの袖を引っ張る。
「しょうがない。従うしかないわね。ロック。終わるまで外で待ってて」
「別に俺は一緒でもいいぜ」
「バカ! 早く出る!」
恥ずかしそうに入ってきた扉をさすアイリス、ニヤニヤと笑ってロックは扉に手をかけた。
「あれ…… 開かないぞ。おーい!」
「禊を終えて地下神殿の前にある鍵を持ってこないとこちら側からは開かないんです」
「はぁ!? じゃあどうするだよ」
クローネは顔を真赤にして勢いよく頭を下げた。
「いっ一緒に禊をしてください!」
恥ずかしながら声を震わせるクローネだった。アイリスとロックは顔を見合わせた。呆れた顔でアイリスが口を開く。
「だったら最初に説明してくださいよ。ロックを後から中へ入れたのに」
「それが…… 神殿へ続く扉を開ける鍵は三つしかなくて…… 一つはシロップさん、一つはミリンさん、最後の一つが私達なんです。鍵が一つでも戻らないとこの禊場には誰も入れないんで……」
「はぁ!? それじゃあ…… どのみち私達は一緒に禊をするしかないってことじゃない!?」
動揺して声を荒げるアイリス、クローネは恥ずかしそうにうなずいた。
こうして三人は泉で禊をすることになった。
女性二人が棚の前で服を脱ぐため、ロックは扉を挟んで反対側へ移動し服に手をかけた。
「ロック!」
アイリスがロックを呼んだ。彼が振り返ると彼女が履いていた靴が飛んできた。ロックはとっさに顔を斜めにしてかわし声をあげる。
「うわ!」
「バカ! こっち見るなって言おうとしたの! なんで見るのよ!」
上下とも真っ白で、飾りけのない下着をつけた、アイリスがロックを睨みつけている。
「さっさと言えよ!」
「べー!」
不服そうにアイリスの靴を拾い上げる、ロックの背中に下を出すアイリスだった。靴を拾い上げながら彼は、チラッとアイリスの姿を確認した。
アイリスは腰をかかげ下着からわずかに覗く、貧相な胸の谷間を腕で必死に隠している。一日の殆どをヴィクトリアの中で過ごすアイリスの肌は白い、座っていることが長く運動不足な上に食いしん坊のせいか、下腹が少し出てぽっちゃりとして尻も少し大きい。
彼女の体を見たロックは頬を赤くし、恥ずかしさを消すためにあえて不機嫌な態度をとる。
「誰が運動不足でたるんだ腹を見たがるかよ! うわ!」
「聞こえてるわよ! このバカ!」
「あぶねえな!」
もう一足の靴がロックの顔の横を通り過ぎていった。
数分後…… ロックも服を脱ぎ下着姿になった。泉の方からアイリスが彼を呼ぶ。
「いいわよ。目をつむってこっち来て!」
「無理に決まってんだろ! ふざけるな」
ロックは振り返る、二人はすでに泉に浸かっていた。ロックは泉に縁に立つ、クローネは恥ずかしそうにうつむいている、透明な泉に薄く透けたビンクの派手な下着姿が映し出されている。
「こっち見ないでよ!」
「はいはい……」
「クローネさんも見ちゃダメだからね!」
「見えねえよ…… ったく」
しゃがんで縁にてをつき、ロックは静かに泉の中へと身をおさめた。泉に浸かり巫女の許可があるまで身を清める。
「温かくて気持ちいいですね」
「はい。グルドジア族が昔から大事にしてきた温泉なんですよ。極寒の地で虐げられた彼らにとってこの泉は憩いの場だったんですよ」
「へぇ」
「…… はっ!? ……」
ロックの何かが気になるのか、視線をチラチラと向けるクローネだった。ロックと目があうと彼女は、恥ずかしそうに目をそむけた。ロックはクローネの視線に気づいていた。
「なんだ? 俺の体に興味でもあるのか…… うわ!? ぺっ! バカ! やめろ!」
ニヤニヤと笑いを浮かべる、ロックにアイリスがお湯をかける。かけられたお湯が、口に入ってロックはすぐに吐き出し、アイリスに向かって叫ぶ。
