ガチャ転生!~異世界でFラン冒険者ですが、ガチャを引いてチートになります
第96話 帰還と報告
俺とマチルダは第三冒険者ギルドへ戻った。
冒険者ギルドには、みんな揃っていて丁度俺たちの救出作戦を考えていた所だった。
「ヒロトさん!」
サクラが俺に飛びついた。
バフっと俺の頭にしがみつくから、スカートの中が俺の顔面を直撃した。
柔らかい太ももが俺の頬を締め付ける。
本来気持ち良いはずだが、スキルでも発動しているのか窒息させられそうだ。
「サクラ! ギブギブ!」
そしてセレーネは俺の胴体にタックル気味に抱き着いて来た。
「ヒロト!」
「グオッ!」
セレーネの頭がみぞおちを直撃して、息が詰まる。
感動の再開のハズが、上下で絞め技を食らうハメになった。
「ちょっと! ちょっと! 二人とも落ち着いて! 息が出来ないから!」
「おお! 気が付きませんでした!」
「ごめ~ん!」
二人が離れた所でマチルダの方へ目をやると、お姉さんのフランチェスカさんと抱き合って感動の再開中だ。
「姉さん! 心配かけてごめんなさい!」
「マチルダが無事でよかった……」
「姉さんから貰った杖、壊して失くしてしまったの」
「良いのだ。杖など、また買えば良い。もう、こんな無茶をしてはいけないよ」
「はい……」
いや、何か二人とも良い感じだな。
俺はサクラとセレーネに説教をする。
「ほら! 感動の再会とは、マチルダとフランチェスカさんのあの感じを言うんだ」
「あー。ああ言うしっとりした感じは、私無理ですね」
「サクラちゃんはねえ……無理だよね……」
「ちょっ! セレーネちゃん!」
サクラとセレーネがじゃれ合う。
ああ、無事に帰って来られて本当に良かった!
そして、師匠がニヤニヤしながら近づいて来る。
「よう! ルーキー! お疲れ!」
「さすがにくたびれました」
「いや、本当に良くやってくれたよ。こっちはフランチェスカが焦るし、救出に行くにも戦力は足らないしでな。頭を抱えていたんだ。マチルダちゃんを無事に救出して、ヒロトも無事に帰って来てくれて本当に良かった!」
あのフランチェスカさんがねえ~。
冷静沈着な感じだけれど、妹の事になると冷静ではいられないのか。
やっぱりマチルダは可愛い妹なんだな。
俺は師匠と一緒にスコットさんたち『王者の魂』に礼を言う。
「ご協力ありがとうございました! お陰で無事に救出できました!」
「弟子が世話になったな! ありがとう!」
スコットさんたちは、神速のダグに頭を下げられて、何ともやりにくそうだ。
スコットさんが分厚い手を左右に振りながら、恐縮して答える。
「いや! そんな! ダグさんの弟子とは知らなかった! とにかく二人とも無事で良かった!」
スコットさんには、何かお礼をしなくちゃならないな。
あっ! そうだ!
