次世代型ゲームのアルバイトに行ったら異世界に跳ばされたようです

ブラックベリィ

第13話そして、ボクは途方にくれる


 和也は、手に残った銀嶺の角が変化した細身の剣をマジマジと見下ろし、自分を落ち着かせる為に、大きく溜め息を吐いた。

 「とりあえず、暑いから日陰に戻ろう」

 頭を軽く振って、和也は日陰を提供してくれるデーツの木の根元へと向かった。
 勿論、デーツがこんもりしているところには戻れないので、別の木の根元に座る。

 「はぁ~‥‥‥これがバイトと判っただけマシですか?‥‥さて、これからどうしましょう? 藤田主任、ボクが《バグ》ったこと気付いてくれたかなぁ?‥‥」

 いや、あの藤田主任の様子を考えたら‥‥‥‥。
 もし、ボクが《バグ》ったと判っても‥‥‥‥。
 『面白いから、このまま経過観察しましょう』って、言って何もしてくれないに決まっていますよね‥‥‥。
 スタッフたちは、たぶん誰も反対しませんよねぇ‥‥‥。

 自分が《バグ》ったという事実を実感し、和也は項垂れる。

 とにかく、まずは、状況確認しないと‥‥‥‥。
 突然、この世界で目覚めて、最初はなにも記憶無かったんですよねぇ‥‥‥‥。
 だから、訳も判らないまま、灼熱の砂漠をあてもなく彷徨い歩いたんですよねぇ‥‥‥‥。
 やっと辿り着いたオアシスで、デーツを採って黄昏ていたら、あの飛竜が来たんですよねぇ‥‥‥‥。
 最初に出逢った知的生物は、翼タイプの飛竜。
 通常、飛竜という言葉から一般的に連想されるイメージは、コウモリのような皮膜の羽だけど‥‥‥‥。
 銀嶺は、翼竜と呼んだ方が良いような姿だったよなぁ‥‥‥‥いや、ボクの好みそのまま‥‥‥‥って。
 やっぱり、そういうの反映されるんでしょうかねぇ‥‥‥。
 支援システムって偉大だなぁ‥‥‥‥。
 顔は嘴を持つ鳥とは似ても似つかない容貌だけど‥‥‥。
 全身に羽毛を持つ、鳥と何ら変わらない翼ってとても綺麗だ。
 その稀なる美しい姿に、墨汁で書いたように絡み付く捕縛の呪文の鎖からして、みんなが欲しがる存在なのかも‥‥‥‥。
 あの姿を見た時、ボクでさえ銀嶺が特別な存在だと瞬時に理解したもなぁ‥‥。
 くすっ‥‥‥‥ボクッて超が付くレアなアイテムをゲットしたことになるのかな?
 でも、本当に、話しが通じる相手で良かったぁ~‥‥‥‥。
 そうじゃなかったら、食べられていたかも‥‥‥‥。
 いや、そうすると、ゲームオーバーでバイト終了になっていたかも‥‥‥‥。
 あっ‥‥‥いや、でも、まだ、払い終わってないから‥‥‥バイト代は欲しい‥‥それも高収入ならなおさら‥‥‥‥。
 ‥‥‥‥じゃなくて‥‥‥‥。

 大きく溜め息を吐き、和也は建設的な方へと思考を移動させる。

 「とりあえず、これで移動手段と食料は手に入ったと思ってイイのかな?」

 そこで、和也は、ふと銀嶺の持つ知識が身に付いていることに、唐突に気付く。 
 えっとぉ~‥‥これって、銀嶺が持っていた知識なのかな?
 そうすると、なんにも持たなくてイイことに‥‥‥‥。
 でも、デーツがもったいない。

 そう和也が考えた瞬間に、次々と新しい知識が脳裏に浮かぶ。

 えーと、水は、このオアシスの水の精霊と契約をすればイイんですね‥‥‥‥。
 ふむ、契約の魔法ですね。
 契約が、成立すれば、何処に居ても、このオアシスの水を手にするコトが出来るのは便利ですね‥‥‥‥。
 精霊と契約するには、欲しがるモノを与える。
 う~ん‥‥ボクだと‥‥‥‥歌かな?
 基本は、恋歌ねぇ~‥‥‥‥。
 精霊によって、好みは違うみたいですねぇ‥‥‥‥。
 呼び出して、訊いてみてから、どの歌にするかを決めればイイっていうのは、助かりますねぇー‥‥‥‥。
 ほんと‥血と肉とか、命とか、悲鳴とか‥‥じやなくて良かったぁ~‥‥‥‥。
 いや、ほんとぉーに良かったなぁー‥‥‥いや、マジで。
 んぅ~と‥‥‥デーツを保存するには‥‥‥‥。
 なるほど、時の魔法ですか‥‥‥‥。
 小規模限定範囲の時止めねぇー‥‥‥‥。
 って‥‥‥‥これも、精霊魔法‥? なのかな?
 じゃない、時の神様にお願いする‥‥?‥‥。
 それって、魔法というよりは、祈りって感じですねぇ‥‥‥。
 精霊との契約と違って、神様に対する祈りだから‥‥‥‥。
 なるほど、歌って踊るんですねぇー‥‥‥‥。
 それに、保存するモノの中で一番良いモノを捧げるんですね。
 それと、綺麗な水またはお酒ですか‥‥‥‥。
 出来れば、綺麗な華も‥‥‥‥。
 無くても可っていうのは、助かりますねぇ‥‥‥‥。

 ふっと嘆息した和也は、ちょっと首を傾げる。

 でも、祈りの言葉って、銀嶺の中には、人間がおもしろいことやってるなぁーって感じて覚えていた知識だから、ちょっと? かなり? 微妙な感じでねぇ‥‥。
 まぁ‥‥‥銀嶺は、飛竜だから、保存する必要は無いですもんねぇー‥‥‥‥。

  世界の常識や知識がまったく無いが故に、微妙な成り行きで、白銀の翼竜・銀嶺と契約を結ぶ事になった和也は、のほほんと新たな知識に感心する。
 和也は、身の内へと同化?した、銀嶺が持つ知識から、取り敢えず、この世界の常識やルールを習得したのだった。

 ふぅ~‥なんかいっぺんに、この世界の知識を詰め込まれたセイで、ちょっと頭がクラクラです。
 あまり考えると、知識が湧いてしまうのはちょっと‥‥‥。
 少し、考えるのは放棄した方がよさそうですね。
 取り敢えず、この世界の〈理〉はだいたい理解出来ました‥けど‥‥‥ボクはこの後、どうしたらイイんでしょう?
 やっぱり設定したキャラのレベルを上げる為にも、移動した方が良いんでしょうねぇ‥‥‥はぁ~‥‥‥。
 どうして、センパイは、こんなアルバイトばかりボクに振るんでしょう‥‥‥。
 そりゃー確かに‥他のメンバーに比べたら、ボクの身体能力は、一般人とさほど変わらないレベルですけど。
 たしかに、お金にも困っていたので、割の良いバイトがしたいとは思ってましたけど‥‥‥‥。
 ‥‥じゃなくて、少しはログインする前に設定した旅人のレベルを上げる努力しないと‥‥‥はぁぁぁ~‥‥‥。

 和也は、無自覚に盛大な溜め息を吐いていた。








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