【最強のパン屋爆誕!?】~すべてを程よく焼きつくす私の炎魔法が周りから『パン魔法』と呼ばれてなぜかバズっていた件~

夕姫

29. まるでパズルのピースように繊細に ~騎士団side~

29. まるでパズルのピースように繊細に ~騎士団side~



 海沿いの街エラドール。そこの中央にある大きな屋敷。聖都リーベル=アイル騎士団の詰め所の執務室。1人の若き騎士団長ロランは東の洞窟のガルーダの件についての調査資料に目を通していた。

「やはり……相当な危険人物だな。『パン魔法』の女。」

 ロランはつぶやくと、その報告書を机の上に投げ捨てた。

 危険人物。もちろんあのガルーダを単独で討伐したこともそうだが、ガルーダを倒す程の強力な炎魔法を使っていながら周りになんの被害も及ぼしていないことの方が余程異常だった。

 まるでジグソーパズル。そこにしか当てはまらないピースのようにぴったりとガルーダを絶命させるほどの炎魔法を使ったのだ。

「一体どんな女なんだ……」

 ロランはそう言うと椅子から立ち上がり窓の外を見た。そして大きくため息をつく。するとその時、執務室の扉がノックされた。

「入れ!」

 ロランは振り向きながら言った。扉が開かれるとその向こうには1人の獣人の女性の姿があった。

「失礼しますにゃ!ロラン様!」

「おお。待っていたぞルウ。『パン魔法』の女の情報を教えてくれ」

「はいですにゃ!」

 ルウと呼ばれた猫耳の情報屋は元気よく返事をした。彼女はロランのお気に入りの情報屋であり、過去に何度も仕事を頼んでいる。ロランが若くして騎士団長に上り詰めたのも彼女の功績があったからである。

「名前は不明。年齢は20代前半くらいで身長160センチ前後。このエラドールから船で商業都市ウィンディスタンに渡ったと言う情報があるにゃ」

「船か……」

「そしてその女性はあの気高きドラゴンすら一撃で仕留めたとか、一夜にして国を滅ぼしたとか噂されているですにゃ」

「なるほど……それで?ルウお前はどう思うのだ?」

「はいですにゃ。さすがにドラゴンまで単独で討伐できるとは思わないのですにゃ。もちろん国が滅んだとかも聞いたことないですにゃ」

 確かに。ガルーダはまだしもあのドラゴンを一人で倒せるとは思えない。そんなことができるなら、世界すら掌握できる程の危険人物だ。

「それに……その女性には何か秘密がありそうな気がするんですにゃ」

「ほう?それはなぜだ?」

「それはわからないですにゃ。でもなんか引っかかるんですよねー。こうなんというか……」

 ルウは自分の胸元に手を当てて考え込むような仕草を見せた。そんなときだった慌てた騎士が扉を勢いよく開ける

「大変ですロラン団長!」

「何事だ?」

「ニルバ近辺の迷いの森でレッドドラゴンの死体が見つかりました!しかもそれと同時にニルバのギルドであの赤い髪の『パン魔法』の女も目撃されています!」

「なっ!?」

 レッドドラゴンだと!?しかも炎耐性のあるレッドドラゴンを炎の魔法で討伐したと言うのか!?ありえない……。だがもしそれが本当ならば……

「至急捜索隊を編成しろ!バルゴとシャノンに合流する!あの赤い髪の『パン魔法』の女を捕らえるのだ!」

「はい!」

 ロランは大声で指示を出すとルウの方を振り向く。

「すまないルウ。私は行かねばならないようだ。また頼むよ」

「わかりましたにゃ!お任せくださいですにゃ!」

 ロランは急ぎ足で執務室を出る。そして捜索隊と共に自分の愛馬である黒馬を呼び出し乗り込んだ。

「待っていろ。赤い髪の『パン魔法』女よ。必ず捕らえてやる!」

 そう言うとロランは馬の腹を強く蹴り全速力で駆け出した。

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