「スコットさん! これ逃げ回っている最中に手に入れたんですけど、差し上げます」
俺はマジックバッグから金柑を取り出して、『王者の魂』の五人に一人一つずつ手渡した。
スコットさんの大きな手にちょこんと金色の果実がのる。
何か絵面が可愛い。
スコットさんは、手のひらでポンポンと遊ばせたり匂いを嗅いだりしている。
「へえ。良い匂いがするな! 見た事ないけど、こりゃ果物かな?」
俺が答えるより先に師匠が答えた。
「そりゃ! 金柑だな!」
「師匠知ってるんですか?」
「ああ、知っている。どこのダンジョンだったかな……確か五十階層あたりで手に入れた事がある」
ダンジョンの五十階層は、並みの冒険者では潜れない。
恐らくBランク以上の冒険者で構成したパーティーじゃないと厳しい。
冒険者のランクは、七段階――
Sランク ミスリル
Aランク 金
Bランク 銀
Cランク 銅
Dランク 青銅
Eランク 鉄
Fランク 木
――に分かれている。
Fランクは、見習い。
Eランクは、新人。
Dランク、通称ブルーカードになれば、一人前の冒険者だ。
師匠の神速のダグとクラン『銀翼』リーダーのフランチェスカさんは、Sランク。
俺、サクラ、セレーネは、Cランクだ。
ぶっちゃけDランク・ブルーカードまでは、真面目に冒険者活動をやっていれば昇格可能だが、Cランク以上は実績と相応の強さが求められる。
DランクからBランクは、2ランクの違いだが、冒険者としての実力はランク差以上に相当の開きがある。
つまり――Bランクじゃないと到達できない五十階層で手に入る『金柑』は、入手が困難なアイテムと思われる。
俺は師匠に確認する。
「五十階層……じゃあ、ひょっとして結構貴重品ですか? 俺、あと五つ金柑を持ってますけど」
「そうだな。えーと、売却額はいくらだったかな……。確かそれ一つで、100万ゴルドだったな」
「「「「「「100万ゴルド!」」」」」」
俺とスコットさんたち王者の魂メンバーは、声をひっくりかえらせて驚いた。
手の上で金柑を遊ばせていたスコットさんは、そーっと両手ですくうように金柑を持ち直した。
一個で100万ゴルドのアイテムなんて、普通の冒険者は手にした事がないのだ。
やばい。
俺、十個持って帰って来たよね。
五個をスコットさんたちにあげたから、残りは五個。
つまり――。
「いや、王都ならもっと値段がつく」
俺が脳内で計算している途中で、フランチェスカさんが会話に入って来た。
「ダグ。金柑一個百万は、金柑を得たダンジョン地元の冒険者ギルドで売却した額だ。あそこは……かなり遠方の……」
「ラウダ! ラウダのダンジョンだろ!」
「うむ。ラウダのダンジョンだ。ここからは、かなり遠い」
「そうか、ならフランチェスカの言う通り、ここならもっと良い値段がつくな」
「うむ。王都の商人も欲しがるだろう。確か色々な薬の材料になるはず」
マジかよ!
俺、金持ちじゃん!
あ、薬の材料になるなら、一つはチアキアマにプレゼントしても良いな。
「やりましたね! ヒロトさん! 転んでもタダでは起きませんね!」
「ヒロトすごーい!」
サクラとセレーネが、今度は左右から抱き着いて来た。
いやあ、お金持ちで両手に花。
良い気分だ!
スコットさんが、目を白黒させながら聞いて来るが俺は鷹揚に答えた。
「なあ、ヒロト……。そんな貴重なアイテムもらって良いのかよ? それも俺たち一人に一個ずつ」
「受け取って下さい。魔の森に入る命がけの救出作戦でしたから。パーティーリーダーとしてお礼です」
「そ、そうか! じゃあ、遠慮なく! ありがとな!」
スコットさんたちもホクホク顔でみんなハッピーだ。
いや~良かったな。
終わりよければ、全て良し。
今回のマチルダ騒動も無事解決した。
みんなで良い雰囲気になって笑い合っているとハゲールが声を上げた。
「ちょーっと! 待った! オイ! ヒロト!」
「ギルド長? 何ですか?」
「オマエ、その金柑は、ここで売るよな?」
「ここで?」
「ここだ! 私がギルド長を務める第三冒険者ギルドでだ!」
ああ、そう言う事か。
ハゲールは目をギラギラさせて鼻息が荒い。
元気のないハゲールも困るけど、いつもの暑苦しいハゲールもまた考え物だな。
「いや、まあ、そりゃ高く買ってくれれば、どこで売っても構わないですけど――」
「よし! 決まりだ! 私に任せろ! スコットたちも良いな!」
「ええ!? ハゲールさん、大丈夫かい? 王都の商人と交渉できるのか?」
「私を誰だと思っているんだ! できるに決まっている!」
スコットさんは、俺に目を合わせて来たので、俺はうなずいてみせた。
まあ、ハゲールは、お金関係についてしっかりしている。
ルドルの街でギルド長をやっていたし、大丈夫だろう。
「まあ、そう言う事なら。ハゲールさんに任せるよ」
「よし! じゃあ、寄越せ! さあ! さあ!」
まるで没収するような勢いでハゲールは手を伸ばして、金柑を回収した。
