ガチャ転生!~異世界でFラン冒険者ですが、ガチャを引いてチートになります
第62話 葛藤
翌日、エリス姫から共同探索を頼まれた。
「ニューヨークファミリーの動きが、気になるでのう。奴らが占有したと言う5階層のボス部屋の様子を見に行きたいのじゃ。案内を頼む」
ヒロトルート5階層のボス部屋は、ニューヨークファミリーのケインが占有を宣言した。
俺達も、どうなったのか気になる。
朝からダンジョンに潜る。
4パーティー、合計19名の大所帯だ。
俺、サクラ、セレーネの1パーティー。
エリス姫、執事セバスチャン、メイド(戦闘可能)2名、護衛騎士4名、衛士4名の2パーティー。
冒険者ギルドから護衛依頼で雇われたパーティー、夕焼けドラゴン、が1パーティー。
夕焼けドラゴンは、大盾を持った戦士1名、革鎧で軽装の剣士が2名、回復役の神官が1名の編成だ。
夕焼けドラゴンの4人は、Lv15前後。
正直、ボス部屋にいたニューヨークファミリーの連中よりも、見劣りがする。
だが、人がいないよりはマシだ。
エリス姫側としても、王都から増援が来るまでは、地元の戦力を活用するしかない。
今回は、何が起こるかわからない。
それも相手は人間だ。
魔物と違って頭を使ってくる。
俺は緊張しながら、5階層ボス部屋を目指して先行した。
セレーネとサクラの間で、夕焼けドラゴンのパーティー名が話題になった。
移動しながら、おしゃべりをしている
「夕焼けドラゴンって、パーティー名もどうなんだろうね~」
「ドラゴンって付けるパーティーは多いよ。強そうな感じだから、護衛任務とかやるには良い名前よね」
「でも~、夕焼けドラゴン、って、ほのぼのした感じじゃな~い?」
まあ、そうだよな。
漆黒のドラゴンとか、白銀のドラゴンとか、そんな感じなら、また違った印象なんだけれどな。
「わたしたちも正式名を付けないとね。セレーネは、どんなパーティー名が良い?」
「う~ん、『恋の狩人と床上手』とか~?」
「何よ、それー!」
そんな緊張感のない会話が続いた。
水場で休憩を取り5階層ボス部屋へ向かった。
エリス姫が、俺に話しかけて来た。
「ヒロトは、どう思うか? ボス部屋の占有は、出来ると思うかの?」
言われてみれば……。
ダンジョン内では、30分位たつと、色々な物が吸収されてしまう。
壁に塗料を塗ったり、目印にクギを打ち付けても、30分たてば吸収されて無くなってしまう。
「木材で壁やドアをボス部屋に作ったとしても、時間が経てば吸収されてしまいそうですよね……」
「うむ。ヒロトも、そう思うか。セバスチャンや騎士達も同じ事を言っておっての」
「ダンジョンの壁を壊して積み上げる……。うーん、現実的じゃないな……」
ダンジョンの壁は、非常に硬い。
傷をつける事は出来ても大規模に壊すのは不可能だ。
仮に出来たとしても、ダンジョンに吸収される可能性もある。
「やはり、見てみないとわからんな」
「はい。間もなくですので、警戒をお願いします」
通路の先、遠くにボス部屋が見えて来た。
ボス部屋の入り口は、ふさがれていない。
エリス姫が、つぶやいた。
「ふむ。壁などは無い様じゃな」
「遠目で見る限り、障害物はありませんね」
俺達は、更にボス部屋に近づいた。
「中に人がおるの!」
エリス姫の声に反応して、騎士たちが前に出た。
サクラとセレーネが、エリス姫をカバーする体制をとる。
ボス部屋の中には、冒険者が20人位いる。
俺達に気が付いて、ボス部屋の入り口に大盾を持って走って来た。
これは……!
人の壁だ!
