【最強のパン屋爆誕!?】~すべてを程よく焼きつくす私の炎魔法が周りから『パン魔法』と呼ばれてなぜかバズっていた件~
1. ただパン屋を開業したい
1. ただパン屋を開業したい
ある森の中。もくもくと立ち上る煙。そして美味しそうな匂い。自慢の長い赤紅色の髪を束ねている女性はあることをしている。
「……ふぅ、今日も美味しく焼けたわ」
私は完成した新作のバゲットを手に取り満足げにうなずく。
そう、これは私――リンネ=フルールの日常であり、そして誇りである。
なぜなら私は今、異世界で自称パン職人の冒険者として生きているからだ。前世の記憶を持って生まれた私はこの世界に転生した。どうやらここは剣と魔法のファンタジー世界らしい。
しかも魔王を倒すために勇者召喚されたのではなく、ただ単に一般人として転生したらしい。
……まあ、そんなことは些細な問題だ。だって私にはこの世界で生きていく術があるからね。
それでも、この世界での生活に慣れるまでは大変だった。何しろここには電気がない。つまりガスコンロもない。火を起こすにも薪を使う必要があるし、料理をするにしても手間がかかる。
でも私は幸いなことに炎を操る魔法が得意だった。なのですぐに生活に必要な火の起こし方を覚えられたし、火力の調整方法なども覚えることができた。
それから火属性の適性があることを活かして冒険者になったのだけれど、最初は上手くいかなくて苦労したっけ……。
というのも、私の前世の世界と違ってここでは魔物と呼ばれるモンスターが数多く生息していた。当然、街を出れば危険な目にあうこともある。だから魔物と戦うための武器が必要だったんだけど、残念ながら私には戦闘の才能がなかったみたいで……。
そこで私は考えた。それなら私ができることをすればいいじゃないか。でも残念ながら、色々記憶を紐解いても前世の私がどんな人物で男なのか女なのかも分からなかった。ただ前世の記憶で持っていたもの、それは『パン作りの知識』と『パンを作る技術』だ。
もちろん最初から上手くいったわけじゃないけど、試行錯誤を繰り返しているうちにだんだんコツを掴み始めた。それに火加減や時間を見極める感覚など、自分の中で確かな手応えを感じ始めてからはメキメキ上達していった。
ならパン屋をやれって?やりたいけどその資金を集めている最中なんだよね。そのためにはまず、お金を稼ぐことが最優先事項になる。そのためには冒険者をやるしかない。
ということ。だから今は資金集めの旅の途中。いつかはこの世界の中心にある聖都リーベル=アイルで『パン屋』を開業する。その目的の為に奮闘中だ。
それに、こんな魔物が蔓延る森の中でわざわざ素材を集めて、石窯を作りパンを焼いている変わり者は私くらいだろう。パンを焼く時間より石窯を作る時間のほうが長いのは内緒ね。
「さすがは私!良く焼き上がってるわ」
出来上がったばかりのバゲットを見て自画自賛する。それを一口食べるとパリッとした食感と共に小麦本来の風味が広がる。うん、我ながら最高の出来栄えだ。
「うーん……やっぱり石窯を作れる鍛冶屋か土魔法で構築できる魔法士が必要よね。いつも時間かかるし。でも……」
そんな時、私の美味しいパンの匂いにつられてゴブリンが現れた。ゴブリンは緑色の肌をした醜悪な顔をしている。それが三体いることから仲間同士で狩りをしているのかもしれない。
「グゲェ!?」
突然現れた私の存在に気付いたゴブリンたちは驚きの声を上げる。だが、彼らは逃げようとしない。おそらく獲物として認識したのだろう。
「ゴブリンか……どれどれ……体長は推定1.6メートル、体内水分量は74%~77%。うん程よく焼き上げるにはパンで言うと1割減といったところかしら?ベーグルくらいでいいかしら?」
私は素早く分析すると両手を構える。そして魔力を集中させると、その手に赤い魔力が生まれた。
「燃え盛れ!我が魂の焔よ!喰らいなさい、《クリムゾン・ノヴァ》!!」
詠唱を唱えると同時に私は手を突き出すと、そこから巨大な火炎放射のような炎が飛び出した。それはゴブリンたちを飲み込み一瞬にして焦がしつくす。
「よし、成功っと。うーんこんがり焼けたわ。ベーグルならきっと美味しい焼き加減だわ」
私は満足げにうなずきながらゴブリンたちのいた場所に近づく。そこには黒い消し炭のようなものがいくつか落ちていた。私はそれを拾う。
「ふむふむ……これは魔核ね」
この世界では倒したモンスターから得られるエネルギー源のことをそう呼ぶ。これをギルドという組織に提出することで報酬を得ることができる。
「まあ、ゴブリンじゃ大した金額にはならないけど、明日のパンの材料くらいは買えるでしょ」
