ガチャ転生!~異世界でFラン冒険者ですが、ガチャを引いてチートになります
第99話 ガチャ・ダンジョン
悪魔が造った新しいダンジョンで初めて魔物を倒した。
だが、魔物は光の粒子になって消えてしまった。
残ったのは、一枚のコイン。
俺、サクラ、セレーネ、マチルダ、師匠神速のダグ、『銀翼』リーダーのフランチェスカさんの間で、ちょっとした議論になった。
まず、最初に騒ぎ立てたのはマチルダだ。
「ちょっと! どう言う事!? 魔物が消えてしまったじゃない!」
「マチルダ! 落ち着けよ!」
「落ち着かないわよ! 魔物が消えるなんて、聞いた事ないわよ! きっと何かの魔法か……私の頭がおかしくなったのよ!」
マチルダは興奮してしまって、俺じゃ落ち着かせられない。
すかさず姉のフランチェスカさんが、話しに入って来てくれた。
「マチルダ。大丈夫だ。魔物を倒したら消えたと言うだけで、私たちがダメージを受けた訳じゃない」
「お姉ちゃん! そりゃ、そうだけど――」
「それに矢は残っている」
なるほど、フランチェスカさんの言う通りで、セレーネが放った矢はダンジョンの通路に転がっている。
セレーネが矢を拾上げて、鏃を確認している。
「鏃が変形している……」
「えっ?」
「これを見て」
セレーネが矢をみんなの目の前に掲げて見せた。
矢の先端、金属製の鏃を指さす。
「ここが変形しているでしょ? 矢が獲物に突き刺さり、硬い骨にぶつかると鏃が変形しちゃうんだよ。だから、この変形した鏃は、矢がコボルドに刺さった証拠……。つまり、さっきのコボルドは幻とかじゃなくて、ちゃんとここに存在していたの」
セレーネの説明にマチルダがうなずく。
「なるほど……。私の頭がおかしくなった訳じゃないんだ……」
「うん。マチルダ、大丈夫。ちゃんとコボルドは、ここにいたんだよ。この変形した鏃がその証拠だから」
マチルダが落ち着きを取り戻した。
セレーネが続ける。
「けど……。獲物が消えてしまうと、素材が取れないよね……」
「そうよ! 収入ゼロって事になるわ! これじゃ赤字じゃない!」
へえ。
マチルダって、お金の事も考えているんだ。
お姉さんに全部お任せなのかと思っていた。
意外としっかりしている。
みんなの議論が続く中、俺が黙っているとサクラが【意識潜入】して来た。
『ヒロトさんは、魔物を倒すと消えてしまうのを知っていたんですか?』
『いや、知らなかった』
『何かゲームっぽいですよね』
『そうだな。けど、鑑定も通ったし、セレーネの鏃の件もあるし、実体のある魔物だったと思うよ』
『すると私と同じですかね?』
うん?
サクラと同じ?
サクラは天使で、本来肉体をもたない。
言語化するなら、エネルギー体のような存在だ。
今は魔力を使って肉体を構成している。
『あっ! さっきのコボルドは、魔力で肉体を構成していたのか!』
『たぶん、そうだと思いますよ。コボルド自体は、魔力は持ってない訳ですから、このダンジョンの魔力を使って、肉体を構成していたのでしょう』
『倒すと魔物の肉体が失われると……。そういう仕組みか……。みんなに教えてあげて』
魔物が消える仮説をサクラがみんなに聞かせている間に、俺はダンジョンの床に落ちたコインを拾い上げた。
五百円玉くらいの大きさで、この世界の数字で『1』と大きな刻印がある。
こんなデザインの硬貨は見た事がない。
少なくとも王都やルドルで流通している硬貨ではない。
「ヒロト、ドロップ品はどうだ?」
師匠の神速のダグが、俺に近寄りコインを覗き込んだ。
「師匠。このコインって、どこの国のコインかわかりますか?」
師匠にコインを手渡すと、師匠はコインの表裏をじっくりと見始めた。
「どれどれ……。見た事がないコインだな……。フランチェスカ! このコイン見た事があるか?」
フランチェスカさんの手にドロップ品のコインが渡る。
フランチェスカさんもコインをジッと見るが心当りがないらしく、首を横に振る。
「私も見た事がない。コインと言うよりは、メダルだな」
「なるほど。メダルね。お金と区別する為に、メダルと呼んだ方が良さそうだな。ヒロトどうだ?」
「俺もその方が良いと思いますよ。メダルと呼びましょう」
