【最強のパン屋爆誕!?】~すべてを程よく焼きつくす私の炎魔法が周りから『パン魔法』と呼ばれてなぜかバズっていた件~

夕姫

4. 優先順位はパン一択だから

4. 優先順位はパン一択だから



 天気は快晴。出発日和。私とフィーナは次の街に向かうために街道を歩いていた。もちろんフィーナはエルフだからフードつきのローブを着ている。ただ耳が尖っているからあまり意味はないかもしれないけど、一応配慮のつもりではある。

「このペースだと次の街に着くのは夜かな~」

「え?そうなんですか?」

「うん、たぶんね。まだまだ距離はあるし。」

 私がそう言うとフィーナは少しだけ困った顔をしてオドオドしながら聞いてきた。

「あの……間違いならすいません。人間の世界には馬が引いている乗り物があったような……あれで皆さん移動してるのではないですか?」

「あー馬車?そんなの使わないわよ」

「え?なんでですか?」

 移動手段は基本的に徒歩だ。まぁ別に歩けない距離ではないし。もちろん理由もある。

「馬車を使ったらパン作れないじゃない。馬車よりパンの方が大事でしょ。優先順位はパン一択だから、おわかりフィーナ?」

「えっ?あっはい……?」

 どうやら私の考えが理解できないようだ。

「それに魔物が出た時に戦えないしね。ほら見てみなさいよ」

 私は指さした方向には体長3mほどの大きな蛇がいた。

「ひっ!?ななな何ですかアレ!魔物ですか!」

「そうでしょ。なにもしなければ大丈夫じゃないかしら」

 フィーナは興味津々といった様子でじっと見つめている。蛇もこちらに気づいたのかゆっくりと近づいてくる。するとフィーナは耳をピンと尖らせて私の後ろに隠れてしがみついてくる。こらこら店長を盾にするんじゃない。

「うぅ……怖い……」

「もうしょうがない子ねぇ……ちょっと待ってなさい」

 私はポケットに入れていた石窯に使おうとしていた丁度いい大きさの石を取り出し蛇に投げつけた。その石は一直線に飛び蛇の頭に命中する。蛇は驚いてそのまま私たちの前からいなくなった。それを見ていたフィーナは驚いているようだった。

「すごいです!さすがリンネ様!魔女様だけはあります!」

「魔女は関係ないと思うわよ……でもこれくらい誰でもできるんじゃないかしら?」

「いえ!普通できませんよ!というかよく当てられましたね!勢いもありましたし、投石で魔物を倒すなんてびっくりしました!」

 興奮気味に話すフィーナはまるで子供みたいだった。そのあとも何度か魔物に遭遇するとフィーナは私の後ろに隠れて、結局私が倒すことになった。

 というか私を助けてくれた時の弓は幻だったのかしら?フィーナはもしかして芋虫キラーだったりして……

「んー疲れたー」

「おつかれさまです。リンネ様」

 ようやく私たちは次の街に到着した。あれから道中は特に問題なく順調に進んだ。途中休憩でサンドイッチを作った時は大変だったが。フィーナは初めて見る料理に興味深々で質問攻めにあった。特に卵サンドが気に入ったようで何度もせがまれた。

 食いしん坊のエルフ……少しインパクトは薄いけど、悪くはない。やっぱりこの子は面白い。

「さて……宿屋を探さないと……」

 そう言うとフィーナは私にいきなりしがみついてくる。そして泣きそうな顔で訴えてくる。

「あの……できれば人があまりいないような所がいいです。やっぱり人間は怖いです……」

「フィーナ……」

 この子、エルフにとって人間とはやはり恐ろしいものらしい。私としては人間についてもっと知ってもらわないと、パン屋の看板娘にはなれないから頑張ってほしいんだけど……でも無理強いはできないわ。

 それに人種差別はどこにでもある。まだ受け入れてくれるほうが少ないのもこの世界の現状だ。とりあえず宿を探すことにしよう。

「わかったわ。なるべく人が少ないところを探しましょう」

「ありがとうございます!リンネ様!」

 それから街にある地図を見て宿を探した。そして私たちは街外れにある古びた一軒の宿屋に泊まることにした。中に入ると薄暗い照明に年季の入った内装、正直言ってかなりボロい。

「すみませーん。宿泊したいんですけどー」

 そう言いながらカウンターの奥にいる老婆に声をかけた。

「はいはい。お泊まりかい?一人部屋なら銀貨1枚だよ」

「いえ2人なんだけど。」

「おや?そっちの子はエルフかい?」

 フィーナは耳をピンと尖らせて私の後ろに隠れ震えている。

「エルフはダメかしら?」

「そんなことないさね。もう何十年も見てなかったからつい驚いたのさ。怖がらせたらすまなかったねエルフのお嬢ちゃん。何もないところだけどゆっくり休んできな」

「え?……はい」

 鍵を受け取り階段を上っていく。部屋の扉を開けるとそこは殺風景な部屋でベッドが二つ並んでいるだけだった。窓を見ると外はすでに日が落ちており真っ暗になっていた。

「リンネ様。あのお婆さん……優しい人でしたね」

「そうね。うーん……夕飯にしましょうか、さっきの食パンがあるから」

「お肉を挟んだサンドイッチかバーガーが食べたいです!」

「また?もう仕方ないわね」

 フィーナは嬉しそうに耳をピクピクさせながら椅子に座っていた。その姿はやっぱり可愛らしい。少しずつフィーナの人間嫌いがなくなるといいわね。そんなことを思いながら夕飯を作るのだった。

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