ガチャ転生!~異世界でFラン冒険者ですが、ガチャを引いてチートになります

武蔵野純平

第35話 5秒後に、オマエの腕を切り落とす

「ジュリさん、訓練場を借ります。あと、ヒーラーで腕の良い人は誰かいないですか?」


 受付カウンターに戻って来たジュリさんに声を掛けた。
 ヒーラーは回復役、ヒール等の回復魔法を使う魔法使いや神官の事だ。


 ジュリさんは、一瞬迷った表情をした。
 俺を止めようと思ったのだろう。
 だが、俺の顔を見て、止めるのはあきらめた様だ。


「今ギルドに居る人だと……、ソベルさんね。あの人よ」


 ソベルは窓際のテーブルに1人で座っていた。
 薄いグレーのローブを着た、かなり年のいった冒険者だった。
 引退前のフリーの魔法使いかな?
 頭は剥げて、ヒゲが長い。修道士みたいな感じだ。
 首から下げたカードは、ブルーカードだ。


 俺はソベルの所まで、早足で向かいソベルに声をかけた。


「訓練に同席して、ヒールをかけて貰いたいです。お金は、払います」


 ソベルは俺を見ると、ニッコリと笑って答えた。


「良いぜ。今からか?」


「はい。どれくらいまで回復出来ますか?」


「どれくらい?」


 ソベルは、わからないと言った風に、首を傾げた。


「腕を切り落としても、回復可能ですか?」


 今、俺はかなり感情が高ぶっている。
 あの3人組をぶちのめしてやりたいと思っている。


 だが、3人組とやり合うのは、感情を満足させる為だけじゃない。
 俺は、この冒険者ギルドで弱いキャラ認定されてしまっている。
 ルドルの街で活動していくのにそれはまずい


 この俺に対するキャラ認定、先入観をひっくり返さなきゃならない。
 もっとわかりやすく言うなら、なめられない様に、今から暴れるって事だ。


 単に殴る蹴るじゃダメだ。
 ヒロトを怒らせたら、腕1本を持って行かれる。
 それぐらいのインパクトが必要だ。


 ソベルは、笑顔を消して、ジロリと俺をにらんだ。


 訓練と言う名目だが、こからやるのは実質はケンカだ!
 ケンカで腕を切り落とす……、つまり殺し合い一歩手前までやると言う事だ。


 ガキがそこまでやるのか? とソベルは思ったのだろう。
 俺とソベルは、しばらくにらみ合ったが、ソベルが低い声で答えた。


「……腕1本までだな。それ以上は、俺のMPが足らない。骨折レベルなら、腕1本落とした後も対応出来る」


「なら、大丈夫です」


「切り落とされた腕の回復をやるなら、10万ゴルドだ」


「それでお願いします」


 10万ゴルドは高いが、MP切れでソベルは今日1日活動出来なくなる。
 フリーの魔法使いを1日拘束するとなれば、まあいいだろう。


 ジュリさんに金を口座からおろして貰い、その場でソベルに10万ゴルドを払った。
 3人組は、俺とソベルのやり取りを見て、顔色が悪くなっている。
 腕を切り落とす、ってやり取りが聞こえたのだろう。


 だが、あいつらは、もう逃げられない。
 冒険者ギルドのホールにいる冒険者達は、俺と3人組の様子をジッと見ている。


 ここで逃げ出せば、3人組はケンカを自分から売って逃げ出した根性なし、最低野郎になってしまう。
 俺は、バカ3人組に告げた。


「さあ、準備は出来たぞ。裏に来いよ」


 冒険者ギルド裏の訓練場に移動すると、ゾロゾロと見学者が付いて来た。
 ブッチャー――魔物の解体担当のミルコさんも仕事の手を休めて、俺達を見学している。
 回復役のソベルが、訓練場の脇で控えている。