「よし! 決まりだ! で、このメダルは何だろうな? 普通の鉄? 少なくとも銀や金じゃなさそうだな」
「そうですね……」
俺は大体の察しはついている。
おそらく……このメダルを使って、地下一階にあったガチャを回すのだろう。
「とにかく、もう何匹か狩ってみましょう」
俺たちは探索を進め、合計五匹のコボルドを倒し、メダルを五枚手に入れた。
地下一階に戻るとハゲール、ジュリさん、王者の魂の面々が待っていた。
「戻って来たな。見ていたぞ!」
ハゲールは、水晶が映し出す壁面の映像を指さす。
どうやら俺たちが探索していた様子は、ちゃんと映し出されていたようだ。
「ギルド長、声も聞こえていましたか?」
「ああ。聞こえていた。ドロップ品のコインは、メダルと呼ぶ事で了解した。その方が間違いがなくて、ギルドとしても良い。しかし、そのメダルは何だろうな?」
「こうやって使うんじゃないですか?」
俺は右手でメダルをチャリチャリしながら、『1~10』と書いてあるガチャの前に立った。
全員の視線が俺に注がれる。
メダルを投入口に一枚入れ、大きいハンドルを両手で回す。
ハンドルが、ちょっと重い。
力を入れてハンドルを一回転させる。
するとガチャ自体がピカリと光った。
ゴトリ!
鈍い音が下の景品取り出し口から聞こえた。
横幅2メートル以上ある景品取り出し口から、ガチャの景品を取り出す。
まったくガチャ自体も大きいけれど、ハンドルも景品取り出し口もデカイ。
出て来たのは革鎧だった。
剣道の胴に似たシンプルなタイプだ。
「【鑑定】……」
その場で、すぐ【鑑定】をかける。
-------------------
革の鎧
防御力+5
-------------------
「オークの革鎧ですね!」
みんな興味津々なので、取り出したオークの革鎧を手渡し順番に見て貰った。
「ほう……本物だな……」
「コボルド一匹倒して、オークの革鎧なら良いな!」
「いくらだろ?」
「五万ゴルドって、とこじゃないか?」
一通りオークの革鎧を見終わった所で、ハゲールが俺に聞いて来た。
「ヒロト! 隣の……ガチャ……だったかな? ガチャは動かないか?」
「この11~25って書いてあるガチャですか?」
「そうだ!」
「試してみましょう……」
だが、隣のガチャにメダルを入れても、返却されてしまった。
「ダメですね。メダルが入って行きません」
「ふむ……そうか……。すると、その1と書いてあるメダルは、1~10と書いてあるガチャで使えると言う事かな?」
「ああ! 多分、そうじゃないですかね!」
「すると、ここ地下一階は入り口の階層……ロビーで、地下二階を一階層と呼んだ方が良さそうだな」
「そうですね。賛成します」
「よし! では、この地下一階をロビー、地下二階を一階層と呼ぶ事にする!」
その方が混乱しなくて良いだろう。
さて、残りのメダルは四枚だ。
まだ、ガチャを四回回せる。
「ヒロトさん! 私たちもガチャを回したいです!」
サクラたちが期待のこもった目でこちらを見た。
「じゃあ、一人一枚ずつメダルを渡すよ」
サクラ、セレーネ、マチルダに一枚ずつメダルを渡す。
最初にガチャに向かったのはマチルダだ。
「最初は私よ! ここにメダルを入れて、このハンドルを回すのね?」
「そうだよ」
「あっ……かたいわね……」
マチルダはハンドルを両手で握って踏ん張っている。
どことなく、何か妙に色っぽく感じるがスルーだ。
ハンドルを回し終わると、ガチャがぴかりと光った。
コトン!
俺の時より軽い音だ。
「何かしら? 魔石ね。」
マチルダが手にしたガチャの景品は、真っ赤な魔石だった。
クズ魔石じゃなくて、拳よりちょっと小さいくらいの大きさで、ちゃんと値段が付きそうだ。
ジュリさんに見て貰えば良い。
「ジュリさん。どうですか? マチルダの魔石はいくら位でしょうか?」
「そうね。マチルダちゃんのは、火属性の魔石ね。大きさもあるから、買い取り価格は5000ゴルドよ」
「よかったな、マチルダ!」
「そうね。5000ゴルドなら悪くないわ!」
マチルダも当たりじゃないだろうか。
続いて、セレーネがガチャを回す。
ゴトン!
