輝きを織り成す祭りに誇りを捧げて
青年団
「いいの、わたしだって手伝いたいの。それより、取材どうだったの? TVとか来るの?」
「残念ながらTVカメラとかは来ないよ。タウン誌の取材だそうだ」
椅子から立ち上がりそうな勢いの翼を尾児は手を振って否定し制止した。
そっか残念、と翼は項垂れた。
周りの女性達も尾児の言葉を聞いて長机に視線を戻し、作業を再開した。
「タウン誌って、『いい街、いい暮らし』に載るってこと?」
「違うよ。M市からの取材じゃなくて、今日来たのはI市のタウン誌の人だ」
尾児の言葉に作業をしていた女性達がざわついた。
「I市のタウン誌がなんでまたM市のこんな町に?」
奥に座る老婆が尾児に聞く。
町内会長の佐脇の妻だ。
「ああ、私もまったく同じ質問を彼にしましたよ。県内各市の伝統ある祭を取材するのが雑誌の企画らしいですよ」
尾児は少し笑って答えを返した。
佐脇夫人は、そう、とだけ呟いて頷いた。
「別の市のタウン誌に載るなんて、じゃあちょっとだけ有名になるね、うちの祭」
「そうだね」
楽しそうに言う翼に尾児も微笑み返した。
女性達の仕事が順調に進んでいるのを確認すると、尾児は青年団の方に顔を出してくると会議室を出ていった。
女性達は黙々と作業を続け、翼だけが見送りの言葉をかけた。
尾児が出ていったドアが閉まり、暫くは皆黙々と作業に集中していたものの、五分ほど経つと少しずつ会話が増えていった。
話題は先ほどの取材の話、そして祭の話。
翼の右隣りに座る母親もそのまた右隣りに座る隣の家の奥様と話している。
翼は同年代がいないので話をする相手を見つけれず、一人黙々と作業を続けていた。
翼が手に取っているのは祭の時に自身が着ることになる巫女装束だ。
長年使われている様で、所々が縫われて修復されている。
翼もまた、針に糸を通し修復作業に取りかかっている。
小学校時代に家庭科で高成績だったのが今でも自慢だ。
ただ翼にはなぜこの巫女装束がここまでボロボロなのかわからなかった。
教えられた巫女の役割は織輝神社で神輿が来るのを待っているだけであったからだ。
「翼」
不意に母親に名前を呼ばれ翼は驚いた。
針が指に刺さりそうになる。
「何?」
「あの人にはなるべく関わらないで」
母親は小声で、険しい顔で言う。
まるで説教されている様だ。
「あの人って、誰のこと?」
翼の問いに母親は答えない。
その代わりにじっと翼の目を見つめていた。
今まで見たことの無い母親の目に翼は恐怖を覚えた。
その目は酷く冷たく感じた。
真夏の昼過ぎとなると太陽光が視界を遮るほど照りつける。
噴き出す汗を拭いながら長束が尾児に教えられた倉庫に着くと活気のいい声が聞こえていた。
「エイサッホイサッエイサッホイサッ!」
倉庫内を覗くと青年団の若い男性達が神輿を担ぐ練習に励んでいた。
「エイサッホイサッエイサッホイサッ!……よぉしっ、ここら辺で休憩入れようか」
神輿に乗る金色に染めた短髪の青年――春日井頼斗がそう言うと他の青年達は歓喜の声を返した。
神輿から降りてくる頼斗に長束は近寄って声をかけた。
「タウン誌の取材?」
長束は挨拶と共に頼斗に名刺を渡した。
尾児との会話を繰り返す様に長束は頼斗に取材の説明をした。
頼斗は体格のいい強面で、尾児に少し似ていた。
汗だくになった無地の白Tシャツは肩まで捲り上げられていて、褐色に焼けた腕は豪腕と呼べるような逞しさである。
金髪のこともあり一見近寄り難い容姿であるものの、話してみると人懐っこい話し方をする青年であった。
長束の大人の作った人懐っこさではなく、青年の天然的なものだろう。
「祭はっすね、この神輿をオレら青年団が担いでって織輝神社まで行くのがメインっすね。あ、オレは神輿に乗って声掛けてるだけなんすけどね」
「そんな筋肉してるのに乗る役なんだね」
そうなんすよ、と頼斗が笑うので長束も笑い返す。
「昨年まで先頭で担いでたんすけど、今年は青年団の団長になっちまったんで乗ることになっちゃって」
「なっちまった、って嫌なのかい青年団の団長?」
「嫌ってわけじゃないんすけど、団長って人望とか責任感とかで選ばれるんじゃなくて青年団の最年長ってだけで選ばれるんすよ。んで、選ばれたらその年で青年団も卒業なんすよね」
頼斗は十八歳で今年高校を卒業する。
この町の青年団には二十五歳までと決まりがあって、昨年二十三歳の団長から頼斗は団長を受け継いだ。
「なるほど、寂しいのか」
「そうっすね。青年団なんっつても小学生のガキの頃から参加してましたから」
恥ずかしげもなく素直に答える頼斗に長束は好感を持った。
年齢で選ばれると言っていたが、やはり人望で選ばれたんではないかと思った。
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