ガチャ転生!~異世界でFラン冒険者ですが、ガチャを引いてチートになります

武蔵野純平

第43話 ダンジョンは豪雨~死ぬ間際の記憶と10階層ボス戦

「ちょっと、トイレ行ってくるから、中で待っててくれる?」


 セレーネとサクラにテントの中に居るように頼んで、俺一人でテントの外に出た。


 俺は、これからガチャを回す。
 ガチャが他の人に、見えるのか、見えないのか、わからない。
 もしも、ガチャをセレーネに見られると、話がややこしくなる。


 だから、人のいない所でサクッ! と回して帰って来るつもりだ。


 テントの外に出て、さらにボス部屋の外に出る。
 ダンジョンの通路に人はいない。


 あ。
 歌が聞こえる。
 サクラが、歌ってる。


 群青日和か。
 東京事変だな。
 懐かしいな。


 そんな、可愛い歌い方するなよ。
 豪雨を『ごーう』とか、おかしいだろう。


 あいつ日本で、色んなヤツに【意識潜入】してたのだろうな。
 色々と詳し過ぎだ。




 もう、ヒロトに転生してから、12年が経つ。
 転生前の日本の記憶は、大分薄れている。


 だが、サクラが来てから、良く転生前の事を思い出すようになった。


 俺は、加藤創だった。
 40才だった。
 仕事は、派遣やバイトで食いつなでいた。
 仕事帰りに、車に轢かれて……。


 そこまで思い出して、俺は強烈な違和感を覚えた。
 思わず立ち止まる。






 なぜだ?






 車に轢かれた?






 なぜ、俺は、車に轢かれたんだ?






 普通……。
 車に轢かれる事なんか、ないだろう。






 俺は、転生前の記憶をたどった。
 だが、はっきりと思い出せない。


 時間は?
 夜だった気がする。
 あたりは暗くなっていた気がする。


 季節は?
 大きな道を歩いていた?
 それとも近所の道か?






 あ。
 雨が降っていたのか……。






「ヒロト~! そろそろ、行こう!」


 セレーネが、俺を呼んでいる。
 ガチャを回すのを止めだ。
 俺は転生前の記憶をたどるのを諦めて、慌ててテントに戻った。


 何か……。
 俺の『前世での死』が色々とおかしい気がしたが……。
 その事を考えるのは、いつでも良い。


 テントに戻るとセレーネが、驚いた声を上げた。


「ヒロト! 何かあったの?」


「何が?」


「顔が真っ青だよ。血の気が引いてるよ」


 セレーネが、両手を俺の頬にあてた。
 暖かい。
 セレーネの両の手のひらから、暖かさが俺の頬に伝わってくる。


「大丈夫、先を急ごう」


 俺たちは、7階層のボス部屋を後にして、10階層へ向けて、再び高速移動を始めた。




 *




 俺たちは、8階層、9階層と順調に進んだ。
 ボス戦も問題なし。


 コンビネーションも形になって来た。
 サクラの【スリープ】と打突。
 セレーネの弓矢による狙撃。
 俺の【神速】移動からの剣攻撃。


 俺のレベルは、相変わらず1のままだ。
 だが、セレーネとサクラは順調にレベルが上がっている。


 階層ボスを攻略する度に、パーティーとしての攻撃力は、確実にアップしている。
 時間がなかったので、ガチャは回さず、カードの処理も追いついていないが、この調子なら、10階層も問題なく行けそうだ。


 俺たちは、9階層から10階層へ降りると、ダンジョンの通路を高速移動した。
 10階層の通路には、ヒクイドリが歩いている。


 俺達は、ヒクイドリの脇をすり抜け、罠を回避して、ボス部屋にたどり着いた。
 ここが、ルドルのダンジョンの最下層だ。


 3人で中を覗くと、ボスのオオヒクイドリが1匹いた。
 部屋の中をノンビリと歩いている。


「いますね!」
「ああ、いるな」
「あれね」


 カラフルなダチョウの様な魔物で、足が長く、首が長い。
 体高が2メートル近くある。
 首まで入れると3メートルを超えるデカイ魔物だ。


 パっと見は、それほど危険に見えないが、恐ろしいのは、蹴りだ。
 打撃を与える蹴りではなく、相手の腹を切り裂く蹴りを繰り出して来る。


 オオヒクイドリの足の爪は、フック状になっている。
 この爪が、蹴った対象の腹を蹴破り、内臓を引きずり出す。


 絶対に正面に立ってはいけない。


 サクラの集めた情報では、羽に魔法を無効化する効果があり、魔法は全てレジストされてしまう。
 サクラの魔法【スリープ】は、効かない。


 俺は、ボス部屋突入前に、セレーネとサクラに指示を伝える。


「オオヒクイドリに魔法は効かない。サクラは【飛行】で、頭部への攻撃と牽制を頼む」


「了解!」


「セレーネは、弱点の首を中心に矢を集中させる」


「わかった」


「俺はセレーネをカバーしながら、隙を見て攻撃する。オオヒクイドリの正面には、絶対に立つな」


 セレーネとサクラが、うなずく。
 オオヒクイドリは、足の構造で前にしか蹴りを出せない。
 左右に回り込めば、危険な蹴りは無い。


「よーし! 行こう! ロックンロール!」


「ロックンロール!」
「ろっくんろー!」


 俺達は、10階層ボス部屋に突入した。


 サクラが勢いよく【飛行】を開始した。
 床スレスレの低空飛行で、オオヒクイドリの後方に回り込もうとする。


 オオヒクイドリは、後ろには回り込ませまいと、体を回転させる。
 低い位置を飛ぶサクラに向けて、長い首を下して威嚇の声を上げた。


 サクラは、オオヒクイドリが首を下げた瞬間に、一気に速度と高度を上げる。
 オオヒクイドリの頭部めがけて、サクラが急上昇する。


 急に高度を上げたサクラに、オオヒクイドリは驚き、目を剥く。
 だが、反応が遅い。


 ゴン!