ハゲールの勢いに押されて、俺も手持の金柑五個を渡した。
「さて、ヒロト。それで……金柑はどこで手に入れた?」
「え?」
「金柑が採れる場所は教えてくれるよなあ?」
「教えても良いですけど……金獅子って言う目茶苦茶強い魔物がいますよ」
「なに!? 金獅子!?」
「ええ、オーガより強くて、動きが早いライオン型の魔物です。そいつのテリトリーに金柑の木が一本だけ生えているんですよ」
「ぬう。番人がいるのか……大儲けできると思ったが……」
ハゲールはがっかりしている。
そうか、ハゲールは新任のギルド長で、ここは弱小冒険者ギルドだからな。
利益を上げなきゃ、ハゲールやジュリさんの給料が出ないよな。
「ヒロト。オマエはどうしたんだ?」
「俺がその場所に着いた時は、金獅子はいなかったんですよ。金柑をもいでいたら、金獅子が戻って来て慌てて逃げました」
「ふーん、そうか。運が良かったな」
「ええ」
悪魔が金獅子を倒した事は内緒にした。
この世界で地獄帰りの転生者は嫌われている。
わざわざ俺が不利な立場になる事を教える必要はない。
ハゲールは、両手に抱えた金柑をじっと見てから師匠に目を移した。
「ダグ先輩たちなら、金柑をとってこられますよね?」
「ん? まあ、そうだな……。リーダーはフランチェスカだ」
「フランチェスカさん! どうですか?」
「ふむ。金獅子であれば、対戦経験はあるし勝利できるだろう。しかし、まだ『銀翼』のメンバーが揃っていない」
師匠とフランチェスカさんのクラン『銀翼』は、本拠地をウィンストン王国からここオーランド王国に移している途中だ。
王都への先乗りで師匠とフランチェスカさんがやって来たが、ほとんどのメンバーはまだ移動中らしい。
金獅子相手に、師匠とフランチェスカさんだけでは分が悪そうだ。
金獅子の攻撃を防ぐ強力な前衛――盾役が必要だろう。
タワーシールドで攻撃を防ぐ双子の『双璧』が来るまでは、金獅子攻略は難しそうだ。
フランチェスカさんは冷静に続ける。
「それに魔の森の魔物を間引く手も足らない。冒険者の数が圧倒的に不足しているよ」
フランチェスカさんの言葉に、スコットさんたち『王者の魂』が反応する。
「そうそう! 俺たちだけじゃ限界だよ!」
「魔の森の外で、オークやゴブリンを見かける事が増えた」
「ああ、魔の森の外に巣があるかもしれない」
「このままじゃ王都の安全は守れないですよ!」
「とにかく人手を増やしてくれなきゃ、どうにもなりませんよ!」
フランチェスカさんが落ち着いた態度でスコットさんたちを抑える。
「もちろん我ら『銀翼』も魔物退治に協力するが、彼らの言う通り冒険者の数が足りなさ過ぎる。冒険者を増やす方策が、ギルド長殿におありか?」
「ぐぬ……それは……」
ハゲールは、言葉に詰まってしまった。
王都に冒険者がいない訳じゃない。
第一冒険者ギルドには、わんさかいた。
王都には二つダンジョンがあって、第一冒険者ギルドが両方のダンジョンを抑えている。
さらに、王位継承争いで冒険者の引き抜きが行われた。
第三冒険者ギルドから、第一冒険者ギルドに大量に引き抜かれてしまったのだ。
だから、第一冒険者ギルドからこちらへ冒険者をひっぱってくれば良い。
そして、その材料を俺は持っている。
「新しいダンジョンの入り口を見つけました」
「「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」」
みんな『俺の言った事がわからない』とばかりに、無言になりこちらを凝視する。
無理もない。
新しいダンジョンなんて、そう見つかるもんじゃない。
何十年に一回か、百年に一回か、それ位の頻度で見つかるかどうかと言う代物だ。
「マチルダを背負って逃げる途中で、未発見のダンジョンの入り口を見つけたんですよ」
「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」
俺の言葉が徐々にみんなに染み込んでいる。
しばらくしてハゲールが口を開いた。
「待て! ヒロト! おまえ、ダンジョンを見つけたのか!?」
「そうです。ここから東へ行った魔の森の中です」
「ほ……本当か!?」
「本当ですよ。魔の森の中と言っても、ヘリの方ですから簡単に出入りできる場所ですよ。ああ、まだ中には入っていません」
「やったー!」
ハゲールが両手を上げて喜び、ギルド内は爆弾が落ちたような騒ぎになった。
「ギルド長! これで第一冒険者ギルドから冒険者を引っ張ってこれそうですかね?」
「ああ! 出来る! 新しいダンジョンが見つかったとなれば、他の街からも冒険者が来るぞ! これでこの第三冒険者ギルドは安泰だ! うううう……」
いや、頼むから泣かないで欲しい。
ハゲールに泣かれてもちっとも嬉しくない。
「ダンジョン発見の報酬をお願いしますよ!」
「ううう……わかった……うう……」
ええい! ウザイわ!
