ガチャ転生!~異世界でFラン冒険者ですが、ガチャを引いてチートになります

武蔵野純平

第67話 対峙

 結局、俺の家は、焼け落ちてしまった。
 この世界には、消防署とか消防士はいないのだ。
 燃え盛る家を前に、俺達はなすすべが無かった。


 夜だが、領主館のエリス姫に報告して、犯人を突き出す事にした。
 領主館は、塀と門のある大きな館だ。
 ちょっとした学校位の広さがある。


 俺、セレーネ、サクラ、チアキママは、エリス姫の領主館に身を寄せる事になった。
 チアキママは、なかなか泣き止まない。


「あの家は……、あの人が……、ヒロトのお父さんが、お金を出してくれたのよ」


「知らなかった……」


 物心ついた時から、母一人、子一人だった。
 ずっと父親の事は、あえて聞かずにいた。


 いや、だってさ。
 俺の中身は、40才のオッサンだから。


 転生前の感覚だと、そういうデリケートな事は、聞かないに限るだろ。


 セレーネとサクラが、付きっきりでチアキママを慰めている。
 こういう時、男はダメだ。
 まったくの役立たずだ。


 俺自身も、長らく住んでいた家が焼けてしまってショックだ。
 私物はあらかたマジックバッグに入れて持ち出せたけれど、思い出のある家、実家がなくなってしまったのだ。


 取り返しがつかない。
 よくも、やってくれたな!


 エリス姫が、申し訳なさそうに謝って来た。


「おそらくは、ウォールの仕業であろう。巻き込んでしまって、申し訳ない。母御殿には、償いのしようがない」


「いえ。償いはウォールにさせますよ。捕まえた3人は、喋りましたか?」


 執事のセバスチャンが答えた。


「はい。3人は、最近この街に来た冒険者だそうです。着いてすぐに、ニューヨークファミリーに誘われてメンバーになったとか。『あの家に悪い奴らがいるから、火を点けて、炙り出した所を仕留めるように』と指示されたそうです」