かなり重めの落下音がした。
今度は何だ?
セレーネが景品取り出し口に手を突っ込んだ。
取り出したのは――。
「やったぁ~! お肉だぁ~!」
セレーネが取り出したのは、肉塊!
嬉しそうに、肉塊を両手に持ってピョンピョン飛び跳ねている。
上ロース……って感じかな。
セレーネは、黙って立っていれば美少女なんだけどな。
獲物を見ると猟師スイッチが入ったり、平然と魔物を解体出来たり、肉塊を見るとこの有り様だったり……。
まあ、お風呂も一緒に入っているので。
俺が責任取るので。
「セレーネちゃんのお肉は、上等な赤身ね。ワイルド・バッファローのお肉かな? そのサイズなら、6000ゴルドで買い取るわよ」
「あー、ジュリさん。大丈夫でーす。自分で食べまーす!」
さあ、次はサクラだ。
サクラがガチャを回すと一際明るく光った。
ポコン!
何か違う音が……軽い音だな。
サクラが景品取り出し口から、ガチャの景品を取り出す。
「(U^ω^)わんわんお!」
「あっ、犬のぬいぐるみか」
サクラが手にしているのは、可愛い犬のぬいぐるみだ。
茶色のトイプーかな。
ガチャと言うよりも、UFOキャッチャーの景品なのだが……。
引き当てた本人は喜んでいるので、良いだろう。
「サクラちゃん、可愛いぬいぐるみだねえ~。良かったねえ~」
「ありがとう! セレーネちゃん!」
「ねえ、なんか紐がついてるよ」
「あっ! これポシェットになるんだ! おっ!? ここにポケットがある。手が入りますぞ! ぞ! ぞ! ぞ!」
わんこのぬいぐるみの背面に、ポケットがついているらしい。
サクラがポケットに右手を突っ込んだのだが、ずずずいっと肩口まで入ってしまった。
あっ……それ、ぬいぐるみじゃなくて――。
「「「「「マジックバッグだ!」」」」」
どうやらサクラが一番の当たりを引いたらしい。
と言うよりも、悪魔のヤツ!
これは、絶対エコひいきしているよな。
まあ、最初のガチャだし『アタリ』を見せておくってところか。
四人とも『アタリ』が出て良かった。
「残りのメダルが一枚……。師匠か、フランチェスカさんがガチャを引いてみますか?」
師匠とフランチェスカさんは、俺たちのパーティーに同行してくれた。
ガチャを回す権利があるだろう。
「おっ、そうだな! フランチェスカ! どうする?」
「私は良い。そう言うのはダグがやりたいだろう?」
「フフ、バレたか! じゃあ、遠慮なく俺が――」
「ちょっと待った!」
俺がメダルを師匠に渡そうとすると、ハゲールが横合いからメダルをひったくった。
「ギルド長! 何をするんですか!?」
「ヒロト! 黙れ! 最後のガチャは私が回す!」
「ええっ!?」
「私は王都第三ギルドのギルドマスターだ! つまり! このダンジョン、このガチャは、わ、た、し、の、管轄下にあるのだ!」
「「始まったよ……」」
俺と師匠は天を仰いだ。
「いや、ギルド長。しかしですよ。冒険者がガチャを回そうとしているのを横合いからひったくるのは、良くないでしょ?」
「おい、ハゲール。ヒロトの言う通りだぞ! 大人気ないぞ!」
「いや、ダグ先輩……。私はガチャを回したいんですよ! お願いしますよ!」
ハゲールの目はギラギラと光り、顔は油ギッシュ!
