高級スーパー☆チャンス堂

清水レモン

外で聴くと最高

ピー。
なになになに!?
「それ危険だから、やめなさい」
と呼び止められて言われた。
「どういうのでいすか?」と聞き返す。
「聞こえるの?」と警官が聞き返してくる。
何を言ってんのこのひと。お姉さん、なんでおれを呼び止めた。
こちらは自転車で走っていて、気分爽快に坂道を下りてきていたところ。
ペダルから足を浮かせてた。もしかして、それが原因か。なのか。
「聞こえるならいいけど、それ、そのヘッドホンそれイヤホンていうの。それつけて走るの。危ないでしょ」
「危なくないですよ」
「危ない。まわりの音が聞こえなくなるでしょ。聞いてるの音楽?」
「です。はい。でも、まわりの音も聞こえてます」
「見てるほうには、わからない」
「むしろ風の音が聞こえるくらいがちょうどいいのでボリューム調整してます。かなり絞って聴いてます」
「どうしてそこまでして音楽を聞きたいの? 家で聴けばいいでしょ」
「陽射し。風。外で聴くと最高ですです」
「ふざけてるの?」
ふざけてません。
「ルールは守りなさい」
ルール?
「自転車走行しながらイヤホンで聞くのはご法度よ」
「そうなんですか!?」
ヤベおれ法律違反やらかしたのか。つかまるのか。
おれはイヤホンを外す。外したイヤホンは本体から抜いてポーチにしまった。
「OK」ピー
はい、どうぞ?
行っていいんだ。いいみたい。見逃してくれるのか。
「ありがとうございます」
おれは一礼して警官の前を通り過ぎた。
少し旋回気味に走ったとき、パームツリーとパームツリーの間の雲が勢いよく流れているのに気づいた。
雲って、あんがい早く走るよな。


ここか。
おれは見上げる。
看板。

『高級スーパー☆チャンス堂』

高級なんだ。な?
外壁は白く、いや淡いピンクか、なにか微妙なグラデーションかかってる色彩に見える。
陽射しのせいかも。
光の加減で色そのものが変化して見えてしまうことがある。
とくに今日みたいな日、風が強くてまぶしい陽射しでサングラスというかゴーグルそのものが必要な天候のときは。
おれはサングラスの上からゴーグルかけている。
砂の微粒子が目に入るのを防ぐためだ。
サングラスをしていないと、予想もしない場面で、
『う! ぅ!!』て。
思わず目を閉じてしまったり。
すると走行中かなり危険。だからサングラスは必要不可欠さ。身を守るため、ドライバーを守るためだ。
うっかり交通事故を発生させようものなら、相手にも迷惑かかる。
たとえ一方的こちらに非があったとしても、相手が車で無傷で済んだとしても。保険で車の修理費が出るとしても。
事故対応で時間とられて、それはそれはそれはもう、迷惑をかけてしまうことになる。
だから。


「うわあ。またなんていうか、その、それは」
会うなりの挨拶みどりが言う。
彼女はサングラスが嫌い。らしい。サングラスかけてる男を見るとイラって。するんだってさ。なんだそれ。
「早かったね」おれが言う。
「バスは遅れたんだよ?」
「そうなんだ」
「だから遅れちゃった。て思って。あきら怒って帰っちゃった。かと思った」
「ごめん」
「チャリのほうが早い。だっけ?」
「遅れてゴメン。なさい」
「チャリなら早い。じゃありませんでしたっけ?」
「安全運転してしまいました」
「それは正しい。むしろ正しい。あきらの時間配分がヘン」
バスで一緒に行こう。そう言われていたんだけど、おれは自転車にした。
だって。なんでバスで一緒。一緒にいられるとこ、見られたくないんだろ?
正式に『一緒にいるところ見られたくない』と宣告されたのは小学生のときだったが、ときどきおれの脳内にあの日の彼女の声がこだまする。それで、つい。
一緒にいるとこ、あんま見られたくないんだろ。と、なげやりに言ってしまったりする。
「そ。それは。それ? それは、まあ、そうなんだけど」みどりがくちごもる。
「一緒にいていいなら次はバスにする」
「いていいもなにも今は一緒じゃない」
「そうなんだよ、それなんだよ。なにが違うの?」
「ちがうのって、なにが?」
「ごめん。わかんない、おれも。いいや」
「へんなの」
「へんだよ」おれは答える「もともとじゃん」
すると、みどりが少しだけ笑った。ように見えた。


