【宮廷魔法士のやり直し!】~王宮を追放された天才魔法士は山奥の村の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌したい!~

夕姫

14. 違くても倒します

14. 違くても倒します



 私たちは、ルガーノ商会から『なんでも屋』に届いた手紙の依頼を行うために港町ミッセルの東にある森の中にいるゴブリンソルジャーを討伐することにした。この依頼には何か腑に落ちないところがかなりあるんだけどな。この2人は言っても聞いてくれないし…。

「どしたのアイリーン?元気ないけどさー?」

「はぁ。話の流れでわからないエイミー?」

「わからないよ?そんなピーマンみたいな難しい顔してるんだもん。」

 ピーマンみたいな難しい顔?また意味がわからないことを……。

「アイリーン?」

「もう!パプリカなのよパプリカ!エイミーがパプリカなの!」

「!?私パプリカじゃないよ!なんでそんな事言うの!」

 なんだろう……この会話をしていると悩みが馬鹿らしくなるな……。それにしても私たちは本当に何をやってるんだろうか。でも、まあいいか。とりあえずそのゴブリンソルジャーがいると言う森に向かう事にする。

 しばらく進むとその問題の森にたどり着く。そこは鬱蒼とした木々が立ち並び昼間なのに薄暗く不気味な雰囲気を醸し出している。

「ここが問題の森か。とりあえずオレが先頭を行く。エイミーはオレの後ろから離れるなよ?アイリーン、お前さんは後ろを頼む。」

「了解!レイダー。私は戦えないからよろしく!」

「エイミー。自慢にならないわよそれ?まぁレイダーさん。後ろは任せてください。」

 そう言って私たちは森の中に入っていく。中に入るとさらに不気味さが増したような気がする。しばらく歩くと少し開けた場所に出る。そこには大きな岩がありその上に1匹のゴブリンがいた。

 他にはいないのかしら?私がそんなことを考えているとレイダーさんは飛び出しあっさり仕留める。えぇ……もう少し慎重に動いてほしいのだけど……。すると、奥の方から地響きのような足音が聞こえてくる。

「こりゃでかいかもな。2人ともそこの岩に隠れろ。」

 私とエイミーはレイダーさんのその言葉の通り岩に身を潜める。そして現れたのは3メートルくらいありそうな巨大なゴブリンだった。しかも手には大剣を持っている。あれを食らったらひとたまりもないでしょうね。私たち3人は息を殺し気配を消して様子を伺う。

「あれがゴブリンソルジャー?大きいね!強そう!」

「エイミー何であなた嬉しそうなのよ……」

「アイツはキングゴブリンだ。ゴブリンソルジャーの上位種だな。なるほど、あのルガーノの野郎、偶然出会った事にして本当はこいつを討伐させる気だったみたいだな?」

「だから私は慎重にって言ったんですよ。どうするんですか?キングゴブリンはギルドの冒険者でも逃げ出す程の存在ですよ?」

 私たちはキングゴブリンの様子を伺いながら相談をする。するとエイミーとレイダーさんがキョトンとそた顔で私に言ってくる。

「どうするって?討伐するよ。それが依頼だしね。」

「ああ。『なんでも屋』に出来ないことはない。」

「いやあのですね…」

 私が反論しようとするとその言葉を遮りエイミーが私に話す。

「アイリーン。ここで私たちが逃げちゃうと困っている人を助けられない。あのルガーノ以外にもきっとそういう人が必ずいる。だからあのキングゴブリンを倒さないと。」

 その目は真剣そのものでとてもいつもの冗談を言っているようには見えない。確かにエイミーの言う通りかもね。他にも魔物による被害が少なからず出ているはずだ。それを見捨てる事なんてできない。私は覚悟を決める。するとレイダーさんも私の方を見て話し出す。

「オレたちは『なんでも屋』だ。依頼があればどんな相手だって倒さないといけない。例え相手が依頼とは違う上位種のキングゴブリンでもだ。」

 私は深くため息をつく。まったく。ズルい言いかたをする2人ね。でもそれがエイミーの『なんでも屋』なら私はそれに従うだけだ。あまり使いたくはなかったけど、私が出来ることだから。やってみるか……。

