ガチャ転生!~異世界でFラン冒険者ですが、ガチャを引いてチートになります

武蔵野純平

第75話 だが、遅い! 対ウォール戦

 このウォールとの1戦は、勝たなきゃならない。
 それに、ただ勝てば、良い訳じゃない。




 まず、ニューヨークファミリーに、隙を作る。
 隙が出来れば、サクラが助けを呼びに行く。
 俺とウォールの戦いに、みんなが夢中になれば、その隙は出来るはずだ。


 俺が勝てば、俺たちを見逃せと条件を付けてある。
 ケインやウォールは、この条件、約束を守らない。
 勝とうが、負けようが、俺たちを全員始末しようとするだろう。


 だが、そこだ。
 俺たちが、この条件を信じているフリをする。
 条件を信じるという事は、誰も逃げないという事だ。


 獲物が逃げない……ケインとウォールにとっては好都合だ。
 ケインとウォールは、絶対に油断する。


 隙と油断。
 これでサクラが、この部屋から脱出する成功確率は高くなる。


 そして、時間稼ぎ。
 ここまでで、10分位時間が稼げたと思う。


 時間を稼げば、俺のもう一つの狙いが実現する。
 そうすれば、応援が来るまで何とかなる。


 俺は、コルセアの剣を抜いて進み出た。
 ウォールも剣を抜く。


 ウォールの剣は、ウインストン王国王家御用達のライトニング工房製だ。
 ミスリル合金の直剣は、ボルツの革鎧でも貫くだろう。


 ウォールが、ニタニタと笑いながら、ゆっくりと歩み出る。
 剣をだらんと垂らしたまま、立ち止まった。


 この剣を構えない感じ。
 ここから、突然、攻撃に移るのが、ウォールの攻撃パターンだ。




 だから、今回は俺から仕掛ける!




「フッ!」


 俺は、大きく息を吐くと、軽く【神速】を使う。
 スキルを1割位に加減した速度だ。


 ウォールとの距離は、5メートル空いている。
 5メートルの距離を一気に詰めて、真上から下にコルセアを振り下ろす。




 シャッ!




 目の前から、ウォールの姿が消えた。
 コルセアが、空を斬る。


「おお! 危ない、危ない! 危ないなぁ~」


 ウォールの声が、右後ろから聞こえた。
 真下にある剣を、右後方に片腕でコルセアを振り上げる。




 チリッ!




 剣先に、わずかな手応えがあった。
 おそらく、服を斬ったのだろう。


 ウォールは、また5メートル先に移動していた。
 スキル【加速】で、素早く移動している。


 この5メートルがヤツの間合いか?
 俺は、ウォールを挑発する様に言葉を投げつける。


「デブのクセに、素早いんだな! でも、かすったぜ!」


 ウォールは、顔を真っ赤にして、怒鳴って来た。


「良い加減にしろよ! 平民風情が!」


 コイツ、面白いほどに挑発に乗るな。
 余程、『デブ』と言われるのが、嫌なんだな。
 さて、相手が怒っている隙に…。
 
 もう一度斬り込む!
 
 今度は、2割に加減した【神速】だ。
 1割アップとは言え、さっきの攻撃より相当早い。


 俺にとっては、5メートルは一足一刀どころじゃない。
 スキル【神速】を使えば、すぐに手が届くかなりの近間だ。


「セイッ!」


 声を上げて、俺はウォールに向かって加速する。
 コルセアを、上から下に斬り下ろす。




 シャッ!




 さっきと同じようにウォールが、目の前から消えた。
 今度はどこに移動した?
 俺は、スキル【気配察知】でウォールの移動先を探る。


 いる!
 また、右後ろだ。


 俺は、振り向きながら、剣を巻き返す。
 右上から、左下に、振り向きざまに、斬り下げる。




 キイーン!




 剣と剣が、ぶつかり合った。
 2割の【神速】でも、俺の攻撃が見えているらしい。


「目が良いんだな……」


「フン! この程度の【加速】で、調子に乗るなよ! 【加速】の使い方を教えてやる!」


 ウォールは俺のスキルを【加速】だと思っている。
 お生憎様、【神速】なんだよね。


 ウォールが、後に大きく離れた。
 10メートルの距離を取る。


 俺はコルセアを正面に構える。
 意識を集中する。


 スキル【神速】は、体を早く動かすだけのスキルじゃない。
 視覚、意識、反応速度、あらゆるスピードを、神の領域に引き上げてくれる。




 ドン!




