【最強知識の聖女様】私はただの聖女なのです。本の知識は優秀なのです! ~聖魔法?そんなの知らないのです!~

夕姫

101. 聖譚曲(オラトリオ) ~マルセナside~

101. 聖譚曲(オラトリオ) ~マルセナside~




 聖女マルセナはその黒いローブのロゼッタと名乗る少女の後ろを黙って歩いている。この少女はなぜか私の事を知っている。そしてロゼッタという名前どこかで聞いたことがある。そして私を助けてくれている以上ランバート王国の軍ではなさそうという事だけは分かる。

 今の自分の状況を考えれば、もしかしたらこの少女が救世主になるかもしれない。そう思うところもある。

 しばらく歩くとある場所にたどり着く。そこはみんなと別れてしまったあの古い倉庫だった。

「ここじゃ。入るぞ」

 ロゼッタに言われ聖女マルセナは中に入るとそこには昔から知っている自分を慕ってくれている幼い顔の少女と赤い髪のおさげの少女が自分を笑顔で迎えてくれたのだ。

「ラピス!?エルミン!?」

「マルセナ様!」

「無事で良かった…」

 2人は駆け寄り抱きしめる。その2人の温もりを感じ涙を流す。そんな3人を見てロゼッタは優しく微笑む。

 しばらくして落ち着いたのか、マルセナが口を開く。ロゼッタにお礼を言いたかったのだが、まずは確認したいことがあった。それの2人に頼まれたのだろう。

「あのありがとうございます。あなたたちは?」

「ワシはロゼッタ=ロズウェルじゃ。アリーゼに頼まれてお主を保護しにきた。」

「ボクはフィオナ=マクスウェル。アリーゼ様とは一緒に旅をしているの。よろしくね。」

「私はソフィア=エルヴァンド=マジカリア。賢王ギルフォードの血縁の者です。お見知りおきを」

 アリーゼその名前を聞くと複雑な気持ちになるが、マルセナはそれが分かると安堵の表情を浮かべながら改めて挨拶をする。

「マルセナです。助けてくれてありがとうございます。感謝いたします。」

 そう深々と頭を下げた。そして今起きていることを話す。

「公開処刑…それってダメなんだよね?」

「うむ。しかしどの国でも起こっているのは事実じゃ。」

「でもそれならマルセナ様の聖魔法でやっつけちゃえばいいのではないでしょうか!」

「うん。マルセナ様の聖魔法は凄いから」

 ラピスとエルミンの言葉に胸が痛くなるがマルセナはそのまま話すことにした。

「私は……「聖痕」が消えて、もう聖魔法は使えないわ。愛してしまったのライアン王子を。だからもう聖女でもない。」

 俯きながら悲しそうな声で語るマルセナにみんなは言葉を失う。だがすぐに気を取り直しソフィアが話す。

「あっとりあえずアリーゼ様とミルディさんに報告しましょう!」

 ソフィアはミルディの通信魔法具に魔力を込める。するとしばらくして光だし声が聞こえる。

 《もしもし?ミルディだけどどうかした?》

「ソフィアです。無事聖女マルセナ様を保護できました。」

 《えっ!?本当に!?良かった!》

 その通信魔法具の向こうにはアリーゼがいる。あの時から一度も会話をしていないしアリーゼは怒っているかもしれない。自分が聖女でいたいがために本当は憧れていた聖女アリーゼを追い出してしまったのだから。そんな不安がある中、それでもちゃんと話しをしないといけないと思い勇気を出して話しかける。

「あのソフィアさん。少しいいですか?ふぅ…あの…アリーゼ?」

 《その声はマルセナなのです?お久しぶりなのです。無事で良かったのです。》

「えっ…ええ…」

 その優しい口調に思わず涙が出そうになる。やはりこの子は悪い子じゃない。私の知っているアリーゼなのだと思うと嬉しかった。

 《それでそちらの様子はどうなのです?何か困ったことはないですか?》

 その質問にマルセナは今までの経緯を話す。アリーゼなら私のことを理解してくれる。そう信じているから。

「だから…私は助けたい…」

 《……助けるのです》

「えっ?でも私は…もう聖魔法は使えない…」

 《聖魔法?そんなの関係ないのです。マルセナは立派な聖女なのです。あなたならできるのです!》

 そのアリーゼの言葉に不思議と力が湧いて来る。それでも…。続けてアリーゼが話す。

 《マルセナ。いつからか仲が悪くなってしまったけど、私はあなたのことを同じ「聖女」として尊敬しているのです。》

「アリーゼ…」

 《だからマルセナ。あなたが止めるのです!助けるのです!聖女として!》

「うん…」

 やはりアリーゼにはかなわない。そう思いながらも決意する。そうだ。「聖女」である自分が止めなければ誰が止めるのだ。聖魔法は使えないけど、聖女としての誇りは失ってはいない!

 《ごめんアリーゼ…もう限界かも…》

 《マルセナ。必ず会いましょう。私も必ず聖女として止めるのです!》

 そこで通信は途絶えた。憧れの聖女に言葉をもらって感謝する。ここからは私1人…でもマルセナの目に迷いはなかった。

「皆さんお願いがあります。危険なことは承知しています。でも、私を処刑が行われる大広場まで連れて行って下さい。私が必ず処刑を止めるわ!」

「うむ。それならば協力をするのじゃ。いいかフィオナ、ソフィア」

 ロゼッタの言葉に2人は首を縦にふる。もちろん自分を慕ってくれている、ラピスとエルミンも。大丈夫。これが私の聖女としての覚悟なのだから。私が憧れた聖女アリーゼに尊敬されているならもう迷うことはない。

 マルセナは聖女として大広場に向かって歩き出すのだった。

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