「まったく…分かりました。それならレイダーさんアイツの剣を止めておいてください。出来ますよね?斬撃より魔法の方が効果があるはずです。アイツは私の魔法で仕留めますから。」

「おう!任せな!」

「エイミーは私の後ろに下がって。魔法に巻き込まれるわよ。」

「アイリーン格好いい!うん。分かった!」

 私は大きく深呼吸をする。そして魔力を高めていく。使うのは中級魔法のフレアランス。これならば動きを止めることができるはず! 私は右手を前に出し詠唱を始める。

 《我は火の精霊に願う。灼熱の業火の意思、その炎槍で我が敵を焼き尽くせ!》

 そして詠唱が終わると目の前に直径30センチ程の赤い魔法陣が現れる。そこから無数の炎の槍が出現しキングゴブリンに向かって飛んでいく。

 全ての炎の槍がキングゴブリンに当たる。当たった箇所からは煙が上がりダメージを負っていることが確認できた。しかしまだ倒せない。なら次は中級魔法のサイクロン。連続発動になるけど私なら何も問題はない

 《我は風の精霊に願う。吹き荒れる暴風の意志、その刃で切り裂け!》

 今度は竜巻が現れキングゴブリンの周りを取り囲む。キングゴブリンはその竜巻から逃れようと暴れるが逃れることができない。そしてそれを見たレイダーさんが剣を振り抜きキングゴブリンの持っている大剣を叩き落とす。

 さらに私は次の上級魔法の準備に入る。炎、風では効果が薄いように感じる。ここは水魔法かな。

 《我は水の精霊に願う。激流の怒り、その怒涛の力で押し潰せ!》

 するとキングゴブリンの上に巨大な青い魔法陣が現れたと思うと、そこから大量の水が滝のように流れ落ちてくる。これはウォーターフォールと呼ばれる攻撃魔法だ。その魔法はキングゴブリンの頭上から大量の水が降り注ぎ押しつぶす。キングゴブリンは悲鳴を上げるがやがて静かになり動かなくなった。

 ふぅ……終わったかな?結構魔力使ったし疲れた……。そう思っていると後ろから2人の歓声が上がる。

「やったー!キングゴブリンを倒した!てかアイリーン強すぎ!最強ラディッシュ!」

「おお!やるじゃねぇかアイリーン。お前さんの魔法はやっぱり凄いもんだな。」

「まぁ。これでも私は王立学院を首席で卒業してますから。言ったじゃない、私は弱いからクビになったんじゃないって。」

 私は少しドヤ顔をしながら2人に話す。このくらいはいいわよね?だってキングゴブリンを倒したのは私だしね?そしてそのあと、私たちは本来の目的のゴブリンソルジャーも討伐しルガーノから報酬を貰う。ルガーノもまさか本当に討伐されるとは思ってなかったのか、目の前に討伐したキングゴブリンとゴブリンソルジャーの首をレイダーさんが机の上に置くと顔を青くして驚いていた。

「ああ楽しかった!また魔物討伐依頼があったらアイリーンとレイダーとやりたいな!」

 エイミーはニコニコしながら私とレイダーさんを見る。この野菜娘はなんでこんなに元気なのかしらね。それに戦えないのにどうしてついてくるんだろうか?

「あのさエイミー。なんで一緒についてくるの?あなた戦えないのに。怖くないの?」

 私の質問にエイミーは考えもせず、すぐに答える。

「えっ?怖くないよ。だってみんながいるし!だからこれからも一緒に頑張ろうね!アイリーン!あっそうだ!今日はお祝いで村のみんなにも美味しいものを買って帰ろう!」

 私はエイミーの言葉を聞いて心の中でため息をつく。まったく。そんなこと言われたら強く言えないじゃない。全くこの子は。でも私はいい人に拾ってもらったのかもしれないな。と心の中で感謝するのだった。

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