泣くハゲールを放って、師匠とフランチェスカさんの所へ逃げた。
「オイオイ! 凄いじゃないか! 新ダンジョンを見つけちまうとはな!」
「師匠が良いからですね!」
「おお! わかってるねえ~!」
フランチェスカさんも俺を褒めてくれる。
「うーん。ルドルで新ルートを発見したと聞いていたが、よもや新ダンジョンまで発見するとは! ヒロトはダンジョンに愛されているな」
悪魔に教えてもらいましたとは言えない。
そこは内緒だ。
「ありがとうございます」
「マチルダを救ってもらった礼がまだだったな。ありがとう。本当にありがとう」
「いえ。妹さんはウチのパーティーメンバーですから。仲間を救いに行くのは当然です」
「ふむ……君は年の割にしっかりしているようだ」
俺はあまり深く考えずに模範解答を返しただけなのだが、フラチェスカさんはかなり好意的に受けとめてくれたらしい。
フランチェスカさんは、あまり表情が変わらないのだけれど、目元が優しくなっている。
「だが、妹を救ってもらったのだから、後日何かしら礼をさせてくれ」
「それは、ありがとうございます」
クラン『銀翼』のリーダーの申し出だから、断るとかえって失礼だろう。
フランチェスカさんのお礼は後日の楽しみにしておこう。
泣き止んだハゲールが、元気にまとめた。
「よし! 明日は全員で新しいダンジョンに行こう!」
冒険者ギルドには、みんな揃っていて丁度俺たちの救出作戦を考えていた所だった。
「ヒロトさん!」
サクラが俺に飛びついた。
バフっと俺の頭にしがみつくから、スカートの中が俺の顔面を直撃した。
柔らかい太ももが俺の頬を締め付ける。
本来気持ち良いはずだが、スキルでも発動しているのか窒息させられそうだ。
「サクラ! ギブギブ!」
そしてセレーネは俺の胴体にタックル気味に抱き着いて来た。
「ヒロト!」
「グオッ!」
セレーネの頭がみぞおちを直撃して、息が詰まる。
感動の再開のハズが、上下で絞め技を食らうハメになった。
「ちょっと! ちょっと! 二人とも落ち着いて! 息が出来ないから!」
「おお! 気が付きませんでした!」
「ごめ~ん!」
二人が離れた所でマチルダの方へ目をやると、お姉さんのフランチェスカさんと抱き合って感動の再開中だ。
「姉さん! 心配かけてごめんなさい!」
「マチルダが無事でよかった……」
「姉さんから貰った杖、壊して失くしてしまったの」
「良いのだ。杖など、また買えば良い。もう、こんな無茶をしてはいけないよ」
「はい……」
いや、何か二人とも良い感じだな。
俺はサクラとセレーネに説教をする。
「ほら! 感動の再会とは、マチルダとフランチェスカさんのあの感じを言うんだ」
「あー。ああ言うしっとりした感じは、私無理ですね」
「サクラちゃんはねえ……無理だよね……」
「ちょっ! セレーネちゃん!」
サクラとセレーネがじゃれ合う。
ああ、無事に帰って来られて本当に良かった!