あー、なんかヤバイ感じ……。
俺と師匠は顔を見合わせうなずき合うとハゲールにOKを出した。
「ま、まあ。ギルド長なら、確認する必要がありますよね」
「ハゲールが、そんなにやりたいなら。俺は譲っても……まあ、良いよ!」
「ほ、本当ですか!? ダグ先輩、ありがとうございます!」
俺には礼を言わないんだな~。
まあ、良いけど。
「よーし! じゃあ、私がガチャを回すぞ! こ、この……このメダルを……ここだな? むふふふふふ……」
笑い声が気持ち悪い。
その笑顔に女性陣がドン引きしている。
フランチェスカさんが極めて嫌そうな顔をしている。
知らないぞ、『銀翼』がいなくなっても。
「そして……そして……このハンドルを回す……どうだ!?」
ハゲールはハンドルを回し終わったが、俺たちの時のようにガチャは光らなかった。
景品が落ちる音もしない。
ハズレか?
そう思ったら、景品取り出し口からヒラリと一枚の羊皮紙が舞い出て来た。
あっ!
ひょっとしてカードか?
スキルカードとか?
ステータスカードとか?
もし、そうなら、大当たりじゃ?
クソッ!
俺が欲しかったな!
「おお! 何か出て来たぞ!」
ハゲールが、興奮しきった声で羊皮紙を拾い上げた。
みんながハゲールを取り囲み、手元を覗き込む。
羊皮紙に、書いてあったのは――
ハ・ズ・レ
――ハゲール、お疲れ!
「ぶははははっ! いや~ハゲール! 残念だったな!」
師匠が大声で笑いだす。
ハゲールは、目に涙を浮かべてプルプルしている。
「師匠! 笑ったらギルド長が可愛そうですよ!」
「いや、ヒロトだって、笑っているだろ? ぶははは! ほら、フランチェスカも笑ってるよ!」
ハゲールは、きっと顔を上げて俺をにらみ怒鳴り出した。
「なぜだ! オマエたちは、良い物が出て! なぜ! わたしは『ハズレ』なのだ!」
「いや、知りませんよ! ぷふふふ。日頃の行いじゃないですかね?」
「あれだ、ヒロト。モテルかどうかじゃないかな? ぶははは」
「ああ、師匠ナイス! それならギルド長が『ハズレ』なのも納得ですね。 ぷふふふ」
「そんな事がある訳ないだろう!」
ハゲールが怒鳴り散らす横で、サクラとセレーネがお得意の歌を振り付きで歌いだした。
ウインクの涙を見せないで。
もう、泣かないで! って歌詞だ。
二人が歌い踊るのを見て、ハゲールは真っ赤になって叫んだ。
「こんなのありかー!」
だが、魔物は光の粒子になって消えてしまった。
残ったのは、一枚のコイン。
俺、サクラ、セレーネ、マチルダ、師匠神速のダグ、『銀翼』リーダーのフランチェスカさんの間で、ちょっとした議論になった。
まず、最初に騒ぎ立てたのはマチルダだ。
「ちょっと! どう言う事!? 魔物が消えてしまったじゃない!」
「マチルダ! 落ち着けよ!」
「落ち着かないわよ! 魔物が消えるなんて、聞いた事ないわよ! きっと何かの魔法か……私の頭がおかしくなったのよ!」
マチルダは興奮してしまって、俺じゃ落ち着かせられない。
すかさず姉のフランチェスカさんが、話しに入って来てくれた。
「マチルダ。大丈夫だ。魔物を倒したら消えたと言うだけで、私たちがダメージを受けた訳じゃない」
「お姉ちゃん! そりゃ、そうだけど――」
「それに矢は残っている」
なるほど、フランチェスカさんの言う通りで、セレーネが放った矢はダンジョンの通路に転がっている。
セレーネが矢を拾上げて、鏃を確認している。
「鏃が変形している……」
「えっ?」
「これを見て」
セレーネが矢をみんなの目の前に掲げて見せた。
矢の先端、金属製の鏃を指さす。
「ここが変形しているでしょ? 矢が獲物に突き刺さり、硬い骨にぶつかると鏃が変形しちゃうんだよ。だから、この変形した鏃は、矢がコボルドに刺さった証拠……。つまり、さっきのコボルドは幻とかじゃなくて、ちゃんとここに存在していたの」
セレーネの説明にマチルダがうなずく。
「なるほど……。私の頭がおかしくなった訳じゃないんだ……」
「うん。マチルダ、大丈夫。ちゃんとコボルドは、ここにいたんだよ。この変形した鏃がその証拠だから」
マチルダが落ち着きを取り戻した。
セレーネが続ける。
「けど……。獲物が消えてしまうと、素材が取れないよね……」
「そうよ! 収入ゼロって事になるわ! これじゃ赤字じゃない!」
へえ。
マチルダって、お金の事も考えているんだ。
お姉さんに全部お任せなのかと思っていた。
意外としっかりしている。
みんなの議論が続く中、俺が黙っているとサクラが【意識潜入】して来た。
『ヒロトさんは、魔物を倒すと消えてしまうのを知っていたんですか?』
『いや、知らなかった』
『何かゲームっぽいですよね』
『そうだな。けど、鑑定も通ったし、セレーネの鏃の件もあるし、実体のある魔物だったと思うよ』
『すると私と同じですかね?』
うん?