振り向いた巫女が三人を睨む。三人が遊んでいるように見えたのだろう。
「ちっ違います! ロックさんの腕と足の字が気になって」
顔を真赤にして否定するクローネ、ロックの鍛えられゴツく、魔物や牙や爪や刃物などの傷が体にいくつもあった。その彼の肘と手首の間やふくらはぎに黒く小さい文字が書かれていた。
「あぁ。これか。魔力で精霊言語を体に刻んであるんだ」
「精霊言語……」
「こうすると詠唱しなくていくつかの魔法を使えるからな」
腕を曲げ自分で書かれた文字を見るロック、彼の腕に刻まれた文字は精霊言語というものだ。魔法は精霊の力を借りて発動させ、魔力で魔法の威力を増幅させはなつ。
精霊に力を借りる際に呼びかけるのが詠唱で、魔法を使う際には必ず必要だが体に刻んだ精霊言語に魔力を送り込むことで代用ができる。
つまり精霊言語を体に刻むことで、詠唱をなくいくつかの魔法を使うことができるのだ。ロックは両腕に物体浮遊や着火や光源の魔法、足に空間転移や飛行魔法の詠唱を刻んでいる。
以前の魔法使いはロックのように精霊言語を体に刻み使用していた。しかし、精霊言語を体に刻む際は、魔力が高いほど文字が小さくなる。つまりは魔力が低い人間はかける字が少なく使える魔法が少ない。
また、腕や足以外に詠唱を刻むと体の負担が大きく、場合によって魔法が戻ってきて死亡することもあった。
千年前に高名な魔法使いが、魔石と呼ばれる魔法を込められる石に翻訳魔法をつめ、それを埋め込んだ杖を使い人間の言葉で魔法を放つ方法を発見した。
それ以降は杖などを使用し人間の言葉で詠唱し魔法を放つのが主流になった。魔法使いが開発した杖は最初の魔導機関とよばれている。
「そうなんですね」
謎が溶け少し嬉しそうにするクローネだった。
十数分ほどで巫女から許可が出て、三人は泉から出た。禊を終わらせた三人は、地下神殿を目指すのだった。
翌日の早朝、二人の部屋の扉が激しく叩かれ外で誰かが騒いでる声がする。
「なんだ…… うるせえな」
「本当…… うるさいわね。ロック! 早く出て」
「はいはい」
隣のベッドで布団をかぶったまま、腕だけ出して扉を指すアイリス。ロックは面倒くさそうにベッドから出ると扉を開けた。
「急いで!」
扉を開けたロックに叫びながらミリンが手を伸ばす。彼女の後ろにはクローネの姿を見えた。
二人は魔物討伐の準備をしたのだろう。ミリンは革の鎧を身に着け、丸い大きな盾と二つ刃をもつ斧を背負っていた。クローネも革の鎧に身をつつみ腰にショートソードをさしている。
ドアノブを持つ右手首を、つかまれそうになったロックは、手をはなて引っ込めた。
「どうしたんだよ。出発はまだだろ?」
「のんびりしてられないわ。シロップがクプを連れて魔物討伐に向かったらしいの! 昨日この部屋にはいるのをクプに見られたから…… しかも…… ママに黙って馬鹿なんだから!」
どうやらシロップが抜け駆けをして、地下神殿に先に向かったようだ。
「慌てるな。先に行かれたところで問題はない」
「なっ!?」
ロックはミリンの話しを、聞いても特に表情もかえず淡々と話す。ミリンは不服そうに声をあげる。
「相手が何をしようと最終的にミノタウロスを俺達が倒せばいいんだ」
「ふわああ。そうね。でも、ちょうどいいわ。私達も準備をしましょう」
「そうだな…… ほら、とりあえず準備するから部屋で待ってろ」
ベッドの布団の中から顔を出し、あくびをして笑うアイリスだった。ロックは小さくうなずいて、二人を部屋の中へと招きいれる。
起き上がったアイリスはサイドテーブルに、置かれた彼女がいつも首から下げてる鞄を手に取った。ロックとアイリスは、砦に急に宿泊となったので普段着で就寝していた。
