【最強知識の聖女様】私はただの聖女なのです。本の知識は優秀なのです! ~聖魔法?そんなの知らないのです!~

夕姫

78. 心づもり ~マルセナside~

78. 心づもり ~マルセナside~



 聖女マルセナはレオンハルト王子の言葉……嘘であることを信じて、ただひたすら走り王宮のライアン王子の部屋の前にたどり着く。心臓の鼓動が激しくなる。逃げ出したい気持ちはある。あの言葉が本当なら?今までのことがすべて崩れる。そう思うと足がすくむ。それでも、私は……! ゆっくりと扉をノックし返事を待つ。少しして扉が開き中からライアン王子が出てくる。

「聖女マルセナ様?どうしたんだい?そんなに慌てて?とりあえず部屋にはいりたまえ」

 私は促されるまま部屋にはいる。部屋のソファに座るように言われ腰かける。

「それで?どうしたんだい?」

 優しい笑顔で話しかけてくる。その表情を見るだけで胸の奥が痛くなる。

「あの……えっと……」

 言葉にならない。声が出なくなる。体が震える。

「大丈夫かい?顔色も悪いみたいだけど?何かあったのかな?」

 優しく問いかけられる言葉すら私の心を締め付ける。言わなきゃいけない……。逃げちゃだめだ。ここで逃げたら何も変わらない。

 でも怖い……っ!

 私は……!ふわりとした感触に包まれる。気が付くと目の前には王子の顔があった。抱きしめられていることに気が付き顔が熱くなっていくのを感じる。何が起こったのか理解できない私を他所にそのまま頭を撫でられながら優しく語りかけられる。

「愛しているよマルセナ。君だけをずっと愛していたんだ。だからどうか不安になることはないんだよ。それにまだ式はあげていないだろう?こんなに急な話なんて普通はありえないからね。安心してほしい」

 その言葉を聞いて私はライアン王子から勢いよく身体をはなす。

「聖女マルセナ様?」

「ライアン王子…聞きたいことがあるんです。私に近づいたのはカトリーナ教会を手中にいれ、セントリン王国を侵略するためだったんですの?」

 私がそういうとライアン王子の顔色がみるみると変わっていく。

「どこでそれを…?」

「…本当なのですわね?」

「違う!初めはそうだった。しかし君を愛しているのは本当だ!信じてくれ!」

 そう言うライアン王子の頬を私は平手打ちする。

 パシンッ!! 乾いた音が部屋の中に響く。信じていたのに…本当に好きになっていたと思ったのに……っ!裏切られたことへの悲しみが込み上げてくる。

 私は涙を浮かべながらその場を走り去る。後ろから引き留めるような言葉がかけられたが振り返ることなく走った。

 どこに行けばいいのかもうわからない。今は一人になりたい。もう誰とも会いたくない……。どうして……なんでこうなってしまったの?誰か教えてほしい……助けて……お願い……。私は意識を保つことができなくなっていた。



 気づくと辺り一面草原になっている場所まで来てしまっていた。

 ここは昔、お母さまに連れられてピクニックに来たことがある場所に似ている。懐かしい気持ちになった。ここならゆっくりできそうだ似ている。懐かしい気持ちになった。ここならゆっくりできそうだと思いその場に座り込む。風がそよいでとても心地が良い。

 しばらく目を閉じて風に身を任せていると近くで草を踏むような音が聞こえる。人がいる?

 警戒しながら音の方に目を向けるとそこに立っていたのは銀色の長い髪をポニーテールにした女性がいた。

「どうしたのです?マルセナ」

「!?アリーゼ!?なんであんたがこんなところに!?」

「どうしてなのでしょうかね?聖女は困っている人を助ける存在だからじゃないでしょうかね?」

 そう言いながらこちらに向かって歩いてくる。その姿を見た途端私は無意識のうちに彼女の胸に飛び込み涙を流していた。彼女は驚きながらも優しく抱き留めてくれた。その優しさに触れさらに泣き出してしまう。

 しばらくして落ち着いてきた頃を見計らい私の背中をさすりながら聞いてくる。少し恥ずかしかったけど彼女なら良いかと思い先ほどあったことをすべて話すことにした。話し終わると彼女が呟くように言ってきた。

「どっちでもいいのです!」

 即答ですか……。この人はこういう人よね……。それを聞いた瞬間、なぜか身体中の力が抜けてしまい思わずへたりこんでしまう。

「まぁでも今更そんなことはどうでもいいと思うのです。マルセナはライアン王子のこと好きなのです?」

「……うん……」

 自然と言葉が出た。私はライアン王子が好き。だから裏切られていたことが許せないし何より悲しい。そんな私にアリーゼは続けて話をしてくる。

「でも同じじゃないのですかね?マルセナもライアン王子も。」

「同じ?」

「2人とも心づもりは同じだと思うのです。マルセナは聖女を捨てて1人の女性として生きることにした、そしてライアン王子もきっと国政の為だった過去を捨ててマルセナを1人の女性として愛しているのではないのですかね?」

 その言葉を聞いて私は覚悟をしていたのに。なんて弱い人間なんだ。ちゃんとライアン王子の話を聞くべきだった。

「あの…アリーゼ?」

「なんです?」

「その…あの時あなたをカトリーナ教会から追い出すようにしてごめんなさい。許してほしいとは言わないわ。」

「ふふっそれはに言ってあげるのです。きっと許してくれると思うのです。」

 そうアリーゼが話すと辺りが白くなり視界が戻る。するとそこは自分の部屋。さっきまでのは夢…?私は夢を見ていたの…?深呼吸をする。私はあのあと自分の部屋に戻っていたんだ……。

 誰かに助けて貰いたいそう願ってアリーゼが出てきたのは皮肉なものだけど……。いや違う。私はアリーゼのような聖女になりたかったんだ。「理想の聖女」そう思うことができていたら……

 もう逃げるわけにはいかない。何があっても迷わない。だって私は私らしく生きると決めたのだから。もう一度ライアン王子の話を聞くべきだわ。聖女マルセナは部屋に飾ったアストラムの花を見て決意するのだった。

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