【最強のパン屋爆誕!?】~すべてを程よく焼きつくす私の炎魔法が周りから『パン魔法』と呼ばれてなぜかバズっていた件~

夕姫

3. パン以外焼いたらパン屋失格でしょ

3. パン以外焼いたらパン屋失格でしょ



 朝日が私の顔を照らす。微睡みの中、私は宿屋のベッドに横たわっていた。

「ん……?」

 目を擦りながら上体を起こす。すると右手にすごい柔らかいモチモチとしたパン生地のような感触があった。なんだろうと思い、しばらく触っていると甘い吐息に混じった声が聞こえてくる。

「あ……うぅん」

 視線を向けるとそこには裸で寝ているフィーナがいて、耳がピクピク反応していた。

「えっ!?」

 驚いて思わず声を上げ右手を離す。どうしてこの子裸なのよ……。しかも弾力はパーフェクトだったし……恐るべしフィーナのお胸。私は思わず右手とフィーナの胸を交互に見る。そんな時フィーナが目を覚ます。

「うぅ~ん……」

 そしてゆっくりと目を開ける。眠そうな顔で私を見つめていた。

「あぁ、おはようございます~リンネ様。」

「お、おはよう……」

「どうしたんですか?そんな驚いたような表情をして」

「いや、なんでもないわよ……」

 本当にこの子人間嫌いなの?それとも完全に信用されたのかしら?

 確かに昨日あのあとホワイトウルフを無事に狩り、お肉を挟んだバーガーを作ってあげた。フィーナは目を輝かせてお腹が膨れるくらいいっぱい食べてたけど。それにしても肉食系のエルフか……更に良い。面白いすぎる。

「それより早く支度して。朝食のパンを焼くわよ」

「はい」

 フィーナは服を着て身なりを整えると私と一緒に宿を出た。まだ時間が早いせいなのか街は静まり返っており、人通りも少なかった。

「ねぇフィーナ。今日は何が食べたい?」

「そうですね……ではオムレツが食べたいかもです」

「ふむ。それならライ麦パンにオムレツを挟んで食べると美味しいわ!それを作ろうかしら」

 そんなことを話ながら昨日の森の奥に向かうことにする。それは昨日の石窯が残ってるから。また一から作り直すのは面倒だし、それに昨日の芋虫とかまた出たら嫌だし。

「あのリンネ様?」

「ん?どうかした?」

「少し気になったんですけど、リンネ様は魔女なんですよね?なんかこう……黒いローブとか着たりしないんですか?」

「えぇーっと……」

 確かに言われてみると魔女と言えば黒を基調とした服のイメージがある。だけど正直言って動きづらいし、重いし。というより私は本当は魔女じゃない。

「フィーナ。それは私が魔女だとバレないようによ。黒いローブなんて着てたらすぐに魔女だとわかってしまうもの」

「そういうことですか。納得です」

 私は苦笑いを浮かべながら呟くように言うと、フィーナはポンッと手を叩きながら笑顔で答えてくれた。

 それから森に入ると、まず最初に昨日作った石窯の元へと向かい、ライ麦パンを作ることにした。その最中フィーナが何かを思い出したかのように声を上げる。

「あっ!そういえば一つだけ質問いいでしょうか?」

「なにかしら?」

 すごく話してくる……人間嫌いじゃないよこの子。むしろ社交的。ふむ社交的なエルフか……全然あり!面白すぎて良いかもしれない。

 そしてライ麦パンを焼くために石窯に入れる。パンの中でも固くて少し歯応えがあるから、水分量は調整して生地を作ったし多分大丈夫でしょう。

 ちなみにオムレツはフィーナが作ってくれた、なかなかの腕前だったわ。そして朝食を食べ終わるとフィーナがあることを聞いてくる。

「そういえばリンネ様は炎の魔法が得意なんですか?」

「ええ。私は武器とか全然だし。それにパンを焼くには炎が必要でしょ?フィーナは弓かしら?」

「まぁ趣味程度です。そもそもエルフの里では魔物と戦うのは男性の仕事なので。一応、風の魔法も使えます」

「へぇ~そうなのね」

 フィーナは風起こしもできるのか……後でパン焼く時に手伝ってもらおうかしら?そんなことを話ながら食休みしていると、ドシンッドシンッと音が聞こえてくる。私とフィーナが音が鳴る方向を見ると同時にそれは姿を現した。

 それは大きな猪のような姿をしており、牙が長く鋭い。身体中を覆う体毛は茶色くてフサフサとしている。そしてその額には宝石のようなものが埋め込まれていた。

「あれはブラウンボアですよ!こんなとこにいるはずないんですけど……」

「そんなことはどうでもいいわ!とりあえず倒さないと」

 私たちは臨戦態勢に入り、それぞれ戦闘準備に入る。フィーナは腰に下げていた弓矢を構え矢を番えると、それをブラウンボアに向けて放つ。だがそれはあっさりと避けられてしまう。

 そのままブラウンボアはフィーナに向かって突進していくが、フィーナは間一髪近くの大木に掛け登った。おおー木登りも得意なのねフィーナは。

「ふえ~ん。助けてくださいリンネ様~!」

「まったく仕方のない子ね。体長は2.8メートル、水分量は62~64%。でも他の魔物より質量が多そうね……こんがり固めのシンプルトーストがいいかしらね」

 私は右手を前へと突き出すと詠唱をする。

「我が魔力に応えよ!全てを焼き尽くす地獄の業火よ。今こそ我の前に顕現せよ!《クリムゾン・フレア》!!」

 目の前に赤い魔法陣が浮かび上がり、灼熱の業火玉がブラウンボアを襲う。それが当たった瞬間、大きな火柱が上がりブラウンボアを焼き焦がした。そして地面が揺れるほどの衝撃が走る。

「すごい……」

 フィーナが呆然とした表情で言う。

「さすがリンネ様ですね……。あんなに大きな魔物を一撃で倒すなんて……やっぱり凄い魔女なんだ……」

 なぜか知らないけど、どうやらフィーナの中で私は相当強い魔女ということになったみたい。それはそれでいいか。

「すごい魔力のコントロールですね。こんな森の中で一切被害を出さずに、しかも地面もほとんど焼けてない。しかもあんな強力な炎属性の魔法を使うなんて……」

「当たり前じゃない。石窯やお皿を焦がしたりしたらパン屋失格じゃない。」

「え?パン?」

「そうよ。私はいつでも魔物をパンを作るように焼いているだけよ」

「は、はぁ……」

 フィーナはよくわからないと言った感じで返事をした。

 それはまるでチート級の能力。リンネは魔力のコントロールが上手かった。そしてその威力も半端ではなかった。リンネは『私はいつでも魔物をパンを作るように焼いているだけよ』これは嘘ではない。

 大好きなパンを焼く感覚で魔物を倒していた。ただ驚くべきことは……ただの一度も焼けなかった魔物はということだけだった。

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