 ウォールが、スキル【加速】で移動を始めた。
 真っ直ぐに進んで、右、左、とジグザグに移動している。


 太った体が、目にも止まらぬスピードで迫って来る。
 ボス部屋にいる他の人間には、ウォールの姿は、見えていないだろう。


 だが、【神速】持ちの俺には見える。
 ウォールが、剣を腰だめにして、右から突進して来る。




 ジャッ!




 ウォールが俺の胴へ突きを放った。
 俺は、剣で払いながら、右方向に急速移動する。
 ウォールは、俺の動きに付いて来た。


「へー! 俺に付いて来られるんだ。身軽だな、おデブちゃん!」


「貴様! 殺してやる! そこを動くな!」


「動くに決まっているだろう!」


 俺はウォールを挑発しながら、ヤツの攻撃をかわす。
 2割の【神速】で、ボス部屋を、縦横無尽に移動する。


 ウォールは、俺に喰らいつきながら、雑な攻撃を放ってくる。
 俺はワザと、ニューヨークファミリーの冒険者の方へ移動していく。


 俺がかわしたウォールの雑な攻撃が、ニューヨークファミリーの冒険者にヒットする。


「ウワッ!」
「痛い!」
「アアッ!」


 冒険者たちから悲鳴が上がる。
 堪らずガシュムドが、大声で指示を出した。


「皆、部屋の壁際まで下がれ! 巻き込まれるな!」




 ウォールの雑な攻撃を受けていて、分かった。
 こいつはスキル頼みで、訓練をしていない。
 俺のように毎日剣を振って来ていない


 だから、剣の扱いは雑だ。
 おまけに、相手の右方向に回り込むクセがある。


 俺は、右へ、右へと移動すれば良い。
 それだけで、ウォールは、攻撃がしづらくなる。


 ガチャ頼み、貴族と言う身分頼みで、自分自身で身に着けた力や技術がない。
 それが、ウォールだ。




 ウォールの額には、汗が浮かんでいる。
 自分の攻撃が、まったく俺に当たらないからだろう。
 あせった顔が、だんだんと泣きそうな顔になっている。


 俺は、段々と腹が立って来た。


「自分の攻撃が当たらないのが、悔しいか?」


「うるさい!」


「自分の攻撃が、なぜ、当たらないのか。わかるか?」


「黙れ!」


「オマエは、スキルに頼り過ぎなんだよ!」




 俺は、【神速】を2割のまま、今までと逆の動きをする。
 左方向にウォールの攻撃をかわして、一気に20メートルの距離を取る。


 これまでと逆の動きにウォールは対応出来ない。
 俺を見失い、立ち止まってキョロキョロとしている。


 俺は剣を大上段に構える。
 20メートル先のウォールに、怒鳴りつける。


「ここだ! ウォール!」


 ウォールが、振り向いた。
 顔が引きつっている。


 見えなかったんだろうな。
 逆を突かれるなんて、予想もしていなかったのだろうな。


 俺は、加速と共に深く踏み込む。
 大上段から、真っ直ぐ斬りつける。




 ズバッ!




 踏み込みが深い分、ウォールの回避が遅れる。
 ウォールの額に、傷が入り血が滴る。


「受けぐらい、したらどうだ!」


 俺の怒鳴り声に、ウォールが慌てて剣を頭上にかざす。
 俺は連続して攻撃を仕掛ける。


 右上から左下へ。
 左上から右下に。


 二段突き。
 胴斬り。


 ウォールは、かろうじて俺の攻撃を止め、かわしている。
 だが、少しずつ、俺の剣がウォールに迫る。


 ウォールの泣きそうな顔をしている。
 情けない。


 俺の剣が、ウォールの軍服を切り刻む。
 顔から、腕から、血が流れる。


「これで、終わりだ! 【スラッシュ】!」


 俺は横っ飛びで、ウォールから距離を取る。
 反動を付けて再び踏み込み、【スラッシュ】を叩きこむ。




 ザン!




