次世代型ゲームのアルバイトに行ったら異世界に跳ばされたようです

ブラックベリィ

第4話デーツ



 自分でも充分に手が届きそうところまで降りてきているデーツに、和也は無意識のまま嬉しそうに微笑う。

 助かったぁ‥あのくらいの高さなら、ボクの身長でも充分にナツメヤシの果実が‥‥‥デーツが採れる。

 和也は疲れた躯に鞭打って、よっこらせと立ち上がり、鈴生りにみのった果実の重さで、頭を地上付近にまで垂れ下げたそこへと移動する。

 う~ん‥熱風で干し上がっているのに、この状態って事は、果実一つ一つは小粒でも、かなりの重量があるんだろうなぁ。
 まぁー‥一抱えなんて可愛い量じゃないから‥‥これだけいっぱいあるんだから、一房くらい採って食べても良いよね。

 そのナツメヤシの果実は、ちょうど、和也が手を伸ばすと指先が一番長い果実に届くぐらいの位置にあった。

 いっぱい有っても、今のボクにそれを持ち歩くだけの体力も袋も無いから、食べきれる分だけにしておこう。
 食べるのは小食なボクだけだから、欲張ってたくさん採っても仕様がありませんからね。
 それに、採ったデーツを入れるような袋も、何か入れ物になりそうなモノも今のところ無いし‥‥‥。
 んーと‥あの辺の一房が有れば、少しの間食べれそうだし‥‥‥‥‥一番長い房はちょっと量が多いから、二房隣りの量が少なめの枝が良いかな?

 首を傾げて、どの房を採ろうか迷った和也は、今の自分に必要な量がある房に目星を付けて手を思い切り伸ばす。
 和也はめぇーいっぱい背伸びして、何気なく一番長い房の茎を、そこに生る果実を潰さないように掴みながら、欲しいと思った二房となりの房の茎を、空いている手で掴んで、クイッと何気なく引っ張った。

 「よしっ‥‥これだ‥えいっ‥」

 その次の瞬間。

 ‥‥‥ミシッ‥ミシミシ‥‥ビキッ‥メキキキッ‥‥‥。

 軽く引っ張った、一房の茎が生えている幹の根元から、軽く折れる筈だった。
 が、その音は、ペキッというような可愛い音ではなく、怪しい異音が続けざまに響いた。

 ビキッ‥メキキキッ‥‥‥。

 突然の訊きなれない怪音に、和也は?を浮かべる。

 「えっ‥‥えぇ~‥‥‥うそっ‥‥ボクそんなに強く引っ張って無いのに‥‥‥」

 和也の心の底からの弁解めいた台詞が終わるのをまるで待っていたかのように、引っ張った房の茎以外のモノまでが、危険で怪しい音を響かせる。

 ビキッ‥ミシッ‥メキッ‥メキッ‥‥‥。
 
 限界いっぱいという言葉が相応しい程に、たわわに果実をみのらせ、その重さで頭を地上に向かって垂れ下げていたデーツは、更に怪音を響かせる。

 メキッ‥ベキベキッ‥‥‥‥。

 果実の幹から生えている全ての房の茎が放つ異音に、和也の焦り覚えたが、何も出来ないでオタオタする。
 そこに、更なる追い討ちを駆けるように、茎の根元が次々と連鎖的に折れる怪音を放つ。

 ビキッ‥メキッ‥メキッ‥ベキベキッ‥‥‥‥。

 ついには、果実をたわわにみのらせた全ての茎が、根元からばっきりと折れる音が響き渡った。

 ボッキンッ‥ボッキボッキン‥ボッキン‥ブンッ‥‥‥。

 それと同時に、果実の重さで垂れ下がっていたヤシの木の頭が勢いよく跳ね上がり、本来の位置へと戻って行った。
 が、和也はそれどころではなかった。
 握って引っ張った果実の茎に引っ張られて、盛大に砂地にコケていたからだ。
 もっともそのお陰で、果実の茎が全部折れたことで、果実の重さから解放され、本来の位置へと跳ね上がるナツメヤシの木に叩き上げられることもなく無事に済んでいたのだった。

 「いったぁー‥‥いきなり両手にデーツの塊が伸し掛かって‥‥コケちゃった‥‥‥うん?」

 両手いっぱいなどという可愛い量ではない完熟のデーツの重さに引っ張られて砂地にぺったりと座り込んだ和也は、デーツの小山に埋もれて、思わず小首を傾げて呟く。

 「うわぁ~‥どうしよう‥‥‥」

 どうやっても自分では処理しきれないようなデーツの量を前に、和也は重い溜め息を吐いて、首を振る。

 「まっ‥しょうがないか‥‥‥不可抗力だし‥‥‥」

 考えてたって始まらないと、和也は最初に狙って握った房の茎を握ったまま、取り敢えず立ち上がる。

 思考力散漫なのは‥きっと、お腹が空いたセイですね。
 取り敢えず、デーツを食べて一休みしたら考えましょう。

 自分にそう言い聞かせた和也は、一房を手に持ったまま、残りの果実はそのままにして、日陰を求めてヤシの木の根元へと戻った。
 ペタッとヤシの木に寄り掛かるように座り込み、取り敢えずの飢えを満たす為に、デーツを口に入れる。

 う~ん‥想像していたより、天然のデーツってずっと甘い‥‥こうなると、麦茶か緑茶が欲しいなぁ‥‥‥はぁー‥‥。

 黙々と樹上完熟の天然デーツを食べ、果肉の中にある種を、その辺に適当に埋める。
 が、流石にその甘さに負けて、十個目でギブアップした。

 「流石に、樹上で完熟した天然デーツの甘さは半端ありませんね‥‥‥頑張って十個が限界ですね‥‥七つ目で‥もうかなりキツクなってましたし‥‥‥‥」

 そうポツリと呟いてから、和也はハフッと大きく溜め息を吐き、深く思考する為に双眸を閉じる。

 はぁー‥‥疲労しきった脳の栄養の‥‥取り敢えずの糖分は摂りましたから‥‥‥考えないと‥ん~‥‥‥と。

 双眸を閉じたセイで急速に眠気が襲い掛かり、和也はそまま眠りへと転げ落ちたのだった。




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