ボス部屋の入り口に、大盾を持った冒険者が横一列に並んでいる。
その後ろには、ケインと先日会ったLv40のパーティー5人がニラミを利かせる。
大男の戦士、ガシュムドが指示を出す。
「盾と盾の間に、隙間を作るな! そうだ! ボス部屋に一歩も入れるな!」
こちらは、前列に騎士たちが出る。
俺たちは2列目で、エリス姫の側にいる。
ガシュムドが大声で宣言した。
「このボス部屋は、ニューヨークファミリーのモノだ! 部外者は立ち去れ!」
空気が震える。
ガシュムドの腹に響く声に、後の夕焼けドラゴンから小さな悲鳴が上がった。
ボス部屋の中からケビンがニヤニヤしながら、こちらの様子を伺っている。
騎士たちが、ひるまず言い返す。
「何を言うか!」
「そこをどけ!」
「第三王女のエリス姫なるぞ!」
「無礼であるぞ!」
だが、人の壁を作った冒険者たちは動じない。
エリス姫が、つぶやいた。
「困ったの……。冒険者が相手では、倒して行くわけにもいかぬし……」
確かに。
もし、彼らを傷つけ、それが噂になれば、王位継承争いに悪影響が出るだろう。
人の壁を作っている冒険者たちは、首から木や鉄のカードをぶら下げている。
E、Fランクの冒険者たちだ。
力押しで排除出来なくもないが数が多い。
その上、人の壁の向こうには、高ランクのガシュムドたちが控えている。
セレーネが、声を上げた。
「レッドさん!? ヒロト! あれ、レッドさんじゃない?」
俺はセレーネが指さす方を見た。
以前、ダンジョンから素材運びを、手伝って貰ったスケアクロウのレッドさんがいた。
他のスケアクロウのメンバーも大盾を持って人の壁を作っている。
「レッドさんだ! 道路工事の仕事を引き受けたはずなのに……」
エリス姫も覗き込んで来た。
「知り合いかの? なら、事情を聞いて来てくれんかの?」
レッドさんたちは、ルドルの街の冒険者ギルド所属だ。
王都に本部を置くクラン、ニューヨークファミリーの傘下に、レッドさん達が入っているのはおかしい。
確かに、何か事情がありそうだ。
俺は、ボス部屋の中にいるケビンに大声で知らせた。
「ケビン! 知り合いがいる! 話をさせろ!」
「おーう、ヒロト大先生か! 好きにしな」
ケビンは相変わらずで、気楽に返事をしてきた。
俺は、にらみ合う騎士団と人の壁の間を通ってレッドさんに近づいた。
「レッドさん! スケアクロウのみなさん!」
「お!? おお! ヒロトか!」
レッドさんが、大盾越しに返事をした。
「レッドさん、道路工事の仕事は?」
「……あれは、やめた」
「そうですか……。それで……、今の仕事は、ニューヨークファミリーの?」
「そうだ。俺たちスケアクロウは、ニューヨークファミリーの傘下に入ったんだ」
俺は、レッドさんの耳元で小声で話した。
「レッドさん! ニューヨークファミリーは、やばいクランですよ!」
「……」
レッドさんは、下を向いて黙ってしまった。
「ホーンラビットの収集依頼が出た時だって、脅して買い占めをしたし」
「……」
「今回だって、ダンジョンのボス部屋を占有するなんて、無茶苦茶ですよ!」
「……」
「レッドさん! ニューヨークファミリーの傘下なんて、やめて下さい!」
レッドさんは、ため息をついた。
頭をかき、グッと目に力を込めて、俺をにらんで来た。
「なあ、ヒロト。その位にしてくれないか? 俺たちには、俺たちの事情ってもんがあるんだ」
レッドさんだけでなく、隣にいるスケアクロウのメンバーも、俺をにらんで来た。
「ヒロト、オマエは凄いよ。新しいルートを見つけて、ギルド指定の依頼をこなして、今じゃ、Cランクの冒険者だ。凄いよ。認めるよ」
「……」