アイリスは持った鞄を、寝ていたベッドの上に置いて開けた。ロックはベッドの横に立てかけていた杖と剣と胸当てを装備する。
「あなた装備を変える?」
「いや必要ねえかな。いつでも取り出せるようにはしといてくれ」
「わかったわ」
ロックの答えを聞いたアイリスはうなずいて鞄に手をつっこんだ。
アイリスは鞄の中から、金属の胸当てと水色の厚手の帽子をとりだしベッドの上に置いた。続いて彼女は、木製の板の先に金属の弓がついた形の、小さなクロスボウを取り出す。
「ボルトはまだあるよな?」
「うん…… えっと…… キャノンが四十本にテンペストが十本かな」
「わかった。なくなったら言えよ」
うなずいたアイリスは鞄から矢筒を取り出し、中に入っているボルト数えながら答える。唖然とした表情でアイリスを見つめるクローネだった。
「あっあの…… その鞄にどうやってクロスボウと胸当てなんか」
鞄を指した尋ねるクローネ、アイリスが持ってる鞄は幅十センチ、長さ二十センチくらいで、どう見てもクロスボウに胸当てなど入る余地はなさそうだった。
「えっ!? あぁ。これは魔法道具で見た目よりもたくさん入るんです」
「口さえ広げられりゃ姐さんだっておさまるぞ」
「はっはぁ……」
笑顔で答えるアイリスとロック、クローネは二人に呆然とうなずいて答えるのだった。アイリスは金属の胸あてつけ厚手の帽子をかぶり、矢筒と鞄のベルトを肩からかけ、右肩にクロスボウをかついだ。
「準備できた?」
腕を組んで不満そうに二人を待っていたミリンが急かすように尋ねる。
ロックはミリンに向かって親指を立てた。
「あぁ。じゃあ朝飯だな」
「うん! おなかすいたー。食堂に行こう!」
左手で腹をさするアイリス、ロックは大きくうなずく。
「ちょっと! 何よご飯って! もう出発しないと……」
「腹が減ってたら戦えないだろ」
「そうよ。ご飯は重要よ!!!!!!!」
ロックは面倒くさそうに答え、彼よりも激しく眉間にシワを寄せ怒り気味にアイリスが叫ぶ。ミリンはアイリスの迫力に押されるが、なおも食い下がろうとする。
「でっでも…… もうシロップは……」
小さな声で悔しそうにするミリン。助けを求めたのかミリンはクローネに視線を向けるが、彼女は黙ったままうつむいている。
「だったらお前だけで先に行け。止めやしないから」
「へっ!? わっわかったわよ! 先に行くから」
ミリンは扉を開けて部屋を出ていく。アイリス、ロック、クローネは黙って彼女を見送るのだった。扉が閉まった少しして、ロックがクローネに目を向けた。
「お前は一緒に行かないのか?」
ロックはクローネがミリンを、追いかけると思っておりなぜ残っているのか疑問だった……
キュールルルルー…… 間抜けね音が部屋に響く。
「いえ…… 実はわたくしもお腹が……」
恥ずかしそうに腹をさするクローネ、どうやら音は彼女の腹の音だったようだ。ロックとアイリスは顔を見合わせて笑い、クローネは恥ずかしそうに頬を赤くするのだった。
一階にある砦の食堂で、食事をしたロック達はクローネの案内で地下へ向かう。砦の一階の西側にある階段の前へとやってきた。
床が崩された穴に石造りの階段が真っ暗な地下へと伸びている。穴の脇には槍を持ったグルドジア族が立っていた。この穴は砦をラミラ族から奪う際に、掘った穴で地下神殿へ続く階段として改修したものだ。
「クローネです。地下神殿へ向かいます」
「はい。伺ってます」
両脇の兵士に声をかけたクローネ。頭を下げて彼女が通りすぎ、ロックとアイリスが続く。
灯りのないほぼ真っ暗な階段を、ロック魔法の光で足元を照らし、先導するのはクローネ、真ん中にロック、最後尾はアイリスの順で階段を下りていく。階段は幅一メートル五十センチほどで、高さも同じくらいだ。アイリスは平気だが、ロックは腰をかがめて歩きづらそうだ。
