【宮廷魔法士のやり直し!】~王宮を追放された天才魔法士は山奥の村の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌したい!~

夕姫

31. なんでも屋へようこそ!

31. なんでも屋へようこそ!




 エルメスさんの依頼から数日がたった。心配だったミリーナもすっかり元気でいつも通りの明るい笑顔を見せてくれている。あの日の出来事はミリーナにとってこれから治癒魔法士としても、この『なんでも屋』としてもひとつの成長の出来事になると思う。もちろんこの私にも。

「あの…アイリーンさん?ボクの朝食美味しくない?そのごめんなさい……。」

「え?あっ。違うのよロイド。美味しいわ、少し考え事していただけ。ごめんなさい。」

「そうですか良かったです。それならいいんですけど……。あ!そうだ!今度一緒に魔法錬金の素材を作ってほしい。難しくて……ダメ?」

 可愛い。この少年、女心をくすぐる仕草を自然とやってくれるわね。将来有望だわ。でも私はもう大人だから。そんな簡単に心を動かされたりしないんだから。

 あれ? これじゃ私がロイドに惚れてるみたいじゃない。断じて違うから。

「もちろん。いいわよ」

「やった。ありがとうアイリーンさん!」

 ロイド。『なんでも屋』で一番最年少の男の子。魔法錬金で素材を作っている。意外に手先も器用なのよね。あれから私に少しずつ話しかけてくれる。この前までは緊張して泣いていたのが懐かしい。今はちょっとずつだけど仲良くなれた気がする。

「良かったなロイド。ならオレもいいかアイリーン。明日山狩りに付き合ってくれ、なんかフォレストウルフが群れをなしてるらしいからな。お前さんの魔法なら問題ないだろ?」

「はい。まぁレイダーさん1人で十分のような気もしますけど。分かりました。」

「おう!よろしく頼むな」

 レイダーさん。この『なんでも屋』の一番の最年長で頼れる兄貴的存在。年長者としてみんなを引っ張っていってくれる。それにとても強い。正直この人がいなかったらこの『なんでも屋』は成り立たないかもね。

「それじゃそろそろ行こうかな!ロイド君片付けお願いしてもいい?」

「あれミリーナどこか行くの?」

「うん。この前アイリーンちゃんと行った薬屋のおばちゃんのところ。村長さん腰を痛めちゃったんだって。だから薬を作りに行くの。それに、あたしの頑張りをオフィーリアのおばあちゃんも天国から見てると思うしさ!頑張らないと!」

「そっか。頑張ってね。ミリーナ」

 そういうとミリーナは急いで家を出ていった。相変わらず元気いっぱいだなー。

 ミリーナ。『なんでも屋』の一番のがんばり屋さん。彼女の治癒魔法や薬で、この農村ピースフルのみんなは病気になったり、怪我をしても安心して暮らしている。小さなお医者さん。

 そして私も準備をしていつも通りお店に向かう。私は今いつも通り窓を拭いている。この窓に感謝してもらいたいくらいキレイに拭いてあげている。といっても他にすることがない。だから今これが私の大事な仕事だ。

 ふとカウンターを見ると、ルーシーがよだれを垂らして爆睡している。本当にこの人寝すぎだからね。いつまでたっても起きないし。

 それから数時間後、ようやくルーシーが起きたようだ。眠そうな目を擦りながらこちらに向かってくる。どうやら今日は昼過ぎに起きたみたいだ。

「おはようアイリーン。ふわあぁ。」

「よくもそんなに仕事中も寝れるわね?」

「こうも平和だとね。アイリーンは良く眠くならないわよね?」

「私は毎日休みの時以外はきっちり起きてるからね。宮廷魔法士の時からそうだから。」

「はいはい。ご立派だこと」

 まったく、この人はどうしてこんなにやる気ないのかしら。

 ルーシー。自称『なんでも屋』の看板娘。いつも昼寝ばかりしているけど、実は元設計士。後からきいたんだけどこの村の建物を直すときはルーシーが図面を書いているらしい。でも本人はあまりやりたがらないみたいだけどね。

 そんな事を考えていると店の裏口のほうからエイミーがやってくる。

「あー畑仕事は疲れるぅ。アイリーン、お茶をいれてほしい。」

「はぁ?自分でやりなさいよ。そのくらい。」

「アイリーン冷たいなー。わたしだって色々大変なんだよ?もっとキャロットみたいに優しくしてよ!」

 そう言って「ぶー」っと頬を膨らませている。キャロットみたいに優しく?訳がわからない。まぁ確かに最近収穫するものが多くて、忙しいとは思うけどさすがにそこまで面倒見きれないわよ。

「そういえば。アイリーンがここに来て1ヶ月くらいたつよね?どう『なんでも屋』は?困ったことない?」

「ん?別になんともないかしら?今のところは……」

「そう?ならいいんだけど。困ったことがあったらいつでも相談してね?私たちは仲間なんだから!」

 エイミー。『なんでも屋』の代表。彼女はこう見えて良くみんなの事を見ていると思う。しかもその人の本質を見てくれる。だからこそ、彼女の『なんでも屋』を私はやりたいと今は本当に思っている。あの時、偶然私に声をかけてくれたあの言葉。

(どうしたのお姉さん?そんな収穫3日後のラディッシュみたいな顔しちゃって?)

 今思い出しても初対面の人に言う言葉じゃないけどね。もしかしたら彼女なりの気を使った言葉なのだろう。まあそれに救ってくれたのは事実だし、今となってはいい思い出だ。

 素直に感謝を伝えてもいいんだけど、それはなんか負けたような気持ちになる。だから私はいつもエイミーに言われているように野菜に例えて言ってあげる。

「あー……。ひとつだけあったわ。あのさエイミー。私さ……になれるかしらね?この『なんでも屋』で。」

「え?……うん!もちろん!私はのは得意だから!」

 そう私に話すエイミーはすごく笑顔だ。それなら私をこれからこの『なんでも屋』で高級ラディッシュにしてもらおうかしらね。そのまま私は笑顔で答える。

「あなたはそれしかできないもんね?まぁ期待しているわよ。『なんでも屋』の代表さん?」

「なにその言い方?もうひどいなアイリーンは!それパプリカだよパプリカ!私はそれ以外も出来るよ!」

 私はフローレンス王宮の宮廷魔法士をクビになり追放された。それでも今は、私の目の前にいるエイミー。それを見ているルーシー。そして同じ『なんでも屋』のレイダーさん、ミリーナ、ロイド。あと農村ピースフルのみんながいてくれる。私は幸せ者だな。

 私はこれからやり直す。山奥の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌する。

 その時、店の扉が開く。

「こんにちは。あの……ここ『なんでも屋』さんでいいんですか?依頼をしたいんですけど?」

「あっ!アイリーンお客様だよ!サイラス以来の!」

 さて。仕事をしないと。

 私は満面の笑みを浮かべながら、店の入り口を見る。もう私は決意しているから。これから新たな一歩目として。今までで一番大きな声であの言葉を言う。

「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」

 と。

 1部 完

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