そう言って私は腰につけている小さな袋の中に魔核を入れる。これは冒険者として活動する時に支給されたものだ。この中にはこの世界の通貨が入っている。
ちなみにさっきのは私のスキルだ。パン屋として大きさの把握と水分量の調整は美味しいパンを作るためには必須だからね。だから自然と相手の水分量が分かるようになった。戦闘にはまったく役に立たないけどさ。
そしてしばらくバゲットを楽しんでから薬草になりそうな素材を採取して家に戻ることにした。
「ふぅ……それじゃあ、そろそろ帰りましょうかね。今日の夕飯は何にしようかなぁ……」
私は空を見上げながら呟く。もう日も暮れかけているし、今日は簡単に済ませよう。そんなことを考えていると……
ガサガサ……
近くの茂みから音がした。何かと思って視線を向ける。すると、そこから白い毛並みをした狼が顔を出した。
「あ、ホワイトウルフ。これはラッキーだわ。うん。夕飯はこの子のお肉を挟んだバーガーにしましょう!そうしましょう!」
私は笑顔を浮かべると魔法を発動させる準備に入る。
「体長1.8メートル、体内水分量は……64%か。まあまあってところね。これならちょうど良い具合に焼けそうだわ。イメージはフォカッチャかな?」
私は両手に炎を生み出すと、それを巨大化させていく。
「さあ、おいでなさい。私の炎に焼かれて美味しく食べてもらうの。それがあなたの運命なの。燃え尽きちゃえ、《インフェルノ・バースト》!」
私が詠唱を終えると同時に炎の球を放つ。そしてホワイトウルフの身体に触れると、一気に膨れ上がった。
「ギャウゥ!?」
ホワイトウルフは悲鳴を上げながらその場に倒れる。やがて全身が真っ黒になり動かなくなった。
「うん、上出来だわ」
私は満足げにうなずくと、ホワイトウルフを回収した。これで今夜の夕食は決まった。
「ふふん、やっぱり私って生粋のパン屋さんよね?天才かも」
こうしてほのぼのとその日暮らしの私の一日は過ぎていく。
でもこの時の私は知らない。最強のパン屋として、私の炎魔法が後に『パン魔法』なんて呼ばれて世界中でバズることを。
ある森の中。もくもくと立ち上る煙。そして美味しそうな匂い。自慢の長い赤紅色の髪を束ねている女性はあることをしている。
「……ふぅ、今日も美味しく焼けたわ」
私は完成した新作のバゲットを手に取り満足げにうなずく。
そう、これは私――リンネ=フルールの日常であり、そして誇りである。
なぜなら私は今、異世界で自称パン職人の冒険者として生きているからだ。前世の記憶を持って生まれた私はこの世界に転生した。どうやらここは剣と魔法のファンタジー世界らしい。
しかも魔王を倒すために勇者召喚されたのではなく、ただ単に一般人として転生したらしい。
……まあ、そんなことは些細な問題だ。だって私にはこの世界で生きていく術があるからね。
それでも、この世界での生活に慣れるまでは大変だった。何しろここには電気がない。つまりガスコンロもない。火を起こすにも薪を使う必要があるし、料理をするにしても手間がかかる。
でも私は幸いなことに炎を操る魔法が得意だった。なのですぐに生活に必要な火の起こし方を覚えられたし、火力の調整方法なども覚えることができた。
それから火属性の適性があることを活かして冒険者になったのだけれど、最初は上手くいかなくて苦労したっけ……。
というのも、私の前世の世界と違ってここでは魔物と呼ばれるモンスターが数多く生息していた。当然、街を出れば危険な目にあうこともある。だから魔物と戦うための武器が必要だったんだけど、残念ながら私には戦闘の才能がなかったみたいで……。
そこで私は考えた。それなら私ができることをすればいいじゃないか。でも残念ながら、色々記憶を紐解いても前世の私がどんな人物で男なのか女なのかも分からなかった。ただ前世の記憶で持っていたもの、それは『パン作りの知識』と『パンを作る技術』だ。
もちろん最初から上手くいったわけじゃないけど、試行錯誤を繰り返しているうちにだんだんコツを掴み始めた。それに火加減や時間を見極める感覚など、自分の中で確かな手応えを感じ始めてからはメキメキ上達していった。
ならパン屋をやれって?やりたいけどその資金を集めている最中なんだよね。そのためにはまず、お金を稼ぐことが最優先事項になる。そのためには冒険者をやるしかない。
ということ。だから今は資金集めの旅の途中。いつかはこの世界の中心にある聖都リーベル=アイルで『パン屋』を開業する。その目的の為に奮闘中だ。
それに、こんな魔物が蔓延る森の中でわざわざ素材を集めて、石窯を作りパンを焼いている変わり者は私くらいだろう。パンを焼く時間より石窯を作る時間のほうが長いのは内緒ね。
「さすがは私!良く焼き上がってるわ」
