【最強のパン屋爆誕!?】~すべてを程よく焼きつくす私の炎魔法が周りから『パン魔法』と呼ばれてなぜかバズっていた件~

夕姫

16. 消し炭にするのはパン屋失格でしょ

16. 消し炭にするのはパン屋失格でしょ



 私は何も知らずにリーベル=アイル騎士団の騎士のシャノンをおもてなししてしまった。まぁでも芋虫の魔物から私を助けてくれたのは事実だし、悪いことではない。しかもその芋虫の魔物のおかげで私の正体がバレなかったのも事実だ。

「ったく。遅いわねフィーナとエド。髪の染料買うのにどんだけ時間かかってるのよ……」

「ピピィ!」

 私は焼いたベーグルをちぎり、ピー助に食べさせながら2人を待っている。すると遠くから歩いてくる人影が見えた。

「ごめんなさい!待たせちゃいました!」

「いやぁ。少し時間がかかっちゃいましたね。すいませんリンネ様」

 そう私に謝ってくるが、2人の手を見るとアイスクリームを片手に持っていた。

「……何でアイス持ってんのよ?」

 私がジト目で見ると2人は慌ててそれを背中に隠す。

「ち、違うんですよ。これは……ほら、お店で売ってたからつい買いたくなっちゃってですね……決して資金が少し余ったからじゃないですから!」

「そ、そうなんですよ~!ちなみにリンネ様のは溶けちゃうので私が食べちゃいました」

 何が資金が貯まらないだ。散財してるんだけど雑用のプロと食いしん坊エルフ。私はため息をつくと、2人に言った。

「まぁいいわ。とりあえず染料を買って来たんでしょ?こっちもちょっとトラブルがあってね。早く染めないと」

 私はエドから髪の染料を受け取ると、自分の髪に塗り始めた。すると私の赤い髪が真っ黒に染まっていく。私は手鏡を取り出して確認する。うん。我ながら良い出来栄えだと思う。

「どうかしら?」

「おおっ!凄いですよリンネ様!なんか清楚な感じがしますよ!」

「15の子どもに誉められても嬉しくないけどね。なんで黒なのよ……無難だけどさ」

「それはリンネ様が魔女だからですよ!私が選んだんです!誉めて下さい!」

 確かにこの色は魔女っぽいかも。黒いローブとか着たら完璧かな。……着ないけどさ。

「ところでリンネ様。さっき言ってたトラブルってなんですか?」

「実はリーベル=アイル騎士団の騎士と接触したのよ」

「えっ大丈夫だったんですか!?」

「ええ。……芋虫の魔物のおかげでね。」

「「芋虫の魔物???」」

 もしあの時私が対峙したのが他の魔物なら、絶対こんがり焼いていたわよね。私は苦笑いしながら説明を続けた。

「へー。リンネ様にも苦手で倒せないものあるんですね?」

「そういえば私と初めて会った時も芋虫の魔物に襲われてました。私がこの素晴らしい矢捌きで助けてあげたんですよ~!」

「すごいですねフィーナさん!」

「エド君。もっともっと誉めてください!」

 あれ以来その素晴らしい矢捌きとやらは見ることが出来てないけどね。

 あとエドの言っていることは半分当たりで半分間違いだ。私は虫が苦手だけど、パン屋だから焼けないものはない。ただ……気持ち悪すぎて消し炭にしそうだから。パンを消し炭にしたらパン屋失格でしょ。それに焼き加減も大事だし……。

 とにかくそんな訳で私は無事髪を黒く染め終えると次の街に向けて歩き始める。早くしないとシャノンやあのゴリラがやってくる可能性もあるし。

「あのリンネ様。商業都市までどのルートで行きますか?」

 エドはそういうと地図を広げる。私たちは海路が使えないので陸路で向かうことにしている。

「まずはこの山を越えるのが一番近道でしょうね。でも山賊が出るらしいわ」

「山賊!?じゃあ迂回していきましょう!」

「ダメよ。山を越えた方が早いんだから。それにあまり人がいるような場所を通れる状況じゃないでしょ」

「そうですけど……危険ですよ?山賊に襲われたらどうするんですか?」

 するとそれを聞いたフィーナがエドの肩を叩きながら言う。しかも顔がニコニコしていて、なんかウザい。

「ふふん。安心して下さいエド君。エルフである私は山や森なんかは庭みたいなものですから。それに弓の扱いには自信がある私がいれば山賊なんて余裕です!ついでにリンネ様まで守りますよ!ね!デュランダル!」

「ピィー!」

 ……ただ人間と会いたくないだけでしょフィーナは。なんかもっともらしいこと言っているけど。

 とりあえずこうして無事に髪の色を黒に染めて次の街に向かうために山を越えることにした。まぁ少しの間なら何とかなるでしょ。意外に黒髪も似合うわね。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品