そして、師匠がニヤニヤしながら近づいて来る。
「よう! ルーキー! お疲れ!」
「さすがにくたびれました」
「いや、本当に良くやってくれたよ。こっちはフランチェスカが焦るし、救出に行くにも戦力は足らないしでな。頭を抱えていたんだ。マチルダちゃんを無事に救出して、ヒロトも無事に帰って来てくれて本当に良かった!」
あのフランチェスカさんがねえ~。
冷静沈着な感じだけれど、妹の事になると冷静ではいられないのか。
やっぱりマチルダは可愛い妹なんだな。
俺は師匠と一緒にスコットさんたち『王者の魂』に礼を言う。
「ご協力ありがとうございました! お陰で無事に救出できました!」
「弟子が世話になったな! ありがとう!」
スコットさんたちは、神速のダグに頭を下げられて、何ともやりにくそうだ。
スコットさんが分厚い手を左右に振りながら、恐縮して答える。
「いや! そんな! ダグさんの弟子とは知らなかった! とにかく二人とも無事で良かった!」
スコットさんには、何かお礼をしなくちゃならないな。
あっ! そうだ!
「スコットさん! これ逃げ回っている最中に手に入れたんですけど、差し上げます」
俺はマジックバッグから金柑を取り出して、『王者の魂』の五人に一人一つずつ手渡した。
スコットさんの大きな手にちょこんと金色の果実がのる。
何か絵面が可愛い。
スコットさんは、手のひらでポンポンと遊ばせたり匂いを嗅いだりしている。
「へえ。良い匂いがするな! 見た事ないけど、こりゃ果物かな?」
俺が答えるより先に師匠が答えた。
「そりゃ! 金柑だな!」
「師匠知ってるんですか?」
「ああ、知っている。どこのダンジョンだったかな……確か五十階層あたりで手に入れた事がある」
ダンジョンの五十階層は、並みの冒険者では潜れない。
恐らくBランク以上の冒険者で構成したパーティーじゃないと厳しい。
冒険者のランクは、七段階――
Sランク ミスリル
Aランク 金
Bランク 銀
Cランク 銅
Dランク 青銅
Eランク 鉄
Fランク 木
――に分かれている。
Fランクは、見習い。
Eランクは、新人。
Dランク、通称ブルーカードになれば、一人前の冒険者だ。
師匠の神速のダグとクラン『銀翼』リーダーのフランチェスカさんは、Sランク。
俺、サクラ、セレーネは、Cランクだ。
ぶっちゃけDランク・ブルーカードまでは、真面目に冒険者活動をやっていれば昇格可能だが、Cランク以上は実績と相応の強さが求められる。
DランクからBランクは、2ランクの違いだが、冒険者としての実力はランク差以上に相当の開きがある。
つまり――Bランクじゃないと到達できない五十階層で手に入る『金柑』は、入手が困難なアイテムと思われる。
俺は師匠に確認する。
「五十階層……じゃあ、ひょっとして結構貴重品ですか? 俺、あと五つ金柑を持ってますけど」
「そうだな。えーと、売却額はいくらだったかな……。確かそれ一つで、100万ゴルドだったな」
「「「「「「100万ゴルド!」」」」」」
俺とスコットさんたち王者の魂メンバーは、声をひっくりかえらせて驚いた。
手の上で金柑を遊ばせていたスコットさんは、そーっと両手ですくうように金柑を持ち直した。
一個で100万ゴルドのアイテムなんて、普通の冒険者は手にした事がないのだ。
やばい。
俺、十個持って帰って来たよね。
五個をスコットさんたちにあげたから、残りは五個。
つまり――。
「いや、王都ならもっと値段がつく」
俺が脳内で計算している途中で、フランチェスカさんが会話に入って来た。
「ダグ。金柑一個百万は、金柑を得たダンジョン地元の冒険者ギルドで売却した額だ。あそこは……かなり遠方の……」
「ラウダ! ラウダのダンジョンだろ!」
「うむ。ラウダのダンジョンだ。ここからは、かなり遠い」
「そうか、ならフランチェスカの言う通り、ここならもっと良い値段がつくな」
「うむ。王都の商人も欲しがるだろう。確か色々な薬の材料になるはず」
マジかよ!
俺、金持ちじゃん!
あ、薬の材料になるなら、一つはチアキアマにプレゼントしても良いな。
「やりましたね! ヒロトさん! 転んでもタダでは起きませんね!」
「ヒロトすごーい!」
サクラとセレーネが、今度は左右から抱き着いて来た。
いやあ、お金持ちで両手に花。
良い気分だ!
