ガチャ転生!~異世界でFラン冒険者ですが、ガチャを引いてチートになります

武蔵野純平

第63話 ウォール登場~王位継承争いの対抗馬

 俺たちは、ヒロトルート5階層のボス部屋から撤退した。
 帰り道、エリス姫の騎士たちは激論を交わしていた。


「奴ら、どうやって低ランクの冒険者をボス部屋に連れて行った?」
「転移魔方陣であろうよ」
「6階層に転移して、階段を上がれば、すぐ5階層のボス部屋だからな」
「ならば、洞窟の転移部屋を封鎖するか? 兵糧攻めは、どうだろう?」


 確かに、それは一つの方法だ。
 ケビンは、ボス部屋にいた20人位の冒険者たちに、食料を届けなくちゃならない。
 兵糧攻めは、有効かもしれない。


「いや、転移部屋だけでは、ダメだ。1階層から順番に、階段を降りて行く方法もある」
「では、ダンジョンの入り口を封鎖するか?」
「そんな事をしたら、ルドルの冒険者全員を敵に回すことになるぞ!」


 ニューヨークファミリーのガシュムドたちは、高レベルパーティーだ。
 1階層から階段を降りて補給する事も、時間はかかるが無理ではない。
 マジックバッグを持っていれば、1回で大量の補給が可能だ。


「ならば、検問か?」
「洞くつの転移部屋とダンジョンの入り口の2か所で、24時間だな」
「待て! それは、人手が足りぬ」
「むう。姫様の守りが手薄になるな。そこを襲われては……」


 騎士たちの出した結論は、戦力不足。
 増援を待つだった。


 俺、セレーネ、サクラは、騎士たちの議論に加わらなかった。


 知り合いのパーティー『スケアクロウ』が、ニューヨークファミリーの傘下に入ってしまった。
 その事がショックだった。


 俺たちは、転移魔方陣を使って地上に出ると、まっすぐ冒険者ギルドに向かった。




 2の鐘が鳴っている。
 午後2時だ。
 夏の日差しが、厳しい。


 冒険者ギルドに着いたが、中には誰もいない。
 受付カウンターにも、ロビーにも、ギルド職員も冒険者たちもいない。


 エリス姫が、俺に質問して来た。


「ヒロトよ。今日は、ギルドは休みであったか?」


「いえ。朝、俺たちが来た時は、人がいました。裏にいるのでは?」


 冒険者ギルドの裏手には、解体場や訓練場がある。
 俺たちは通路を通って、裏手に進む。




 いた!




 冒険者やギルド職員が、訓練場を囲んでいる。
 みんな顔色が悪い。
 場の空気が……、異様な緊張をしている。


 ギルドマスターのハゲールとジュリさんもいた。
 真っ青な顔をしている。


 俺はジュリさんに話しかけた。


「ジュリさん! どうしたんですか?」


「ヒロト君、あれ……」


 ジュリさんは、訓練場の一角を指さした。
 そこには、血まみれの3人の冒険者が転がっていた。


 騎士たちが声を上げる。


「なっ!」
「これは!」


 訓練場の床は、血で染まっていた。
 尋常じゃない量だ。


 回復役のソベルさんが、倒れている冒険者の容態を見ている。
 だが、首を横に振っている。


 倒れている冒険者の顔が見えた。
 その顔に見覚えがあった。


「ディックだ……」


 俺にからんで来た3人組の1人だ。
 冒険者ギルドの訓練場で、俺がボコボコにした奴らだ。
 じゃあ、残りの2人は、トビーとジョージか?


