50.　ストーリーテラー

50.　ストーリーテラー



　咲夜さんと偽りの恋人を演じてから一週間がたった。特に関係が変わったことはないし、学校でも何もない限りは今まで通り話さない。お互いモブキャラ生徒AとDのまま。

　唯一変わったことがあるとするなら……

「颯太君。お待たせお風呂どうぞ」

「おっおう……」

　咲夜さんがオレのことを名前で呼ぶようになったこと。今でも名前を呼ばれるたびにドキッとして心臓に悪い。

「それじゃあ、私は部屋に戻るわね。おやすみなさい」

「おやすみ……」

　パタンッ ドアの閉まる音がして咲夜さんが出ていったことを確認してからため息を吐く。なんなんだよこのラブコメ展開！咲夜さんから急に名前で呼ばれるようになって、オレはもういっぱいいっぱいだよ！こういうの慣れてないんだって！

　オレはそのまま風呂に入る。今日も疲れた……。風呂に入りながらも咲夜さんのことばかり考えてしまう。

　咲夜さんのことを考えると胸の奥がきゅっとなるような変な罪悪感に襲われる。オレは咲夜さんのことが好き。でもそれを言い出せないでいる。偽りとはいえ、恋人になれている。咲夜さんのお願いだからと自分に言い聞かせて。でもこれってただの卑怯者じゃないのか？

「本当にこれでよかったのか……？」

　オレは風呂を出てからも、リビングのソファーでボーッと考える。そこに咲夜さんがやってくる。

「あら？颯太君まだ起きてたの？」

「咲夜さん……」

「ねぇ……私もそっちに座っていいかしら？」

「え？ああいいけど……」

　そういうと咲夜さんは冷蔵庫からミネラルウォーターを2つ持ってオレの隣に座る。相変わらず綺麗で可愛い。その姿を見ると、やっぱりこの人の事が好きなんだと認識させられる。

「はい。颯太君のポーション」

「ありがとう」

「……あのさ颯太君。私の話……少し聞いてくれる？」

「えっ咲夜さんの？」

「うん。今なら颯太君に話してもいいかなって思って……ね？」

　咲夜さんは少し寂しそうに、それでも真っ直ぐ決意したような目でオレを見つめて話をし始めるのだった。