「指示したのは、ウォールですか?」


「おそらく。太った偉そうな貴族の指示だった、と言っています」


「わかりました。明日の夕方、冒険者ギルドでウォールに対面させましょう。みんなの目がある所なら、ウォールも言い逃れ出来ないでしょう」


「はい。では、明日、そのように手配いたします」


 *


 家を焼き討ちされた翌日の夕方、俺たちは冒険者ギルドに乗り込んだ。
 エリス姫と執事セバスチャン、騎士達が放火犯3人を連れて来た。


 俺、セレーネ、サクラは、怒り心頭だ。
 いざとなったら、その場で暴れて白黒つけるつもりでいる。


 冒険者ギルドのドアを開けると、ウォールの声が聞こえて来た。
 受付カウンターで、ハゲールと話をしている。


「だからねぇ! 王都の第3ギルドなんて、あってないような物だよ。それより、僕の派閥に入った方が、良いと思うんだけどなぁ~」


「えーと……。あのお~、お気持ちは、ありがたく頂戴いたしますが、既にエリス姫には、お返事をしましたので……」


 俺、セレーネ、サクラが、ウォールの後ろに立つ。
 背後から激しくガンをクレる。


 ハゲールが俺たち3人の激しさにたじろいた。
 ウォールが、俺たちのガンに気付いて振り向き、とぼけた声を出した。


「おお! これはぁ~、これはぁ~、ヒロト君じゃないかぁ~、元気ぃ?」


 ウォールのすっトボケた態度を見て、俺はプツンと切れてしまった。


「元気じゃねーよ! よくもやってくれたな!」


 ウォールは、椅子に座ったままだ。
 また、俺たちに背を向け面倒くさそうに答えた。


「何の事かなぁ~」


 ウォールの不遜な態度を見て、セレーネがキレた。
 ギルド中に響く声で、ウォールを糾弾した。


「とぼけないで! 昨日の夜、私たちの家に火を点けて、殺そうとしたでしょう!」


 ギルドの中が、ざわつく。
 冒険者たちが、こちらの様子を伺う。
 ハゲールが驚いて話に入って来た。


「そ、それは、本当か?」


 セレーネは、ハゲールに訴える。


「本当ですよ! 私たち必死で、家から逃げたんですから!」


「ウォ、ウォール様! 放火は、重罪ですよ!」


 ハゲールは、ウォールに問いかけた。
 だが、ウォールは、相変わらずこちらに背中を向けたまま、微動だにしない。


「知らないなぁ~」


 ウォールは、シラを切る。
 じゃあ、こっちも生き証人を出すよ。
 俺は、背中を向けているウォールに告げる。


「犯人は、生け捕りにしたんだ」


 ウォールの背中が、ピクリと動いた。


「誰に命令されたか、証言してくれる、って言うからさ。連れて来ているんだよ」


 ウォールは、首を、左、右、と動かした。
 首が、ポキポキと鳴った。


 エリス姫の騎士が、縛り上げた犯人たちを、ギルドのホールの真ん中に突き出した。
 犯人たち3人は、床に座らされた。


 ギルドの中は、静まり返った。
 ギルド中の視線が、犯人達に注がれる。


 騎士が、ゆっくりと、重々しい声で、犯人に質問した。


「お前たちは、ヒロト殿の家に火を点け、ヒロト殿たちを、殺そうとしたのだな?」


 犯人たちが、無言でうなずく。
 騎士は、質問を続ける。
 ギルド中が、聞き耳を立てている。


「なぜ、そのような事をした! 放火、殺人は、死罪である! どこの国でも、死罪である! 諸国を渡る冒険者なら、知っておるだろう!」


 騎士が『死罪』と言うと、犯人たちは堰を切ったように話し始めた。


「いや! 違うんだ! 俺たちは、命令されただけなんだ!」


「あの家に悪い奴らがいるから、火を点けて炙り出せと言われたんだ!」


「そうそう! 王女様の関係者だなんて、知らなかったんだよ!」


 騎士が、さらに大きな声で、主犯を聞き出す。


「それで! 誰に命令されたんだ?」


 ウォールは、背中を向けたまま、ジッと動かない。


「貴族だよ! そこの軍服を着た太った貴族だよ!」


「あいつが悪いんだ!」


「そうだよ! そこのデブった貴族に、言われたんだよ!」


 縛られた3人は、ウォールへ目を向け顎をしゃくった。


 背中を向けて、黙って聞いていたウォールが、音も無く、スーッと立ち上がった。


 振り返ったウォールは、無表情だった。
 聞いた者が凍りつきそうな冷たい声で、犯人たち3人に問うた。


「誰の事だ?」


「オマエだよ!」


「フザケルなよ! オマエのせいで、捕まったんだぞ!」


「オイ! このデブ野郎! いたのは女子供だったぞ! だましやがって!」


 犯人たち3人は、口々に言い立てた。


 ウォールが、主犯だ。
 ウォールに、だまされた。
 ウォールが、悪党だ。


 ここでウォールに認めさせなければ、自分たちが死罪になる。
 犯人たち3人は、必死に言い立てた。


 突然、サクラが【意識潜入】して来た。


(ヒロトさん! 止めて!)


(え? 何を?)


 俺が意識内で聞き返した時は、遅かった。


 ウォールは、おそらくスキル【加速】を使ったのだろう。
 目の前から、ウォールが一瞬で消えた。


 そして、犯人たち3人を、瞬時に斬り殺していた。
 ギルドのホールの床に、血が広がって行く。


 誰も声を出せず、誰も動けなかった。
 あまりに一瞬で事が行われたからだ。


 ウォールの剣から、血が滴る。
 小さな、小さな血が滴る音だけが、ホールの中にある音だった。


 しばらくして、エリス姫が声を上げた。


「ウォール殿!」


 エリス姫の顔は、怒りで真っ赤になっている。
 拳を握りしめて、ウォールの前に進もうとする。


 騎士と執事セバスチャンが、エリス姫を止める。


「ウォール殿! あなたは、犯人を! 証人を! 殺害したのですよ!」


 周りの冒険者たちも、口々にウォールを非難し始めた。


「そうだよ! 勝手に犯人を殺したよ!」
「つーか、あれは、自分に都合が悪いから殺したんだろ?」
「あいつら仲間じゃないのか?」
「仲間でも、切り捨てるって事だろ」
「ヤル事が、汚ねえな!」


