ガチャ転生!~異世界でFラン冒険者ですが、ガチャを引いてチートになります

武蔵野純平

第40話 行くぜ! ガチョウども! ロックンロール!

 俺達は、ルドルのダンジョン4階層の通路を、高速移動している。
 目指すは、通常ルート10階層のボスだ。


 隠し部屋から、通常ルートまでは、俺が先行して【神速】で移動した。
 セレーネは、俺の背中におぶさり、サクラは飛行して俺の後について来た。


 通常ルートからは、サクラに先行してもらった。
 天井スレスレを高速飛行するサクラの姿は、惚れ惚れする程カッコ良い。


 4階層の主要通路は、他のパーティー、冒険者が多い。
 俺は細かく【神速】のオン・オフを繰り返して、冒険者達の間をジグザグにすり抜けて行く。


 転生前、子供の頃だ。
 新宿駅の人混みの中を、ジグザグ・ダッシュをしたな。
 西口の京王線を出た所から、高層ビルの方へ。


 あれは……。
 ああ、友達と何か見に行ったんだな。


 俺は、ジグザグ高速移動にも慣れて、前世記憶のノスタルジーに浸っていた。
 すると、俺の意識の中に、サクラの声が飛びこんで来た。
 サクラのスキル【意識潜入】だ。


(間もなく、ボス部屋です。他のパーティーが交戦中です。左側の列に並んで下さい)


(左側、了解!)


 それから、2回【神速】で移動をすると、4階ボス部屋が見えた。
 ボス部屋の入り口は、イベント会場の入り口の様に、横に大きく開いていた。


 中では5人の若い冒険者達が、ボスと戦闘中だ。
 みんな、16、7才くらいだろう。


 ボスは、体長5m、体高3m級のレッドボアだ。
 赤みがかった大猪で、牙で攻撃してきて、タフな魔物だ。


 レッドボアの体のいたる所に、刀傷が出来ていた。
 しかし、傷は浅いようで、レッドボアは血を流してはいるが、足取りはしっかりしていた。


 レッドボアは大きな牙で、盾を持った前衛の戦士を、ひっかけて空中に投げ飛ばした。
 すかさず回復職が、飛ばされた戦士に駆け寄り回復魔法ヒールをかける。
 その間、横合いから剣士が飛び込んで、レッドボアの注意を引く。


 まだまだ戦闘は長引きそうだ。


 サクラは天井から、ふわりと通路に降り立つと、何事もなかったように、スタスタと歩いてボス部屋左側の列に並んだ。
 周りの冒険者の中には、【飛行】を見た事ない者もいるようで、不思議そうにサクラを見ている。


 俺はセレーネを背中から降ろすと、サクラに続いて左側の列に並んだ。


 このボス部屋前の左列は、ボスとの戦闘をしない冒険者の列だ。
 ボス部屋は通過するだけ、下の階層をみんな目指している。


 右に並ぶのは、ボスとの戦闘を希望する冒険者の列だ。
 右は4組のパーティーが並んでいる。
 つまり次のボス戦までは、リポップ時間30分×4で、2時間待ち。


 このボス部屋前で左右に分かれて並ぶのは、ルドルのダンジョンのローカルルールだ。


 他のダンジョンでは、各階層ごとに転移の魔方陣が設置されてる部屋があるらしい。
 転移魔方陣は、ダンジョンの各階層とダンジョンの入り口をつないでいて、一度訪れた階層には、自由に行き来できるそうだ。


 ルドルは、この転移魔方陣がないので、こんな風に左右に分かれて列を作る事になったらしい。


 列が動き出した。
 戦闘が終わったんだな。


 ボス部屋に入ると、部屋の中央に大きなレッドボアが息絶えていた。
 周りには、先ほど戦っていた5人のパーティーが、座り込んでいる。


「おつかれさーん」
「通るよー!」
「がんばったなー!」


 ボス部屋を通過する冒険者達が、座り込んでいるパーティーメンバーに声を掛けて行く。
 先ほど、レッドボアの牙で投げ飛ばされていた戦士が、ニヤリと笑って片手を上げて声に応える。


 俺達も一声かけて、彼らの奮闘に敬意を表しつつ、横を通過させてもらった。


 ボス部屋の奥には、下の5階層へ通じる階段があった。
 俺達は、他の冒険者に続いて階段を降りる。


 時間が気になる。
 体感だけど、隠し部屋からここまで、30分位かかった気がする。


「時間は、何時くらいだろう?」


 後ろから、セレーネが顔をのぞかせて答える。


「ダンジョンに入る時に~、10の鐘が鳴っていたよね~」


 先頭のサクラが、振り返って教えてくれた。
 サクラは、ずっと【飛行】していたが疲れた様子はない。


「たぶん、1時くらいだと思います」


「じゃあ、次の水場で、お昼休憩を取ろう」


「次の水場は、6階層のルート上にあります」


「オッケー。そこまで、一気に降りよう」


 階段を降りると5階層だ。
 俺達は、通常ルートを、また高速移動を始めた。


 他の冒険者が、ビュンビュン後方へ流れていく。
 スキル【神速】でストップ・アンド・ゴーを繰り返す間に、一瞬だけ停止した俺と目が合った冒険者がいた。
 突然、目の前に現れた、セレーネをおんぶした俺に、その冒険者は驚いていた。
 言葉を交わす間もなく、すぐに【神速】で次の移動を行う。




 こうして俺達は、5階層、6階層と降りて、途中の水場で昼休憩を取った。
 チアキママのサンドイッチを食べて、水を水筒に補給し更に移動。


 罠が設置されている、7階層へ降りたった。


 6階層のボス部屋で左側の列、7階層へ降りる冒険者は、俺達の他に1組しかいなかった。
 罠がある上に、7階層以降は、来るにも、帰るにも、時間がかかる。


 通路に人が少ないのは、【神速】移動しやすいのでありがたいが、問題は罠だ。
 7階層に降りた所で、サクラが床に地図を広げた。


「ここからは、わたしが先行して、罠のある場所の上で滞空します。そして、罠を指さします」


「わかった。俺は、そこを避けて行けば良いね。罠は落とし穴だよね? 膝丈位の?」


「はい。床の色が、茶色っぽいそうです」


 床が茶色……、とは言え【神速】移動中に認識出来るか?
 いや、待てよ。
 サクラが前に、高速認識、って言ってたな。
 やれば、出来るんじゃないか?