俺は、レッドさん達の雰囲気に飲まれてしまった。
何か言いたい事があるのはわかったので、聞き役になる事にした。
「俺たちだって、オマエみたいに活躍したいと思って、田舎から出て来たんだ。けど、甘くなかったよ。冒険者稼業ってやつはさ……。稼げねー、金はねーでさ」
「……」
「なあ、ヒロト。わかるか? 道路工事なんて、本来冒険者の仕事じゃねーよ。俺たちが土にまみれて、汗だくになって工事をしている。その横を、お前たちが颯爽と通り過ぎて行くんだ。俺たちがどんな気持ちで、その姿を見ていると思う?」
「……」
俺は言い返せなかった。
俺もFランとして、冒険者らしくないルート仕事ばかりやらされていた。
田舎の村々を回って、薬草を買い集める。
行商人の見習いみたいな仕事だった。
冒険者ギルドで同年代の連中がダンジョンに潜って行くのを、うらやましく見ているだけだった。
あの時の辛い気持ちは……、軽々しく他人に『わかる!』なんて言って欲しくない。
レッドさんたちも同じだろう。
俺が今ここで、『気持ちはわかる』と言っても反発するだけだ。
レッドさんは、胸を張って続きを語った。
「でもな! ケインさんは、俺達に声を掛けてくれたんだよ! 俺達でも、やれるって言ってくれたんだ!」
「ニューヨークファミリーから、お金が出てるんですよね……」
レッドさんは目を輝かせて、声のトーンが上がって来た。
「ああ! 毎日、小遣いをくれるよ! メシも食わせてくれるよ! オマケにこのボス部屋で、ボスを倒させてくれるんだ!」
「5階層のボスだと、強くないですか?」
「そりゃ強いよ! でもな、ガシュムドさんたちが、フォローしてくれるんだよ! 弱らせてくれて、俺達がトドメを指すんだ!」
レッドさんは、鼻息荒く、自分が倒したと自慢してきた。
だけど、それは違う。
「レッドさん。それ、自分で倒した内に入らないですよ」
「なんでだ! 経験も付いて、レベルも上がったぞ!」
「そりゃ、そうですが……」
「とにかくだ! 俺たちは、ニューヨークファミリーの世話になるって決めたんだ!」
後ろの方から、ケインがやって来た。
レッドさんの肩に手を回すと、軽薄に笑いながら俺に告げた。
「なあ、ヒロト大先生よぉ。わかったろ? 俺が、無理強いした訳じゃあ、ないんだよ」
「金、メシ、獲物か」
ケインは、周りに良く聞こえるように、大声で演説を始めた。
「そう! そう言う事だよ! こいつらだって、ヤレば出来るんだ! ただ、今までは、ちょっとばかし運が無かった。ツイて無かったのさ。だが、もう大丈夫だ! こいつらは、ニューヨークファミリーのメンバーだ! 立派なモンさ!」
人の壁になっている冒険者から、次々に声が上がった。
「そうだ! そうだ!」
「俺たちは、ニューヨークファミリーだ!」
「俺たちだって、ヤレるんだ!」
「ここは、通さねえぞ!」
参ったな。
人の壁を作っている冒険者たちの気持ちを、ケインにガッチリつかまれてしまっている。
ケビンが勝ち誇った顔で俺に宣言した。
「どーだ、ヒロト? これが、ニューヨークファミリーの結束だ! 俺たちはファミリー! 家族だ! だから、騎士が相手でも引かねえぞ……」
エリス姫が連れて来た騎士たちは困惑顔だ。
冒険者たちの勢いに押されている。
俺は、エリス姫の所に戻り状況を報告した。
「ふむ。つまり、あやつらは自分自身の意思で、ニューヨークファミリーに参加しておるのじゃな?」
「はい。気持ちを変えさせるのは、難しそうです」
エリス姫は、ため息をつくと決断をした。
「わかった。今日は様子を見に来ただけじゃ。冒険者ギルドで、ギルドマスターのハゲール殿に相談をしてみよう」