サクラと同じ?
サクラは天使で、本来肉体をもたない。
言語化するなら、エネルギー体のような存在だ。
今は魔力を使って肉体を構成している。
『あっ! さっきのコボルドは、魔力で肉体を構成していたのか!』
『たぶん、そうだと思いますよ。コボルド自体は、魔力は持ってない訳ですから、このダンジョンの魔力を使って、肉体を構成していたのでしょう』
『倒すと魔物の肉体が失われると……。そういう仕組みか……。みんなに教えてあげて』
魔物が消える仮説をサクラがみんなに聞かせている間に、俺はダンジョンの床に落ちたコインを拾い上げた。
五百円玉くらいの大きさで、この世界の数字で『1』と大きな刻印がある。
こんなデザインの硬貨は見た事がない。
少なくとも王都やルドルで流通している硬貨ではない。
「ヒロト、ドロップ品はどうだ?」
師匠の神速のダグが、俺に近寄りコインを覗き込んだ。
「師匠。このコインって、どこの国のコインかわかりますか?」
師匠にコインを手渡すと、師匠はコインの表裏をじっくりと見始めた。
「どれどれ……。見た事がないコインだな……。フランチェスカ! このコイン見た事があるか?」
フランチェスカさんの手にドロップ品のコインが渡る。
フランチェスカさんもコインをジッと見るが心当りがないらしく、首を横に振る。
「私も見た事がない。コインと言うよりは、メダルだな」
「なるほど。メダルね。お金と区別する為に、メダルと呼んだ方が良さそうだな。ヒロトどうだ?」
「俺もその方が良いと思いますよ。メダルと呼びましょう」
「よし! 決まりだ! で、このメダルは何だろうな? 普通の鉄? 少なくとも銀や金じゃなさそうだな」
「そうですね……」
俺は大体の察しはついている。
おそらく……このメダルを使って、地下一階にあったガチャを回すのだろう。
「とにかく、もう何匹か狩ってみましょう」
俺たちは探索を進め、合計五匹のコボルドを倒し、メダルを五枚手に入れた。
地下一階に戻るとハゲール、ジュリさん、王者の魂の面々が待っていた。
「戻って来たな。見ていたぞ!」
ハゲールは、水晶が映し出す壁面の映像を指さす。
どうやら俺たちが探索していた様子は、ちゃんと映し出されていたようだ。
「ギルド長、声も聞こえていましたか?」
「ああ。聞こえていた。ドロップ品のコインは、メダルと呼ぶ事で了解した。その方が間違いがなくて、ギルドとしても良い。しかし、そのメダルは何だろうな?」
「こうやって使うんじゃないですか?」
俺は右手でメダルをチャリチャリしながら、『1~10』と書いてあるガチャの前に立った。
全員の視線が俺に注がれる。
メダルを投入口に一枚入れ、大きいハンドルを両手で回す。
ハンドルが、ちょっと重い。
力を入れてハンドルを一回転させる。
するとガチャ自体がピカリと光った。
ゴトリ!
