ガチャ転生!~異世界でFラン冒険者ですが、ガチャを引いてチートになります

武蔵野純平

第36話 ルドルのダンジョン4階層を探索開始

 冒険者ギルドでひと暴れした俺は、セレーネ、サクラと待ち合わせをしているダンジョンの入り口へ向かった。


 ダンジョンへ続く道は、今日も賑やかだ。
 食べ物を売る屋台、ダンジョンの地図やポーションを売る屋台などが出て、大きな声で呼び込みをしている。


 ちょうど10の鐘が鳴っている。
 午前10時だ。
 夏の日差しが熱い。


 子供の頃、夏休みに近所のプールへ行ったなあ。
 フランクフルトやアメリカンドッグの匂い。
 かき氷やジュースを売る屋台。


「ヒロト! 何、泣いてるの!?」


 セレーネだ。
 びっくりした声を出している。


「え? 俺、泣いてる?」


「泣いてるよ! どうしたの!? ギルドで何かあったの?」


「そっか、泣いてたのか。ごめん、ちょっとホッとして気が緩んだのかも……」


 セレーネとサクラに、冒険者ギルドで起こった事を説明した。
 セレーネは驚いた顔で、サクラは落ち着いた顔で話を聞いている。


 ディック、トビー、ジョージの3人組に絡まれた事。
 訓練場で、ディックの腕を斬り飛ばした事。
 トビーとジョージを、ボコボコにした事。


 セレーネが、不思議そうに聞いて来た。


「それで、ヒロトはどうして泣いてたの?」


「うーん。どうしてだろう? なんか……、こう……、複雑な気持ちでさ」


「複雑? 3人組をやっつけて、スッキリしたんじゃないの?」


「そういう気持ちもあるよ。けどさ。あそこまでやらないと、俺の事を認めて貰えないのかと思うとさ。なんか……、ちょっと悲しい気持ちもあって……」


 セレーネが、そっと俺を抱きしめて、頭を撫でてくれた。
 この世界の人は日本人よりもスキンシップが多めだ。
 それがわかっていてもドキッとする。


「今日はお休みにする?」


「いや。サクラのギルドカードを、アイアンにしてしまいたいから。今日は、4階層へ潜ろう」


「ホントに大丈夫?」


「大丈夫だよ。魔物10匹、サクラに倒してもらってEランク、アイアンカードになってもらおう」


 サクラをパーティーに追加して、俺達3人は、ルドルのダンジョンに入った。
 下の階層へ行くだけならヒロトルートよりも、通常ルートの方が早い。
 ダンジョン中央の通常ルートから、4階層を目指す。


<a href="//23561.mitemin.net/i294644/" target="_blank"><img src="//23561.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i294644/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>
 
 10時を回っているので、1階層の通路は、ほどほどの混み具合だ。
 朝のラッシュアワー後の新宿駅って感じだ。
 他の冒険者パーティーと同じくらいの速度で、人の流れにのって通路を進む。