俺たちは、5階層のボス部屋から撤退した。
背中越しにレッドさんたちの喜ぶ声が聞こえた。
ケインの声も聞こえてくる。
「オマエたちさすがだぜ! 俺はヤルと思った! オマエたちは、ヤレると信じてたぜ! 後で、メシと酒を届けるからよ」
エリス姫が移動しながら俺に話しかけて来た。
「奴らは、うだつの上がらぬ冒険者どもを取り込んだようじゃの」
俺は、深くため息をつく。
「エリス姫、俺も少し前までは、うだつの上がらない冒険者でした」
「ヒロトがか?」
「はい。Fランとバカにされて、ダンジョンに潜る許可すら貰えなかったのですよ」
「信じられんな……」
「だから、あいつらの気持ちは、わかるんです。あまり悪く言わないでやって下さい」
エリス姫は、しばらく沈黙してから答えた。
「誰しも、苦労はあるという事じゃな」
「そうですね。ニューヨークファミリーは、俺も好きになれませんが……。あいつらに金と食事と経験を与えている……。チャンスや希望を与えているって見方も出来ます」
「それは……、本来、王家の仕事じゃな……」
俺は、エリス姫に何も答えなかった。
王家やエリス姫を批判するのは容易い。
確かに、彼らは冒険者としてうまく行っていなかった。
王家が少しは手を差し伸べても良かったと思う。
だが、完璧な国は、どこにもない。
全ての冒険者、全ての人を、王家が面倒を見て幸せにするのは、現実的に難しい。
オーランド王国は、治安が良いし、経済も悪くない。
冒険者の国なので自由もある。
他の国に比べれば、かなりマシな方なんだと思う。
俺は沈黙する事で、王家に敬意を示したつもりだった。
「だからと言って、ニューヨークファミリーの汚い手口を、認める気はありません」
「それとこれとは、別の問題じゃからの」
俺たちは、冒険者ギルドに向けて急いだ。
だが、向かった先の冒険者ギルドには、もっと厄介なヤツが待ち構えていた。
「ニューヨークファミリーの動きが、気になるでのう。奴らが占有したと言う5階層のボス部屋の様子を見に行きたいのじゃ。案内を頼む」
ヒロトルート5階層のボス部屋は、ニューヨークファミリーのケインが占有を宣言した。
俺達も、どうなったのか気になる。
朝からダンジョンに潜る。
4パーティー、合計19名の大所帯だ。
俺、サクラ、セレーネの1パーティー。
エリス姫、執事セバスチャン、メイド(戦闘可能)2名、護衛騎士4名、衛士4名の2パーティー。
冒険者ギルドから護衛依頼で雇われたパーティー、夕焼けドラゴン、が1パーティー。
夕焼けドラゴンは、大盾を持った戦士1名、革鎧で軽装の剣士が2名、回復役の神官が1名の編成だ。
夕焼けドラゴンの4人は、Lv15前後。
正直、ボス部屋にいたニューヨークファミリーの連中よりも、見劣りがする。
だが、人がいないよりはマシだ。
エリス姫側としても、王都から増援が来るまでは、地元の戦力を活用するしかない。
今回は、何が起こるかわからない。
それも相手は人間だ。
魔物と違って頭を使ってくる。
俺は緊張しながら、5階層ボス部屋を目指して先行した。
セレーネとサクラの間で、夕焼けドラゴンのパーティー名が話題になった。
移動しながら、おしゃべりをしている
「夕焼けドラゴンって、パーティー名もどうなんだろうね~」
「ドラゴンって付けるパーティーは多いよ。強そうな感じだから、護衛任務とかやるには良い名前よね」
「でも~、夕焼けドラゴン、って、ほのぼのした感じじゃな~い?」
まあ、そうだよな。
漆黒のドラゴンとか、白銀のドラゴンとか、そんな感じなら、また違った印象なんだけれどな。
「わたしたちも正式名を付けないとね。セレーネは、どんなパーティー名が良い?」