オープン前の店舗だったが、従業員だろうか。ひとは多い。
作業着に混じって、スーツ姿も多い。指揮監督者だろうか。
ぐるり。見回す。
敷地の周囲にはパームツリーが植えられている。
もうすでに、かなりの高さだ。
運ぶのも植えるのも大変だっただろう。
そのとき、見たかった。
運ばれてくるパームツリー、見てみたかった。
どんなか、見たかったよ。
植えるときのパームツリー。
どんなふうに植えるんだろうな。
「あきらは植木のほうが気になるようです?」
みどりが言う。またそのなんかヘンな言い方だな。
「気になるていうか見てるだけ。見ちゃうだけ。ていうか、植木ってパームツリー」
「そのパームツリーですが寒さには強いのかしらね」
「寒さ?」
「そ。このあたり夏は暑いからいいけど冬たまに雪積もるでしょ」
「めったにない。けどね」
「その滅多が来たときは?」
「少しくらい大丈夫だと思う」
「その根拠は」
「写真で見た」おれはポケットから一冊の文庫本を取り出す「ほら。これ。これ。これなんだよ。ええと。どこだったかな。あ。これだこれ、これ。ほら。この写真。見て見て見て」
「へえ。雪かぶってる。どこだろ」
「南国ではない。と思われる」
「でしょうね。日本? かしら」
「ソテツの多い九州だって、積雪量かなりあったりする。らしいよ」
「そっか。意外と平気なのね」
「南国系だって寒さには強いんです」
「どうかしら」
「土地に馴染めばいいんだよ」
「土地にあわなければ」みどりが笑う「枯れるだけだし。ね?」
あんまりだな、おい。


「わざわざ高級って名乗るだけのこと。あるらしいわよ」
みどりが言う、
「プロが使うような食材とか。産地も明確。お値段高めでも納得の品質ていうか、品揃えがいいんだって。お母さんの妹が話してた」
「詳しいんだ? お母さんの妹さん」
「うん。レストランで働いているから」
「食材には詳しそう」
「料理も上手」
「料理教わってるとか?」
「わたし?」
「みどりも。みどりのお母さんも」
「教わりたいんだけど教えてもらえない。ていう感じかな。忙しそうだし」
「忙しいんじゃしょうがないね?」
「しょうがないんだけど教わりたいね」
「だよな」
「おばが言うには、さんざん仕事で作ってるから休みのときくらいむしろ作って!って」
「ああそれわかるな、わかるわかる」
「わかるんだ?」
「さんざん予備校で勉強してるから学校では遊ばせてくれよ~!っていう」
「意味不」
「でも今日みたいに遊べるから、まあいいや」
「ほんと意味不」
「で。電話で言ってたよな? 目的って。それって」
「そうそうそれなんだけど。私さあ」
「ああ?」
「今度ね?」
「うん?」
「バイト。はじめようと思うの」
「バイト。家庭教師とかかい?」
「教えられるもの、なにもないよ」
「ピアノは?」
「音大生の特権。じゃないかな」
「家庭教師は無理かあ」
「お給料は良さそうだけどね」
「なにかやりたいことあるの?」
「それそれ。やりたいことっていうよりも」
「うん」
「バイトここでやりたいな。って」
「場所から来たか!」
「そう。土地で選んでみました」
「じゃあ今日って仕事探し!?」
「も兼ねてる。かな?」
「じゃあここも候補?」
「ではないけど、一応募集広告はチェックするよ」
「チラシにも書いてあったよ?」
「そのチラシに『詳しくは店頭掲示ポスターで』って」
「誘導かあ」
「来て欲しいのもあるんじゃない?」
「お店に? 直接?」
「そう」
「まだオープンしてもいないのに!?」
「まだオープンもしていない。だからこそ、来て見て欲しい。とか?」
「プロの世界はおくが深いな」
「あきらは働かないの?」
「なんで働かなきゃいけないの?」
「いけなくないけど、お金いつも欲しそうじゃん?」
「そんなに飢えてません」
「へえ?」
「おれ、お金に困らないタイプなんで」
「へえ。じゃあなんで模試代ちょろまかしてるの」
「ちょ」
「知ってるんだから。聞いたよ私。模試受けるって言ったからお金渡したのに模試受けずに」
「え」
「まさかバレてないとでも!?」
「あ」
「ん。んー。ん。ん?」
「え」
「ふ」
「あ」
「バレテナイって思ってたのね」
まさか。
「ごしゅうしょうさまです」みどりペコリ頭を下げてポニーテール揺れた。
「その言い方やめろよ」
「やめろ。その言い方?」
「おう」
「どの言い方ならいいの?」
「お」
「言い方の問題じゃないと思うんだけどね私は」
「せめてレストインピースと」
「れすと。どういう意味?な」
「安らかに眠れです」
「意味不だわ」





コメント

コメントを書く

「現代ドラマ」の人気作品

書籍化作品