しばらく進むと階段は折り返す。下っては折り返しを、何度か繰り返して、地下深くへと潜っていくのだった。
数十分ほど階段を下りた先に槍を扉があり、槍を持ったグルドジア族が立っていた。先導するクローネがグルドジア族の元へと向かう。
「クローネ…… ここを通って……」
「はい…… ただ…… 一緒に……」
「えっ!? それは……」
「申し訳ありません。決まりなので……」
ロック達にはグルドジア族とクローネの会話が届かない。
すぐにうつむいてクローネが、ロック達の元へと戻って来る。心なしか少し頬が赤いように見えた。
「どうぞ! 三人で通ってください」
グルドジア族が鍵を使って扉を開けた。
大きな広い空間へと出た。石造りの床と壁のドーム型の部屋で真ん中に大きな泉がある。その前に二人の白いローブを着たグルドジア族の女性が立っていた。
入ってきた扉の横には六つ仕切られた棚が置かれていた。泉の水は温かいのか湯気が上り、雪原の寒さが少しゆるんだ。
「えっ!?」
三人が部屋に入ると扉が閉められ施錠される音がした。アイリスとロックは驚いて振り向く。クローネが二人の前に立ち口を開く。
「こっここは禊場です…… ここで裸になって身を清めて神殿に向かうんです」
クローネが泉の前に立って振り返り、入ってきた扉から見て正面の泉の向こうある扉を指さした。
「あぁ。地下神殿は聖地だもんな。さっさと行こうぜ」
扉を指さしてロックは通り抜けようするために前に歩きだそうとする。クローネが慌てて彼を止める。
「ダメです! 身を清めてください」
「はっ!? 俺達もするのかよ? 儀式に行くわけじゃないんだぞ」
「あの…… 体を清めないと神殿へ続く扉の鍵を巫女からもらえないんです」
クローネが泉の前にいる女性二人に目を向けた。神殿へ行く扉は施錠されている、鍵は神殿に向かう者たちが泉で身を清めたのを、泉の前に立つグルドジア族の巫女が確認し渡される。
面倒くさそうな顔をするロック、アイリスはロックの袖を引っ張る。
「しょうがない。従うしかないわね。ロック。終わるまで外で待ってて」
「別に俺は一緒でもいいぜ」
「バカ! 早く出る!」
恥ずかしそうに入ってきた扉をさすアイリス、ニヤニヤと笑ってロックは扉に手をかけた。
「あれ…… 開かないぞ。おーい!」
「禊を終えて地下神殿の前にある鍵を持ってこないとこちら側からは開かないんです」
「はぁ!? じゃあどうするだよ」
クローネは顔を真赤にして勢いよく頭を下げた。
「いっ一緒に禊をしてください!」
恥ずかしながら声を震わせるクローネだった。アイリスとロックは顔を見合わせた。呆れた顔でアイリスが口を開く。
「だったら最初に説明してくださいよ。ロックを後から中へ入れたのに」
「それが…… 神殿へ続く扉を開ける鍵は三つしかなくて…… 一つはシロップさん、一つはミリンさん、最後の一つが私達なんです。鍵が一つでも戻らないとこの禊場には誰も入れないんで……」
「はぁ!? それじゃあ…… どのみち私達は一緒に禊をするしかないってことじゃない!?」
動揺して声を荒げるアイリス、クローネは恥ずかしそうにうなずいた。
こうして三人は泉で禊をすることになった。
女性二人が棚の前で服を脱ぐため、ロックは扉を挟んで反対側へ移動し服に手をかけた。
「ロック!」
アイリスがロックを呼んだ。彼が振り返ると彼女が履いていた靴が飛んできた。ロックはとっさに顔を斜めにしてかわし声をあげる。
「うわ!」
「バカ! こっち見るなって言おうとしたの! なんで見るのよ!」
上下とも真っ白で、飾りけのない下着をつけた、アイリスがロックを睨みつけている。
「さっさと言えよ!」
「べー!」