「う~ん、『恋の狩人と床上手』とか~?」
「何よ、それー!」
そんな緊張感のない会話が続いた。
水場で休憩を取り5階層ボス部屋へ向かった。
エリス姫が、俺に話しかけて来た。
「ヒロトは、どう思うか? ボス部屋の占有は、出来ると思うかの?」
言われてみれば……。
ダンジョン内では、30分位たつと、色々な物が吸収されてしまう。
壁に塗料を塗ったり、目印にクギを打ち付けても、30分たてば吸収されて無くなってしまう。
「木材で壁やドアをボス部屋に作ったとしても、時間が経てば吸収されてしまいそうですよね……」
「うむ。ヒロトも、そう思うか。セバスチャンや騎士達も同じ事を言っておっての」
「ダンジョンの壁を壊して積み上げる……。うーん、現実的じゃないな……」
ダンジョンの壁は、非常に硬い。
傷をつける事は出来ても大規模に壊すのは不可能だ。
仮に出来たとしても、ダンジョンに吸収される可能性もある。
「やはり、見てみないとわからんな」
「はい。間もなくですので、警戒をお願いします」
通路の先、遠くにボス部屋が見えて来た。
ボス部屋の入り口は、ふさがれていない。
エリス姫が、つぶやいた。
「ふむ。壁などは無い様じゃな」
「遠目で見る限り、障害物はありませんね」
俺達は、更にボス部屋に近づいた。
「中に人がおるの!」
エリス姫の声に反応して、騎士たちが前に出た。
サクラとセレーネが、エリス姫をカバーする体制をとる。
ボス部屋の中には、冒険者が20人位いる。
俺達に気が付いて、ボス部屋の入り口に大盾を持って走って来た。
これは……!
人の壁だ!
ボス部屋の入り口に、大盾を持った冒険者が横一列に並んでいる。
その後ろには、ケインと先日会ったLv40のパーティー5人がニラミを利かせる。
大男の戦士、ガシュムドが指示を出す。
「盾と盾の間に、隙間を作るな! そうだ! ボス部屋に一歩も入れるな!」
こちらは、前列に騎士たちが出る。
俺たちは2列目で、エリス姫の側にいる。
ガシュムドが大声で宣言した。
「このボス部屋は、ニューヨークファミリーのモノだ! 部外者は立ち去れ!」
空気が震える。
ガシュムドの腹に響く声に、後の夕焼けドラゴンから小さな悲鳴が上がった。
ボス部屋の中からケビンがニヤニヤしながら、こちらの様子を伺っている。
騎士たちが、ひるまず言い返す。
「何を言うか!」
「そこをどけ!」
「第三王女のエリス姫なるぞ!」
「無礼であるぞ!」
だが、人の壁を作った冒険者たちは動じない。
エリス姫が、つぶやいた。
「困ったの……。冒険者が相手では、倒して行くわけにもいかぬし……」
確かに。
もし、彼らを傷つけ、それが噂になれば、王位継承争いに悪影響が出るだろう。
人の壁を作っている冒険者たちは、首から木や鉄のカードをぶら下げている。
E、Fランクの冒険者たちだ。
力押しで排除出来なくもないが数が多い。
その上、人の壁の向こうには、高ランクのガシュムドたちが控えている。
セレーネが、声を上げた。
「レッドさん!? ヒロト! あれ、レッドさんじゃない?」
俺はセレーネが指さす方を見た。
以前、ダンジョンから素材運びを、手伝って貰ったスケアクロウのレッドさんがいた。
他のスケアクロウのメンバーも大盾を持って人の壁を作っている。
「レッドさんだ! 道路工事の仕事を引き受けたはずなのに……」
エリス姫も覗き込んで来た。
「知り合いかの? なら、事情を聞いて来てくれんかの?」
レッドさんたちは、ルドルの街の冒険者ギルド所属だ。
王都に本部を置くクラン、ニューヨークファミリーの傘下に、レッドさん達が入っているのはおかしい。
