次世代型ゲームのアルバイトに行ったら異世界に跳ばされたようです

ブラックベリィ

第11話ファンタジーのお約束?

 和也は、今まで居なかった筈の生き物の影が突然現れたのを見て、再びプレーヤー支援システムが働いたと思った。

 ボクの状況変化を誘発する為に、動物が投入されたという事でしょうか?
 ‥‥‥ファンタジー系のゲームで定石の飛竜?
 それにしては、ちょっと‥‥‥皮膜じゃなくて、鳥の羽根タイプの翼を持った飛竜ですか?
 やっぱり、ここでも、定番の肉食という設定なのかな? 

 少し離れたところに舞い降りた飛竜を見ながら、和也は首を傾げて考える。

 飛竜って、通常は肉食のイメージだけど、ボクの中のイメージは、果物やお酒も好きっていうのもあるから‥‥‥。
 取り敢えず、ゲームの内容を進める為に、さっき手に入れたデーツの房を持って‥‥近寄ってみよう。
 事なかれしていたら、何時まで経っても、このゲームが進まないもんね。
 三時間って結構長いなぁ‥‥‥‥。

 和也は意を決し、デーツの山から粒の多い房を三つほど手に取り、飛竜が舞い降りたそこに向かった。


 飛竜に近付くにつれ、和也はその大きさに息を呑む。

 うわぁ~‥思っていた以上に大きい‥‥けど、なんか‥‥‥もしかしなくても、大怪我してる‥‥みたいだ。
 なまじ体色が純白通り越して、蒼みを帯びるような白銀色の翼だから‥‥‥‥。
 へぇ~‥翼以外も鳥の羽毛なんだ‥鱗の無いタイプの飛竜?
 こういうプレーヤー支援は、本当に困っていただけに、助かりますね。
 ふむ‥‥‥怪我した飛竜を助けてってパターンですか‥‥‥。

 どーせ、ゲーム内のことと、既に飛ぶ為の力を失っているらしい飛竜に近付き、和也は取り敢えず声を掛ける。

 「大丈夫ですか?」

 自分でも面白み一つ無いセリフだと思いながら、和也は翼竜とでも呼んだ方が良いような姿の飛竜の真正面に立つ。

 「取り敢えず、食べれるんなら、デーツでも食べてみませんか? 腹の足しになるかもしれませんよ‥‥あっ‥その代わり、ボクは食べないで下さいね」

 そう言いながら、大怪我を負っている白銀色の翼竜の鼻先に持ってきたデーツの房を置く。
 翼竜は、和也の行動とセリフの真意を計りかねるというような仕草で首を傾げ、和也に思念で話し掛けて来る。

 〔面白イ子ダ‥我ヲ怖レヌノカ? ‥‥我ガ‥怪我ヲ負ッテイルカラ安心シテルノカ? ‥何故‥ソレヲ我ニ差シ出ス〕

 ふ~ん‥やっぱり、ドラゴンは思念を使って、心話するんだぁ~‥じゃなくて、やっぱり果実は食べないのかな?
 いきなり、ボクを襲って食べようとはしないところは、やっぱりゲームだからかな?

 そんなことを考えながら、和也は手傷を負ってなお、神々しいほど美しい白銀の翼竜から送られて来た問いに答える。

 「えーと、やっぱりデーツって食べない? ‥下手な獲物より美味しいし栄養価高いから持って来たんだけど‥‥‥」

 生々しい傷跡とは別に、その白銀の全身に墨汁で描かれたような鎖が絡み付いていた。

 「えーと‥つかぬことを訊きますが、貴方の躯に絡み付いているソレって、やっぱり捕縛とかの呪文かなんかですか?」

 興味津々の和也に、白銀の翼竜は首を傾げてから、差し出されたデーツを全て貪り喰らった。
 和也は知らなかったが、翼竜が同族以外の者から差し出された餌を食べるという事は、契約の証しだった。

 〔ヨカロウ‥‥‥我ハ其方ト契約シヨウ‥‥〕

 翼竜からの心話に、和也は内心で思いっきり感心していた。

 うわぁ~‥‥支援システム凄い‥‥普通の旅人に、いきなり、こんなに綺麗な飛竜‥‥‥って、そっか思いっきり《バグ》ったから、支援が凄いんだ‥きっと‥‥でも、嬉しいですねぇ。
 緋崎君や、緑川君、それに浅黄君だったら、どんな乗り物?を手に入れているんだろう?
 ボクで、こんな凄い飛竜なんだから‥‥‥‥緋崎君は気性が荒いから‥‥グリフォンとか‥‥似合いそう。
 緑川君なら‥‥‥彼、ネコ好きだから‥ウィングキャットとか似合いそうですねぇ‥‥‥。
 浅黄君だったら‥‥かっこつけが激しいし‥派手な容姿だから‥うぅ~ん‥‥やっぱり色鮮やかな飛竜かなぁ‥‥‥。

 などと思いながら、和也は、白銀の翼竜を見詰める。
 和也に見上げられていた翼竜は、勝手に自己紹介と契約内容を話し始める。

 〔我ヲ隷属サセヨウト‥‥‥我ガ身ニ絡ミ付キシ‥邪悪ナル呪術ヨリノ解放ト引キ換エニ‥我ガ魂魄ノ全テ‥我ガ誕生ノ時‥‥母ヨリ授カリ真名・銀嶺ノ名ヲ捧ゲ‥其方ニ差シ出ス‥‥我ガ主ヨ‥我ガ額中央ノ角ヲ折リ‥‥我ノ心ノ臓ヲ刺シ貫イテ下サイ〕

 そう言って、頭を深く垂れ、自分に角を差し出す白銀の翼竜に、和也は契約の内容がよく飲み込めないまま、切迫した雰囲気に負けて、額の角に手を掛けた。

 えっとぉぉ‥‥‥とにかく、角を手に取ればイイのかな?
 話しの展開が速すぎて、ボクには内容がよく読み取れないんですけど‥‥‥。
 ちょっと、この支援システムって強引かも‥‥‥‥。
 とにかく、角‥‥‥‥。

 和也が触れた次の瞬間、力も入れていないのに、額の角は根元から綺麗にポッキリと折れた。
 そして、和也の手の中で角はあっと言う間に、細身の剣の姿に変えた。

 えっとぉー‥やっぱり‥ゲームだから‥‥そういう流れなのかな?
 ‥‥取り敢えず、コレで心臓を刺せばいいのかな?

 和也は、白銀の翼竜が望んだ通り、角が変化した細身の剣で、心臓を深々と根元まで突き刺した。
 次の瞬間、白銀の翼竜は歓喜の声を上げて消失した。

「えっとぉー‥‥もしかして‥振り出し?‥‥」

 和也が、手の中に残った細身の剣を見ながら呟くと‥‥。

〔我ヲ召喚スル時ハ‥我ガ名ヲ‥オ呼ビ下サイ‥我ガ主ヨ〕

 ああ‥なんだ、まるっきり振り出しって訳じゃないんだ。

 そう思う和也の脳裏に、銀嶺が持つ、この世界の常識と知識が流れ込んで来るのだった。






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