【大賢者の弟子?相棒?】世界の為に尽くした大賢者は転生したらただの『アイアンソード』で草生えたので、とりあえず貴族令嬢を最強にする事に決めました。

夕姫

42. 幸せ

第3章 令嬢と大賢者。熱砂舞う王国の闇



42. 幸せ



 こんにちは。大賢者アイリス=フォン=アスタータよ。無事にシャルドール防壁を守り抜いたサーシャとマーリンは目的のフランガラン帝国に向かうため、バルムンド公国を南下して船に乗るために港町のデルタにたどり着き、今は潮風が心地よく肌を触れていくオープンテラスのシーフードレストランで食事をしている。

「あのマーリン様。聞いてもいいですか?」

「なんじゃ?」

「他の英雄の方ってどんな感じの人なんですか?例えば、大賢者アイリス=フォン=アスタータ様とか?」

 なぜサーシャは私の事が知りたいのかは分からないけど、まぁ別に減るものじゃないから言いけど。でも……なんかマーリンは余計なこと言いそうで嫌なんだけどさ。

「アイリス?そうじゃな……いつも暇があれば本ばかり読んでいるガリ勉で、つまらなくて……」

 魔法の勉強と言ってね?つまらないは余計よ。

「あと、怒られないようにうまい立ち位置におって……」

 怒られるのはあなたがその場のノリとかで行動するからでしょうに。私と比べないでよ。

「あとはずるい女じゃな」

「ずるい女?」

「うむ。アイリスの神聖魔法は魔族に有効な攻撃手段じゃろ?じゃから、いつも美味しいところばかり持っていっておったわ」

 ちょっと待ちなさいよ!マーリン!あんたそれじゃ私が毎回いい所どりしてるみたいに聞こえるでしょうが!

 こう見えても私はみんなを援護する補助魔法や回復魔法だって使ってたでしょうに。年取りすぎて記憶なくなったのかしらこの魔女は。

「世界を救ったあとは、みなさんはどうしたんですかね?マーリン様は知らないんですか?」

「知らんの。あの時、あの場所で別れてからは各々が好きな事をして生きたんだと思うぞ?あっ。でも一度だけケビンの小僧に会ったかのう」

「ケビンさんですか?」

「うむ。ただの盗賊の生意気な小僧じゃ。アイリスのことを姉さんと呼んで慕っておったわ。なんでもアイリス、アイリスと騒いでおって……ワシにとっては舎弟じゃ。思い出したら懐かしくなったのう」

 ケビン。彼は私やマーリンと同じ1000年前に世界を救った英雄の1人。元は盗賊団の少年で、なんか成り行きで仲間になったのよね。でも旅の中ではケビンの盗賊のスキルの鍵開けやら罠感知能力に助けられたりもしたわ。更に風魔法の素質があって私やマーリンが教えてあげたこともあったっけ……

「へぇー。そうなんですね。マーリン様は今でもケビンさんの事を覚えてるんですね?」

「そうじゃの。確かにあやつは憎めない奴じゃったわい。それにあれほど純粋な心を持った人間はなかなかいないからのう。あの時は若かったからじゃろうが。まぁ……今思えばアイツもワシの可愛い弟分と思うておる。もう会えることはないんじゃがな……」

 マーリンはどこか寂し気な表情を浮かべながら空を見上げる。

 ……私もこの『アイアンソード』に転生をしなかったらマーリンと出会うこともなかった。もしかしたら……私は幸せなのかもしれないわね。

「あの……マーリン様。マーリン様のお弟子さんって誰かいるんですか?マーリン様は大魔女なのでお弟子さんを取ったりはしてないのかなと思って」

 その言葉を聞いてマーリンは少しだけ黙る。私にはその理由が分かるけど、それをサーシャに話していいものか……。

「……ふむ。そうじゃな。昔に一人だけいたぞ。ワシが鍛え上げた弟子がな。そいつは才能もあって将来有望な男だったんじゃ。……常闇のレヴィとの戦いで命を落としたがの。」

「え?す、すいません……」

「謝ることではないぞサーシャ。1000年前にワシは弟子の仇を討ち、世界を救った。ただそれだけじゃ。」

 マーリンはサーシャに優しく微笑みかける。サーシャはマーリンの言葉を聞き、悲しげな顔をしながら俯く。そんなサーシャの様子を見てマーリンは言う。

「だからサーシャよ。お主は死ぬんじゃないぞ?」

「……はい!」

「うむ。では食事を楽しむとするかの」

 マーリンとサーシャは楽しく会話しながら食事を済ませ、店を出て港町デルタにある船着き場に向かう。そして船着き場の近くの店で2人は船のチケットを買うために並んで順番待ちをする。

「魔法船?ほう。こんな便利なものがあるのか。これは便利じゃな」

 マーリンは魔法船が停泊している港を見ながら呟く。確かに凄い魔法技術ね……魔力伝導率とか因果律とかどうなってるのかしら?興味深いわね。

「はい。これでフランガラン帝国まで行くんですよ」

「そうじゃな。楽しみにしておこう」

 そしてチケットを買って、いざ魔法船へ。マーリンはピンク髪のツインテールを揺らして、子供のようにワクワクした気持ちで魔法船に乗り込む。サーシャはその様子にクスリと笑う。

「……なんじゃ?」

「いえ、なんでもないですよ」

「……お主性格悪いぞい」

「ひどい……」

 こうしてサーシャとマーリンはフランガラン帝国に向かって魔法船で出航するのでした。

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