 それと気になるのは……。


「サクラ、7階層の魔物は?」


「7階層は、ダンジョンバット、ちょっと大きいコウモリですね」


「ああ、上に気を取られていると、落とし穴の罠にかかる訳か」


「そうです。ダンジョンバットは、わたしが叩き落します。魔石以外に売れる素材がないので、捨てて行きましょう」


「わかった! 行こう!」


 サクラが地図を両手で広げたまま【飛行】を開始した。
 通路の奥の方へあっと言う間に消えていった。


「ヒロト~、ごめんね。おんぶしてもらって」


「大丈夫、大丈夫! セレーネは軽いから、負担になってないよ」


 セレーネを背中におぶると、俺はまた【神速】移動を開始した。
 冒険者パーティーを何組か追い抜くと、通路に人がいなくなった。


 さらに【神速】で移動速度を上げ、1回の移動距離を上げる。
 ダンジョンの壁、曲がり角、がドンドン視界の後方に流れていく。


 いた!
 通路前方左側の天井近くに、サクラが浮いている。
 床を指さしている。


 俺は通路の右側に移動して停止した。


「これが罠?」


「はい。床の色の違いが、分かりますか?」


 俺はセレーネを下して、床をじっと見る。


「言われてみれば、色が少し違うね」


 通路の床の一部、50センチ四方が、周りと違う色をしているのがわかる。
 ダンジョンの中は、石造りで色は濃いグレーだ。
 罠の場所は、薄い茶色いシミの様な色になっている。


 これなら、何とか【神速】移動中でも認識出来そうだ。
 さらにサクラが上空から、ポイントしてくれる。
 罠には引っかからずに移動出来るだろう。


「この先、ボス部屋までに2か所あります」


「了解。進もう」


 サクラは、すぐさま【飛行】を開始した。
 俺もセレーネをおぶると、すぐに【神速】を発動する。
 今度は、サクラを視界に入れて追走する様に移動をして行く。


 サクラが、何度かダンジョンバットに接敵したが、飛行スピードを緩める事無く、すれ違いように手刀で叩き落していた。
 床に落ちていくダンジョンバットからは、たぶんカードが出現して俺に吸い込まれているのだと思う。


 だと思う、と言うのは、高速移動しているから、カード出現を確認する前に通り過ぎてしまうからだ。
 サクラが倒したダンジョンバットのカードが、俺に入っている事を願う。


 こうして、7階層のボス部屋に到達した。
 人が少なかった分、移動が早かった。
 10分くらいで来てしまった。


 だが、ボス部屋には、冒険者はいない。
 7階層ボスは、俺達が倒して行かなければならない。


 サクラがボス情報のレビューを始めた。


「7階層のボスは、ジャイアントバット。大きなコウモリですね」


 俺達は、ボス部屋の中をのぞいてみる。


 体長は2メートルくらいのコウモリがいる。
 翼を広げているので、横幅は5メートルくらいある。
 おまけにダンジョンバットが、ボスの周囲を飛んでいる。


「護衛付きか。ダンジョンバットもいるね」


「はい。ボスのジャイアントバットの攻撃は、噛みつきと足の爪です。護衛のダンジョンバットは、噛みつきだけですね」


 護衛役のダンジョンバットは、数えてみると、8匹いる。
 これは作戦決めて行かないと、力押しだけでは無理だな。


 俺は、しばらく考えると、セレーネとサクラに作戦を伝えた。


「じゃあ、まずは、護衛役のダンジョンバットを倒そう。まずサクラは、【飛行】して、ボスのジャイアントバットの気を引いてくれ。隙があれば、攻撃して良い」


「了解」


 サクラは、地図を降り畳んでポケットにしまった。
 手のグローブを、グッとひぱって気合を入れている。


「セレーネは、護衛役のダンジョンバットを矢で落としてくれ。俺がセレーネの側で盾役になる」


「わかった」


 セレーネは、狩人スイッチが入ったようだ。
 声が落ち着いた低い声に変わった。
 マジックバッグから、無限の矢筒といつもの弓を取り出す。


 サクラが、嬉しそうに叫ぶ。


「ふふ。さあ! 行くぜ! ガチョウども! ロックンロール!」


 サクラは、地獄で何をやっていたのか。
 それは、ヘルシングのワイルドギースの掛け声だろうが。
 何で知っているのか……。


 それに、ワイルドギースは、2人を残して。
 いや、正確には、セレス・ビクトリアを入れれば、3人か。
 3人を残して、残りは全滅するんだぞ。


「いえ~い! ろっくんろー!」


 セレーネも気に入ったみたいだから、まあ、良いか。
 俺は気合を入れて、2人に告げた。


「よーし、突入だ! ロックンロール!」


 俺たちは、7階層のボス部屋に突入した。

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