 俺、セレーネ、サクラは、あまりに凄惨な光景に声も出ない。
 エリス姫も顔を青ざめさせて、俺の腕にしがみ付いて来た。


 ソベルさんが、ハゲールに報告した。


「3人ともダメです。出血量が多すぎたようで……」


 ハゲールは、ソベルさんに無言でうなずいた。
 唇が震えている。


 ハゲールは、訓練場の中央に立つ男に声を掛けた。


「な、なぜ、こんな事を! 3人とも、亡くなりましたよ!」


 その男は、甲高い声で、面倒臭そうにハゲールに答えた。


「ああ、そう。それは、可哀そうな事をしたねぇ」


 ネチッ! とした喋り方だ。
 俺は、声を聴いた瞬間に嫌悪感を抱いた。


 男の手には、高価そうな剣が握られている。
 余程、深く剣を刺しこんだのだろう。
 手元まで、べったりと血が付いている。


 男の元に一人の女が駆け寄りタオルを渡した。
 女の首には、奴隷の首輪が付けられている。


 男はタオルを受け取ると、何事もなかったように手を拭って剣を収めた。
 そして男が、倒れている冒険者を踏みつけてつぶやいた。


「弱すぎるな~。Lvが低すぎるな~。経験の足しにもならん……」


 エリス姫が叫んだ。


「ウォール殿! 何をなさるか!」


 ウォール?
 ウォールだって?


 俺は、エリス姫の執事のセバスチャンに、小声で確認をした。


「あの人が、ウォールですか? 王位継承争い対抗馬の?」


 セバスチャンは、頬をピクピクと痙攣させながら俺に答えた。


「ええ、あれが、そうです。アビン侯爵家の長男ウォール・オーランド・アビンです」


 あれがウォールか……。
 ウォールは、俺の想像していた男と違った。


 ウォールは、盗賊狩りや外国の戦争で武勲を持つ男だ。
 だから、筋骨隆々のマッチョな軍人タイプを想像していた。


 だが、俺の目の前にいるウォールは、軍人とはとても思えない風貌をしている。


 見るからに脂肪たっぷりの肥満体型だ。
 突き出た腹を、無理矢理に軍服に押し込んでいる。


 背は低く、足は短い。
 短めの金髪を七三分けにして、ピチッと油で撫でつけている。


 年は、25、6?
 いや、30才くらいか?


 ウォールの後ろには、10人の奴隷が直立している。
 全員魔道具の奴隷の首輪を付けられている。
 あれを付けられると、主人の命令には絶対に逆らえなくなる。


 男奴隷は、剣を腰にさしているが平服で裸足だ。
 女奴隷は、露出の激しい服を着ている。


 いや、ウォールに着せられているのだろう。
 そこに幼馴染のシンディがいない事に、俺はホッとした。




 エリス姫は、ウォールをにらみつけている。
 ウォールは、ニヤニヤといやらしい笑みを、エリス姫に返している。


 ウォールが、口を開いた。
 のんびりとした、厭味ったらしい口調だ。


「これは、これはぁ……。第三王女にして、王位継承候補筆頭のエリス姫ではございませんかぁ」


 エリス姫は、詰問する。


「何を暢気な事を、言っておる! そこの3人は、貴殿が倒したのか?」


「いかにもぉ」


「貴族と言えど、私闘に及び人を殺めるは、罪であろうぞ!」


「私闘? 違いますよぉ。不敬罪ですよぉ」


「何を……」


 突然、ウォールが大声をあげて、エリス姫の話を遮った。


「この者達は! 無礼にも! 僕を、侮辱したのだ! 侯爵家の長男の僕に!」


 ウォールは、顔を真っ赤にしている。
 エリス姫は、ハゲールに目をやった。
 ハゲールが、たどたどしく説明を始めた。


「た、確か……、あの3人は、ウォール様に、何か話しかけて……、それで裏へ行って……。ひどい悲鳴が聞こえて、駆け付けると、このあり様で……。でも、あの、ウォール様は、ご自分の家名は名乗らなかったので……、貴族とは知らなかった可能性も……」