スコットさんが、目を白黒させながら聞いて来るが俺は鷹揚に答えた。
「なあ、ヒロト……。そんな貴重なアイテムもらって良いのかよ? それも俺たち一人に一個ずつ」
「受け取って下さい。魔の森に入る命がけの救出作戦でしたから。パーティーリーダーとしてお礼です」
「そ、そうか! じゃあ、遠慮なく! ありがとな!」
スコットさんたちもホクホク顔でみんなハッピーだ。
いや~良かったな。
終わりよければ、全て良し。
今回のマチルダ騒動も無事解決した。
みんなで良い雰囲気になって笑い合っているとハゲールが声を上げた。
「ちょーっと! 待った! オイ! ヒロト!」
「ギルド長? 何ですか?」
「オマエ、その金柑は、ここで売るよな?」
「ここで?」
「ここだ! 私がギルド長を務める第三冒険者ギルドでだ!」
ああ、そう言う事か。
ハゲールは目をギラギラさせて鼻息が荒い。
元気のないハゲールも困るけど、いつもの暑苦しいハゲールもまた考え物だな。
「いや、まあ、そりゃ高く買ってくれれば、どこで売っても構わないですけど――」
「よし! 決まりだ! 私に任せろ! スコットたちも良いな!」
「ええ!? ハゲールさん、大丈夫かい? 王都の商人と交渉できるのか?」
「私を誰だと思っているんだ! できるに決まっている!」
スコットさんは、俺に目を合わせて来たので、俺はうなずいてみせた。
まあ、ハゲールは、お金関係についてしっかりしている。
ルドルの街でギルド長をやっていたし、大丈夫だろう。
「まあ、そう言う事なら。ハゲールさんに任せるよ」
「よし! じゃあ、寄越せ! さあ! さあ!」
まるで没収するような勢いでハゲールは手を伸ばして、金柑を回収した。
ハゲールの勢いに押されて、俺も手持の金柑五個を渡した。
「さて、ヒロト。それで……金柑はどこで手に入れた?」
「え?」
「金柑が採れる場所は教えてくれるよなあ?」
「教えても良いですけど……金獅子って言う目茶苦茶強い魔物がいますよ」
「なに!? 金獅子!?」
「ええ、オーガより強くて、動きが早いライオン型の魔物です。そいつのテリトリーに金柑の木が一本だけ生えているんですよ」
「ぬう。番人がいるのか……大儲けできると思ったが……」
ハゲールはがっかりしている。
そうか、ハゲールは新任のギルド長で、ここは弱小冒険者ギルドだからな。
利益を上げなきゃ、ハゲールやジュリさんの給料が出ないよな。
「ヒロト。オマエはどうしたんだ?」
「俺がその場所に着いた時は、金獅子はいなかったんですよ。金柑をもいでいたら、金獅子が戻って来て慌てて逃げました」
「ふーん、そうか。運が良かったな」
「ええ」
悪魔が金獅子を倒した事は内緒にした。
この世界で地獄帰りの転生者は嫌われている。
わざわざ俺が不利な立場になる事を教える必要はない。
ハゲールは、両手に抱えた金柑をじっと見てから師匠に目を移した。
「ダグ先輩たちなら、金柑をとってこられますよね?」
「ん? まあ、そうだな……。リーダーはフランチェスカだ」
「フランチェスカさん! どうですか?」
「ふむ。金獅子であれば、対戦経験はあるし勝利できるだろう。しかし、まだ『銀翼』のメンバーが揃っていない」
師匠とフランチェスカさんのクラン『銀翼』は、本拠地をウィンストン王国からここオーランド王国に移している途中だ。
王都への先乗りで師匠とフランチェスカさんがやって来たが、ほとんどのメンバーはまだ移動中らしい。
金獅子相手に、師匠とフランチェスカさんだけでは分が悪そうだ。
金獅子の攻撃を防ぐ強力な前衛――盾役が必要だろう。
タワーシールドで攻撃を防ぐ双子の『双璧』が来るまでは、金獅子攻略は難しそうだ。
フランチェスカさんは冷静に続ける。
「それに魔の森の魔物を間引く手も足らない。冒険者の数が圧倒的に不足しているよ」
フランチェスカさんの言葉に、スコットさんたち『王者の魂』が反応する。
「そうそう! 俺たちだけじゃ限界だよ!」
「魔の森の外で、オークやゴブリンを見かける事が増えた」
「ああ、魔の森の外に巣があるかもしれない」