 鈍い音が部屋に響き渡る。
 サクラは、急上昇しながら、アッパーカットをオオヒクイドリの顎、くちばしの下にヒットさせた。


「いいぞ! サクラ!」
「サクラちゃん! ナイス!」


 俺とセレーネは、サクラが回り込んだのと逆側に走り込んだ。
 オオヒクイドリの側面を、とらえる位置だ。


 セレーネが、弓矢で射撃を開始する。
 セレーネの放った矢が、次々とオオヒクイドリの首元に突き刺さる。


 オオイヒクイドリは、ジロリとセレーネを睨み、セレーネに向かおうとする。
 だが、サクラが、そうはさせない。


 オオイヒクイドリの意識がセレーネに向かうと、オオヒクイドリの顔面に空を飛ぶサクラの蹴りがヒットする。
 結果、オオヒクイドリは、サクラに意識を戻す。


 俺はサクラに声を掛ける。


「いいよ! サクラ! 注意を引き付けておいて!」


「了解! かかってこーい! このチキン野郎!」


 サクラは、一吠えすると、オオヒクイドリの眉間に蹴りを見舞った。
 たまらず、後退するオオヒクイドリ。


 俺は【神速】で、オオヒクイドリの後ろから足元に近づいた。
 オオヒクイドリの足を、切断出来ないか?


 足を切断出来れば、大きなオオヒクイドリは、バランスを崩して転倒する。
 そうすれば、こちらの勝ちだ。


 オオヒクイドリの足に、コルセアの剣を袈裟切りに振り下ろす。


 キーン!


 金属と金属が打ち合うような、甲高い音がした。
 オオヒクイドリの足は、硬い。


 足のほとんどが、うろこと骨だ。
 剣を打ち付けた際に、腕が痺れた。


「ぐうう……。痛え……」


 俺は【神速】を使ってステップバックする。
 一旦、剣を鞘に納めて、両手をこすり合わせ手の痺れを誤魔化す。


 セレーネが、連続で矢を放ちながら、俺に様子を聞いて来た。


「ヒロト! どう?」


 俺は、セレーネの側に滑り込みながら答える。


「だめだ。足は硬い。そっちは?」


「胴体はダメね。羽がクッションになっていて、矢が通らない」


 オオヒクイドリの胴体を見ると、矢が数本刺さっている。
 セレーネが心臓を狙って、放ったのだろう。


 だが、良く見ると、矢はフサフサとした羽に引っかかるっているだけだった。
 胴体に放たれた矢は、オオヒクイドリに傷一つ付けていない。


「やはり、首か……」


「ん。そうね。矢を集中させる」


「頼む。首元を狙ってくれ」


「わかった」


 オオヒクイドリの首には、セレーネの矢が何本も突き刺ささり、いたる所から血が流れている。


 首は、羽が薄い。
 ここなら矢も通る。


 動きの少なく、低い位置で狙いやすい、首元に矢を集中させる。
 そして、弱った所に、俺が剣でトドメを指す。


 セレーネが、連続してオオヒクイドリの首元目掛けて矢を放つ。
 オオヒクイドリは、苦しそうだ。
 首元に矢が集中していて、出血がかなりヒドくなって来た。


 矢を放つセレーネに、時々オオヒクイドリの注意が向くが、その度にサクラの打突がオオヒクイドリの顔面をとらえる。


 オオヒクイドリは、進退きわまっている。
 ストレスからか、大きな鳴き声を上げた。


 だが、セレーネもサクラも手を緩めない。
 続けざまに矢を放ち、オオヒクイドリを殴りつける。


 頃合いだ。


 俺は、サクラに大声で指示を出す。


「サクラ、左に低空で飛んで! オオヒクイドリの首を下げさせて!」


 俺の声を受けて、サクラが左旋回しながら高度を下げる。
 オオヒクイドリはサクラの動きにつられて、首をグッと下げ、前かがみになった。


 セレーネが、矢を放つのを止めて、俺に合図を送る。


「ヒロト! 今!」


 セレーネの声を聞いた瞬間、俺は【神速】で、オオヒクイドリから距離を取った。
 ジャンプする為の助走距離だ。


 サクラが、オオヒクイドリの首を下げさせているが、それでも子供の俺には位置が高い。
 普通に剣を振るっては、届かない。


 俺は、また【神速】を使い、高速でオオヒクイドリに接近する。


「ここ!」


 俺は、力一杯踏切り、ジャンプする。
 スキル【神速】の助走が加わった跳躍は、俺の体を軽々と空に舞い上げた。


 オオヒクイドリの首が近づいて来る。
 セレーネが矢を集中させて、弱くなった箇所が見える。


 剣の振れる距離になった。
 空中で足場がない。
 腕の力と剣に体重を乗せて、勢いで剣を振りきれ!


「おお!」


 俺は、気合と共に剣を振るった。
 スキル【神速】を使い高速となった剣は、オオヒクイドリの首に食い込み、切断した。


 ズ、ズズズウ!


 首を失ったオオヒクイドリの巨体が、ゆっくりとボス部屋の床に倒れた。


 俺達はルドルのダンジョン10階層、最下層のボスを倒した。

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