86.　まるで別世界

86.　まるで別世界

　オレは夏帆の教室にたどり着く。大きく深呼吸をしてその教室の扉を開けると、ちょうど夏帆が出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ！……え？」

「おう」

「あの……お一人様ですか？」

　夏帆の反応を見てオレは申し訳ない気持ちになる。こいつはこいつなりにオレに気をつかってくれていたんだな……

「夏帆。お前の当番いつまでだ？」

「え？えっと……お昼過ぎまでですけど……」

「そうか。なら終わったら連絡くれ」

　夏帆のクラスのクラスメートがざわついていたが恥ずかしい気持ちはなかった。それよりも夏帆に気をつかわせていたことの申し訳なさの方が大きかった。

「あの……」

「文化祭……一緒に回ろうぜ？嫌なら別にいいけど」

「いえ！全然そんなことありませんよ！」

　夏帆の顔が一気に明るくなる。やはりこいつの笑顔が一番かわいい。

「じゃあ終わったら連絡してくれ。待ってるからさ」

「はい！」

　こうしてオレたちは二人で回る約束をした。夏帆も楽しそうだし、これでよかったんだよな。

　夏帆と一緒に文化祭を回れると思うと自然と心が弾む。しかしそれと同時に緊張する。今までとは違う。するとお昼前なのに夏帆はオレの元へやってくる。

「すいません！お待たせしました！」

「早くね？どうかしたのか？」

「なんか……クラスのみんなが協力してくれて……早く来ちゃいました。」

「そうなのか……。いいクラスメートに恵まれてありがたいことだな？」

「はい！……あの……とりあえずどうしましょうか？」

　なんか夏帆も緊張しているのか？妙にそわそわしてる気がする。でもまぁせっかく来たわけだし適当にぶらつくことにしよう。

「んー……じゃあ適当にブラつこうぜ。時間はたっぷりあるし」

「はい！じゃあ行きましょうか」

　そしてオレたちは歩き出す。特にこれといって行く場所があるわけではないが、どこかへ行こうとしているだけでも十分楽しいものだ。

「あの先輩？急にどうしたんですか？学校ではあんなに一緒にいるの嫌がってたのに……」

「ああ……その……今まで悪かったな。お前ずいぶん気を使ってくれてたんだな。すまなかった」

　オレの言葉を聞いた瞬間、夏帆は嬉しそうな顔をしてこちらを見る。

「もしかしてついに私の彼氏を認めてくれたんですか！？」

「うぜぇ……そうじゃねぇよ。別に学校で話しても問題ないと思っただけだ。オレとお前は友達なんだからな。勘違いすんなよ」

「もう素直じゃないですね先輩は〜。私にはお見通しですよ？」

　なぜか勝ち誇ったような顔でこちらを見てくる夏帆。くっ……なんだこの敗北感は……

「でも……先輩が誘ってくれて嬉しかったです。もう文化祭は一緒に回れないと思っていましたから」

「そうか……」

　それからオレたちは校内を見て回った。正直何を見ても新鮮だった。普段と違う雰囲気の学校はまるで別の世界に迷い込んだかのように感じられた。それはきっと隣にいる夏帆も同じだろう。

「ふぅ……だいぶ回りましたね」

「ああ……結構時間経ったな」

　時刻は17時30分を過ぎた頃だろうか。もう外は暗くなり始めている。

「そう言えば！この後、校庭で文化祭の最後を締めくくるキャンプファイヤーをやるんですよ！楽しみですよね！」

「おう。そりゃ楽しみだな」

　こうして、オレたちはこの後始まるキャンプファイヤーを待つことにするのだった。