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次世代型ゲームのアルバイトに行ったら異世界に跳ばされたようです

ブラックベリィ

第3話オアシスでひとやすみ


 取り敢えず、どういう経緯で此処に自分が来たかをじっくりと思考したが、判らなかった。

「なんにも思い当たるモノが無い‥‥‥と言うか‥‥ふっつりと、記憶が無いんですけとぉ‥‥‥‥」

 砂漠のど真ん中で目覚める前の記憶が、それこそ綺麗さっぱりと無い事を自覚した和也は、取り敢えず、此処最近の記憶を辿ることにした。

 「えぇ~と‥‥最近の記憶は‥‥‥ぅん?‥」

 和也は、記憶の底から何かがふわりっと浮かび上がったことに意識を向ける。

 「ああ‥‥そういえば、ボクは相沢センパイの紹介で、アルバイトの面接に行ったんだっけ‥‥‥‥」

 つい最近も、体力増強の為とか言って、階段の段数を調べるなんて、得体の知れないバイトさせられたっけなぁ‥‥‥。
 あの時は、確かボクの体力を考慮して、体力魔人の緋崎君も同じ同じバイトで‥‥‥。

 って、あれ? そうするとコレも‥‥バイトなのかな?

 その事に気付いた和也は、小首を傾げ、ちょっと頭の横に指先を付けて考える。

 こうなった経緯の記憶は綺麗さっぱり無いけど‥‥たぶん、コレはバイト‥‥だと思う‥けど‥‥。

 「はぁ~‥なんか、延々と炎天下を歩いたセイでお腹が空いてきちゃったけど‥‥なんにも無いんだよねぇ‥‥カバンとか持ってたんなら、チョコやキャラメル有ったのに‥‥」

 そうぼやきながら、和也は自分が寄り掛かるヤシの木を見上げる‥‥‥と、それは見事なほど、たくさんの果実が生っていた。

 ぅん?‥うわぁ~‥このヤシの木の果実って‥‥ココナッツジュースのココヤシの方じゃなくて、全部ナツメヤシだぁー。
 天然の完熟デーツが、あんなにいっぱい‥‥‥‥。
 きっと、乾燥した熱風のお陰でドライフルーツ状態になったんだろうなぁ。
 ああ‥見るからに、美味しそうだなぁ‥‥‥。

 和也は、その心情のまま、無意識に両手を伸ばすが、当然、デーツには手が届かない。

 あぁ‥くっそぉー‥‥こっからでも、鈴生りの果実が熟して、ドライフルーツになっているのが判るのにぃ‥‥‥‥。
 はぁ~‥デーツが一房あれば、砂漠を渡るにしても、しばらく困らないのにぃぃぃぃ‥‥‥‥。

 とうてい手が届かないところにある、たわわなデーツを見上げ、和也は無意識にぼやく。

 「疲れているから、疲労回復にイイのになぁ‥‥‥‥」

 ナツメヤシの実であるデーツと、お水さえあれば、栄養補給に事欠かないから、体力の平均値が一般人より少し良い程度のボクでも、砂漠を渡れるのに‥‥‥。
 なんと言っても、デーツは、砂漠を渡る商人が携帯食料として持ち歩く、栄養価の高い最高の携帯食料だからね。

 そこにあるのに、手に入らないというジレンマに、和也は無意識に親指の爪をガジガジと噛んでしまう。

 どうにかして、あの一房だけでも欲しいんけど‥‥‥‥。
 ボクの腕力じゃ‥こんな高いヤシの木の先端近くにある果実を採るのは無理なんだよねぇ‥‥‥‥。
 だって、木登りが苦手とかいう以前に、果実が生っている場所にまで登る為の枝が全然無いから‥‥‥‥。

 和也は、滑らかな木肌を撫でて、溜め息を付く。

 「はぁ~‥‥‥無理だよねぇ‥‥‥‥」

 このヤシの木の表皮、結構ツルツルしてるから‥ボクの腕力や握力じゃ‥力尽くで登って行くのは無理。
 これが、緋崎君だったら、簡単にこの太いヤシの木をスルスルと登って、採って来れるんだろうけど‥‥‥。
 ここには、頼みの綱となる緋崎君は居ないし‥はぁ~‥‥。

 重い落胆の溜め息を吐いた和也は、自分の頭上高くにある鈴生りの果実を物欲しげに見てから、再び考える。

 う~ん‥出来れば一房欲しいけど、ボクには登って採ってくるなんてマネは無理だから‥‥‥。
 あっ‥そうだ‥その辺に、熟しきってドライフルーツんなったデーツ落ちてないかなぁ?

 木登りして採るのは無理だけど、少しでも良いからデーツが欲しいと思い、和也は何処かに熟しきって落下した果実が無いかと辺りを見回す。

 欲を言えば、一粒二粒がパラパラじゃなくて‥‥‥‥。
 こう、何かの拍子に、房ごと落ちて無いかなぁ‥‥‥って、そんな都合の良い事なんてある筈ないよね‥‥‥‥。
 ここは地道に‥‥えっ?嘘っ‥。
 さっきまで、あんなに垂れてなかった筈‥‥‥‥。
 でも、あんだけ下がっているなら、採取できるかも‥‥‥‥。

 和也はその光景が瞳に飛び込んで来た瞬間、あまりにも信じ難い光景だったので、思わず目を擦る。
 が、それは飢餓感がもたらした夢でも幻しでもなく、そこに存在していた。

 まさに、鈴生りという言葉が一番合うほどたっぷりと果実を付けた太いナツメヤシの木が大きく撓り返り、その頭の重さに負けて、地上に向かって限界まで弧を描いていた。
 その姿は、まるで収穫まじかの秋の稲穂のように、大きく頭を地上に垂れ下げていた。






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