 手応えアリ!
 俺の【スラッシュ】が、ウォールの右腕をとらえた。


 ウォールが、悲鳴を上げる。


「ギャー! 腕が! 腕が!」


 俺は剣のつばで、ウォールを押し飛ばす。
 ウォールが、腕を抑え情けない悲鳴を上げながら、床を転がりまわる。


 俺は、ウォールの無様な姿を見て、腹の底から怒りが込み上げて来た。


 コイツは、冒険者として、剣を扱うものとして、最低限の技術もない。
 ガチャで得たスキル任せに、自分より弱い奴を殺して来ただけのクズ野郎だ。


「オマエは、弱い奴ばかり、嬲り殺して来ただろう?」


 ウォールは、涙を流しながら奇声を発している。


「ヒギャ! ヒ、ギャギャギャギャギャギャ!」


 俺はウォールの腹を、力一杯蹴り上げる。
 ウォールが、転げ回る。


「意味不明な事、言ってんじゃねーぞ! 立てよ! トドメを刺してやるよ!」


 自分でも驚く程に攻撃的な言葉、攻撃的な声が出た。
 俺自身が今まで我慢していたからか?


 だが、良い。
 もう、コイツとの勝負はついた。


 コイツは、王族のエリス姫を殺そうとしたのだ。
 俺がここでコイツを始末しても、お咎めはないだろう。


 俺は、ウォールをにらみつけて、そんな事を考えていた。
 すると左側から、大きな黒い影が迫って来た。


 ガシュムドだ!


 片手で大剣を軽々と振りかぶって、俺に叩きつけて来た。
 俺は、軽くバックステップしてガシュムドの大剣をかわす。


 ガシュムドが、俺とウォールの間に、立ちふさがった。
 ガシュムドが吠える。


「そこまでだ! 遊びは終わりだ!」


 ウォールに、ケインとニューヨークファミリーの魔法使いが駆け寄る。
 魔法使いが、回復魔法をかけている。


 ガシュムドが、俺をギロリとにらむ。


「小僧! 殺す!」


 だが、俺もエキサイトしている。
 ガシュムドにやり返す。


「やってみろよ! デクの坊!」


「うぬ! 言うか!」


「オマエは、体がデカイだけだろうが! 斬り刻んでやるぜ!」


 俺とガシュムドが、にらみ合う。


 ガシュムドは、俺を殺す気だ。
 だが、俺もヤツをヤル気だ。


 殺気が充満する。
 冒険者たちの注目が集まる。








「【ヘイスト】!」






 突然、執事セバスチャンの支援魔法をかける声が、ボス部屋に響いた。


 ハッとして、声の方を向く。
 サクラが【飛行】して、階段に向かっている。


 サクラの体は、うすい緑色の光りに包まれ、今まで見た事のないスピードで飛んでいる。
 サクラが打ち合わせ通り、ボス部屋からの脱出に打って出たのだ。


 このタイミングかよ!
 俺もエキサイトして、まったく注意していなかった。


 ニューヨークファミリーの連中は、ポカンと口を開けている。
 意表を突かれて何が起きたのか、わかっていない。


 ケインが、あわてて指示を出す。


「バ! バカ! 止めろ!」


 だが、遅い!
 サクラは、階段の前にいたニューヨークファミリーの冒険者たちの頭の上を、猛スピードで、飛び去って行った。


 やったな!
 サクラ!


 俺は、声を出して笑った。


「ハハ……。ハハハ! ハハハハ! これで、数分で応援が来る!」


 ガシュムドは、余程、意表を突かれたのだろう。
 目も、口も、ポカンと開いて、何とも言えない顔をしている。


 俺は、執事セバスチャンを見た。
 してやったりの表情だ。


 エリス姫も、セレーネも、ニヤリと笑っている。
 おそらく、サクラが【意識潜入】して伝えておいたのだろう。




 ボス部屋の中は、ザワザワとし出した。
 ニューヨークファミリーの冒険者たちが、動揺し始めたのだ。


 そりゃ、そうだ。
 階段を降りれば、すぐ転移魔方陣だ。


 領主館に転移すれば、騎士やギルドの冒険者がわんさかいる。
 すぐに、山ほど応援が来る事は、子供でも分かる。


 ケインが、大声でガシュムドに指示を出した。


「ガシュムドー! 殺れー! 応援が来る前にカタを付けろー!」


 ガシュムドが、ハッとして、我に返った。
 大剣を掲げると、野太い声を上げた。


「皆殺しだ!」

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