 どうやらディック達3人は、また、やらかしたらしい。
 3人でウォールをいたぶるつもりが、返り討ちにあったのか。


 エリス姫が、真っ赤になってウォールの行いを咎めた。


「ウォール殿! 3人が何を言ったか知らぬが、何も、殺すことはあるまい!」


「いいや! このクソどもは、僕の事をデブとぬかしたのだ! 不敬だ! 万死に値する!」


 ウォールは、連れている男奴隷に八つ当たりしだした。
 腰に下げた乗馬鞭を握ると、男奴隷を手当たり次第に叩き始めたのだ。


 男奴隷達は、悲鳴を上げてウォールに許しを請う。
 だが、ウォールは、男奴隷達が悲鳴を上げる度に嬉しそうに片頬を釣り上げた。


 見かねたエリス姫が、止めに入る。


「ウォール殿! いかに奴隷と言えども、やり過ぎであろう!」


「うるさい! 奴隷は僕の所有物だ! 他人にとやかく言われる筋合いは、ないんだ!」


 ウォールは、剣を抜いた。
 エリス姫の護衛の騎士が、慌ててエリス姫とウォールの間に割って入る。


 ウォールは、クルリとエリス姫に背を向けると、壁際に直立する1人の女奴隷に歩み寄った。
 その女奴隷の周りから、他の奴隷が離れた。


 女奴隷は、恐怖に震えている。
 ウォールは、剣を握ったまま、女奴隷に乱暴な言葉を投げつけた。


「おい! オマエ! 死ね!」


 女奴隷は、唇を震わせながら懇願した。
 歯の打ち合う音が、ここまで聞こえて来た。


「……ご主人様、どうぞ、お許しください」


「うるさい! 死ね!」


 ウォールは、剣を女奴隷の腹に突き刺した。
 引き抜いては刺し、引き抜いては刺しを繰り返した。
 すぐに、女奴隷は倒れて動かなくなった。


 ウォールは、エリス姫の方へ向き直った。
 満面の笑顔だ。


 エリス姫の前に立つ騎士たちも、真っ青な顔をしている。
 エリス姫は、気丈に振舞った。


「ウォール殿! なぜ殺す! それも女ではないか!」


 ウォールは、甲高い声で笑い出した。


「ハハハぁ~! 違うねぇ。これは、僕の奴隷だよ。奴隷は、人間じゃない。物、家畜、動く肉だ」


「だからと言って! 理由もなく殺すなど!」


「良いんだよ! 理由もなく殺して! 奴隷なんだからねぇ。こいつらは、僕の所有物だ。いいかい? 第三王女様、良くお聞き下さぁ~い。ど、れ、い、は、人間じゃなぁーい! フー!」


 ウォールは一声叫ぶと、今度は男の奴隷に剣を突きさした。
 男奴隷が悲鳴を上げるが、ウォ-ルはお構いなしに剣の抜き刺しを繰り返す。




 奴隷に人権はない。
 ウォールの言った事は、間違っていない。


 どこの国でも、奴隷は家畜と同じ扱いだ。
 生殺与奪の権利は、主人が持っている。


 だが、ここまでイカレた事をする主人はいない。
 自分の評判が悪くなるし、人格を疑われる。


 サクラが、【意識潜入】で話しかけて来た。
 この状況の割に、落ち着いた印象だ。


(ヒロトさん、ウォールを調べますか?)


(ああ、俺はウォールを【鑑定】する。サクラは、【意識潜入】してウォールを探ってくれ)


(わかりました!)


 俺は、ウォールにスキル【鑑定】をかける。
 その瞬間、ウォールの動きが、止まった。


「おやぁ? 誰か僕を【鑑定】しているねぇ?」


 まずい、気が付かれた!


 ウォールは、【魔法察知】や【気配察知】やのスキルを持っていた。
 スキル【鑑定】が発動した際の、微弱な魔力か何かを感じ取ったのだろう。


 いや、【魔法察知】だけじゃない。
 ウォールは、異様な量のスキルを所持している。
 これは一体……。


 サクラが、【意識潜入】で話しかけて来た。


(ヒロトさん! ウォールは、地獄からの転生者です。奴隷を殺して寿命が増えたと、今、考えていました)


(地獄帰りかよ。それで、ニューヨークファミリーの後見をしているのか)


(おそらくそうでしょう)


 ウォールは、ニヤニヤと笑いながら楽しそうに、訓練場に集まっている人達を眺めまわしていた。

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