鈍い音が下の景品取り出し口から聞こえた。
横幅2メートル以上ある景品取り出し口から、ガチャの景品を取り出す。
まったくガチャ自体も大きいけれど、ハンドルも景品取り出し口もデカイ。
出て来たのは革鎧だった。
剣道の胴に似たシンプルなタイプだ。
「【鑑定】……」
その場で、すぐ【鑑定】をかける。
-------------------
革の鎧
防御力+5
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「オークの革鎧ですね!」
みんな興味津々なので、取り出したオークの革鎧を手渡し順番に見て貰った。
「ほう……本物だな……」
「コボルド一匹倒して、オークの革鎧なら良いな!」
「いくらだろ?」
「五万ゴルドって、とこじゃないか?」
一通りオークの革鎧を見終わった所で、ハゲールが俺に聞いて来た。
「ヒロト! 隣の……ガチャ……だったかな? ガチャは動かないか?」
「この11~25って書いてあるガチャですか?」
「そうだ!」
「試してみましょう……」
だが、隣のガチャにメダルを入れても、返却されてしまった。
「ダメですね。メダルが入って行きません」
「ふむ……そうか……。すると、その1と書いてあるメダルは、1~10と書いてあるガチャで使えると言う事かな?」
「ああ! 多分、そうじゃないですかね!」
「すると、ここ地下一階は入り口の階層……ロビーで、地下二階を一階層と呼んだ方が良さそうだな」
「そうですね。賛成します」
「よし! では、この地下一階をロビー、地下二階を一階層と呼ぶ事にする!」
その方が混乱しなくて良いだろう。
さて、残りのメダルは四枚だ。
まだ、ガチャを四回回せる。
「ヒロトさん! 私たちもガチャを回したいです!」
サクラたちが期待のこもった目でこちらを見た。
「じゃあ、一人一枚ずつメダルを渡すよ」
サクラ、セレーネ、マチルダに一枚ずつメダルを渡す。
最初にガチャに向かったのはマチルダだ。
「最初は私よ! ここにメダルを入れて、このハンドルを回すのね?」
「そうだよ」
「あっ……かたいわね……」
マチルダはハンドルを両手で握って踏ん張っている。
どことなく、何か妙に色っぽく感じるがスルーだ。
ハンドルを回し終わると、ガチャがぴかりと光った。
コトン!
俺の時より軽い音だ。
「何かしら? 魔石ね。」
マチルダが手にしたガチャの景品は、真っ赤な魔石だった。
クズ魔石じゃなくて、拳よりちょっと小さいくらいの大きさで、ちゃんと値段が付きそうだ。
ジュリさんに見て貰えば良い。
「ジュリさん。どうですか? マチルダの魔石はいくら位でしょうか?」
「そうね。マチルダちゃんのは、火属性の魔石ね。大きさもあるから、買い取り価格は5000ゴルドよ」
「よかったな、マチルダ!」
「そうね。5000ゴルドなら悪くないわ!」
マチルダも当たりじゃないだろうか。
続いて、セレーネがガチャを回す。
ゴトン!
かなり重めの落下音がした。
今度は何だ?
セレーネが景品取り出し口に手を突っ込んだ。
取り出したのは――。
「やったぁ~! お肉だぁ~!」
セレーネが取り出したのは、肉塊!
嬉しそうに、肉塊を両手に持ってピョンピョン飛び跳ねている。
上ロース……って感じかな。
セレーネは、黙って立っていれば美少女なんだけどな。
獲物を見ると猟師スイッチが入ったり、平然と魔物を解体出来たり、肉塊を見るとこの有り様だったり……。
まあ、お風呂も一緒に入っているので。
俺が責任取るので。
「セレーネちゃんのお肉は、上等な赤身ね。ワイルド・バッファローのお肉かな? そのサイズなら、6000ゴルドで買い取るわよ」
「あー、ジュリさん。大丈夫でーす。自分で食べまーす!」
さあ、次はサクラだ。
サクラがガチャを回すと一際明るく光った。
ポコン!
何か違う音が……軽い音だな。
サクラが景品取り出し口から、ガチャの景品を取り出す。
「(U^ω^)わんわんお!」
「あっ、犬のぬいぐるみか」
サクラが手にしているのは、可愛い犬のぬいぐるみだ。
茶色のトイプーかな。
ガチャと言うよりも、UFOキャッチャーの景品なのだが……。
引き当てた本人は喜んでいるので、良いだろう。
「サクラちゃん、可愛いぬいぐるみだねえ~。良かったねえ~」
「ありがとう! セレーネちゃん!」
「ねえ、なんか紐がついてるよ」
「あっ! これポシェットになるんだ! おっ!? ここにポケットがある。手が入りますぞ! ぞ! ぞ! ぞ!」
わんこのぬいぐるみの背面に、ポケットがついているらしい。
サクラがポケットに右手を突っ込んだのだが、ずずずいっと肩口まで入ってしまった。
あっ……それ、ぬいぐるみじゃなくて――。
「「「「「マジックバッグだ!」」」」」
どうやらサクラが一番の当たりを引いたらしい。
と言うよりも、悪魔のヤツ!
