27.　前衛と後衛

27.　前衛と後衛



　オレがお風呂から出ると咲夜さんはリビングで難しい顔をしていた。

「あ、あのー……」

「ああ、霧ヶ谷君。」

「ど、どうしたんだ？」

「ここでスキルを覚えるべきだと思ってね。どっちがいいと思う？」

　そう言って咲夜さんは2枚のチラシをオレにみせる。1枚は『初心者でも安心！簡単に憧れの剣術が習得可能！』と書かれたものでもう1枚は『超絶レア！この機会を逃したら一生ダメにする！』という文字が大きく書かれていた。

「これは……？」

「剣道と合気道の道場よ。」

「なんでこんなものを……。」

「私も一応女だからね。護身術くらい身につけておかないと。それに……霧ヶ谷君の力になりたいし。」

　オレのため？なぜそれがオレのためなのかは理解不能だが。

「それにほら、私は料理がそこまで得意じゃないけど剣や合気道ならできるかもしれないじゃない！」

　咲夜さんのイメージには剣や合気道は合わないですよ……。それなら素直に料理を覚えるべきだと思うのだが……まぁ咲夜さんがやりたいなら別に構わないけど……。

「でもそんな簡単に覚えられるものなのか？」

「大丈夫だと思うわ。やってみれば案外あっさりできるかもだし。」

　めちゃめちゃ安易な考えなんだが。やはりここは咲夜さんを止めないとな。もし怪我とかされたら困るし。

「えっと……やっぱりやめた方がいいんじゃないか？咲夜さんが怪我とかしたら嫌だしさ」

「でも前衛は私でしょ？」

「え？前衛？」

「霧ヶ谷君が前衛になってくれるの？」

　そもそも日常生活で前衛と後衛の概念はない。基準がわからん。

「いや、それは……わからないけど。」

「霧ヶ谷君。あなた魔王を甘く見てるわよ？まったく！そんなんじゃいつか命を落とすって言ってるじゃない」

「……すみません」

　なぜ咲夜さんが怒っているのかが理解できない。何か間違ったことを言っただろうか。

　しばらくオレは説教受けていたが、咲夜さんは納得したように『でもサラマンダーの試練の時、迷惑をかけたから今回は霧ヶ谷君の言う通りにするわ』と言ってくれたのだった。

　結局、咲夜さんが言っていた前衛と後衛は謎のままであった。