出来上がったばかりのバゲットを見て自画自賛する。それを一口食べるとパリッとした食感と共に小麦本来の風味が広がる。うん、我ながら最高の出来栄えだ。
「うーん……やっぱり石窯を作れる鍛冶屋か土魔法で構築できる魔法士が必要よね。いつも時間かかるし。でも……」
そんな時、私の美味しいパンの匂いにつられてゴブリンが現れた。ゴブリンは緑色の肌をした醜悪な顔をしている。それが三体いることから仲間同士で狩りをしているのかもしれない。
「グゲェ!?」
突然現れた私の存在に気付いたゴブリンたちは驚きの声を上げる。だが、彼らは逃げようとしない。おそらく獲物として認識したのだろう。
「ゴブリンか……どれどれ……体長は推定1.6メートル、体内水分量は74%~77%。うん程よく焼き上げるにはパンで言うと1割減といったところかしら?ベーグルくらいでいいかしら?」
私は素早く分析すると両手を構える。そして魔力を集中させると、その手に赤い魔力が生まれた。
「燃え盛れ!我が魂の焔よ!喰らいなさい、《クリムゾン・ノヴァ》!!」
詠唱を唱えると同時に私は手を突き出すと、そこから巨大な火炎放射のような炎が飛び出した。それはゴブリンたちを飲み込み一瞬にして焦がしつくす。
「よし、成功っと。うーんこんがり焼けたわ。ベーグルならきっと美味しい焼き加減だわ」
私は満足げにうなずきながらゴブリンたちのいた場所に近づく。そこには黒い消し炭のようなものがいくつか落ちていた。私はそれを拾う。
「ふむふむ……これは魔核ね」
この世界では倒したモンスターから得られるエネルギー源のことをそう呼ぶ。これをギルドという組織に提出することで報酬を得ることができる。
「まあ、ゴブリンじゃ大した金額にはならないけど、明日のパンの材料くらいは買えるでしょ」
そう言って私は腰につけている小さな袋の中に魔核を入れる。これは冒険者として活動する時に支給されたものだ。この中にはこの世界の通貨が入っている。
ちなみにさっきのは私のスキルだ。パン屋として大きさの把握と水分量の調整は美味しいパンを作るためには必須だからね。だから自然と相手の水分量が分かるようになった。戦闘にはまったく役に立たないけどさ。
そしてしばらくバゲットを楽しんでから薬草になりそうな素材を採取して家に戻ることにした。
「ふぅ……それじゃあ、そろそろ帰りましょうかね。今日の夕飯は何にしようかなぁ……」
私は空を見上げながら呟く。もう日も暮れかけているし、今日は簡単に済ませよう。そんなことを考えていると……
ガサガサ……
近くの茂みから音がした。何かと思って視線を向ける。すると、そこから白い毛並みをした狼が顔を出した。
「あ、ホワイトウルフ。これはラッキーだわ。うん。夕飯はこの子のお肉を挟んだバーガーにしましょう!そうしましょう!」
私は笑顔を浮かべると魔法を発動させる準備に入る。
「体長1.8メートル、体内水分量は……64%か。まあまあってところね。これならちょうど良い具合に焼けそうだわ。イメージはフォカッチャかな?」
私は両手に炎を生み出すと、それを巨大化させていく。
「さあ、おいでなさい。私の炎に焼かれて美味しく食べてもらうの。それがあなたの運命なの。燃え尽きちゃえ、《インフェルノ・バースト》!」
私が詠唱を終えると同時に炎の球を放つ。そしてホワイトウルフの身体に触れると、一気に膨れ上がった。
「ギャウゥ!?」
ホワイトウルフは悲鳴を上げながらその場に倒れる。やがて全身が真っ黒になり動かなくなった。
「うん、上出来だわ」
私は満足げにうなずくと、ホワイトウルフを回収した。これで今夜の夕食は決まった。
「ふふん、やっぱり私って生粋のパン屋さんよね?天才かも」
こうしてほのぼのとその日暮らしの私の一日は過ぎていく。
でもこの時の私は知らない。最強のパン屋として、私の炎魔法が後に『パン魔法』なんて呼ばれて世界中でバズることを。
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コメント
ブラックファントム
パンというワードから読みました。
中身はちゃんとした真面目な作品で面白かったです!
ノベルバユーザー602625
パンからの魔法、斬新でした。面白かったです。
ノベルバユーザー601444
ボイス付きなので、家事などをしながら読めて助かりました。
設定が珍しく面白かったです!
ward8
アイデアが秀逸で、面白いですね
ノベルバユーザー601490
パン屋を開業するために冒険者をやってるというところがめちゃくちゃ面白かったです!こういう設定は初めて見ました!こういう転生もいいよね!?とわくわくさせられました!どうやって最強のパン屋になるのか楽しみです!