 セレーネとサクラは、俺を待つ間に仲良くなったようだ。
 2人でおしゃべりをしている。


 1階層から、2階層へ。
 そして、2階層から3階層へと順調に降りていく。
 人が多いので、魔物にも遭遇していない。


 セレーネとサクラは、ずっとおしゃべりをしている。
 2人とも楽しそうだ。


 考えてみれば、セレーネは山の中で父親と狩りをして暮らしていた訳だから、同年代の女の子の友達は、サクラが初めてなのかもしれない。


 俺と話している時よりも、セレーネは楽しそうだ。
 サクラをパーティーに入れて良かったな。


 そして、3階層から4階層へ。
 4階層は、お初の階層だ。


 セレーネとサクラに声をかける。


「よーし、4階層へ着いたよ。探索するから装備点検してね」


 セレーネは、肩にかけていた弓を左手に持ち、矢筒の位置を確認している。
 腰ベルトには、小さな斧が装備されている。


 セレーネのジョブ『狩人』のスキル【片手斧】用だ。
 彼女は、見た目キレイ系なんだけど、どんどん血生臭い方向性に進んでいる。


 サクラは、薄手の黒い革のグローブをつけて、両手を叩き合わせたり、屈伸運動をしている。
 俺は革の水筒から水を飲みながら、2人に注意を呼び掛ける。


「4階層はダンジョンボアだ。大きなイノシシなんで、突進攻撃と牙に注意ね」


「わかった~」
「了解です!」


 4階層は初めてなので、慎重に探索をする。
 階段を下りた所を左方向へ、ゆっくり進む。


 俺、サクラ、セレーネの順で、1列の隊列だ。
 セレーネが、いつも通りののんびりとした声で、後ろから聞いて来た。


「ねえ、ヒロト~。仕事の依頼は何だったの~。ジュリさんから聞いた?」


 俺は、スキル【マッピング】で、通った通路を頭の中に描きながら、セレーネに答える。


「ああ、聞いたよ。難しい仕事じゃないよ。ダンジョンの中で行方不明になった冒険者のカードと遺品の回収だよ」


「そんな仕事依頼があるんだ~」


「うん。ダンジョン内で亡くなると、遺体はダンジョンに吸い込まれるでしょ? でも、装備品はダンジョンにとっては異物だから、吐き出されるんだって」


「吐き出されるって……、通路に落ちてるの?」


「いや、宝箱に入ってるらしい」


「じゃあ、ダンジョン探索のついでにやれば良いんだ?」


「そうそう。俺のスキル【宝箱探知】があるから、見つけたらで良いから、カードと遺品を持って来てくれって。持ち帰ったら依頼達成だってさ」


「ならいいね~。報酬は?」


「まあ、安目だね。1件、数万ゴルド。けど、行方不明の家族からの依頼だから、やってあげないとね」


「そうだね~」


 そう、この依頼は報酬は安いけれど、ダンジョン探索のついでに出来るから悪くない。
 依頼は、複数出ていたので、遺品を見つければ、見つけただけ実績と報酬になる。


 行方不明者は、通常ルートから外れた所で息絶えているはずだ。
 なので、遺品もその辺りに宝箱として出ていると、俺は読んでいる。


 4階層に入って、15分位たった。
 俺のスキル【宝箱探知】に、何か引っかかった。
 何か気配と言うか、匂いと言うか、何かを感じる。
 魔物ではない、と思う。


「この先に……、何かあるな……。宝箱だと思うけど……、警戒しておいて」


 セレーネとサクラが、小さな声で返事をした。
 セレーネは、狩りモードにスイッチが入ったようだ。
 返事の声が、少し低くて強い調子だった。


 俺は歩く速度を落として、慎重に通路を進む。
 右に曲がる。たぶん、真っ直ぐだ。
 この先の方に、気配がある。


 ダンジョンの通路は、天井が光っていて明るい。
 だが、こういう時は、明るくても不気味に感じる。


 この先の通路の曲がり角の左側に、気配を強く感じる。
 俺は通路の手前で立ち止まり、後ろを振り返る。
 セレーネとサクラに、ハンドサインを出す。


 『左方向!』


 サクラが、【意識潜入】で話しかけて来た。


(ヒロトさん、左に何かありますか?)


(たぶん、宝箱だけど、念の為警戒して)


(了解!)


 セレーネが、いつでも矢を放てるように、背中の矢筒から、矢を抜いた。
 俺の目を見て、頷いた。
 俺もコルセアの剣を抜いて、何が起こっても対応できる様にする。


 ゆっくり進みだす。
 通路の角を左に曲がる。


 そこは行き止まりになる通路があった。
 2メートルくらい先が壁だ。
 魔物もいないし、宝箱もない。
 セレーネが、小声でつぶやいた。


「行き止まり……」


 だが、俺のスキル【隠し部屋探知】は、この行き止まりの先に、部屋がある事を感じ取っていた。


「いや……、この先だよ」


 俺は剣を鞘に収めて、両手で壁を触る。
 ゆっくりと、右から左、上から下へ。


「あった! ここが押せる様になっている!」


 壁の右端に、15センチ四方の切り込みがある。
 ここが押しボタンの様になっている。


 ゆっくりと押すと、壁が動き出した。
 壁が回転する様になっている。
 半回転の状態で、3人で隠し部屋の中を覗いた。


「うーん……」
「ああ~」
「いますね」


 隠し部屋は、学校の体育館位の広さのかなり大きい部屋だった。
 隠し部屋の中も通路と同じく天井が光っている。


 部屋の奥の方に、木製の宝箱がある。
 衣装ケース位の大き目のタイプだ。


 その周りにダンジョンボアが寝そべっている。
 かなりの数、20匹くらいいる。


 ンゴ!
 ンゴ!


 と鼻息が荒い。


 20匹同時に来られると、さすがにマズイ。
 俺はスキル【神速】でかわせるし、サクラも宙に浮けば問題はない。
 だが、セレーネは、ダンジョンボアの攻撃をかわせない。


 俺が【神速】で奥の方へ突っ込んで囮になって、ダンジョンボアをかわして……。
 頭の中でシュミレートしたが、20匹全部の注意を俺に引き付けるのは厳しい。
 俺は2人に小声で聞いた。


「出直すか?」


 サクラが、ニンマリと笑って、自信満々で答えた。


「何言ってるんですか! こういう時こそ、わたしの魔法の出番ですよ! 【スリープ】で、全部眠らせますよ!」


「大丈夫か? 数が多いぞ?」


「余裕! 余裕!」


 サクラは、隠し部屋の中に入った。
 俺とセレーネもサクラの後について隠し部屋に入った。


 ダンジョンボアが、こちらに意識を向けて来た。
 立ち上がって、威嚇の声を上げだした。


 立ち上がると結構デカイ。
 大型犬、セントバーナードとかよりも大きい。


 サクラは、ダンジョンボアの集団に臆する事なく、得意顔だ。
 右手をダンジョンボアに向けて、真っ直ぐ伸ばした。


「さあ、行きますよ! 【スリープ】!」


 サクラが魔法を発動すると同時に、俺の膝がカクンと落ちた。




 まぶたが重たい……。




 眠い……。




 サクラの奴、魔法の範囲指定を間違えやがった!
 俺を眠らせてどうするんだよよ!

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