確かに、何か事情がありそうだ。
俺は、ボス部屋の中にいるケビンに大声で知らせた。
「ケビン! 知り合いがいる! 話をさせろ!」
「おーう、ヒロト大先生か! 好きにしな」
ケビンは相変わらずで、気楽に返事をしてきた。
俺は、にらみ合う騎士団と人の壁の間を通ってレッドさんに近づいた。
「レッドさん! スケアクロウのみなさん!」
「お!? おお! ヒロトか!」
レッドさんが、大盾越しに返事をした。
「レッドさん、道路工事の仕事は?」
「……あれは、やめた」
「そうですか……。それで……、今の仕事は、ニューヨークファミリーの?」
「そうだ。俺たちスケアクロウは、ニューヨークファミリーの傘下に入ったんだ」
俺は、レッドさんの耳元で小声で話した。
「レッドさん! ニューヨークファミリーは、やばいクランですよ!」
「……」
レッドさんは、下を向いて黙ってしまった。
「ホーンラビットの収集依頼が出た時だって、脅して買い占めをしたし」
「……」
「今回だって、ダンジョンのボス部屋を占有するなんて、無茶苦茶ですよ!」
「……」
「レッドさん! ニューヨークファミリーの傘下なんて、やめて下さい!」
レッドさんは、ため息をついた。
頭をかき、グッと目に力を込めて、俺をにらんで来た。
「なあ、ヒロト。その位にしてくれないか? 俺たちには、俺たちの事情ってもんがあるんだ」
レッドさんだけでなく、隣にいるスケアクロウのメンバーも、俺をにらんで来た。
「ヒロト、オマエは凄いよ。新しいルートを見つけて、ギルド指定の依頼をこなして、今じゃ、Cランクの冒険者だ。凄いよ。認めるよ」
「……」
俺は、レッドさん達の雰囲気に飲まれてしまった。
何か言いたい事があるのはわかったので、聞き役になる事にした。
「俺たちだって、オマエみたいに活躍したいと思って、田舎から出て来たんだ。けど、甘くなかったよ。冒険者稼業ってやつはさ……。稼げねー、金はねーでさ」
「……」
「なあ、ヒロト。わかるか? 道路工事なんて、本来冒険者の仕事じゃねーよ。俺たちが土にまみれて、汗だくになって工事をしている。その横を、お前たちが颯爽と通り過ぎて行くんだ。俺たちがどんな気持ちで、その姿を見ていると思う?」
「……」
俺は言い返せなかった。
俺もFランとして、冒険者らしくないルート仕事ばかりやらされていた。
田舎の村々を回って、薬草を買い集める。
行商人の見習いみたいな仕事だった。
冒険者ギルドで同年代の連中がダンジョンに潜って行くのを、うらやましく見ているだけだった。
あの時の辛い気持ちは……、軽々しく他人に『わかる!』なんて言って欲しくない。
レッドさんたちも同じだろう。
俺が今ここで、『気持ちはわかる』と言っても反発するだけだ。
レッドさんは、胸を張って続きを語った。
「でもな! ケインさんは、俺達に声を掛けてくれたんだよ! 俺達でも、やれるって言ってくれたんだ!」
「ニューヨークファミリーから、お金が出てるんですよね……」
レッドさんは目を輝かせて、声のトーンが上がって来た。
「ああ! 毎日、小遣いをくれるよ! メシも食わせてくれるよ! オマケにこのボス部屋で、ボスを倒させてくれるんだ!」
「5階層のボスだと、強くないですか?」
「そりゃ強いよ! でもな、ガシュムドさんたちが、フォローしてくれるんだよ! 弱らせてくれて、俺達がトドメを指すんだ!」
レッドさんは、鼻息荒く、自分が倒したと自慢してきた。
だけど、それは違う。
「レッドさん。それ、自分で倒した内に入らないですよ」
「なんでだ! 経験も付いて、レベルも上がったぞ!」
「そりゃ、そうですが……」
