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笹椰かな

ようせいのプリンセス 3

「あっ! あれは出口!?」
「そうです! そろそろ着きますよ!」

 青いチョウチョはこうふんしているようで、声がはずんでいます。それにつられるように、プリンセスもこうふんして胸がはずみました。

 それから数分後。ひとりと一頭は、バラのどうくつの中から無事にぬけ出すことが出来ました。
 外に出たしゅん間、日光がぱあっと目に飛びこんできて、プリンセスは思わずぎゅうっと目をつむりました。

 ゆっくり目を開けてみると、周りに美しい花や黄色い葉をつけた木がたくさん生えてるのが見えました。少しはなれた場所には建物が見えます。
 その建物はとてもりっぱで大きいので、どうくつのそばからでもハッキリと見えました。

「わあ。あの建物は?」
「あれが女王さまのおられるフェアリーキャッスルですよ」
「あそこにわたしのお母さんがいるのね!」

 プリンセスは声をはずませました。
 けれど次のしゅん間、もうここで青いチョウチョとはお別れなのだと気付いて悲しくなりました。案内役がいる必要がなくなったからです。

 ですが、青いチョウチョはフェアリーキャッスルの中までプリンセスを案内すると言ってくれました。
 もう目的地は見えているから案内しなくていいのに、最後まで着いてきてくれるのね。
 プリンセスは嬉しくなりました。


 とうとうフェアリーキャッスルにとう着すると、青いチョウチョは門番をしている男性のようせいに、プリンセスが女王さまに会いたがっているのだと伝えてくれました。

 プリンセスはその間、青いチョウチョが言っていた通りで自分以外にもようせいがいたことに感動していました。
 門番をしているようせいの他にも、お城ではたらいているようせいがそこかしこにいます。

 およそ五分たった時。お城のおくからさわがしい声が聞こえてきました。

「プリンセス! プリンセスはどこ!?」

 そうして飛び出すように現れたのは、上品なドレスを着た女性のようせいでした。美人ですが、年齢はプリンセスよりもずっとずっと年上に見えます。きょろきょろと辺りを見回していて、落ち着きがありません。

「プリンセス、この方が女王さまですよ」

 青いチョウチョが言いました。

「えっ!?」

 プリンセスはびっくりしました。そして、そのまま動けなくなってしまいました。
 初めて会うお母さんに、なんて話しかけたらいいのかわからなかったからです。
 見かねた青いチョウチョが、「ご無沙汰しております、女王さま。この方が、あなたさまがさがしていたプリンセスにございます」と女王さまに声をかけてくれました。

 女王さまはプリンセスと目が合ったしゅん間、さーっとだんがんのように飛んできて、プリンセスをだきしめました。きつく、きつくだきしめました。

「ああ、ああ。わたくしのかわいいプリンセス。よかった、よかった。また会えた」

 女王さまは他のようせいの目も気にせず、わんわん泣きました。まるで赤ちゃんのようです。
 プリンセスは女王さまのことを覚えていませんから、これが初対面のはずですが、不思議と両目からなみだがこぼれました。


 ふたりが感動の再会を終えて落ち着いた後、プリンセスは青いチョウチョにお礼を言おうとして辺りを見回しました。
 ですが、彼のすがたはどこにも見当たりません。

「青いチョウチョさん! 青いチョウチョさんはどこ!?」

 お城の中も外も必死にさがしましたが、結局見つかりませんでした。
 プリンセスはかたを落としました。ひどく落ちこんでいるプリンセスのかたに手をやりながら、女王さまが言いました。

「あの青いチョウチョは昔、このお城ではたらいていたのです」
「えっ!? そうなのですか?」

 女王さまはうなずきました。

「ですがある日、彼は仕事中にこのお城にあった一番高い花びんをわってしまいました。ここではたらいていたようせいや虫達が彼のことをせめました。わたくしは彼をせめたもの達をたしなめ、彼をゆるしました。ですが次の日、『旅に出ます』と書かれた手紙を残して、彼はすがたを消してしまったのです」
「そんな! 青いチョウチョさんは、わざと花びんをわったわけではなかったのでしょう?」
「ええ。でも、とてもせきにん感の強いチョウチョでしたから、自分がしてしまったことにたえきれなかったのでしょう。周りからもたくさんせめられて、苦しかったにちがいありません」

 プリンセスは女王さまの言葉を聞いてハッとしました。

 青いチョウチョさんが旅をしていた理由はもしかしたら、もしかしたら――お母さんが会いたがっていたわたしをさがし出して、ここまで連れて来るためだったの? それが花びんをわってしまったつぐないになると考えて?

 なんてなんて、せいじつなチョウチョなんだろう。

 そう思うと切なくなって、プリンセスはその場で泣いてしまいました。そして同時に決意しました。
 いつか自分も旅に出て、青いチョウチョをさがし出すのだと。

 また会えたら伝えるの。お母さんに会わせてくれてありがとうって。そして……わたしのそばにずっといてほしいって。

 プリンセスは強い思いをむねにいだきながら、はれてしまったまぶたのおくで、青いチョウチョの美しいはねの色を思い出すのでした。

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