 俺は訓練場の真ん中に立って、ディック、トビー、ジョージの3人組をにらみつけた。
 3人組は、キョロキョロと周りを見て、落ち着かない様子だ。


 俺は、かなり熱くなっている。
 怒りが持続している。


「やるか」


 俺は短く告げると、鞘からコルセアを抜いた。
 コルセアを抜いた瞬間、見学してる連中がザワついた。
 トビー、ジョージが青くなって、声を上げた。


「お、おい! 本当にヤルのかよ?」
「そ、そうだ。今、謝れば、俺達も許してやるぞ!」


「まだ、そんな事言ってるのか? 俺がオマエらに謝る訳ないだろう。さ、はじめるぞ。剣を抜いて構えろ」


 ディックが、真っ赤な顔をして剣を抜いて、意味不明な事を怒鳴り出した。


「テメー! わからせてやる! 俺とお前の違いをわからせてやる!」


 俺は思わず笑ってしまった。


「ああ、そうだな。ディック。オマエらが最低最弱の野郎で、俺が強いって事をわからせてくれ」


「あああああ!」


 奇声を上げてディックが上から剣を斬り下ろして来た。
 動きがデカイ。


 俺は余裕を持って、スキル【神速】を発動して、ディックの後ろに回り込む。
 ディックの剣は、俺が消えた空間を虚しく通過した。


「なあ、ディック。モーションがデカすぎないか?」


 振り返ったディックは、俺の後ろにいるトビーとジョージに目を向けた。


「トビー! ジョージ! 囲んでヤルぞ!」


 ディックの言葉で、トビーとジョージも剣を抜いた。
 3人が俺を囲む。


 3対1の状況に、トビーとジョージに余裕が出た様だ。
 冷酷な、下衆な笑い。


 これから3人がかりで1人を、いたぶる。
 コイツら、そんな思い何だろうな。


「フヒ! ヒ~ロトちゃ~ん! これからイタイ、イタイのお時間だよ~」
「腕1本までは、OKなんだよなぁ~。散々、調子コキヤガッテよー!」
「謝っても許してやらないぜ! 腕の一本は、必ずもらうぞ!」