「とにかくだ! 俺たちは、ニューヨークファミリーの世話になるって決めたんだ!」
後ろの方から、ケインがやって来た。
レッドさんの肩に手を回すと、軽薄に笑いながら俺に告げた。
「なあ、ヒロト大先生よぉ。わかったろ? 俺が、無理強いした訳じゃあ、ないんだよ」
「金、メシ、獲物か」
ケインは、周りに良く聞こえるように、大声で演説を始めた。
「そう! そう言う事だよ! こいつらだって、ヤレば出来るんだ! ただ、今までは、ちょっとばかし運が無かった。ツイて無かったのさ。だが、もう大丈夫だ! こいつらは、ニューヨークファミリーのメンバーだ! 立派なモンさ!」
人の壁になっている冒険者から、次々に声が上がった。
「そうだ! そうだ!」
「俺たちは、ニューヨークファミリーだ!」
「俺たちだって、ヤレるんだ!」
「ここは、通さねえぞ!」
参ったな。
人の壁を作っている冒険者たちの気持ちを、ケインにガッチリつかまれてしまっている。
ケビンが勝ち誇った顔で俺に宣言した。
「どーだ、ヒロト? これが、ニューヨークファミリーの結束だ! 俺たちはファミリー! 家族だ! だから、騎士が相手でも引かねえぞ……」
エリス姫が連れて来た騎士たちは困惑顔だ。
冒険者たちの勢いに押されている。
俺は、エリス姫の所に戻り状況を報告した。
「ふむ。つまり、あやつらは自分自身の意思で、ニューヨークファミリーに参加しておるのじゃな?」
「はい。気持ちを変えさせるのは、難しそうです」
エリス姫は、ため息をつくと決断をした。
「わかった。今日は様子を見に来ただけじゃ。冒険者ギルドで、ギルドマスターのハゲール殿に相談をしてみよう」
俺たちは、5階層のボス部屋から撤退した。
背中越しにレッドさんたちの喜ぶ声が聞こえた。
ケインの声も聞こえてくる。
「オマエたちさすがだぜ! 俺はヤルと思った! オマエたちは、ヤレると信じてたぜ! 後で、メシと酒を届けるからよ」
エリス姫が移動しながら俺に話しかけて来た。
「奴らは、うだつの上がらぬ冒険者どもを取り込んだようじゃの」
俺は、深くため息をつく。
「エリス姫、俺も少し前までは、うだつの上がらない冒険者でした」
「ヒロトがか?」
「はい。Fランとバカにされて、ダンジョンに潜る許可すら貰えなかったのですよ」
「信じられんな……」
「だから、あいつらの気持ちは、わかるんです。あまり悪く言わないでやって下さい」
エリス姫は、しばらく沈黙してから答えた。
「誰しも、苦労はあるという事じゃな」
「そうですね。ニューヨークファミリーは、俺も好きになれませんが……。あいつらに金と食事と経験を与えている……。チャンスや希望を与えているって見方も出来ます」
「それは……、本来、王家の仕事じゃな……」
俺は、エリス姫に何も答えなかった。
王家やエリス姫を批判するのは容易い。
確かに、彼らは冒険者としてうまく行っていなかった。
王家が少しは手を差し伸べても良かったと思う。
だが、完璧な国は、どこにもない。
全ての冒険者、全ての人を、王家が面倒を見て幸せにするのは、現実的に難しい。
オーランド王国は、治安が良いし、経済も悪くない。
冒険者の国なので自由もある。
他の国に比べれば、かなりマシな方なんだと思う。
俺は沈黙する事で、王家に敬意を示したつもりだった。
「だからと言って、ニューヨークファミリーの汚い手口を、認める気はありません」
「それとこれとは、別の問題じゃからの」
俺たちは、冒険者ギルドに向けて急いだ。
だが、向かった先の冒険者ギルドには、もっと厄介なヤツが待ち構えていた。
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