「このままじゃ王都の安全は守れないですよ!」
「とにかく人手を増やしてくれなきゃ、どうにもなりませんよ!」
フランチェスカさんが落ち着いた態度でスコットさんたちを抑える。
「もちろん我ら『銀翼』も魔物退治に協力するが、彼らの言う通り冒険者の数が足りなさ過ぎる。冒険者を増やす方策が、ギルド長殿におありか?」
「ぐぬ……それは……」
ハゲールは、言葉に詰まってしまった。
王都に冒険者がいない訳じゃない。
第一冒険者ギルドには、わんさかいた。
王都には二つダンジョンがあって、第一冒険者ギルドが両方のダンジョンを抑えている。
さらに、王位継承争いで冒険者の引き抜きが行われた。
第三冒険者ギルドから、第一冒険者ギルドに大量に引き抜かれてしまったのだ。
だから、第一冒険者ギルドからこちらへ冒険者をひっぱってくれば良い。
そして、その材料を俺は持っている。
「新しいダンジョンの入り口を見つけました」
「「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」」
みんな『俺の言った事がわからない』とばかりに、無言になりこちらを凝視する。
無理もない。
新しいダンジョンなんて、そう見つかるもんじゃない。
何十年に一回か、百年に一回か、それ位の頻度で見つかるかどうかと言う代物だ。
「マチルダを背負って逃げる途中で、未発見のダンジョンの入り口を見つけたんですよ」
「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」
俺の言葉が徐々にみんなに染み込んでいる。
しばらくしてハゲールが口を開いた。
「待て! ヒロト! おまえ、ダンジョンを見つけたのか!?」
「そうです。ここから東へ行った魔の森の中です」
「ほ……本当か!?」
「本当ですよ。魔の森の中と言っても、ヘリの方ですから簡単に出入りできる場所ですよ。ああ、まだ中には入っていません」
「やったー!」
ハゲールが両手を上げて喜び、ギルド内は爆弾が落ちたような騒ぎになった。
「ギルド長! これで第一冒険者ギルドから冒険者を引っ張ってこれそうですかね?」
「ああ! 出来る! 新しいダンジョンが見つかったとなれば、他の街からも冒険者が来るぞ! これでこの第三冒険者ギルドは安泰だ! うううう……」
いや、頼むから泣かないで欲しい。
ハゲールに泣かれてもちっとも嬉しくない。
「ダンジョン発見の報酬をお願いしますよ!」
「ううう……わかった……うう……」
ええい! ウザイわ!
泣くハゲールを放って、師匠とフランチェスカさんの所へ逃げた。
「オイオイ! 凄いじゃないか! 新ダンジョンを見つけちまうとはな!」
「師匠が良いからですね!」
「おお! わかってるねえ~!」
フランチェスカさんも俺を褒めてくれる。
「うーん。ルドルで新ルートを発見したと聞いていたが、よもや新ダンジョンまで発見するとは! ヒロトはダンジョンに愛されているな」
悪魔に教えてもらいましたとは言えない。
そこは内緒だ。
「ありがとうございます」
「マチルダを救ってもらった礼がまだだったな。ありがとう。本当にありがとう」
「いえ。妹さんはウチのパーティーメンバーですから。仲間を救いに行くのは当然です」
「ふむ……君は年の割にしっかりしているようだ」
俺はあまり深く考えずに模範解答を返しただけなのだが、フラチェスカさんはかなり好意的に受けとめてくれたらしい。
フランチェスカさんは、あまり表情が変わらないのだけれど、目元が優しくなっている。
「だが、妹を救ってもらったのだから、後日何かしら礼をさせてくれ」
「それは、ありがとうございます」
クラン『銀翼』のリーダーの申し出だから、断るとかえって失礼だろう。
フランチェスカさんのお礼は後日の楽しみにしておこう。
泣き止んだハゲールが、元気にまとめた。
「よし! 明日は全員で新しいダンジョンに行こう!」
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