 ウォールは、黙って聞いている。
 剣は、右手に持ったままだ。


 俺は、ウォールの右手の剣やウォールの気配に注意する。
 いつでも【神速】で動けるように、少し膝を曲げ腰を落として身構える。


 エリス姫は、今にもウォールにつかみ掛かりそうな勢いだ。
 騎士達とセバスチャンが、必死で止めている。


 ウォールが、口を開いた。


「君達はぁ、なぁーにを騒いでるのかなぁ?」


 俺はウォールに、静かに、慎重に声を掛けた。


「あんたが、生き証人を殺しちまったからだろ」


「何の事かなぁ」


 ウォールの剣は、動いていない。
 右手にも、力を入れている気配はない。
 俺は、話しを続ける。


「死人に口なしか?」


「一体、君はぁ、何を言っているのかなぁ? これは不敬罪だよぉ」


「何?」


 俺は、不意打ちを食らった


 不敬罪?
 まったく意識していなかった言葉に、警戒がゆるんだ。


 周りの人も同じ気持ちだったのだろう。
 ギルドのホールに、一瞬、ゆるんだ気が広がった。


 ウォールは、そんな周りのゆるんだ意識を感じ取っていた。
 突然、怒鳴り、威圧を始めた。


「彼らは! 僕の事を! デブと言ったあ!」


 みんな呆気に取られてしまった。
 ウォールは、続ける。


「不敬罪だ! 侯爵家の長男たる僕に! なんたる無礼だ!」


「おまけに! 自分たちの罪を! 僕になすりつけようとした!」


「僕は! 何も! 悪くない!」


 セレーネが、大声で、ウォールの言葉をさえぎった。


「いい加減にして!」


 セレーネの弓は矢がつがえられ、引き絞られている。
 ピタリと、ウォールに狙いを定めている。


「もう、いい! コイツは、私の獲物! 私が貰う!」


 セレーネとウォールの距離は、2メートルくらい。
 ゼロ距離と言って良い距離だ。
 セレーネの腕なら絶対外さない。


 ウォールが【加速】を使っても、避けられるのか?
 余程、反応が早くないと無理だろう。


 つまり、必中距離だ。


 ウォールの背後の冒険者たちが、慌てて射線の外へ逃げる。
 ウォールは、面倒臭そうにセレーネの方へ向き直った。


「おい!」


 ウォールが手招きをすると、隅の方にいたウォールの奴隷たちが、セレーネの前に立ちはだかった。


 肉の壁だ。
 セレーネは、歯ぎしりをしながら弓を下した。


 ウォールの、高笑いが肉の壁の向こうで聞こえた。


「いやぁ、なかなか面白い出し物だったよぉ。けど、もう、飽きた。失礼させてもらうよ」


 俺はサクラに合図をして、【意識潜入】して貰った。


(サクラ、命令したのはアイツなんだろ?)


(はい。【意識潜入】して、ウォールをモニターしていましたから。犯人たち3人が出て来て、『まずい』と思っていました)


(わかった。ありがとう)


 ウォールは、奴隷達を引き連れて、高笑いしながら出て行った。


 俺は、ホールの惨状を見つめた。
 犯人たち3人は、光を失った目で俺の方を見ていた。


 まさか、ウォールが証人殺しを、衆人環境でやるとは思わなかった。
 だが、良く考えれば、あり得る事だった。


 この借りは、必ず返す。
 俺は、心に誓った。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品