 この3人組は、状況判断が出来ないんだな。
 今の俺の動き見ても、自分たちの都合の良い未来しか見えていないんだ。


 3人が同時に距離を詰めて、剣を振り下ろして来た。
 いっせいのせ! のタイミングで、バレバレだ。


 俺は【神速】で、トビーとジョージの間をすり抜けて、訓練場の一番端まで移動する。
 3人は、仲良く何もない空間に剣を振り下ろした。


「オマエら、息が合ってるな。でも、今は素振りの時間じゃないぜ。ちゃんと俺を斬ってくれよ」


 俺は、大きな声で3人に呼びかけた。


「クソッ! そこを動くな!」
「チョロチョロしやがって!」
「待てよ! コラ!」


 3人は横一列に並んで、俺の方に駆けてくる。


「もうちょっと、工夫しろよ。3人いるんだからな」


 俺は、同じ様に【神速】で、3人をかわし、訓練場の逆側に移動する。
 3人は、部活動のダッシュの様に、また訓練場の反対側まで走って来る。


 3回繰り返したところで、3人は息が切れて、動きが止まってしまった。


「なあ、もう終わり? 動けないの? 体力なさすぎだろう?」


 3人は、俺をにらむ。
 だが、息が切れていて、言葉が出ない。


「なあ! オマエらの攻撃は、一つも俺に当たらなかったぞ。傷一つ付いてないぞ!」


 俺は、3人にゆっくり歩いて近づきながら、まくしたてる。


「俺から、女と金を巻き上げたいんだろ? やってみせろよ! オイ!」


 俺が近づいたので、3人は剣を構えた。


「俺は怒っているんだ! わかるか?」


 3人が後ずさりを始めた。
 俺は構わず3人との距離を縮める。


「俺だけじゃなく! 俺の仲間も! 俺の師匠も! オマエらはコケにした!」


 俺は【神速】で、ディックの真正面に移動する。
 急に俺の顔が、視界いっぱいに広がってディックは驚いている。


 ディックは、剣を右から左へ、横なぎに振るった。
 俺は短距離の【神速】移動でかわす。


 ディックには、俺が消えたように感じたのだろう。
 明らかに狼狽している。


 俺はディックの左側に移動して、ディックの耳元で囁いた。


「5秒後に、オマエの腕を切り落とす」


 ディックはビクりとして、剣を無茶苦茶に振り始めた。
 俺はディックに告げる。


「あと5秒」


 俺は、ディックの側から離れない様に、短距離の【神速】回避を繰り返す。
 ディックのすぐ側で、停止と回避を繰り返す。
 そして、秒読みを続ける。


「あと4秒」


「うわ! ウワー!」


 ディックは狂ったように、剣を振り回す。
 だが、【神速】を発動している俺にはかすりもしない。


「残り3秒」


 ディックの顔は恐怖にひきつっている。
 手が届く距離に俺がいる。
 だが、剣はまったく俺に当たらない。


「2秒……、1秒……、時間切れだ。残念だったな、ディック」


 俺は、ディックの左側に移動すると【神速】で、コルセアの剣を振り下ろした。
 ディックの左腕、肘の少し先を狙って振り下ろしたコルセアは、綺麗にディックの左腕を切り落とした。


「あ! あぎゃー! 痛い! 痛い!」


 ディックが、泣き叫び始めた。
 俺は容赦なくディックの尻を蹴り飛ばす。


 尻を蹴り飛ばされたディックは、大声で叫びながら訓練場の外に転げ出た。
 すかさず回復役のソベルが、ディックの側に駆け寄り回復魔法をかけ出す。


 大騒ぎする場外の様子を茫然と見ているトビーとジョージに、俺は告げた。


「トビー! ジョージ! 待たせたな。オマエらを、いたぶってやる」


 トビーとジョージは、震え出した。
 ようやく2人は、自分の立ち位置を理解したらしい。


「Fランのヒロトは! もう、いない!」


 トビーの斜め後ろに神速移動する。
 トビーの膝の裏を蹴り飛ばし、トビーを前に転ばせる。
 ひざまずく体制になった、トビーの顔面を蹴り飛ばす。


 神速移動で、ジョージの正面に移動し、右腕で鳩尾を剣の柄頭で叩く。
 俺の右腕が思い切りめり込む。


 固い剣の柄頭がめり込んだジョージは、くの字に体を折り曲げて地面に倒れ込む。
 俺は、倒れたジョージの腹、脇腹、を連続で蹴る。
 自分の吐き出した物の中に頭を付けて、ジョージが呻き、また吐く。


 トビーが立ち上がろうとしているのが、目の端に入り込んだ。
 神速移動して、膝をトビーの顔面に叩きこむ。


 トビーの髪の毛を左手掴んで、右手に持った剣の柄頭でトビーの顔面を叩く。
 トビーは、鼻、口、から血を流し、必死に両手で顔をかばう。
 俺は顔面への攻撃をあきらめて、トビーの股間を思い切り蹴り上げた。


「ぐ……、む……、うう……」


 トビーは、股間を抑えて倒れ込み、動かなくなった。
 回復役のソベルから声がかかった。


「おい。その辺にしとけ。こっちはMPが、もうあまりないんだ。その2人を回復して、打ち止めだ」


 ソベルの方を見ると、ディックの左腕の修復が終わった様だ。
 俺は、訓練場の地面に落ちたディックの左腕を拾い上げた。


 ディックに向かって、切り落とした左腕を放る。
 ディックの左腕は、ディックの濡れた股間に命中した。


「俺が、神速のヒロトだ! 忘れるな!」


 ディックは、コクコクと震えながら頷いた。

「ガチャ転生!~異世界でFラン冒険者ですが、ガチャを引いてチートになります」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く