30.　ジェシカさんの理由

30.　ジェシカさんの理由

　オレはギルドを出てジェシカさんがいる宿屋に向かう。そして中に入り、ジェシカさんの部屋の前に行く。そして扉を叩きながら中にいるであろうジェシカさんに声をかけた。

「ジェシカさん！いますか？」

　すると部屋の扉が開かれる。

「え？マスター？どうしたの？」

　本当にいたよ……。まさかこの前みたいに『魔力玉』とか使って監視とかしてないよねリリスさん……。

「あの私は今日休みよね？何か緊急の用事？」

「実は……」

　そこまで言うとふと考える。そのまま妹さんのレイアがギルド『フェアリーテイル』に来てジェシカさんを探していることを話していいものか？ジェシカさんはきちんとしている人だ。そんな人が家に連絡しないのは何か理由があるはずだ。

「マスター？」

「あっいや。オレも今日休みで！ジェシカさんと出掛けたいかなぁとか思って……」

「え……。そう……なの？」

　オレが勢い良くそう言うと、ジェシカさんは少し顔を赤くする。ヤバいヤバい！これじゃなんかデートのお誘いみたいになってしまったぞ！？でも今さらあとには引けない！このまま押し切ろう！

「ほら！オレはジェシカさんのプライベートのことよく知らないし！ジェシカさんともっと仲良くなりたいというか……」

「そっそうなの？……マスター。私のプライベートに興味あるんだ……分かった。準備するから、少し待って」

　そのまま扉が閉まる。やってしまった……なんか色々考えすぎて自分でもよく分からなくなってしまった。大丈夫だよな？変なこと言ってなかったよな？オレは不安になりながらもしばらく待つことにした。
　
　そして数分後。再び扉が開く。

「お待たせ。行こうか。マスター」

「はい」

　こうしてオレはジェシカさんと一緒に王都の街に出掛けることになった。しばらく目的もなく歩いている。しかもお互いに沈黙が流れている……。どうしたらいいんだ？

「……ねぇマスター。」

「はい！？」

「……その。私。今まで男の人とこうやって出掛けたことないから。私の格好変じゃない？」

　そう言いながらこちらを見るジェシカさん。今日のジェシカさんは白のワンピースを着ており、清楚だ。もちろんいつもの制服も似合っているけどさ。

「いえ全然！むしろ似合ってると思います！」

「……そう？良かった。」

「あのオレはどうですか！？」

「え？……変だと思う。ギルドの制服だし。休みでもその格好しているの？」

　本当は休みじゃないんだよオレは。

「はい。オレはギルドマスターですから！」

「……意味わからないけど？」

「すいません……」

「別に謝ることじゃないよ。……私こそごめんなさい。こんな地味な私と出かけても楽しくないでしょ？」

「そんなことはないですよ！それより！お腹すきません？どこかで食べましょう！」

　そう言ってオレとジェシカさんは近くの店に入る。そして注文を済ませ料理を待つ。そろそろ本題の前にジェシカさんの事を聞かないとな。

「ところでジェシカさんは兄弟とかいるんですか？」

「うん。妹がいるよ。」

「へぇー。妹さんはどんな感じなんですか？」

「妹はおとなしい子だよ。アンナとは正反対かも。私がギルド受付嬢をしているギルドで冒険者をやりたいって言ってくれててね。故郷の小さなギルドで冒険者登録もしたみたい。ジョブはクレリックらしいけど。」

　そう言ってレイアの話をするジェシカさんはとても楽しそうだ。うん。レイアの話しと全く同じだ。やはり探しているのはジェシカさんで間違いないようだな。

「優しい妹さんですね。そう言えばご両親はギルド受付嬢の仕事のことどう思っているんですか？」

　オレがそう言うと少し間があいてジェシカさんは答える。

「……もちろん。応援してくれているよ。今は……分からないけど」

「え？」

「私ね。ギルド『ホワイトナイツ』を辞めたこと言ってないの。あの時、上級者ギルドで働いていることをすごく喜んでくれたから。申し訳なくて。私が悪いんだけどさ。あ。もちろん『フェアリーテイル』をバカにしてる訳じゃないよ！」

　ジェシカさんは上級者ギルドを辞めたことを家族に言えないようだ。まぁ確かにそれでオレたちみたいなまだそこまで有名じゃないギルドで働いているって言うのもなかなか難しい話かもしれないな。本当にジェシカさんはギルド受付嬢として誇りを持っているんだな。

「……マスター。ごめんなさい。せっかく誘ってくれたのに暗い話をして」

「いえ。ジェシカさんがギルド受付嬢の仕事を頑張っていることはよく分かりましたよ。だからこれからはオレにも頼ってほしい。」

「え？」

「まだギルド『フェアリーテイル』はそこまで有名なギルドじゃないけど、必ず王国一の冒険者ギルドにしますから。もちろんジェシカさんも一緒に」

　オレがそう言って微笑むとジェシカさんは顔を赤くした。あれ？なんかオレ変なこと言った？

「……バカ。よくそんなこと口に出して言えるね？恥ずかしくないの？でもありがとう。素直に嬉しい。」

　そう言うとジェシカさんは笑った。そしてオレはそんなジェシカさんの笑顔を見て心が温かくなるのを感じるのだった。