これは、絶対エコひいきしているよな。
まあ、最初のガチャだし『アタリ』を見せておくってところか。
四人とも『アタリ』が出て良かった。
「残りのメダルが一枚……。師匠か、フランチェスカさんがガチャを引いてみますか?」
師匠とフランチェスカさんは、俺たちのパーティーに同行してくれた。
ガチャを回す権利があるだろう。
「おっ、そうだな! フランチェスカ! どうする?」
「私は良い。そう言うのはダグがやりたいだろう?」
「フフ、バレたか! じゃあ、遠慮なく俺が――」
「ちょっと待った!」
俺がメダルを師匠に渡そうとすると、ハゲールが横合いからメダルをひったくった。
「ギルド長! 何をするんですか!?」
「ヒロト! 黙れ! 最後のガチャは私が回す!」
「ええっ!?」
「私は王都第三ギルドのギルドマスターだ! つまり! このダンジョン、このガチャは、わ、た、し、の、管轄下にあるのだ!」
「「始まったよ……」」
俺と師匠は天を仰いだ。
「いや、ギルド長。しかしですよ。冒険者がガチャを回そうとしているのを横合いからひったくるのは、良くないでしょ?」
「おい、ハゲール。ヒロトの言う通りだぞ! 大人気ないぞ!」
「いや、ダグ先輩……。私はガチャを回したいんですよ! お願いしますよ!」
ハゲールの目はギラギラと光り、顔は油ギッシュ!
あー、なんかヤバイ感じ……。
俺と師匠は顔を見合わせうなずき合うとハゲールにOKを出した。
「ま、まあ。ギルド長なら、確認する必要がありますよね」
「ハゲールが、そんなにやりたいなら。俺は譲っても……まあ、良いよ!」
「ほ、本当ですか!? ダグ先輩、ありがとうございます!」
俺には礼を言わないんだな~。
まあ、良いけど。
「よーし! じゃあ、私がガチャを回すぞ! こ、この……このメダルを……ここだな? むふふふふふ……」
笑い声が気持ち悪い。
その笑顔に女性陣がドン引きしている。
フランチェスカさんが極めて嫌そうな顔をしている。
知らないぞ、『銀翼』がいなくなっても。
「そして……そして……このハンドルを回す……どうだ!?」
ハゲールはハンドルを回し終わったが、俺たちの時のようにガチャは光らなかった。
景品が落ちる音もしない。
ハズレか?
そう思ったら、景品取り出し口からヒラリと一枚の羊皮紙が舞い出て来た。
あっ!
ひょっとしてカードか?
スキルカードとか?
ステータスカードとか?
もし、そうなら、大当たりじゃ?
クソッ!
俺が欲しかったな!
「おお! 何か出て来たぞ!」
ハゲールが、興奮しきった声で羊皮紙を拾い上げた。
みんながハゲールを取り囲み、手元を覗き込む。
羊皮紙に、書いてあったのは――
ハ・ズ・レ
――ハゲール、お疲れ!
「ぶははははっ! いや~ハゲール! 残念だったな!」
師匠が大声で笑いだす。
ハゲールは、目に涙を浮かべてプルプルしている。
「師匠! 笑ったらギルド長が可愛そうですよ!」
「いや、ヒロトだって、笑っているだろ? ぶははは! ほら、フランチェスカも笑ってるよ!」
ハゲールは、きっと顔を上げて俺をにらみ怒鳴り出した。
「なぜだ! オマエたちは、良い物が出て! なぜ! わたしは『ハズレ』なのだ!」
「いや、知りませんよ! ぷふふふ。日頃の行いじゃないですかね?」
「あれだ、ヒロト。モテルかどうかじゃないかな? ぶははは」
「ああ、師匠ナイス! それならギルド長が『ハズレ』なのも納得ですね。 ぷふふふ」
「そんな事がある訳ないだろう!」
ハゲールが怒鳴り散らす横で、サクラとセレーネがお得意の歌を振り付きで歌いだした。
ウインクの涙を見せないで。
もう、泣かないで! って歌詞だ。
二人が歌い踊るのを見て、ハゲールは真っ赤になって叫んだ。
「こんなのありかー!」
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