不服そうにアイリスの靴を拾い上げる、ロックの背中に下を出すアイリスだった。靴を拾い上げながら彼は、チラッとアイリスの姿を確認した。
アイリスは腰をかかげ下着からわずかに覗く、貧相な胸の谷間を腕で必死に隠している。一日の殆どをヴィクトリアの中で過ごすアイリスの肌は白い、座っていることが長く運動不足な上に食いしん坊のせいか、下腹が少し出てぽっちゃりとして尻も少し大きい。
彼女の体を見たロックは頬を赤くし、恥ずかしさを消すためにあえて不機嫌な態度をとる。
「誰が運動不足でたるんだ腹を見たがるかよ! うわ!」
「聞こえてるわよ! このバカ!」
「あぶねえな!」
もう一足の靴がロックの顔の横を通り過ぎていった。
数分後…… ロックも服を脱ぎ下着姿になった。泉の方からアイリスが彼を呼ぶ。
「いいわよ。目をつむってこっち来て!」
「無理に決まってんだろ! ふざけるな」
ロックは振り返る、二人はすでに泉に浸かっていた。ロックは泉に縁に立つ、クローネは恥ずかしそうにうつむいている、透明な泉に薄く透けたビンクの派手な下着姿が映し出されている。
「こっち見ないでよ!」
「はいはい……」
「クローネさんも見ちゃダメだからね!」
「見えねえよ…… ったく」
しゃがんで縁にてをつき、ロックは静かに泉の中へと身をおさめた。泉に浸かり巫女の許可があるまで身を清める。
「温かくて気持ちいいですね」
「はい。グルドジア族が昔から大事にしてきた温泉なんですよ。極寒の地で虐げられた彼らにとってこの泉は憩いの場だったんですよ」
「へぇ」
「…… はっ!? ……」
ロックの何かが気になるのか、視線をチラチラと向けるクローネだった。ロックと目があうと彼女は、恥ずかしそうに目をそむけた。ロックはクローネの視線に気づいていた。
「なんだ? 俺の体に興味でもあるのか…… うわ!? ぺっ! バカ! やめろ!」
ニヤニヤと笑いを浮かべる、ロックにアイリスがお湯をかける。かけられたお湯が、口に入ってロックはすぐに吐き出し、アイリスに向かって叫ぶ。
振り向いた巫女が三人を睨む。三人が遊んでいるように見えたのだろう。
「ちっ違います! ロックさんの腕と足の字が気になって」
顔を真赤にして否定するクローネ、ロックの鍛えられゴツく、魔物や牙や爪や刃物などの傷が体にいくつもあった。その彼の肘と手首の間やふくらはぎに黒く小さい文字が書かれていた。
「あぁ。これか。魔力で精霊言語を体に刻んであるんだ」
「精霊言語……」
「こうすると詠唱しなくていくつかの魔法を使えるからな」
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精霊に力を借りる際に呼びかけるのが詠唱で、魔法を使う際には必ず必要だが体に刻んだ精霊言語に魔力を送り込むことで代用ができる。
つまり精霊言語を体に刻むことで、詠唱をなくいくつかの魔法を使うことができるのだ。ロックは両腕に物体浮遊や着火や光源の魔法、足に空間転移や飛行魔法の詠唱を刻んでいる。
以前の魔法使いはロックのように精霊言語を体に刻み使用していた。しかし、精霊言語を体に刻む際は、魔力が高いほど文字が小さくなる。つまりは魔力が低い人間はかける字が少なく使える魔法が少ない。
また、腕や足以外に詠唱を刻むと体の負担が大きく、場合によって魔法が戻ってきて死亡することもあった。
千年前に高名な魔法使いが、魔石と呼ばれる魔法を込められる石に翻訳魔法をつめ、それを埋め込んだ杖を使い人間の言葉で魔法を放つ方法を発見した。
それ以降は杖などを使用し人間の言葉で詠唱し魔法を放つのが主流になった。魔法使いが開発した杖は最初の魔導機関とよばれている。
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